風花〜かざはな〜

41

「力也、やられたよ。ゆき乃が居なくなったんだ。」
館への電話のあと、恭祐は急ぎ出先から戻ったばかりの力也に連絡を付けた。
『なんだって?おまえ館に帰ってたんじゃなかったのか?』
「ああ、急用で社に戻ったら、その間に...たぶん、父だと思う。珍しく帰ってたんだ。」
『まさか、そんなことして何になるって言うんだ?娘なんだろ、自分の。』
それでも力也の声が低くなる。そう言いながらも恭祐の父親の怖さは彼にもよくわかっているはずなのだ。
「アイツは、おかしいんだ...ゆき乃に対する執着は普通じゃない!!嫌な予感がするんだ、力也、そっちからも調べて欲しいんだ。父がゆき乃を連れていきそうなところを。僕も調べる。わかったら直ぐに連絡をくれないか。」
『どこに?会社じゃマズイだろ?あの部屋には今誰もいないだろうし...』
「だれか連絡の中継になってくれる人は居ないだろうか...」
『じゃあ、ゆき乃の友人の清水慶子に頼もうか?アイツなら大抵家にいるし一人暮らしだから誰にも迷惑かけないだろう。ゆき乃が居なくなったと知らせると激怒しそうだがね。事情を知れば、あの友人の誰かを必ず常駐させてくれるはずだ。部屋の電話番号はXXXのXXXXだ。こっちから頼んでおく。』
力也の口から清水慶子の名前が出たのに驚いた。今年から同じキャンパスに通い、ゆき乃を通じて知り合った女友人達の中でも一番気が強く冷静すぎるその考え方は絶えず力也の考え方と相反していて、力也とも良く口論になっていた女性の名前だったからだ。大抵皮肉たっぷりの応酬だったけれども...この際彼女たちに連絡の中継になってもらうのが一番手っ取り早い方法だった。事は一刻を争う。そうこうしてる間にゆき乃がどんな目に遭っているか、想像するだけでも恭祐の心は狂ってしまいそうだったのだから。
「わかった、頼む...」
『恭祐、無茶するなよ、彼女の命迄が取られることはないんだ...いいな?』
「...ああ」
命は取られない。だけど...恭祐は最悪の事態は予想しなければならなかった。
男を知らない身体。その身体に快感を教え込んだのは恭祐自身だ。ゆき乃が誰かの手に落ちて、嬲られたら...
あれほど敏感に恭祐の愛撫に応える彼女の身体がその心に反して応えてしまえば苦しむのはゆき乃だ。自分を許せなくなってしまうかも知れない。だけど、それはゆき乃が悪いのではない。繋がる事なく、その身体をひらかせた自分に責任があるのだから。恭祐が愛し抜いたその身体を誰かに触れられると考えただけで、心を掻き毟りたい衝動に駆られてしまう。ゆき乃が感じるトコロ、どこをどうすれば狂ったように喘ぐのか、女に慣れた男ならばすぐにわかるだろう。
そして、まだ男を受け入れたことがないと言うことも...
父はきっと有益な相手にゆき乃を差し出すだろう。父自身がなどということは考えたくなかった。仮にも父親なのだから。
早く見つけ出したかった。一刻も早く彼女を見つけ出してこの腕に抱きしめたい。もし、何かがあったとしても、それでも自分の腕の中で安心させてやりたかったのだ。


(見つからない...)
