たぶんそう思う...

新学期〜将志〜

正月からの槇乃さんとの連夜の荒淫のせいで思いっきりぼけまくってる頭と、だるい身体を引きずって、始業式朝学校へ向かう。1月いっぱいは卒業試験なんかがあって登校することが多いけれども、2月からはほとんど出てこなくなる。受験もあるしね。けれども俺はしっかりと推薦で決めてあるのでのんびりとしている。
それにしても眠い...仕事に差し障ると抵抗する槇乃さんを朝早くから攻め立ててしまったからだな。しょうがないじゃん?男なんだから〜朝はさ、やっぱしたくなるんだって。

「広野くん、あけましておめでとう!ね、初詣みんなで行ったのに来なかったね、どうして?」
甘ったるい話し声、三上の片思いの相手、村上美奈が近づいてくる。三上の目線が怖いな。
かなり可愛いタイプの村上は三上以外の男子にも人気がある。だからかな、男子は必ず自分に好意持ってるって思ってるような節があって...はっきり言って俺の好みじゃないのにやたらかまってくる。三上の想い人じゃなかったら思いっきり拒否してるかも?けれどもグループっぽく付き合ってるから邪険にも出来ない。でもいいかげんうざい...
「そりゃ、自分の彼女と初詣に行ったからだよ。」
そっけなく返事する。まあこう言えば引くだろ?
「え...広野くん彼女いたの?だってクリスマスもバイト入れてて...」
「だからバイトの後ちゃんと泊まって来たでしょ?急にくるから困ったよ。まあ最初からその予定だったけど。」
「そう、なんだ...おめでとうメールも返事遅かったのも...」
「う〜ん電源切ってたからね。彼女と年越しするのに携帯は邪魔なだけだからね。わるかったな。」
「そっか、泊まったりするんだ...」
「彼女年上だからね。一人暮らしだからつい入り浸っちゃってね。だからクリスマスみたいに急に来られても困るから。」
ここまで言えばいいかな?クリスマス、強引にうちに来ようとしたのは彼女の案らしい。村上に強くお願いされちゃ三上も断れなかったってわけだ。
「う、うん...」
ちょい泣きそうな顔?だから俺みたいなのはやめて三上にしとけばいいんだよ。あいつは身体もでかくってケンカだって強い。性格もよくってさ、男からしたら惚れ惚れするタイプなんだぜ?まあ、女からすれば俺みたいなジャニーズ系がいいらしいけど、三上のたくましさは俺も憧れる。俺は槇乃さんを護ってるっていうようりもやっぱり甘えてるって感じだからな...鍛えようかな?俺...
彼女の前を離れて三上の方へ行く。
「将志、彼女いたのか...クリスマス、悪かったな。」
「いや、構わないよ。けどそこでも進展なしかよ、おまえもいい加減告っちまえば?」
「それが出来りゃな、あの日もおまえいなくって村上さん落ち込むし、帰ってくるのずっと待ってた。俺、何もいえなかった。」
「そっか...けど今の俺には自分の彼女しか見えないよ。なんせ10年以上かかって手に入れたんだからな。」
「すげえな、え?10年以上って!?まさか、あの、となりの...」
あ、しまった、つい口から出ちまう。ほんとは嬉しくってしょうがないからな、俺。普段はバイト先でうるさいって言われるぐらい惚気ちゃってるから。さすがに受験一色の学校でそんなわけにもいかず、親友にも内緒にしてたって訳。まあ、こいつは口も堅いし、村上のことで辛い思いしてるから、いいかな?
「そうだよ。けど相手、村上には言うなよ?」
軽く片目をつぶって見せる。頭の上で『あの綺麗なお姉さんと...羨ましい』そんな声がぼそりと聞こえた。


1月の卒業試験が終わって、周りは受験だとかで飛び回ってる間、バイトと槇乃さん家に入りびたりの日を続けていた。
「ピンポーン!」
「槇乃さん、お帰り〜」
「あ、まーくん...ただいま。」
あれ?どうかしたんだろうか?すっごく顔色悪い。元気もないし...風邪引いたんだろうか、槇乃さん。
「ね、横になる?すっごく具合悪そうだよ。おじや作ろうか?それとも...」
「...いいから...今日はもうかえって。」
「え?」
「すっごく気分悪いの!だから...隣に、自分の家に帰りなさいよ!!」
「槇乃さん...?」
「ごめん、しばらくこっちに来ないでくれる...」
「な、何言い出すんだよ?槇乃さん!!」
「帰って...」
下を向いたまんまの槇乃さんが小さく言った。いらいらしげな声...
嫌われたの?俺...
確かに入り浸りすぎてたし、べたべたしすぎてるとも思うよ。でもそれだけ惚れてるんだし、槇乃さんも嫌がらなかったじゃないか?それとも今調子悪いから?その間だけ?
昔から怒ると怖い槇乃さんだったけど、ほんとに様子が変だった。
「わかったよ...帰るよ。でも具合悪かったらすぐに呼んでよね?」
「.......」
返事もなく背中を向けたままの彼女を置いて部屋を出た。

