〜10周年記念作品〜

13年目のプロポーズ・2〜槙乃
19

「え、操さん帰ってくるの?」
 しゅんとしょぼくれた風情で『うん』と彼は頷いた。
 こういう仕草は相変わらず可愛いのよね。もう、構い倒したくなるでしょ?
「今までみたいにできなくなるね」
「やだなぁ……朝まで槙乃さん抱っこして眠りたい! 朝起き抜けにえっちしたりとか、休みの日は朝から晩までやり倒したりとかできなくなるじゃん!」
「それはやらなくていいから」
 それで何度会社に遅れそうになったことか! 土日一歩も家から出ないとか、無茶苦茶なことされてきた気がする。その分、御飯作ってくれたり家事をしてくれるから助かるんだけど。わたしが言う今までみたいっていうのは、毎日一緒にいられることを言ってるわけで、そっちじゃないのに、もう!
 そりゃ公団の隣同士で親たちは出ちゃってるから互いに一人暮らしみたいなものだし、それをいいことに毎日一緒に食事して寝て……ほぼ同棲みたいなもの。彼が高校卒業してから付き合い始めて今年で丸4年。5回目の春、彼は大学を卒業してようやく社会人になる。
 長かった……23歳からの4年間。特に25、6歳過ぎたあたりから彼氏はいるのかとか、いたら結婚はどうするとか遠回しに聞かれたりしはじめる。うちの職場は高卒と短大出が多いから意外と結婚退職の年齢が他よりも早い。だけど大学生相手に結婚も何もないじゃない? 最初はそんなに気にもならなかったけど、今年まーくんが就職してもあと2、3年……そしたらわたし30歳かぁ。まあ、覚悟はしているけど。年下でも金銭的にわたしを頼ったりしないし、むしろ料理上手で助けられてるぐらいだ。でも、就職すれば今までみたいに一緒にいられなくなる可能性もわかっている。転勤のない地元採用のわたしたちと違って地方の支社勤務とかありえるんだし。
 だけどまさかそれよりも先にまーくんの両親が帰ってくるなんて……
 操さんには薄々バレてるとは思うけど、まさかこんなに濃厚なお付き合いしてるなんて思ってもいないはずだ。わたしもまさか年下の彼にここまでのめり込んじゃうとは思わなかった。
 まーくんとは身体の相性だけでなく、お互いの性格もわかりきってるから作らなくていいぶん楽といえば楽だった。歳の差はあっても付き合いの長いお隣さん同士で、幼馴染だもんね。
 だけどまーくんはそのアイドル並みのかっこ良さでヤバイぐらいモテるから、あぐらかいて彼女です、なんてやってられない。そこは刺激的というか自分磨きもかなりした。まーくんも自分が年下なことを気にして必死になってくるところが可愛いんだけど。まるでわたしが逃げないようにするみたいに、えっちのときはすっごく甘かったり激しかったり……わたしもついそれに張り合ったりしちゃうんだけど。
「やらなくていいの? えっちはじめたらすぐに感じまくってさ、泣きながらイキまくっちゃうくせに」
 ちょっと、何言い出すのよ! それってこの間のホワイトデーのこと言ってるの? だったらバレンタインの時はどうだったのよ!
「まーくんだってアソコの根元縛って、上に乗って腰振ったら『お願い、槙乃さんイカセて』って半泣きでおねだりしてたじゃないの!」
 ちょっとしたイジワルのつもりだったのよ? チョコシロップつかってフェラしてたら『ヤバイ、我慢できなくなったらどうしよう?』なんて言うからアソコの根元縛って……そしたらあんまりにも可愛い反応するから、つい自分から入れちゃったりした。だけどその後はすごい勢いで突き上げてきて……あっ、だめ思い出しちゃう。それだけで濡れてしまったような気がする。そのぐらいすごかったんだもの。いくら腰振ってもまーくんもなかなかイカないから、無茶苦茶してきて……結局わたしのほうが何度もイカされてしまった。
「ヤベ、思い出しただけでこんなだけど?」
 まーくんも興奮しちゃったの? 張り詰めて硬く熱くなったモノをわたしに押し付けてくる。
「ちょ、まだ晩御飯もまだなのよ?」
 そう抵抗したものの、触れられたらもうダメ。わたしだって……欲しいんだもの。
 先に食べさせてって甘い吐息で耳元に囁かれて、逆らえないほど腰が揺れる。
「もう、我慢できないんだ」
 キスのあと、首筋への愛撫で完全に腰が堕ちた。わたしはあられもなく甘い声を上げてまーくんにしがみつく。
「あっ……ん、やぁ……」
「このあいだのホワイトデーみたいに槙乃さんに何度も『イカセて、入れて』って言わせてみようかな?」
 もう、いじわるしないで……腰に触れられただけで期待しゃちゃってるのに。まーくんのだってすごく硬くなってるくせに。
「また槙乃さんいっぱい泣いちゃうもんね」
 そしたら朝も大変だしって、そうするのはいつもあなたじゃない! あの若いパワー全開で一晩中抱かれたら、朝になっても身体は動かない。ホントに悲惨なんだからね! まさかバレンタインやホワイトデーの翌日の朝から有給なんて取れないでしょ? 何してたのかバレちゃうじゃないの!
「ごめんごめん、それだけ可愛い槙乃さんが悪いんだよ。あーもう、どうしよう……おふくろたち帰って来たら、あんまりできなくなっちゃうのかなぁ……ただでさえ俺が仕事はじめたらどれだけ時間ができるかわからないのに」
 本当にそれは不安になる。仕事が大事だってことはわかっいる。でも、もし離れ離れになったら? まーくんは我慢できる? 1週間も、1ヶ月も会えない関係なんて……現地で可愛い子見つけてしちゃわない?? 信じてはいるけど不安になる。でも、やっぱり仕事が最優先だ。
「しっかり仕事しないとダメだからね」
「俺我慢できなくて夜中に襲いに行きそ」
 でも、親がいたらそんな訳にいかなくなると思う。そりゃわたしも我慢できないけど……
「どうしてもだったらホテルとか……わたしが出すし」
 そう言うと少し嫌そうな顔をする。いくら年下でも男としてのプライドが許さないらしいけど。少しは甘えてくれてもいいのに……こっちは勤続7年目よ? 家賃も公団で安く上がってるし、食費もまーくんが半分は出してくれている。そのおかげで結構貯金もできてるんだけどなぁ。
「とりあえず……今日はもうヤッちゃっていい? しばらく分、ヤリ溜めしとく」
「ちょっと待って、わたし明日仕事なんだけど?」
 抵抗を見せてもそんなことでまーくんはそんなことで怯んだりはしない。
「今からヤレば少しは眠れるよ?」
 そう言われて時計を見れば、まだ20時をさしたばかり。それで少しってどのくらいヤルつもり? 無茶言わないでよ!