手がかりはなかった。父の所有する財産、不動産の全てに当たりを付けた。興信所や、力也の部下を使って確かめさせた。ホテルなどの公共の施設は使わないだろう。ゆき乃が無抵抗とも思えない。眠らせた彼女を連れ込んだりすれば余計に目立ってしまう。いくらなんでもそんな足のつくようなマネはしないだろうと考えていた。
ただ...たとえ血が繋がっていても、戸籍上は他人だ。父が認めない限りは。いくら面倒を見てるといっても、有名大学の学生を無理矢理監禁できるような場所など、そうはあるまい。それなりに設備があり、館から容易く移動できて、人目につかない建物。人気があるかないかは、外からでも調べられる。普段利用されていない場所なら尚更目立つはずだ。力也の部下はその当たりに目端の利く男らしかった。元刑事で今は力也の仕事を手伝っている男が中心になって探してくれていた。この男も力也の父親に学費を出してもらっていたのだという。学歴に苦労した彼の父親は数多くの苦学生に手を貸し、今となってはその多くを味方に付けているという。
そんな使い方もあるのかと恭祐は思った。父は学歴のある身内のしっかりした人材の中からのみ、雇用し仕事に就けていたのだ。その差はどこにあるのだろう?
『だめだ、宮之原氏の持っている不動産全てを当たったが、それらしき建物もない。疑わしい所には業者を入れたりもしたが、全くその気配すらない。』
会社からも父親の存在は消えていた。時折電話で指示が届くそうだが、直接恭祐の所にあるわけでもなく、手がかりはぷつりと消えていた。
『なあ、あの人に頼んでみたらどうだ?裏の世界にも詳しいんだろう?』
あの人...恭祐はその言葉の示す人物を頭に思い浮かべた。
新崎綾女、そしてその兄、達郎。上流階級の裏の世界に通じた女と、その兄で祖父の裏経済界への力を受け継いだその男の力を借りると言うことは、同時にこちらにもリスクを抱える。借りた分だけの力をいずれ返さねばならない。それはある意味弱みを掴ませたと同じ事なのだ。だけど、どんなことをしても、誰の手を借りても、恭祐はゆき乃を探し出すつもりだった。


「綾女さん、すみません。もう一度あなたの力を貸して戴きたいのです。」
『まあ、貴方ほどプライドの高い男が2度もあたしに頼むなんてね。また、あの娘のためなの?』
電話の向こうの声は可笑しそうに笑いを含んで揺れていた。彼女独特の余裕と含みを持った声。焦る恭祐には、余裕をもたらせてくれる不思議な響きすらあった。
「ええ、そうです。」
『よほど、なのねぇ。一度逢いたいわ。連れてらっしゃいよ。』
「いえ、彼女は貴女が楽しめるような娘ではありませんので...」
『あら、あたしも顔を見るぐらいの資格はあるでしょう?昔は散々...ねえ?』
ゆき乃の代わりに彼女を抱いていた。その真実に綾女は気がついていながら、誘ったのだから。彼女にしてみれば本気になるような相手は困るのだ。
「綾女さん、今はそんな事を言ってる時じゃないんだ、頼みます...僕には、余裕はない...」
『そうだったわね、ごめんなさい。お兄様に話しておきます。連絡を入れるわ。どこがいいの?』
会社と言うわけには行かないでしょうと彼女が含み言った。
「では、ここへ...」
清水慶子の電話番号を伝えると恭祐は電話を切って一息ついて、ソファに腰を落とした。打てる手は総て打ち、あとは連絡を待つだけだった。父からの連絡動向を探るためにここを離れるわけにはいかない。心は今にも飛び出して探し回りたい気持ちで一杯だったけれども、冷静な判断を忘れない恭祐はただただ己を戒めてその場に留まらせていた。
「恭祐様!!」
甲高い声と共に、部屋のドアがバタンと開いた。
ここは恭祐の執務室である。社員ではないが、社長子息である彼のために用意され、信用できる部下が隣の部屋に控えてるはずだった。前触れもなくこちらに誰かが入ってくることはないはず...
「お待ちください、勝手にお入りになることは出来ません!!」
「あら、おじ様の許可はもらってるわよ?」
引き留める社員、野本の声と共に、聞き覚えのある女性の声が部屋に響く。
(折原鈴音...なぜ彼女がここに?)
