〜150000Hit記念連載〜
〜芳恵〜
あたし達は3年に進級した。
高校生活も後1年、1学期はあっという間だった。総体もあるし、文化祭もあるし...
我ソフトボール部は県大会一歩手前で負けてしまった。紗弓が準々決勝で打球を受けて肘を痛めて思う存分戦えなかったのが敗因だけど、それはしょうがないことなのにひどく落ち込んでしまって、見てるのも可愛そうだった。試合終了後、見に来てた来栖に後を任せた。こうなった紗弓を支えられるのはもう奴しかいないからね。おまけに最後自滅した2年ピッチャーの尻拭いでマウンドにたったのがあたしなものだからごめんっていい続けて辛そうだったので紗弓だけ別で帰らせた。部室で待ってたらようやく戻ってきた頃にはなんとか元に戻ってて安心したよ。さすが来栖、ちゃんと心の繋がりも出来てたんだよな。いいなぁ...なんかそういうのって。
野球部も決勝まで進みながらも最後、強豪校との接戦の上敗退した。今村くんも電話で話す声も力がなくって、夜中に『逢いに行っていいか』って聞かれた時は思わず『いいよ』って答えてた。そっと家を抜け出して、近くの公園へ向かった。そこにいた今村くんはあたしをみてふって優しく笑ったんだ。
「笹野、ごめんな。無性にその、お前の顔見たくっなって...そっちの試合も見にいけなかったのに、悪い...」
野球部の決勝戦とうちの準決勝は同じ日だった。けれど開催場所がかなり離れてて、去年や一昨年のように一緒に帰れることもなかった。だから、あたしも逢いたかったんだ。
「いい、気にしないで。それより大丈夫?」
「あぁ、最終回に一点入れられてのサヨナラ負けなんて、けっこうキツイ負け方したから...みんな甲子園を目の前して、泣いても泣ききれないんだ。あの時こうすればなんて、後悔するような試合をしてしまった。だから、一人で部屋にいてもだめなんだ。笹野の声聞いてたら我慢できなくなって...ごめん。」
「いいよ、あたしでよかったらいくらでも話し聞くよ。今村くん?あ...」
彼の腕がそっと伸びてきてあたしを捕らえる。
「いつだって、おまえが頑張ってるから、俺も頑張れた。ありがとうな。甲子園にも行きたかったけど、一日でも早くこうして芳恵をこの胸に抱きしめたかったんだ。」
あいつの大きな腕に、ぎゅって抱きしめられてる。
この3年間、ゆっくりと歩んで来たと思う。週に1回一緒に帰れればいい方だったし、キスなんてイベントぐらいしかしてないかも?だけどだんだん側にいることが自然になってきた。友達同士のように振舞うあたしに合わせてくれたりもする。時々過激に突っ走るあたしを唯一止められる人。普段は無口なのに、そういうときだけはっきりと物を言う。その真剣な表情に二度惚れしちゃうんだよね。『ごめんなさい』っていえば、優しく笑って『判ってればいいんだよ。芳恵が出る場面じゃない。』って。またそういうときだけあたしの事、芳恵って呼ぶんだから...。ねえ、知ってた?あたしがそう呼ばれるたびにときめいてるの。
「けっこう今まで我慢してたほうだと思うんだけど...もういいかな?」
あいつのごつごつした手のひらがあたしの頬を撫でている。ゆっくりと重ねられる唇。いつものようにすぐに離れる軽い軽いキス。そんなキスですらあまりしたことのない二人だった。いつでもそう出来ただろうに、今村くんは自分でちゃんと考えて、けじめをつけたかったんだろうな。だって、付き合いだして2年もたつのに、皆は夫婦みたいとか色々いうけどキスより先に進んだことなんて一度もなかったもの。そりゃあ、我慢してるなって思ったこと何度もあったけど、本当に意思が強かったから...。
「あたしも、待ってた...」
じっとあいつの目を見つめかえす。あたしも、今日の日が来ることを心の底では待ってたんだから...