「あっ……だめ、ソコ……うっん……」
 最初少しだけ抵抗してみせたけど、すぐに受け入れてしまうのはわかってる。さっきので、もうわたしは……
「いっぱいイカセてあげるから……取り敢えず入らせて」
「あっ……ん」
 まだ完全に濡れきってないナカを彼のたくましいものが擦り上げていく。その切っ先がすぐお腹の下にまで届いてるのがわかるぐらい……
「気持ちい……槙乃さん」
「ん……わたしも、まーくんの……すき」
 ゆっくりと動き始める彼の腰。しだいに深く、上の壁を擦るようにして攻めてくる。
「やっ……あっ、あっ、あっ……っ!!」
 気持よくておかしくなりそう。いつだって彼のモノはわたしに快感を与えてくれる。だけどもしかしたらしばらく出来ないかもって考えると、つい自分から腰を動かしてしまう。
「そんなに締めないでよ、すぐに出ちゃうだろ?」
「……それはイヤ」
「だったら、ゆっくり楽しもう?」
 声を殺しながら、繋がったり休憩したり、お互いを感じさせあったり。イカされるのはわたしのほうが断然多かったけど、合間に食事やお風呂もはさんで文字通りたっぷりと愛し合った。

「もう少しだけ待ってて……槙乃さん」
「……んん?」
「そしたら……ね」
 半分夢うつつの意識の中で、彼の囁く声が薄れていく。
 待ったら、どうなの? もうずっと待ってるけど、急がなくていいよ。だって、無理させたくないもの。
 ずっと……待ってるから。
 それから数日後まーくんの両親が帰ってきてしばらくしてから、その言葉の続きを彼の口から聞くことになる。
――――あの約束。小学生の彼が失恋したわたしを慰めるためにかけてくれた言葉。