「すみません、折原運輸の御令嬢だと仰る方がいきなり...」
「鈴音さん、なぜここに...??」
彼女が恭祐の顔見知りだと知ると、野本は頭を下げて再び隣の部屋に戻っていった。
「お久しぶりです、恭祐様。」
にっこりと天使のような笑顔を見せるこの少女、いや、ゆき乃と同じ歳なので、もう少女と言う歳ではない。だけど相変わらずのその微笑みに隠した無邪気な悪意が恭祐にだけは見えるようだった。
ゆき乃をあんな目に遭わせたあの時から、恭祐は彼女が近づくのを拒否し続けていたはずだった。鈴音自身も決して近づいてこようとしなかったはずだ。
「そんな怖い顔をなさらないでくださいな。私たち婚約するんですから。」
「は?な、にを言ってるんだ?」
恭祐を見て艶然と微笑むその姿は、妙な自信に溢れていた。
「父が、貴方のお父様と約束したそうよ。すぐに発表ですって。恭祐さまが大学を卒業されてからお式だそうだけど、私はいつでも恭祐様のところへお嫁にいけますわよ?でもその間に準備致しますわね。わたくし、できれば式は教会がよろしいわ。ドレスも特注で、レースをフランスから取り寄せたいと思ってますのよ。おば様もそれがいいって、」
「鈴音さんっ...!」
「いくらそんな大きな声を出されても、もう決まったことなんですのよ?だって父が約束してくれたんですもの。恭祐様と必ず結婚させてくれるって。」
「...僕は君とは結婚しない。例え親がどう決めようとも、君だけは...まだ許しちゃいない。」
恭祐の声がぐっと低くなった。そう、忘れてはいないのだ。ゆき乃が負った身体と心の傷の深さを...そしてあの時の怯えた表情、震える身体。眠りながら魘されていたゆき乃の夢の中に巣食った闇を...
「構いませんわ。たとえ家同士の結婚でも...でも恭祐様は優しいお方だもの、二人の間に赤ちゃんが出来れば私や子供を放っては置かないでしょ?他に女がいても構いませんの。最後には妻の所に帰ってきてくださるものですから。」
鈴音はソファに腰掛けて嬉しそうに二人の将来を語った。こちらの声音などまったく無視だった。人の事にお構いなしな態度は相変わらずだった。
        男は浮気するもの、外に女がいて当たり前。
そんな考え方で育ったのか鈴音は平気でそんなことを口にした。確かに、父親である折原万太郎はなかなかの派手さで遊んでいると聞いている。折原運輸は元々名家であると共に、事業も手広くやっているが、女性関係も派手で、世に言う『女好き』だった。そんな男にはおこぼれをもらおうと、女達がひしめいて身体を投げ出してくるという。
力也の父親の藤沢も同じようなタイプだといわれているが、玄人相手しか遊ばないという。あちらは相反して成り上がりと言われるだけあって、もともとは貧しい生まれだという。名家の妻を迎え、その家名を買ったと言われている。子はなく、力也は芸鼓をしていた女にできた外腹の子だと本人から聞いている。
「僕は君を妻にはしない。君を抱くことも出来ない。はっきり言おうか?君がゆき乃にしたこと、そっくりそのまま他の男にやらせようかとも思ったよ。それはゆき乃が喜ばないし、犯罪になるからやめたけどね。それほど僕は君に腹を立ててるし軽蔑もしている。」
「そんな...っ!」
辛辣な言葉を並べ続けた。さっさと諦めて欲しい。今この場に鈴音がいること自体が腹立たしいのだ。あの時のゆき乃に起こったことが、今再び降りかかってる可能性さえある。それを考えるともういても立ってもいられなかった。
