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 沢田 Side 1

 
「今度のスキーコンパ、冴島深雪が参加するらしいぞ?」
「はぁ?まさか...あの子はそういった手合いのには参加しないって...」
「いや、同僚の三井渚が言ってきたんだ。今回参加者少なくて、ドタキャンが酷いから彼女を無理矢理誘ったってさ。」
嘘だろ?
冴島深雪は入社当初俺が教育担当した新入社員だ。もっとも既に2年ほど経過してるけれども。
 
可愛い子だった。すれてなくて、純粋で家族思いで、天然...
どんどん惹かれていくオレが居た。ほっとけなくって、だけど芯はしっかりしてて構い過ぎるとぴしゃりとやられる。
そう、依存しないんだ、彼女は。やってもらって当たり前とか、出来なくて当たり前とか考えない。どうしたら出来るか、どうやったら出来るかを考える人間だった。
でも、元々器用じゃない彼女は見てるともどかしくて、構いたくて、気になって、もっと一緒に居たくって...それが恋だと気づいた頃には遅かった。
オレのことを遊び人だと思っているらしく、何度食事に誘っても断られた。このオレが、だ。
自慢じゃないけど誘って断られたこともなければ、誘われ返さなかったこともない。なのにあっさりと!
「お花の稽古があるんです。」
「その日はお茶で...」
着付け、料理教室、週の4日は塞がっていて、唯一空いた日に声をかけると
「その日は父の誕生日で...お料理作るの手伝わなきゃ行けないんです。あの、気を使って戴かなくてもよろしいですよ?私の担当など短い期間ですし、どうか他の方を誘ってあげてください。」
なんて、にっこり笑って拒否と来たもんだ。
他の方って言うのは、一緒にいるときに寄ってくる社の女達のことだった。何度か目の前で食事の誘いとかしてくるのを断ってたからな。
 
    2年前
 
「沢田!おまえいいの当てたな、指導新人。人気上昇中だぞ?冴島深雪は何もかも教えてやりたい新人ナンバーワンだって。」
意気消沈するオレの前に現れたのは室井修造。同期でオレと出世を競うと言われてる。お調子者だが抜かりはないヤツだ。
そっか、そんなに?まあ判るよな。見れば見るほど誰の手垢も付いてなくて、つけてやろうと思って軽く誘って断られた。
後に気が付いたんだが、軽くって言うのがまずかったらしい。
「やめとけ...ありゃ筋金入りの天然だ。騙したとしても毒気抜かれる上に全く判ってないから、理解させるのに一苦労するぞ?」
悔しさも混じってそう伝えてやる。おまえみたいなお調子者の罠にはめてたまるか!
「なんだよ、おまえが誘ってもダメだったわけ?ソレじゃ誰が行ってもダメだなぁ」
室井がちぇっと舌を打った。
『そう言うことだ。手を出そうもんなら翌日に結納させられるぞ?まあ、オレは何にも知らないバージン娘なんて面倒くさくてごめんだがね。』
負け惜しみだった...気になってる癖に、他の男に攫われたくないのに...
『ちぇ、勇史が言うと嫌みにも聞こえんわ...まあ、他の男どもにも諦めろって言っとくわ。』
ソレが幸いしてか、飲み会などは事の如く不参加を決め込むからか、誰も彼女にお近づきになれた者はいない。普通女子の反感を買うんだろうが、あの雰囲気で味方につけているのか、それとも参加されては他の女子社員が困るのか、誰も強要しなかった様だ。しまいには声もかからなかったんじゃないのか?
 
 
 
それがスキーコンパ...泊まりがけの3日もあれば落とせると踏むんだろうな。
「だから、今回は男性社員の駆け込み参加が多くってな、女子が足らないんだよ。」
なんだよそれ、俺も参加したいと口にしそうになった瞬間、
「だから、勇史も参加してくんねぇ?女子集めのためにさ。」
「あん?オレにタダで参加しろって言うのか?」
にやつきたくなるのを堪えて必死で室井を睨んで見せた。
「頼むよ何で言うこと聞くからさぁ、お目当ての女の子誘う様にし向けてもいいし、何なら同じ部屋でもいいぞ!一人部屋で連れ込み放題とか、おまえだけ別のホテルとか...来てもいいけどおまえが居たらまとまるモンもまとまらねーからさ。」
「へえ、おもしろいじゃないか。その通りの条件、飲めよ。だったら参加してやってもいいぞ?」
 
 
 
