〜芳恵〜
ずんずんと、あたしの腕を引っ張ってあいつが歩く。
「鍵は?」
部屋の前でそう聞かれて、あたしは急いでバックから鍵を出すと、彼に渡した。
そのまま腕を引かれたまま部屋へと入る。鍵をかけたあいつが後ろから近づいてくるのが判る。
後ろからゆっくり近づいてくるのがわかる。そっと抱きすくめられても、あたしはただ下を向いていることしか出来なかった。
「怖い?」
後ろから優しい声であいつが聞く。腕の力は緩くいつでも解けるほど優しい。
あたしはあいつの問いかけに頭を横にプルプルと振って答えた。怖いのとも違う。もう頭がパニック起こして思考回路が止まっちゃった感じ?どう動いていいのか判らない状態。
「こっち向いてくれるか?」
彼の掠れた声が耳元に聞こえる。ゆっくりと身体の向きを変えるとこんどは強い力で捕らえられてしまう。もう逃げられない...
「怖いんじゃないのか?本当に嫌なら、やめる。でも、もしうんって言ったら、あとでどれだけ芳恵が泣いても、俺、途中でやめられないかも知れない...」
それでも、もう一度頷く。下着だって、勝負下着はいて覚悟してきたんだよ?
一層強く抱きしめられる。あいつの胸の温かさ、腕の強さ全部知ってるって思ってたけど、今日は何かが違う。背中に回された手は絶えず動いてるし、ぴったりと押し付けられた身体は熱くて...あ、れ?おなかの辺りに、なんか硬いものが...当たってる様な気がするんだけど...これって???もしかして...
「あの、り、竜次くん?」
ちょっと怖くなったって言いかけてやめる。言ってももうやめないって言ってたし、もしここでだめって言ったら...やっぱりつらいよね、男の子だし、ここまで来てお預けじゃ...
でも、何か言って欲しいな。無口だし、言葉にするのが苦手だってわかってるけど、言葉にして安心させて欲しい。こういう肝心な時には...
最初のバレンタインにはあたしから言葉にした。でもそれからは友達同士のような付き合いが始まって、あまり口にしたことないような気がする。今日こうやって居ることも、来栖の姦計に乗せられた様な気がしないでもない。でも、本心はやっぱり竜次くんと一緒に居たいからで、彼(とうとう言ってしまった!)のものにならなってもいいって思えたからで...
下を向いたまま、両手を突っ張るようにして彼の胸に当ててるのをそっと緩める。
「芳恵?」
もう一度その目が聞いてくる。
「うん、竜次くんが、好きだから...いい。」
精一杯そう答える。ゆっくり顔を上げながら...
そのとたん唇を捕らえられて、いきなりきつく吸われた。そうしていつもより性急に入り込んでくる舌に、あたしはまたこたえられずに翻弄されていく。
「んんっ、う...んっ」
主張するように擦りつけられる彼の下半身、息も出来ずに喘ぐ上半身、あたしはもう自分の力で立ってるんじゃなかった。彼の腕の中に捕らえられたまま宙を浮いてるような気持ちになっていた。
「芳恵が欲しいんだ。」
苦しいほどの激しさから唇がやっと開放されて、もう一度きつく抱きしめられる。
「俺、昨日は、この気持ちを抑え切れなかった。怖がらせたくないって、思ってるのに、ほんとに頭に血が昇ってしまって...おまえの涙見なかったらあのままあそこでなにしてたか...だけど、もう限界、なんだ...!」
彼の激しい想いが吐露される。あたしは...そこまで想ってるんだろうか?