『バタン!』
団地の重いドアが閉まるその瞬間、いやな気分がした。
なぜ、急に槇乃さんはあんなこと言い出したんだろう...
それから何日たっても槇乃さんの様子はおかしいままだった。メールで行っていいかって聞いても駄目の一点張り。昨日そっと部屋に入ってみたらあんまり食事した様子がなかったので簡単な料理を作って置いておいた。今朝、槇乃さんが仕事に出かけたあとに見に行ったらちゃんと食べてたみたいで安心してたら手紙が置いてあった。
『もうご飯は作らなくてもいいから。もうこないで...今夜は帰りません。―槇乃』
「こないでって、それはもう別れるってこと?今夜は帰らないって、もしかして槇乃さん、彼氏が出来たの...」
嘘だろ...足元の力が抜けてすとんと床に座り込んでしまった。
「俺じゃ駄目なのか...やっぱりまだ子供だから?大人の男がいいの?それならはっきり嫌いになったって言えばいいじゃないか!」
ダン!と側にあったあった椅子を横に薙ぎ払う。
この部屋で何度も彼女を抱いた。付き合いだしてもうすぐ1ヶ月、あっという間だったけど、毎日といっていいほど逢ってたし、逢ってる間は嫌というほど身体を繋げた。
それでも飽きることもなかった。
小さいころから知ってる分、お互いのことは判ってるから遠慮なんかなかった。ぼくが甘えてただけかもしれないけど、それでも二人の想いは何度も身体を重ねて確認しあったはずだ。もう俺一人の片思いじゃなくなったはずだったのに...なぜ...

部屋を出て鍵を閉めたあとその鍵を見つめる。
付き合い始めて晩御飯作って待ってるからといって槇乃さんから無理やりもらった合鍵。新聞受けからそっと落とす。
「こうすればいいんだよね...そうすれば槇乃さんの気が済むんだろ?」
ドアの傍のグレーのコンクリートに黒いしみがいくつか出来る。零れ落ちたしずくはすぐに乾く。
くそっ、なんで...顔もあわせずにさよならかよぉ!
槇乃さん、俺、そんなに簡単に諦められないよ...
10年分の想い、やっと繋がったのに...こんな思いするんならあのまま片思いのほうがましだったかも知れない。心も身体も繋がった後、捨てられたらつらいよ...
胸が痛かった。セーターの胸元をかきむしるようにつかんで、声を上げて泣きわめいてしまいそうだった。
急ぎ自分の部屋のほうに戻った。自分の布団にもぐりこんで泣くしかなかった。
メールで鍵を返したことを告げて...
返事は返ってこなかった。