 
目の前には三井と室井。
スキー前に居酒屋で飲みながらの打ち合わせだった。敢えて三井を呼び出してから条件を提示するからと言ったのはオレだ。
「助かりました、参加して戴いて。けど、あの子スキーコンパとかよくわかってなくて、ただののスキー旅行って言ってあるんですよ。知ったらたぶん来なくなっちゃうし...スキーは出来るって前に言ってたから大丈夫だと思うんですけど、ほら、あの通り何も知らない子だから、飲み会に出してふらふらと騙されて空き部屋に連れ込まれやしないかと心配で。」
その心配はもっともだ。あの危なっかしさは筋金入りだが、自分で気が付いてないところが怖いんだ。仕事はそこそこ出来るし、丁寧だから評判もいい。だが仕事以外となると子供を見てる気分になる。
「ところで、俺の出す条件なんだが...」
食い入る様な視線の二人にオレはとんでもない条件を持ちかけた。
 
「室井、おまえ言ったよな?オレたちが参加すると男も女もオレらに集中してしまってまとまるモンもまとまらないって。」
「ああ、言った。マジでその予想当たってるぞ?おまえ目当てがかなり申し込んできた。」
「そうか、だったらいいな、オレらは別口で行くから。」
「え?オレらって...?」
「オレと冴島だ。そうしたらうまくいくんだろう?取りあえず他のメンバーには二人はドタキャンしたとか遅れてくるとか言っとけばいいだろ?で、オレは他のホテルに入って彼女を隔離保護しておく。」
「え、そんな...」
「その方がいいって言った言い出しっぺは室井、おまえだぞ?」
「そりゃそんなこと言ったけど...おまえが、冴島さんとって」
「そ、そうですよ!そんな、美雪を騙す様な真似...」
「既にスキーコンパの話ししてない時点で騙してるだろう?それに、三井さんもあんなの連れてたら、部屋で休ませてても夜這いに行くヤツの見張りしてないと自分たちのことどころじゃないだろう?おまえらもお望みの相手を狙いに行きたいんだろう?」
三井がはっとした顔を下に向ける。
「そ、それは...そうだな。なあ、三井さん。」
「そ、そうね。」
なるほどと頷く。素直なおまえらが好きだよ。
「で、おまえはどうする気なんだ、彼女を連れて行って...って、あ、そっか!」
思い出した様に室井が口にした。
「おまえバージンダメなんだっけ?そっか、だったららいいよな?任せちゃっても。」
「え?そうなんですか???沢田さんが...なんか納得しちゃいます。」
納得するな、嘘も方便だ、三井。
「オレが車で迎えに行って、そのままホテルまで休憩無しで走らせるよ。後は適当に誤魔化しておくしな。」
「そんな子供だましの手なんか通用しませんよ、普通...って、ああ、普通じゃなかったか、あの子の場合。」
三井が頷きながらオレの方を見てにやりと企み顔で笑った。
「たぶんね...沢田さんなら大丈夫ですよ。」
「オレなら大丈夫って?」
「ええ、あの子よく沢田さん見てるんですよ、仕事中。他のブースなのにぼーっと遠目で見てて...最初誰を見てるか判らなかったんだけど、」
ちらっとオレを見る三井の目が一瞬眇められた。
「だから沢田さんなら大丈夫ですよ。指導社員だったんでしょう?たぶんあの子その当時から沢田さんのこと意識してるか好意持ってるかしてるんじゃないかな?」
「本当か??」
 
嘘だろ?もしかしてオレのこと観察してるだけとか?相変わらず遊び人が居るとか、そんな風に思われてたり...
だけど、もしそうなら、それはむちゃくちゃ嬉しい!!この計画も何とかなるかも知れない。この無謀で当たって砕けろな計画も。
にやける顔を押さえ込んで、室井達と計画を煮詰めにかかった。
 
今回は、少々強引な手を使うつもりだった。
本気だから...
二人っきりになって、逃げられなくして、ありとあらゆる手を使ってでも落とすつもりだった。
だらだらと付き合ってた秘書課の彼女ともはっきりと別れた。
多少はごねたけれども元々マメに逢ってたわけでもなく、セフレの様な関係だったし。あっちだって他にイイオトコキープしてるらしくってあっさりとケリはついた。
結婚向きじゃないらしい、オレは。
そりゃそうだ、誠意を見せてなかったし、部屋にも上げてなかった。誕生日やクリスマスだって仕事で潰した。
ヤケになりすぎてたよな、オレ。今時分過去を反省しまくっていた。
 
もっと早くに素直になっていればよかったのかも知れない、こんな手など使わずに...
 
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素材:FINON