けれども、これほど苛立ってなければ、ここまで酷い言葉を紬はしなかっただろう。
「そして嫌悪もしている。抱けと言われても抱くことを心と体、両方が拒否するでしょう。」
折原鈴音も間が悪いのだ...心に刺さった棘が抜けないまま冷たい言葉を口にする。
「ひどい...恭祐様、そんなことを言うなんて...」
「僕は君が思ってるような王子様でも何でもないですよ。君があんな卑劣なマネをしなければ、こんな態度も取ったりはしなかったけれどもね。」
「あれは...恭祐様が、いつも、あんな使用人のゆき乃なんかを構ってばかりだったからっ!!あんなどこの馬の骨とも知れない女!父親が誰かもわからないような娘は恭祐様の側にいるのはふさわしくなかったのよ、なのに...」
「黙れ!ふさわしいとか、誰が父親だとかなど関係なく、ゆきのは幼い頃から共に育った大切な存在だったんだ。それを...」
ゆき乃の父親のことを出されて、思わず感情的になってしまった。その父が宮之原だなどと口が裂けてもこの女には言えない。
「私だって...ずっと小さい頃から宮之原のお館へお邪魔するたびに恭祐様にお逢いできることがうれしくて、うれしくて、お逢いしたときの恭祐様はいつもお優しかったわ。お綺麗で、賢くいらして、ピアノも私なんかよりずっとずっとお上手で、憧れていましたわ。私には、まるで王子様に見えたのよ!あまりに憧れているから、お母さまと宮之原のおば様が、恭祐様のお嫁さんになればいいって...おば様も私ならいいって喜んでくださったのよ?それからはずっとそうなるものだと思っていたわ。だけど、いつお逢いしても、他の女の子に対する態度と全然変わらなくて...恭祐様はいつだってお優しかったけれどもそっけなかったわ。なのにゆき乃には特別な目を向けてらしたわ!ずっと同じ屋根の下で、いつも気にかけてもらえて、そんなゆき乃が憎かったわ...使用人なのに、そちらの方ばかり見てらして、私がいないところでは親しげに声をかけたり、私には向けてくださらないような笑顔を向けられたり...私、悔しくて、悔しくて!どこが劣ってるというの?宮之原にあんな下賤な血は入れられないわ!!私のほうが、よっぽどふさわしいわ!そうでしょう?だからおじ様も私を恭祐様の婚約者だと認められたんだわ!」
感情を高ぶらせた彼女は、ソファを立ち上がり、デスクに腰掛けていた恭祐に躙り寄って来た。瞳に涙を溜め、唇を震わせて、想いのすべてを彼にぶつけてきたのだ。初めて母親に連れられて来たのはおそらくゆき乃よりもっと幼いときからだっただろう。彼女にゆき乃を攻撃させてしまったのは恭祐自身だったのだろうか?そのあまりの想いの強さと勢いに圧倒されて一瞬臆した恭祐だった。
「私ではいけないのですか?恭祐様のお側に、恭祐様の妻として、子を産み、育て、宮之原の奥方として企業と家柄を共に支え生きていく相手は、私ではダメなのですか?」
涙ながらに縋り付く鈴音を振り払えず、ただ立ちつくす。
最初から彼女を選んでいられれば、何の憂いもなかっただろう。ゆき乃を妹として迎え、鈴音を友として平穏な学園生活を送り、自分は彼女と幸せな結婚をすれば、何もかもがうまくいっただろう。恭祐がゆき乃を選ばなければ、血の繋がりに嘆きながら愛を貫くことも、鈴音がゆき乃を憎むことも、宮之原と折原も良い関係を維持して共に栄えたであろう。
もし、ゆき乃の母が宮之原の娘と認められていれば、父がゆき乃の母に手を出さなければ、こんな感情のぶつけ合いも起こらなかった。ゆき乃が父の手によって連れ去られることも無かっただろう...