『ピンポーン』
誰...
『ピンポーン』
出たくないのに...
のそのそと布団から這い出て洗面所に向かう。
『ピンポーン』
しつこいなぁ...軽く顔だけ洗って出る。槇乃さん...じゃないよな?彼女はまだうちの鍵を持ってるはずだから。
「だれ?」
泣きすぎて声までかれてら...
『あの...あたし、村上です。』
「何のよう?」
『あの、隣のおねえさんのことで...』
なんで村上が槇乃さんのことを??
ぼくは急いでドアを開けた。
「あ、あたし、隣のおねえさんが男の人と歩いてるの見ちゃって、それで...」
「それがどうしたの...」
なんで村上が槇乃さんのこと気にするんだ?
「だって...広野くんが付き合ってたのってあの人なんでしょ?」
「......」
「あの、あがっていい?」
小首をかしげるポーズが可愛いんだって三上が騒いでたっけ?村上が小首をかしげると、黒い髪がさらっと流れる。遠慮がちに下から見上げてくる瞳。ここに奴がいたら興奮しまくってるだろうな。
背中を向けて家の中に戻ると、何も言わないのに村上が靴をそろえて脱いでコートとマフラーを脱いで手に持って後をついてきた。
「...そこにでも座れば?」
ダイニングの椅子を指差してお茶を入れる。まあただのティーパックの紅茶だけど。
「あたしが見たとき、ちょうど、その...ホ、ホテルに入っていくところだったから、それで気になって...」
「え、ホテル...」
「大人同士だから別にかまわないだろうけど、三上くんにちらっと聞いたら、その、広野くんの彼女だって言ってたから気になって...こ、こんなんこといったらショックかもしれないけど、でもあたし黙ってられなくて!」
「いいんだ...もう...」
三上の奴黙ってろっていったのに...
「広野くん、あ、あたし、前からずっと広野くんのこと好きだったの!あ、あたしじゃ駄目?あたし、広野くんがあの人のこと忘れられるんだったら何でもするから、だから...」
立ち上がった村上が数歩で俺に近づいてくる。椅子に座ったまま見上げていた。
「あの人ほど大人じゃないけど、だけど、あたしでよかったら...抱いて...」
制服のボタンをはずしてブレザーが足元に落ちる。続いてスカートも...
村上の手がブラウスのボタンに伸びてゆっくりとはずし始める。
なにしてるんだ?この女は...
「そ、そんな目で見ないで...あたし本気だよ?」
ブラウスも足元に落ちて、彼女はブラとショーツとソックスだけの姿になる。こんなとこ三上が見たらどうなるんだろう?
「何してるわけ?」
「え?何って...あたし...」
「駄目になったからって、すぐにそばにいる女に手を出すほど俺の想いは安っぽくないんだ。10年間、ずっと想ってて、やっと手に入れたんだ。この手にしたと思ったのに...」
何もない両の手のひらを見つめて握り締める。本当に逃したんだろうか?
「あ、あたし、身代わりでいいから、だから...!」
どんっと、身体ごとぶつかってくる。ぼくの首に腕を回してきつくしがみついてくる。
「なっ、離れろよっ!!」
椅子に座ってる分身動きが取れなかった。彼女の素肌が俺に触れる...
「いやっ、おねがい、女の子に恥じかかせないで...」
なんなんだよ、何考えてるんだ、こいつは?俺が槇乃さんに振られたショックで誰でもいいからって抱くって思ってるの?まだ心も身体も槇乃さんを忘れてなんかないのに?まだずっと求め続けてるのに?
「あの人も今時分、男の人の腕の中にいるんだから、だからっ、ね?広野くん...」
槇乃を他の男が抱いてる?いやだ、それはいやだ!絶対にいやだ!
でも俺たちいつ別れたんだ?あの槇乃さんが彼氏で来たの黙って俺と別れようとする?そんなことが平気で出来る人じゃない...
おかしすぎる...
急に変わった槇乃さんの態度。一度も俺と目線すら合わせてくれなかった。
もう来ないでって言ったけど、別れようなんて聞いてない。
辛そうな槇乃さんの表情が思い出される。
まさか...?
「村上...じゃあ、自分で、ヤレよ。」
「え?」
「俺をその気にさせて、勝手にヤレば?」
「そ、そんな...あたしそんな...」
「ヤリたいんだろ?だったらその気にさせろよ。」
「やりたいって...あたしは、広野くんがかわいそうで...あたしで慰めになるんならって...」
「その気にさせるやり方もしらないのに?」
くすっと笑って見せると、一度うつむいて、そのあと顔を上げて俺の顔に近づけようとした。
「よせよ、キスはしない。」
下唇をかみ締めて、俺の前に屈み込んだ。
「うわっ、なっ、よ、よせっ!!」
脅かしのつもりだったのに、マジで村上は俺のジーンズのジッパーに手をかけて降ろそうとした。逃げ腰になるとジーンズの上からそこを軽く撫でた。
「くっ...」
そんな気なんてないはずなのに...勃ち上がりかける俺のモノ。お、落ち着け!
「ね、したいでしょ?」
見たくもないのに、村上のブラの谷間が見える。その下の下着の翳り...
ヤバイ!
槇乃さんと逢えなくなって、3日はしてない...俺的にもめちゃやばいよぉ!
「ね、しよ...あたし、広野くんが好き。」
その手つきは慣れた女のそれだった。こうやって男に甘えてきたのか...三上、やっぱこの女はやめておけよ...
「やめろ、さっきのは冗談だよ!悪いけど俺友達の好きな女とどうこうなって友情ぶち壊す気ないから。知ってるんだろ?三上の気持ち...」
「あたしがすきなのは広野くんだもん!どうして?こんなに好きなのに...ね、三上くんなんて関係ないじゃない?それとも三上くんが他の人好きだったら考えてくれた?あたしのこと好きになってくれた?ねえ、あたしじゃ駄目なの?」
「村上が三上が駄目なのと一緒だよ。俺は...10年以上槇乃さん一筋で想ってきたんだ。彼女でなきゃだめなんだよ!それなのに...村上、おまえなんかした?槇乃さんになんか言ったのか?な、どうなんだよ!!」
「あ、あたしはなにも...きゃっ!」
がたんと音を立てて椅子が倒れた。ぼくは村上を冷たい床の上に組み敷いて、その手を彼女の細くて白い首筋にあてがった。
「言えよ、彼女に何をした?」
首ではなくあごに手を移してぐっと絞めた。
「うぐっ...な、なんの...こ、と...?」
「タイミングよすぎだったろ?いきなり槇乃さんの態度がおかしくなって、お前が乗り込んでくるんだもんな...何言った?彼女に...」
「ふっ、や、やめて...苦しい...」
「言えよっ!」
「ぐっ...か、会社に...言うって...」
「なに?」
手を緩めてやる。
「ごほっごほっ!だ、だから...高校生と付き合ってるって、会社や、団地中に言いふらすって...わ、若い男をたぶらかしてるって...」
「そんなことぐらいで?」
「あたし、返してっていったの!広野くんを返してって!あたしの初めての人だからって...」
「いつお前を抱いたんだ?」
「......」
「だって...夢の中ではいつだってやさしくって、あたしのこと優しく抱いてくれたじゃない...広野くんの笑顔も、声も、腕も、全部あたしのものなんだからっ!」
「村上...?」
「あたしが慰めてあげるんだから...あたしが広野くんにやさしくしてあげるんだから...あんな年上の女の人には渡さないんだから!だから...だから...」
ぶつぶつと口の中で繰り返し始めた。
だめだ...壊れてる...


