== Cocktail Recipe & たぶんシリーズ ==  

 

Recipe 000 Clover Club & Caruso.

クローバー・クラブ&カールソー
 
 
 
珍しく今日は伊吹のお迎えもなく、響子も美晴さんとデートをしたいとのことで、一人街中を探索中。
本当なら、仕事が終わってそのまま店に行けば伊吹も居るという事だったんだけど、たまには自分一人でお店に行くのだし、時間もあるなら探索するのも楽しいというもの。
なんて思いながら、久しぶりに出かけた繁華街。
色々なお店をショーウィンドーから覗いてみたり、興味を引いたお店に入ってみたり。
こんなノンビリとした週末は、本当に久しぶりのこと。
だって・・・・あの伊吹と一緒だと、まず店に入る前はお食事に行くでしょ?
でもって、そのまま店に直行して伊吹の住宅スペースで軽くシャワーを浴びて・・・・・色々と・・・・そう、色々としている間に仕事の時間になって、時々は仕事に支障が出ることも多々あったりもして・・・・。
お仕事が終われば、伊吹との週末を迎えることになるんだけど、いつものこととは言え、なかなかベッドから出れるコトがない・・・と言っても過言ではない。
そう考えると、今日みたいな週末を過ごせるのは、ある意味で嬉しいことだったりもする。
たった一人の、少し寂しい感じは否めないものの、それでもゆったりとした時間。
こんな週末を迎えるなんて、今となっては不可能に近かったりもするのだ。
だから、今日は本当にジックリ、この時間を満喫していたかった。
 
 
さきほど、ファーストフードのお店で軽い夕飯を済ませ、今はウィンドーショッピング中。
別に何が欲しいってこともないんだけど、こうやって色んなモノを見るのはやっぱり愉しかったりもする。
 
そして―――。
 
 
 
「やだっ!深里(みさと)!?」
「え?・・・っと、もしかしなくても・・・・・槇乃?」
「うわ、久しぶり!」
「やぁだぁ!そっちこそぉ!マジで久しぶりぃ!」
「・・・・って、変わらないわね、深里は」
「・・・・って、何か変わった?槇乃(まきの)・・・・」
 
たまたま入った雑貨店で、高校時代の同級生だった友人とバッタリ、なんてどこにでもあるシチュエーション。
けれど、やけに色っぽく、そして綺麗になった同級生が目の前に現われれば、やっぱり心はその時代に飛ぶもので・・・・。
 
「こんなトコで何してる訳?」
「深里こそ、週末なのに、まだ一人?」
「・・・・・・・失礼だなぁ、それ・・・・」
 
そう言い合いながら軽く笑い合う。
何だか、とても不思議な感覚。
彼女は、高校時代やたらと気が合って仲良くしていた友達だった。
別に、『トイレ友達〜』って感じではなかったけれど、クラスが変わっても一緒にお昼と食べたりするような、そんな友達だった。
高校を卒業したと共に、彼女は短大、あたしは4年制の大学へと進学し、それでも気の置けない友達ではあった筈なんだけど・・・・。
 
「久しぶりだし、この後どう?」
「え?」
「どっかでゆっくり話しでも、と思うんだけど」
「あぁ・・・・う〜ん・・・・」
「何よ?何かあるの?」
「うん。実は毎週金曜日だけ、ちょっとバイトに入ってるんだよね」
「はぁ?バイト?って・・・夜の?」
「あ、大学時代にもやってたことのあるバーテンダーの方だよ」
「・・・・深里・・・・・が?」
「・・・・・何?その言い方・・・気になるんだけど・・・・」
「いいえ、何でも・・・・」
「あ、もし良かったら、店に来ない?」
「え?・・・・でも、いいの?」
「うん。金曜だけど、あんまりメチャメチャ混むような店ではないんだよね。どう?」
「あ〜、うん。そうだね。行ってみようかな?」
「うん。おいでよ!せっかくだし、話もしたいしさ」
「OK!」
 
雑貨店の一角で、こんな話をしながらあたし達は、それならっ!と早々に店を後にして、伊吹の待つ・・・・あの店へと向うことにした。
その間に掻い摘んで今の状況を話しながら、ついでと言うように同級生たちの消息などもお互いに知りえる情報を提供し合った。
互いに会わなくなって何年って時間が、2人の成長を物語っているような気もしたのだけど、結局のとこ、お互いに根本的なトコは変わっていないのだと、話をしていて判る。
たった3年間という時間しか一緒に過ごさなかった2人でも、割と濃い付き合いをしていたせいかもしれない。
本当に逢えて良かったと思える友達。
そして、逢わなかった時間を全然、気にすることのない友達。
いいものだなぁって思ってしまう。
 