あたしに回された腕の力が強くなる。あたしも彼の背中にそっと腕をまわす。薄いTシャツ越しの彼の体温は高く、手の平に女の子とは違う筋肉質で逞しい背中を感じる。
「芳恵...」
「ん...」
夜の公園、時間はもう深夜に近いはず。再び重ねられる唇。いつもならしばらくそのまま暖かさを感じるだけだったけど、さっきとは全然違うキスが始まる。
「あっ...ん」
何度も角度を変えられ、唇を甘く噛まれる。それからだんだんときつくなっていき、唇の隙間から彼の暖かな舌が滑り込んでくる。あたしが嫌がったりしないように、ゆっくりと確かめるように。その間も回された手がゆっくりと背中を撫でてく。
(こ、こんなの初めてだよ...どうしたらいいの??)
さっきから足がガクガクしてる。きつく抱きしめられてなかったらそのまま地べたに座り込んでしまいそうなほど頭もボーっとしてしまいそう...。こんなキスも出来るヒトだったんだ。そう思うと今までのキスはほんとにあたしに合わせたお子様コースで、あいつが我慢してたのがほんとによく判る。あたしが食べられちゃいそうなキス...
「り、竜次くん...」
ようやく解き放たれたあたしの唇は彼の名前を呼ぶだけで精一杯だった。キスのときだけあたしも彼の名前を呼ぶ。目を開けると彼の真剣な目があった。熱い視線っていうのかな、あたしの中身まで全部見てるみたいな目だった。
「ごめん、こんなキスはいやだったか?」
「ううん、そ、そんなことない。が、頑張って慣れるようにするからねっ。」
すごく甘い声でいってくれてるのに、あたしったら照れ臭くなって思わず拳作って力いれちゃってるよ。
「ぷっ、頑張らなくてもいいよ、俺もそんな、経験あるわけじゃないから。」
照れ笑いしながら額をあわせて見詰め合った。でも男の子ってこんなのどこで覚えてくるんだろう?目の前の彼の顔が少し大人に見えた。
「もう遅いから帰ろうか。そうだ、来栖からおまえんとこにもメール来ただろ?夏休みの旅行、俺おまえと行きたいけど、行けそうか?」
「まだ判らない...紗弓と二人でってことなら何とかなりそうだけど。」
「そりゃ、男となんて許可してもらえないよな。それに俺、もう我慢するつもりないし。」
「り、竜次くん...あの、あの、やっぱり?」
「とっておきのヤツ楽しみにしてるから...。」
真っ赤になって言ってるよ。え?取って置きって、冬に買ったアレのこと?うわーっ、忘れてた!ということはやっぱりその旅行で??だよね。
「だから、それまでに、その...ちょっとでも慣れるようにだな、ま、毎日一緒に帰ろうか...」
「うん!」
何に慣れるのかよく判らないけど、やっと毎日一緒に帰れるんだ。やっぱり嬉しいよぉ!あたしはもう胸がいっぱいでいつもみたいにしゃべれなくなってる。
それから、あたしの家までゆっくりと手を繋いで歩いた。
「じゃあ、おやすみ。」
もう一度唇に軽く触れるキス。ほんの一瞬だったけど...あたしは帰りたくなくって、彼のシャツを掴んだまま離せずにいた。
『芳恵、そんなことしたら帰せなくなる...俺、おまえ以上に今辛いんだぞ。』
彼が耳元で小さく言った。見ればめちゃくちゃ照れた顔してる。
「また明日な。」
「うん、おやすみなさい。」
駆けて行く彼の後ろ姿をじっと見ていた。自然に熱くなった身体を抱きしめながら...
〜紗弓〜
私達の夏は終わった・・・準決勝敗退。
私達の(特にあたしの)引退を心待ちにしていた遼哉は、それでも暑い中準決勝まで応援に来てくれたんだ。すごく嬉しかった。だけどあたしのせいでぼろぼろに負けてしまって、悔しくって、怪我しちゃった自分が情けなくって、だけどみんなの前では泣けなかった。いい涙じゃなかったから、皆に見せたくなかったの。試合の後、あたしはみんなと別れてから、遼哉の胸で思いっきり泣いた。だって両手広げて泣いていいよってすごく優しい顔してるんだもん。遼哉はあたしが泣き止むまでずっと抱きしめて髪を撫でてくれていたの。
「な、紗弓夏休みどこかに行かないか?」
準決勝の翌日の昼休み、例の場所(体育館裏の遼哉のお気に入りの場所)で遼哉が言い出した。
「どこかって?」
「うーんと、旅行。泊りがけとか、だめかな?」
にやって笑って聞くの、それってだめでも行きたいだろって意味?そりゃそうだけど、彼氏と泊りがけの旅行なんて許してもらえないよ...