「将志...これは、いったい?」
「見てのとおりだよ。」
「奈美?ちょっと、ねえ!大丈夫??」
村上の親友の林が駆け寄った。
「将志、おまえっ!!」
「よく見てみろよっ!おれは何もしてない。自分で脱いだから、とりあえず簡単に着せたけど、おれは...自分の彼女以外抱く気はないよ。」
殴りかかろうとした三上も様子のおかしさを察したようだった。
「ごめん...広野。奈美、この間からおかしかったのよ...学校始まって、広野に彼女いるって聞いてからストーカーみたいに隠れて見張ってたり...最近ちょっと薬飲んでたみたいで...」
「薬って...?」
「親がちょっと病気らしくって、その薬こっそり飲んでるみたいだったの...」
「きついやつ?」
「そうでもないみたいだけど、アルコールと一緒に飲んでるみたいで、結構都合よく夢見れたりして...やめようっていったんだけど...」
「それでこんなこと?」
「思いつめてるっていうか思いつめてるっぽかったから...時々外の柱の影で広野が帰ってくるの待ってたりしてたみたい。あたしも隣のおねえさんと仲よさそうなとこ見たの...で、帰ろうって言っても、奈美きかなくって...奈美は本気で広野のこと好きで、自分が振られるなんて思ってもいなかったみたいで...思い込んで...ごめんなさい!きっとなんかいったんだと思う、あのおねえさんに...」
林が村上の背をさすりながらそういった。
「俺、槇乃さんに拒否されたんだ。もう来るなって...」
「村上のせいか?」
静かに三上答えた。清純可憐な彼女しかしらなかった奴にはちょっとしょっくだっただろう。
「急に槇乃さんの態度がおかしくなって...村上は他の男とホテルに行くとこ見ただなんて言ってたけど、彼女がそんな女じゃないことは俺が一番よく知ってるんだ。10年も見てきたんだからね?槇乃さんを傷つけたのなら俺は村上を許さない。けれどもそこまで追い込んだのが俺なら...それは謝るよ。」
村上のそばまで行く。
「ごめん、おまえの気持ちにはこたえてやれない。もっといい奴見つけろよ。」
「う、ううっ、うわぁーん!!」
両手で顔を覆って泣き出した。
「な、奈美...」
「村上さん...」
林と三上がそっと彼女を立ち上がらせる。
「俺たちでどうにかしろってことだよな?」
「ああ、俺は村上に何もしてやれない。ごめん。」
「わかった...何とかする。おまえも、隣のおねえさんのこと...」
「ああ、何とかするよ。」
「奈美の代わりにあやまるよ...ごめん、広野...」
林がそういって頭を下げた。

3人の帰った後、どうすることも出来ないもどかしさを抱えて、槇乃さんの部屋の前まで来ていた。携帯を何度も鳴らすが繋がらない。
どこに行ったんだよ...槇乃っ!
彼女の部屋のドアにもたれて何度も何度も携帯を鳴らした。
「くそっ!!」
天を見上げても冬の夜の空は暗く、ぼくの声は槇乃さんに届かない。
いやだよ、離れていたくないよ...
槇乃さん...たぶん今時分泣いてるんだろうなぁ。
意地っ張りの槇乃、泣くなよ、頼むから、泣かないで
側にいたいよ...


         

なんと、初のえっちなしでした!!今回。どうしたんだ〜〜〜の展開です。幸せオンリーの展開じゃなかったのか?意地悪モードでまくりのkです。このままなのかどうなのか、次回を、待て...(なんちゃって〜)