「あ、あたし...」
「こんな、一方的な想いでおまえを抱いていいのかどうかわからない。けど、まるで身体の中に別の生き物が居るみたいに、芳恵を欲しいって、暴れまわるんだ。心の中では今までどおり大事にしたい、愛おしいと想ってるのに...くそっ!」
あたしに向けられたのは苦しそうに歪む彼の顔だった。あたしはどんな顔していいかも、どう動いていいかも判らなくて、ただ、再び押し付けられた唇と、彼の下半身から伝わる熱を受けて、もがいていた。
大事に想ってくれている。それはこの二年間で十分に判っている。けれど、あたしたちに足りなかったもの、紗弓と来栖の間にあったものとの違い。身体の結びつき...キスマークを隠して来栖に悪態を付きながらも、あの二人の間には確かな繋がりがあった。お互いを大切に想ってることも、理解し合えてることも十分に判っていた。すべてを許しあえるってこういうことなんだなって、思えたことはいくつもあった。紗弓が来栖と付き合い始めた頃、先輩にひどい目に遭ったときも、最後の試合で立ち直れないほど精神的に打ちのめされていても、来栖が居たから、ああやって紗弓は柔らかく微笑んでいられるんだと思う。
身体、だけなんだろうか...?それとも心なんだろうか...?
「ね、どうして二年もの間我慢してきたの?そのあいだ、その、ほ、欲しくなかったの?ね...身体と心って、どう違うの...」
ベッドに背中から下ろされて、やっと彼の唇が離れて、首筋から鎖骨に移った時にそう聞いてしまった。疑問が頭の中を回り始めると聞かずにいれなかった。一瞬戸惑った顔した竜次くんは、大きくため息つくと優しく笑った。
「それは芳恵が大切だったから。男のこんな欲望まだ理解できないだろうなって思ってた。だから野球のことを出して、絶対に手出さないって自分に誓ってた。そりゃあね、そういう衝動がまったくないわけじゃなかったよ。さっきみたいなキスずっとまえからしたかった。でもあんなキスしたら止まらなくなるだろ?いやらしい言い方だけど、側にいるおまえに興奮してたよ、ずっと...。夜寝てれば夢の中に、裸で俺の名前を呼ぶおまえが出てくるし、去年化粧して大人っぽいお前見てからなんか、その買ったっていう下着着て俺の前にいるとこ想像したり...大事にしたいのにすぐそういう妄想してしまうなんて、おまえには考えられないだろうけどな。それに、俺...芳恵を思って何度も、自分でシタ...そんな俺を軽蔑するか?嫌になったか?」
あたしは頭を振った。聞いてるもん、そういうことあるって、知識では...そんな想いしてたのに二年間我慢してくれてたんだ...今度はあたしが我慢する番だよね?初めてはすごく痛いって、紗弓もお姉ちゃんも言ってたけど、好きなら、竜次くんのこと好きなら我慢できるはずだよね?
「軽蔑なんてしない、嫌いになんてなれない!大事にしてくれたって、すごくよく判ってる。好きだもん、あたし、竜次くんのことが好きだから...い、いいよ、あた、あたしを竜次くんのものにして...」
そっと手を伸ばして、彼の首に両手をかける。
「好きだよ、芳恵、俺も...」
目の前で、これ以上ないほど近くでそう囁いた彼はもう1度ゆっくりとあたしにキスした。何度か重ねられた後、そのまま首筋を降りていく。
「あっ...ん」
首筋にキスされたとたん身体から力が抜けていく。どうしてなんだろう。こんなにも身体が変っていくなんて...何度も何度もそこに吸い付かれて、溶けていく。声だって、自分じゃないような甘い声が出てしまう。
彼の手がもどかしげにカシュクールのブラウスの結び目を解いていく。下に着てるキャミソールの肩を落として順に口付けられていく。
「やっ、ん...」
くすぐったいような、それでいて官能的なその行為に甘く酔っていくあたしの思考。怖さは残っていても、もうベッドのひんやりしたシーツの上に縫い付けられたようにあたしは動けない。
「これが言ってたヤツ?綺麗だな、芳恵らしくって。」
上半身ブラだけにしてじっと見つめてる。あたしが紗弓と買いに行った勝負ブラ。白地にレースと水色のリボンテープに地柄が入ってる。どちらかっていうと花嫁さん風?清純なイメージなの。
「あ、それ、下とおそろいなの...」
かすれた声で小さく言うと、あいつはちょっと笑ってスカートも脱がした。
「ほんとだ、やっと見れた。だけど俺は着けてるとこを脱がすことばっかり想像してたんだけど?」
「えっち。」
「男だからな...」
そういうとゆっくりブラを外しにかかってる。ひえっ、もう脱がすの?そりゃそのためなんだろうけど、心の準備が...下着見せるとこまでしかできてなかったんだもん。
露になったあたしの小さい胸を掬い上げるとゆっくりと揉み解され、硬くなり始めたその頂を生暖かいものが包んだ。
「ひゃっ、な...やっ、んっ」
舌先がゆっくりとあたしを味わうかのごとく動いてる。どんどん身体の神経がむき出しになっていく感覚。
そのうち彼のもう片方の手が下着の中に滑り込んでくる。
だめ、そこは...さわっちゃだめ、見ないで!!逃げようともがくけれど、彼の片ひざが割って入ってきて閉じられなくなる。
「だめっ!やだ、やだっ!」
そう叫んだ時には彼の指先があたしの湿り気を探り当ててしまっていた。
(もうだめ、嫌われちゃう...えっちな女の子だって軽蔑されちゃうよ!)