「だめだと思うよ...」
「笹野が一緒でも?」
「え?芳恵ちゃんも一緒?」
「ま、二人の許可が出たら行き先決めようぜ。今村とはもう話しついてるから。」
さらりと言ってのけるけど、一体いつ決めたの?二人はそんなに仲良かったのぉ?
「もちろん、部屋は一緒な。」
そう言って腰のあたりを引き寄せてくる。もうっ、昨日試合終わったとこなのに〜
「本当はいますぐやっちまいたいぐらいなんだけどなぁ。な、もう遠慮しなくていいんだろ?部活ないんだし...」
「な、何言ってるのよ!こんなとこでやだ!」
「やだ、今ヤリタイ。『やだっ』て可愛く言われると余計にシタイ。」
遼哉の膝の上に乗せられて、その手がブラウスの中に来る。
「やぁ、んっ!」
背中や脇腹のあたり、あたしがだめになるとこ知ってて指で掠める。もう片方の手はスカートの中に入り込み太股の外っ側を撫で始めてる。
「絶対に旅行に行くって言わないと本当にここでするけど?」
「そんな...親に聞いてみないとわかんないよぉ...」
だんだん身体が熱くなっていく。試合があったのでここんとこしばらくお預けだったのはあたしも同じだもん...こんなにも慣らされてしまった体が恨めしい。
「な、紗弓、旅行行ったらさ、一晩中お前を抱いていられるんだよなぁ...朝もさ、シテモいい?」
「り、遼哉ぁ、まだわかんないって、もうっ...気、早すぎるよぉ...んっ」
やだ、キスされてる唇からと触れられてる部分から溶けていっちゃいそう...あたしの身体はもう遼哉のいうことしか聞けなくなってしまったの。だめっていっても止まらないんだもの。キスは首筋へ降りていく。それだけで身体が震えてしまうのに、夏服のブラウスの前まではだけられて、ブラの隙間から胸の先を転がされている。
「あん、り、りょうやぁ...だ、め...授業が...」
「わりぃ、さぼってくれる?」
いたずらっぽく笑うその目に弱いのよ。でもだめ!
「やあっっ、ぜったいだめっっ!!」
「じゃあ、我慢するから旅行に行こうな?いったらもう離さないから覚悟してろよ。」
にって笑ってるぅ!最初からそのつもりだったくせに...遼哉の馬鹿っ!
夏休みに入ってすぐ旅行は実施された。
芳恵ちゃんも一緒ってことで無理やり許可をもらった。なんと助け舟を出してくれたのはおにいちゃんだった。ただし、芳恵ちゃんと二人でってことになってるけど...。
「お兄ちゃんありがとね。でもどういう風の吹き回し?」
普段は親とあたしの間のことには口出ししてこないのに...