けれども現実、ゆき乃は下働きの娘として館に引き取られ、恭祐の心の全てを締める女性となってしまった。
恭祐がゆき乃を選んだ時点で、いや、それよりも折原鈴音を選ぶことは考えもしなかった。それが真実だ。変えることも、ねじ曲げる事も出来ない。今、恭祐が心を歪めて彼女を婚約者として認めたとしても、彼自身受け入れる隙間など無いほどゆき乃を愛してしまっているのだ。この会社も、家も、両親も、全て捨て去ってもいいと思えるほどのに。
「...すまない。僕はきみを、妻には出来ない。」
そう告げることしか出来なかった。
「あの、恭祐様。お電話が...社長からでございます。」
いつの間にか部屋に入ってきていた野本が机の上の電話を指し示した。急ぎ鈴音を引き離して電話に駆け寄った。
「父さんっ!今どこにいるんですかっ!!ゆき乃は、どこにいるんですかっ!」
『ふん、何をそんなに大きな声を出しているんだ。失礼だろう?そちらに折原のお嬢さんもいらっしゃるのだろう?』
「くっ...まさか、これが条件だとでも言うのですか?」
『ああ、その通りだ。そのお嬢さんとの婚約はもう決まっている。すぐに挙式しても構わんのだよ。いや、おまえは逆らえないはずだ。ココに誰がいるか教えてやろうか?折原運輸の社長、鈴音さんのお父上がいらっしゃるのだよ。』
「なっ、そんな...」
『それと、もう一つめでたいことにな、折原様はゆき乃がいたく気に入ったそうだ。扱いはそなた次第と言うことだ。いいな、くれぐれも間違いのないように...』
「あなたという人は...そこに、ゆき乃も...」
『ああ、そうだ、ココにいるよ。』
「お願いします。ゆき乃を帰してください」
心を落ち着けて言葉を絞り出す。感情的になってはきっと父の思い通りになってしまうと考えた。
『もう館には帰さんよ。』
電話の受話機越しに父親の含み笑いが聞こえた様な気がした。
「...彼女に手を出すなっ!」
『まだ、手は出してはおらんよ。そうだな、おまえが鈴音さんと式を挙げるまでは手を出さないでいてやろう。しかし、彼女から少しでもすげなくされたと報告があればその度にゆき乃が汚れていくぞ?』
「僕が彼女との婚約を受ければいいのですね...」
『そうだ、おまえ次第と言うわけだ。おまえが折原のお嬢さんを妻とし、子を成したら、ゆき乃は妾でなく正妻に迎えると言う男にくれてやろう。藤沢の小倅でもいいぞ?』
「妾?あなたはゆき乃をそんな扱いをする男に渡すというのですか??」
『そうだ、おまえが逃げれば...余計なことはするな。コレもすべてわたしを甘く見たバツだよ。恭祐...』
「あなたという人は...それでも人間かっ!ケダモノめっ...」
『そんなことを言っていいのかな?さあ、どうぞ折原さん、その娘に触れても構いませんよ?』
「やめろ、よせっ!」
受話器の向こうで折原の父親のうわずった声が聞こえた。その男にゆき乃の姿を晒してるというのか?ゆき乃に触れさせると言うのか?
「やめてくれ、父さんっ!!」
『い、いやっ!!』
「ゆ、ゆき乃?ゆき乃っ!!」
『いい弾力だよ、ああ、もう、先が尖りはじめている。敏感なのだね、おまえは...』
わざと聞かせているのだろう、全てこちらに聞こえていた。そうだ、感じやすい身体だった。それをなお開いて高めて男の思うが儘に愛撫をしつくしたのは紛れもなく自分なのだ。すすり泣く様なゆき乃の声さえ聞こえてきそうだった。
「わかりました、婚約、します...鈴音さんと...」
後ろで喜びの声を上げる彼女の高い声が聞こえた。そうか、この会話を聞いていても喜べるのか...そこまでしても自分と婚約したいのか、それとも全く平気なのだろうか、そんな女との婚約をたった今取り決めた己に恭祐は反吐が出そうだった。
『...そうか、判ってくれたか。』
「くっ...」
今約束しても、いずれゆき乃は汚されるだろう。わかっていながらも今はその条件を呑むしかなかった。
『婚約おめでとう。恭祐、鈴音さん。』
父の声が遠くで聞こえてやがてツーツーという発信音に変わっても、受話器を置くことすら出来ない恭祐だった。

      

本編再開です〜お館様最悪…そして、鈴音も、相変わらずの憎まれ役?ですね。
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