「お、ねがい、触らないで...あたし、竜次くんに嫌われちゃうよ...」
また、涙が溢れてきてしまった。
〜紗弓〜
部屋に入ったとたんキスが始まる。
「ん、あぁ...ん」
何度も角度を変えて口内を暴れまわる彼の舌にあたしはすっかり絡め取られて喘いでいる。
「紗弓、その顔可愛いよ。食べてしまいたくなるよ。」
「遼哉ぁ、ん、食べて...全部ぅ」
あたしはもうそれだけで酔ってたとおもうの。普段の自分だったら信じられないほど甘えた声で遼哉を誘ってるの。
「はぁ、おまえわかって言ってんの?もう、狂い掛けてる俺をこれ以上狂わせてどうするんだ?キスだけでもう、こんなになってるっていうのに...」
遼哉があたしの腰を引き寄せて自分の欲望の強さをあたしに知らしめる。
「俺、おまえのこと、壊しちまわねえか心配...」
「大丈夫だよ?あたし丈夫だし、鍛えてるし?」
にこって笑ってみせるの。体力だけは3年間鍛えに鍛えてるんだから。
「その言葉、後悔するなよな?」
「ん、しないよ...だって、遼哉だもん、大好きな遼哉に何されてもかまわないの...」
「紗弓、俺も大好きだよ。今夜は寝かせてやんないから、覚悟しろよ?」
掠れた声で耳元でそういうと、すぐにベッドへ連れて行かれる。それもお姫様抱っこ?お、重くないのかな?
「あいにく、俺もしっかり柔道で鍛えてんの。こっちも総体までのトレーニングもハードだったからな、2ヶ月前とは違うぜ、主に寝技練習してたしな?」
「もう、遼哉ったら。」
「2か月分の俺の思いも受け止めてもらわなくっちゃね。これは、キツイとおもうけど?」
寝かされて、両手をシーツに縫い付けられたまんまキスが再開する。酸素不足で頭がぼーっとするほどの時間、遼哉の舌で蕩けさせられたあたしの唇はもう閉じることはなかった。彼の唇が首筋へ降りていってもあたしはだらしなく開いた唇から喘ぎ声を漏らせるだけだった。
「はぁ...ん、あんっ、遼哉...」
首筋や耳元のあたしの感じるあたりを何度も舌で往復させながらその手は背中へ回ってキャミソールワンピースのファスナーを捜している。あたしは背中を浮かせてそれを助ける。
(いつのまにか、こういうことにも慣れちゃってるんだ...)
何度も抱かれた。そのたびに自分が変っていくのが判るほど遼哉の与える快感に身体が目覚めていくのだ。どこをどうすればどうなるか、お互いもう判ってしまっている。けれど再びこうやって向かい合うと新たな羞恥心がやってくる。乱れて行く自分が恥ずかしいけれど、それを喜ぶ彼のために、なお乱れる自分が居るのだから...
足元から抜き取られていくワンピースに、残されたブラとショーツのセット。前に芳恵ちゃんと買った勝負パンツはその日に使っちゃったから...。今時分芳恵ちゃんはあの下着見せてるんだろうか、なんてだめだめ、そんなこと考えちゃ...