「まあな、楽しんでこいよ。お前らの気持ちもよく判るし、俺も来年はなぁ...」
「来年?」
「いや、なんでもない!気つけて行って来い。遼哉は失敗しないだろうけど、お土産持って帰ってくるなよな。」
「え、えっ?も、もう、お兄ちゃんったらっ!!」
最近のお兄ちゃんて変なのよ。やたら遼哉との事に寛大だし、言動がやたら若いのよね。服装もちょっとは見れるようになったの。今まではなんでもいいって感じだったのに...でもデートしてる時間ないはずなんだけどなぁ。大学の柔道部と、唯一やってるバイトの家庭教師で大変そうだもの。受け持ってる子も今年高校受験で大変らしいの。うちの高校受けるらしいからね。そっちで晩御飯も食べてくるらしくって、帰っても自分で作らなきゃならない日もけっこうあったもん。
そして旅行の計画すべてを仕切ったのは芳恵ちゃんだった。その完璧な計画に漏れはなかったの。一泊だけだから少しいいとこに泊まる事にして近場で済ませて交通費浮かせるなんて、芳恵ちゃん、みえみえだよ...まあ、皆お小遣いで行ける範囲だからしれてるかな?遼哉も柔道始めてからバイト減ったって言ってたから。
「はー、どうしよう、今から緊張してるよ!」
終業式の日、どんなピンチの場面でもびくともしなかった芳恵ちゃんがこれだもの。なんだか初体験ヤリに行きますって感じだもんね、芳恵ちゃんとこの場合。大丈夫かなぁ?こっちでも遼哉が強壮剤なんか買い込んでるし...ヤル気満々なのはちょっと困る。
何だかんだと言ってても、旅行出発の日。行き先は海だから、水着持って、始発の電車で出発。照れ臭さや緊張を遊ぶことで誤魔化しながらも目いっぱい泳いで、楽しんだよ。意外なことに遼哉と今村くん、かなり気が合うっていうか、仲良くなったみたい。二人で話してるとこなんて遠めで見たらいい雰囲気だったもの。もちろんおかしな意味じゃないよ。芳恵ちゃんいわく、いつも聞き役に回ってる今村くんが遼哉相手だとけっこうしゃべってるんだって。遼哉も男友達にあそこまで気を許してるのは染谷君ぐらいじゃないかな?
ホテルには3時にチェックイン。とっても可愛いペンションタイプの小さなホテル。夏休み入ってすぐの平日だからこそ取れたんだと思う。
「うわーっ、綺麗な部屋だね〜」
取り敢えずはちゃんと女同士部屋に入る。だって、芳恵ちゃんは平気な振りしてるけど緊張しまくってるのがわかるんだもん。遼哉は『ちぇ』っていってたけど今村くんは、小畠さん『頼むね』って優しいんだ。
夕食はホールで取るんだけど、さすがにレストランだからジーパンやショートパンツじゃだめだろうとちゃんと用意してきてるんだよ、よそ行きの服!部屋に入ってから二人交代でお風呂に入ってしっかり磨きこんで、ああでもない、こうでもないってお化粧しあいっこしてたの。わたしはキャミソールワンピースに着替えて、遼哉に買って貰ったお気に入りのストラップつきのパンプスを履いた。芳恵ちゃんも今日だけはパンツじゃなくて柔らかい生地のロングスカートにカシュクールブラウスを合わせてとっても大人っぽいの。だって前のスリットがかなり上まであるんだよ。聞いたらお姉ちゃんに借りてきたって。
「お待たせ。」
部屋じゃなくて、ロビーで待ち合わせてると二人ともびっくりしてた。
「二人とも化けたなぁ、高校生には見えないね。どっかの女子大のおねえさんみたい。」
遼哉が茶化して笑うけど、そういう二人も下はTシャツやタンクトップだけど、上はジャケットなんか着こんで大人っぽい。ま、今村くんの坊主頭はしょうがないけど、最近はそういう頭ファッションでしてる人もいるもんね。
「おい、竜次、お前も笹野になんか言ってやれよ。」
「あ、あぁ...うん、似合ってる、すごく。」
「あ、ありがとう。」
初々しいなぁ〜あたし達にこんな頃は...なかったんだよね。
夕食はおいしいフレンチだったけど、芳恵ちゃんはどんどん黙っちゃって、かわいそうなくらい緊張してる。遼哉が気を使って珍しくおどけてるけど、聞こえてないみたい。
「食事が終わったら、それぞれ散歩して部屋に入る?」
デザートが終わりかけた頃、遼哉が提案した。あたしも必要なもの持って出て来いよってメールで言われてたから、小さいバックを持って出てきてる。
「じゃあ、そろそろ行こうか?」
その言葉を合図に立ち上がるんだけど、やっぱ芳恵ちゃん大丈夫かな?さっきから下ばっかり向いてる。
『大丈夫?』
『な、なんとか...』
『何かあったらメールしてきていいからね』
離してもらえるかどうかが難しいけど、いつもと反対に世話を焼くあたしを遼哉がせっつく。
「あとは竜次に任せておけばいいさ。笹野の扱いにかけちゃ奴の方が上だろ。」
そういうと今村くんが軽く頷いた。
「先に行って、落ち着いたらここ出るから。」
「じゃあ、お先にね、芳恵ちゃん。」
あたしは心配を残したまんまホールを後にした。
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