「僕が守ってあげる。だから泣かないで、僕がお嫁さんにしてあげるから!」
「え?」
 ちょっといきなり花見してる最中に何を言い出すの?
 久しぶりに帰ってきた操さん達夫婦を歓迎するために、近くの公園で花見をしようとわたしの両親や兄夫婦も揃っている席だよ? 確かにあのプロポーズはこの公園で言ってくれたものだけど……
 ちらりとあの時のブランコを横目で見る。
「だってさ、約束したでしょ? 13年前に。俺、もう我慢できないんだ……槙乃さんと一緒にいられないことが」
「ほう、それはどういう意味かな?」
 うちの父親がいきなりまーくんにガンつけてる。この人普段はおとなしいんだけど、お酒がはいった時はちょっと煩い。
「お父さん、槙乃さんと4年間お付き合いさせていただきました。本気で結婚したいと思ってます!」
「まだ仕事もしてない、給料ももらってない小僧が何を言うか!!」
「半年後にはきっちり稼いでますから……」
「なんだと?」
 お父さん、目が座ってるって!!
「お父さん、槙乃さんと結婚させてください」
「……はぁ??」
 一斉に周囲から声が漏れる。両親と操さんと貞明さん夫婦、それから兄たちも口あんぐりだった。
「親父、おふくろ、いいだろ? もう待ってらんないんだよ! 我慢が効かないのはあんたたちの子供だってことで」
「ちょっとどういう意味よ!」
 操さんが真っ赤になって反撃する。
「おふくろだって親父と離れていられなくて、学生だった俺をほっぽって単身赴任先についていったくせに」
「そ、それはね! お父さん密かにモテるから、もしものことがあっちゃいけないと……」
「俺も、同じ気持なんだ。1日でも、1晩でも離れていたくないんだ」
「ま、将志?」
「みんながいる席を狙ってごめん。今日から槙乃さんと一緒に住みたいって思ってる。入籍は先でも、もう離れられないし、もし地方に勤務先が決まっても帰るのはうちじゃなくて槙乃さんのいるところだから。それじゃあ、ダメ? 槙乃さん」
 いきなり打ち合わせもなしにそんなことを言われて、頭がテンパってしまってる。だけど気持ちはまーくんと同じだった。
 だけど、ここで言うかなぁ……みんながいるのに。
「ダメじゃないけど……嬉しいけど」
 ちらりと両親とそして操さんたちの方を伺い見た。
「将志は言い出したら聞かないわよ。たしかに小学生の将志が家に帰ってくるなり『将来槙乃さんをお嫁さんにするんだ!』って叫んでたことがあったわよね」
「あらその話……懐かしいわね」
 って、操さんまでどうして知ってるの??
「ほんと、将来そうなったら素敵ねって話してたんだけど」
「そうそう、まさかほんとになるなんてね。槙乃に長く付き合ってる彼氏がいるのは気がついてたけど、まさかおとなりの将志君だったなんて。操さんに聞くまで気が付かなかったし」
「おい、おまえは知ってたのか!!」
 お母さん知ってったの?? その事実に父はしばらくへこんでいた。自分だけ知らされなかったことがショックだったっらしい。
「だって、言ったらあなたこっちの家に帰って邪魔しそうだったんですもの。まあ、父親にとって娘は特別っていうけど、あなたも例外じゃなかったのね」
 あははと笑う母親に罰の悪そうな顔で睨むと、改めてまーくんの方に向き直った。
「娘を……槙乃を泣かせたら承知しないぞ! 将志。まあ、どこのどいつともわからん奴より随分とマシだがな」
 渋々言い放つけどみんなわかっていた。昔からお父さんはまーくんのことを可愛がってたからね。
「わかってる、おじさん。いや、お義父さん。絶対幸せにします!」
 桜の下、みんながいる前での宣言。照れるけどすごく嬉しい……
「それじゃ、俺達先に帰ってから! みんなはゆっくり花見してて。早く帰って来なくていいからね! 邪魔しないで」
「え??」
 わたしの手を取り、サッと立ち上がるとまーくんは駆け出した。
「ちょっと、まーくん??」
「取り敢えず俺の荷物槙乃さんとこに持っていくね。もう今晩から帰らないから!」
「何言ってるの?? まーくん、明日入社式でしょ??」
「だから、だよ! 俺もう我慢できないんだ……みんなと一緒にいるのがつらくなるほど」
 わたしを部屋の中に押し込んだあと、その熱くなった下半身を獰猛に押し付けてくる。
「おふくろたちが帰って来て1週間、もう我慢の限界だったんだ……」
 はぁはぁと熱い吐息が耳元に吸い付きそのまま湿った舌先でなぞられる。
「あぁん……」
「おふくろたちが帰ってくるまで、少しぐらいなら大きな声出してもいいから。思いっきりヤラせて」
 そういえば最後にしてからそのぐらい経つ。もしかしなくても1週間が限界なの??
「んっ……槙乃さん、好き。はやく繋がりたい」
「……んっっ、まーくん」
 ベッドにもつれ込んでお互いにすごい勢いで服を脱いだ。
「愛してる……結婚してくれるよね?」
「うん、する……したい! わたしも……」
「しばらくは養われちゃうけど」
「いいよ、いくらでも養ってあげる。その代わり……」
「なに?」
「ご奉仕してね」
「それは、もちろん。言われなくてもいっぱいしちゃうよ」
「あっ……くぅ」
 いきなり入り込んできたその熱に身体が震える。
「久しぶりの槙乃さんのナカ……溶けちゃいそう」
「まーくん、お願い……」
 じっとされてると狂いそうになる。早く攻められたくて、おもわずきゅうって自分で締め付けていた。
「わかってるって。こうして欲しいんでしょ?」
「あっ……」
 ズンと奥まで突き上げられて思わず目尻から涙が溢れた。
 自分でも思ってた以上に飢えていたんだ。ずっと欲しかった……今日もみんなの集まりを抜けだそうって誘うつもりだったぐらい。だけど、まさか家族全員がいる前でプロポーズするなんて考えてもみなかった。だから、もっとずっと先だと……思ってたのに。
「ねえ、どっちが先にイッちゃうか……勝負する?」
「いいけど、どっちもヤバそうだよ?」
 わたしも危ない感じだし、まーくんもナカでピクピクさせててもう息が荒い。
「負けたほうが晩御飯作るってどう?」
「それじゃ俺が不利でしょ? 何回か回数で勝負はどう?」
「それじゃわたしの方がヤバイじゃない! それにそんなことしたらみんな帰ってきちゃう」
「だったら今回は勝負なんてどうでもいいよ。早く動きたい……もう、無理!」
「ああっ!」
 まーくんの激しい腰の動きに翻弄され、喘ぐ声が止まらなかった。
――――まさかその声をみんなに聞かれてたなんて……
 しばらくショックで操さんたちに顔を合わせられなかった。