今日つけてる下着は、実は遼哉のホワイトデーのお返しだったの。なんでって思ったけど、バイト先で手に入れたらしい。それって普段は絶対に履けないヤツ!だってすけすけのレースなんだもん。色が白だから履けたけど、黒だったら思いっきり拒否してたよ。
「紗弓、これ着てくれたんだね。恥ずかしい?こういうの...」
「ちょっと、恥ずかしい...こんな時でもなかったら着れないよ。それに芳恵ちゃんにも見せられないし。」
「見るのは俺だけでいいの。ん、もう敏感になってる?それにこういうこと出来ちゃうんだよな、これって。」
下着の上から胸の先を舐められる。つけたときから擦れちゃって変な感じだったんだもん。裏地なんてついてないんだから...レースのざらざらした感触の中に遼哉の舌のぬくもりを感じる。やだ、気持ちいいよ...
「やぁん、だめ、遼哉ぁ...」
両方の胸をかわるがわる嬲られて、ようやくそのブラが外される。そのまま遼哉の顔が下へと降りていく。
「やん、だめっ!そんな...」
下もお揃いで、すけすけのレースの上から攻められると、あたし、もう...
「はあっ、いい、いっちゃう!」
「え、もう?紗弓?」
「はあ、はあ、だって...」
泣きそうになっちゃうよ、こんなにも早く一人でいかされちゃうなんて...
「いいよ、何回でもイケよ。誰にも、何にも遠慮することないんだからな。」
「も、もしかして...今まで手加減してた?」
「多少はな。おまえ帰れなくなったら困るだろ?さすがに最初にホテル入ったときはセーブ出来なかったけどな。だから、思いっきりっていうのは俺よりも紗弓の方だからな。」
「ええっ?」
「自分が気持ちいいのもいいけど、俺紗弓が感じてるとこや乱れるとこ見るのスキなんだよなぁ。何度でもイカセたくなる。」
そんなぁ...やだよ、一人だけ気持ちいいなんて...
「やだ、遼哉も一緒にイッテくれなきゃ、やだよ...」
「へえ、今日の紗弓一段と大胆だね。それじゃ、お言葉に甘えて...」
「ああんっ!うぐっ、んん」
うそ、下着つけたまま...横から?
「やん、は、んっ、あん」
あれ?遼哉、アレまだ着けてないよね?ちょっと不安になっちゃう。
「り、遼哉ぁ?」
激しくなっていくよ、やだ、どうするの??
「紗弓、うっ、生だと気持ちいい...あ、安心しろよ、外に出すからっ」
え?え?え?外に?今までそんなことしたっけ?
「やべ、よすぎっ、紗弓!!」
「あ、あっん、あん、ん」
激しく揺さぶられて、すごく深いところに当たってるのを感じて、いつもよりいっぱい濡れてるようなあたし...アレつけてないって、こんな感じなんだ...やだ、気持ちいい。
「ああんっ、遼哉ぁ!」
「ああっ、うっ、くっ...はあ、はあ...間に合った...」
あれ?あたしのおなかの上がなんだか生暖かいような、冷たいような...そ、そっか、出したんだよね、おなかの上に...。思わずそこを見てしまう。
「はぁ、やばかった。ごめんな、気持ち悪くないか?」
「う、うん、大丈夫。」
急いでティッシュで拭いてくれたけど、アレって、そうだよね?遼哉が出したんだよね...初めて見ちゃった。
遼哉は普段絶対に最初からつけるからあんまり判らなかったの。それにいつもあたしのみてないとこでつけてるし、だから、男の人のモノがあんな形で、出した後あんなふうだなんて。
「ごめん、下着汚しちまった...」
「いいよ、遼哉がくれたやつだから、その、好きにしても...着替え持ってきてるし。」
遼哉がゆっくり下着を脱がせていく。
「シャワーでも浴びようか?そこで二回目しような。」
耳元で遼哉がにやりと笑った。
すいません、とうとう遼哉達先にえっちに突入です。芳恵ちゃんたちはもたついてます。仕方ないですね。はじめてだし...でもいいのかなぁ、こんなえっちばっかりで...(悩み中)