ずっと一緒に...

「紗弓〜、部活行こうよ!」
「よっしー、ちょっと待って、すぐ準備するから。」
同じクラスの芳恵は同じソフトボール部のキャプテンでキャッチャー。あたしの女房役ってことね。親友どうしでもあるあたし達の間に秘密はなかったの。ついこの間までは。
だって言えないじゃない?学年一の女泣かせで有名な来栖遼哉と付き合ってますなんて...おまけに即初えっちしたとかそんなこと、絶対に言えない!よっしーは野球部の彼と付き合ってて、逐一報告してくるんだよ?手を繋いだとか、ファーストキスだとか、今度のデートはまで...

「あれ見て、C組の来栖また女に告られてるよ?」
一瞬どきっとした。恐る恐る放課後の誰もいない教室を覗くと、1年だろうか?知らないけどやたら可愛い子が泣きそうな顔して告白してる。そっと遼哉の表情をみると、相変わらずの無表情。
「悪いな、俺彼女いるから...」
「構いません!彼女いても!二番目でいいから、付き合ってください!もし、その彼女と別れたら一番目にしてください!」
なんなの?あの子?
呆れてしまう。けど、遼哉が今までそう言う付き合いをしてきたことはわかってる。いったいなんて返事するんだろう?よっしーまで一緒になって聞き耳立ててる。好きだわ、この子もこういうの。
「俺今度の彼女は本気だから別れる予定も気もさらさらない。悪いけど、二股かける気もない。」
「そんな、遼哉先輩なら絶対に断らないって...彼女いなかったらとりあえず付き合ってくれるんじゃなかったんですか?3年の彼女とも別れたって聞きましたっ!」
何かやけになって泣き叫ぶ一年の女の子を持て余しながらも相変わらずの冷たい物言いで返事を返す。
「今まではな、遊びだったから。いくら泣いてもその気はない。遊びでも付き合う気もない。」
うわ〜言った。引きようがなくなったその子を、机の端に軽く腰掛けて冷たく見下ろしてる。そのとき...
「遼哉、本気って、誰?誰なのよ?」
どうやら反対側のドアの影に隠れていたらしかった3年の女子が飛び込んできた。
「春香と別れたって聞いたけど、誰と付き合ってるかなんて聞いてないよ!」
「藤代先輩...」
「あたしは、春香だから諦めてたのに...」
「今野先輩とはもう終わりました。先輩にとやかく言われることはもうないはずですけど?」
冷静な遼哉の口調にくらべて興奮気味の藤代と呼ばれた先輩。この先輩もきつい顔してるけど綺麗な人だ...。
あまりの勢いに泣きべそかいてた一年の子は教室を飛び出して行った。動くに動けないあたし達はひたすら気配を消してドアにへばりついてた。
「言いなさいよ!誰なの?本気って嘘でしょ?」
「嫌ですよ。先輩何するかわからない人だから。けどもし俺の彼女に何かあったら、俺も何するかわかりませんけどね。」
最後の声はマジで怖かった。遼哉にしては凄く低い声。
『こわ〜、来栖の奴本気ですごんでるよ?マジな子できたんだ、信じられないけどね。』
耳元でよっしーがそういった。
はい、たぶんそれはあたしの事です。言えない自分が歯がゆかった。でもあの先輩ほんとに怖そう。
「ほんとにあんた遼哉?今まで何に対しても無関心だったのに...」
「どっちかって言うと、こっちが本物ですよ。ま、今までの俺は忘れてもらっていいと思います。」
遼哉が珍しくにこりと笑うと、3年の彼女はちょっとひるんだみたいだった。
「は、春香はまだ泣いてるからね!あの子は本気だったんだから...」
そういい残して教室から飛び出していった。
よっしーと二人顔を見合わせてため息をつくと、そっとその場を離れようとした。
「いつまでもそんなとこにへばり付いてないで入ってくれば?覗き見なんていい趣味してるなぁ。」
いつの間にかドアのところまで出てきた遼哉が、私達の行く手を塞いでる。
「来栖、今見たの絶対に誰にも言わないから、ね、勘弁してよ〜!」
よっしーが遼哉を拝んでる。そっか、よっしーは1年の時同じクラスだったんだ。最初は成績のいいものが委員をするから一緒にやったって言ってたな、たしか。
「ん、これも言わないでくれたら許してやるよ。」
あれ?一気に腕をひっぱられて遼哉の胸が目の前に?
「これ、俺の本気だから、笹野さん、あの怖い先輩方から護ってやってくれる?」
ぎゅうって抱きしめられてますよね、わたし。よっしーにばらすの?
「へっ?えええっ!?さ、紗弓ぃ〜〜?どどどどういうこと??」
驚いて目向いちゃってるよ、よっしー。
「えっと、その、こういうことなのぉ...」
声が小さくなる。あーもう恥ずかしいんだってば!遼哉の腕はがっちりヘッドロックかましてあたしを動けなくしてる。まあ生半可な締め方だとあたしもほどいちゃうからね。でも反対の腕で腰を抱かないでよ!ほんとに動けないじゃない!
「お、幼馴染って聞いてたけど、本当だったのね?」
「そっ、悪いけど俺の目の届かないとこ、笹野さん頼んだよ。あのお姉さん方過激だから、そのうち気付かれると思うし。あんまり紗弓を独りにしないでやって?今まで逆らうと面倒だからそれなりに受け流してきたけど、こいつのためにも中途半端やめるし...」
「遼哉...」
なんか嬉しくなってそのまんまのカッコで見上げると遼哉の切れ長の目が優しく細まっていた。
「えーっ、ごほん、そこ見つめあわない!とりあえず了解。おってじっくりと紗弓に聞くとして、わたしらもそろそろクラブに行かないといけないから離してやってくれる?それ。」
それってなによ、よっしー!耳元でちぇっとか言いながら身体を離してくれた。ぶつぶつ言わないで、そりゃあたしも部活で忙しくって、あれ以来電話以外で密着したの3週間ぶりだったりする。先週の日曜やっと大会も終わったんだけど、休みないんだもの。
「でもまだまだ、こう言うの出てきそうで怖いんだけどな?」
よっしーが腕組みして遼哉に意見してる。そうよね、今までが今までだから...
「あぁ、どうせ家に真っ直ぐ帰ったって誰かさんはクラブで忙しいからな、俺も入る事にした。女どもが寄ってこないようなとこにね。暇つぶしにもなるし、ちょうどいいから。」
「遼哉クラブに入るの?」
「あぁ、染谷覚えてるか?隣町の道場の息子、入りたいって言ったら今日から来いってさ。今から行ってくるよ。」
「じゅ、柔道部!?」
となりでよっしーが意外そうな顔して驚いてるよ。
「よかったらお前も一緒にどうぞって。」
染谷君は学校違ったけど、大会でよく顔あわせてた。遼哉ともいい勝負してたよねたしか。あたしも何度か対戦したけど、小学校の頃は小さかったのにいつの間にかムキムキマン見たくマッチョになってる。柔道部の主将やってるのよね。
「だめ!紗弓はあたしの大事な、えっと、旦那様なんだから!」
よっしーいくらキャッチャーは女房役って行っても旦那様はないでしょ?わたしを遼哉から奪い返すように引き剥がすとぎゅうって抱きついてきた。
「ちっ、まあいいや、とにかく頼んだからな?」
まだ私に抱きついたままのよっしーの肩をぽんと叩いて、すれ違いざまにあたしの髪にキスを落としていく早業!
「紗弓、じっくり聞かせてもらいますからね?」
にんまりと微笑む芳恵に背筋に寒気が走ったのは言うまでもない。