ずっと、ずっと...


〜Boy's side 5〜

紗弓は俺の隣でじっと話を聞いてくれていた。
 ほんとに身勝手な俺の言い訳を。
「それが盛りのついたガキの生理現象だけじゃなくって、紗弓だからってことに気がついたのは、他の女抱いてからなんだ。気持いいけどさ、それって身体だけで、全然よくないんだ。自分がどんどん汚れていく気がしたよ。だから紗弓が眩しかった。いっつも一生懸命で爽やかでさ、世界が違ってしまったんだって思ってた。だからずっと見ないようにしてた。好きでもない女を抱いてごまかしてた。けど今日別れた女が言ったんだ。『誰が好きなの? 誰が貴方の心の中にいるの?』ってそう言われたとき、紗弓の顔が浮かんだんだ。俺が好きなのは、ずっと前から紗弓だけだったんだって。本当に欲しかったのは紗弓の心と身体だって気付いたんだ。そんな時におまえが一人でグランドにいるから、つい声かけちまって……」
 紗弓はだまって下を向ていた。
「ほんとに、わたしのこと……好き?」
 そのまんま、唇だけを動かして聞いてきた。
「ああ、ほんとだ。こんな俺じゃもうそんな資格ないかもだけどな」
 紗弓の方を見ると少しだけ顔をあげてこちらを見ている。もう怒ってはいないみたいだけど泣きそうな顔だ。
「無理やりキスしちまってごめん。自分でもあんなことするなんて信じらんなかった。だけど、久しぶりに近づきすぎたんだ。――――だっておまえ可愛くなりすぎ! それに無防備すぎるよ? まあ、おまえが唇濡らしただけで欲情する俺も俺だけどな。けど、ピンポンなってもいきなりドア開けるなよな? 簡単に男を家に上げるな、危ないんだぞ! そういう俺が一番危ないんだけどな」
 遼哉は少し笑うとゆっくり立ち上がった。
「ほんと悪かったな、俺帰るよ。無理やりにでも抱いて信じさせちまおう、なんて思ったけど、やっぱ紗弓にそんなこと出来ないや」
 ドアに向かおうとする俺の制服のズボンを紗弓が掴んでた。
「わたしの気持は?」
「えっ?」
「わたしの気持は聞いてくれないの?」
 俺を見上げてる紗弓の瞳は泣いていないのに潤んでて、俺は抱きしめたくなる気持を抑えるのに必死だった。
「俺のこと許せないんだろ、ごめんな」
 紗弓は違うと言ってフルフルと頭を振った。柔らかい紗弓の髪が揺れてまた肩に落ちていく。
「わたし、誰でも家に入れたりしないよ……遼哉だから、だよ」
 立ち上がる彼女の身体が近づいてくる。ふわっとマリン系のコロンの香りが漂ってくるほどの距離だった。
「嫌われてるって思ってた……だけど、彼女がいても、色んな噂聞いても、わたし……遼哉のこと諦められなかったんだよ?」


〜Girl's side5〜

 わたしは一歩遼哉に近づいて、こんどは彼のシャツをそっと掴んだ。
「ずっと、好きだったんだよ。ずっと、ずっと……」
「さ、ゆみ……本当に?」
 遼哉が身体を屈めてわたしの顔を覗き込んでくるのが判る。急に恥ずかしくなって手を離した瞬間彼の胸の中にいた。ちょっと汗臭くって、それが遼哉の匂いなんだって思うとなんだか嬉しくって……
「俺って馬鹿だよなぁ」
 頭の上で大きなため息が聞こえた。
「もっと早くにこう出来たはずなのに……寄り道いっぱいしちまった」
 あたしは声も出せなくて頭を振るだけで、彼のシャツに顔を埋めて抱きしめられる力よりももっと強く抱きつこうとした。
「好きだよ、紗弓。でもあんま力入れて抱きついてたら危ないぞ? 今も昔も、俺にとって紗弓は抱きたい女なんだから。それとも襲われたい?」
 意地悪く聞いてくる。顔を上げるとすぐさま唇に柔らかくキスされて返事は出来ない。さっきとは随分と違う優しいキスが何度も降りてくる。
「遼哉なら、いいよ。でも……急がないで」
「ああ、時間まだいっぱいあるもんな。ゆっくり俺のモノにしてやるよ」
 覚悟しろよと彼の声が耳元で囁く。
「どれだけ俺の理性が持つかなんて期待はするなよな?」
 そう言い終わるとまたキスで塞がれて、なにも言葉にできなくなっていく。
 優しいキスが終わって、深いキスが始まる頃にはもう身体に力が入らなくなって、朦朧とする意識の中、彼のぬくもりだけを感じていた。
 やっぱり噂は本当だったんだ。キス、すごく上手いんだと思う。わたしは他の人を知らないから比べられないけど、固まっていたわたしをどんどん解し溶かしていくその甘いキス。まるで逃げられない甘い罠。
 このキスから逃げられる女性なんているのかしら?
 最初の時ほど激しくはないけれど、優しく口中を舐め上げられてあたしは口を閉じることも出来ずにただ喘いでいた。どうやって受け入れればいいのかわからず、ただ彼の動きにあわせて藻掻くしかなかった。
 苦しくて、切なくて、でもうれしくて……遼哉と触れ合える安心感。
 いつの間にか二人ベッドに腰掛けてキスを続けていた。
 このまま……最後までしちゃうのかな?
 彼がどこまで求めてくるのか、自分がどこまで許してしまうのか。
 判らないけど、いまはこうしていたい。
 ずっと、ずっと、二人で……
fin
最後までお読み頂いてありがとうございました。
kuishinboとして初めて書いた作品がこの<ずっと、ずっと...>でした。未だに思い入れが深く私自身も大好きな作品です。
放課後の校舎、土日のグラウンド、校舎に落ちる夕日、すごく懐かしいです。こんなに時がたってから書くことになるとは思ってもいませんでした。話の中で土曜日も授業があるのは目をつぶってやってください。私の時代はそうだったんです。(汗)
この本編のみ全年齢対象ですので表にも置いてありますので表から来られた方は全く同じです。
これ以降のお話は年齢制限がございますのでお気をつけくださいませ。

2013.3.30修正

         

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