「それにしても本社勤務でよかった」
「……そうね」
「式の予約もなんとか6月に取れたし。こっちはあんまり会社の人は呼ばずに友人中心になるけど」
「……そうね」
「どうしたの? なんか乗り気じゃない?」
「……なんとかしてよ」
「何を?」
「毎晩、聞こえてるって!!」
「ああ、いいじゃん。あっちもヤッてるよ。あのふたり、オレが同じ家にいてもお構いなしだったんだぜ」
「……え、そうなの?」
「そう。だからこのまま準備進めていいよね」
「いいけど……」
「いやなの?」
「いやじゃないけど……」
「幸せ?」
「……ん、たぶん」
「もう、はっきり言わないと無理矢理でも言わせちゃうぞ?」
「だって……言っちゃったらそれがMaxって感じでしょ? まだまだもっと幸せだって思う時がこれからいっぱいあると思うの。だから今は……たぶん幸せだと思う」
「わかった……もっともっと、幸せにするから。ってことでもう一回」
「え、ちょっと!」
「いただきまーす!」
「待って。もう無理……って、あっん」
 明日はふたりとも仕事なのに!! もう、まーくんの馬鹿っ!!!
「槙乃さん、愛してる」
「たぶんわたしも……」
 ちょっとふてくされてそう返事したら、可愛いってキスされた。
 もう、お願いだから、明日の朝ちゃんと起きれる程度にしてよね?
 これからずっと、一緒なんだから。

          

なんとか槙乃さんサイドで落ち着きました!これからはまだ考えていませんが……
ふたりが新婚さんって今までどおりだし? そこら辺はご想像にお任せするということで、おそらくたぶんシリーズはここでおしまいです。また幕間のSSは書くかもしれませんが……気が向いたらってことでお許し下さい!