 
 
 
 
 
店に着いて、早々に伊吹の住居の方へ着替えに行くあたしを、槇乃は興味深そうに見ていたけれど、一応はお客様として招いたのもあり、伊吹に任すのが心配だったので先に来ていた響子と美晴さんに頼んで店内へと案内してもらうことにした。
槇乃も、響子とは実際会った事はなかったものの、高校時代に何度か話題に出していただけあってすぐに打ち解け、響子の方もどうやら槇乃の性格を気に入ったらしく、自分の指定席の隣へと彼女を案内してくれたらしい。
お蔭で着替えて戻った時には、既に2人して仲良く何やら話しをしていてくれた。
 
「お待たせ」
「あら、似合うわね、その格好」
「そう?ありがとう」
 
自分の着ている服装を見ながら目を細めて誉めてくれる槇乃。
嬉しいような恥かしいような気がしないでもないけれど、別段、他のバーテンダーと変わったトコはないと思ってたせいもあって、かなりテレ臭い。
前ベストと黒のチョータイ、それに膝上のタイトスカートとギャルソン式でも、少し短めのカフェ・エプロン。
そんなスタイルを誉められるなんて・・・嬉しいけど、擽(くすぐ)ったい。
こんなことを思っていると、槇乃がニヤリと物知り顔で笑いかけ、声をかけてきた。
 
「深里の居ない間に、色々と響子ちゃんが話してくれてたから、時間も忘れられたわ」
「・・・・・そ?」
 
槇乃の意味深な笑いと口調に、思わず響子を見遣ると、フッと視線を逸らす彼女。
こらこら・・・何を言ったのだ?この響子は・・・・。
不安はつきないものの、まぁ、言うことは判っているのでいいんだけどね・・・・。
と、内心で苦笑いをしていた。
どうせ・・・伊吹と自分のコトなのだと思う。
って言うか、響子が話しをするんだもん、そっちのコトに決まってるんだけどね・・・間違いなく。
そう思いながら響子に近寄れば、彼女も苦笑しつつあたしを見遣る。
そして、今日もいつもと同じように仕事が始まるのだけれど・・・・・・。
 
「深里?その人のコト、俺には紹介してくれないの?」
「え?・・・あ、や、そういう訳じゃ・・・ないよ?」
「なら、紹介して?」
「あ、うん・・・・と、高校時代の同級生で・・・・片瀬槇乃(かたせ まきの)さん」
「初めまして。深里の恋人で綾瀬伊吹(あやせ いぶき)と言います」
「あ、初めまして。槇乃です。よろしく」
 
あぅ・・・つぅか、ココでそんな自己紹介って・・・あり?
勘弁して欲しいと思いつつ伊吹を見れば、何だか妙に嬉しそうな顔をしてあたしのことを見つめ返してきた。
あのいつもの妖艶で悪魔的な笑顔ではなく、優しい微笑み・・・まるで彼女を大事に思って微笑んでいた伊吹の先輩さんのように。
そして、挨拶を終えた伊吹は、やけにスンナリと引き下がって自分の場所へと戻っていった。
こんな風にされると余計に不安になってしまうのは、いつもの伊吹を知ってるからなのだろうけれど、あたしもすっかり感化されてしまったなぁと思わずにいられない。
まぁ、この伊吹にかかって、普通でいられたら凄いコトだ、と思ってしまうけれど・・・・。
 
「深里ぉ〜〜。凄い素敵な彼氏じゃない!」
「・・・・ありがと・・・・」
「あら、気のない返事ね?」
「でもない・・・・」
 
伊吹がこの場から居なくなると、早々に槇乃が声をかけてきた。
その顔は、別に妬んでたり僻んでたりするような変な意味合いのある顔付きではなく、友達らしい、とても優しいもの。
ある意味では、余裕のある笑顔に見えないでもないその顔は、きっと彼女も素敵な恋愛をしているのだろうことが窺えた。
やっぱり、女の子っていうのは、恋をするとイイ顔になるものなのだろう。
槇乃は、今、いったい、どんな恋をしてるんだろう?と思いつつ、彼女と昔話や現在の近況報告、そしてカクテルについての話で盛り上がっていった。
 
 
 
 
 
 
時間にしてどのくらいが過ぎた頃か、彼女の携帯に連絡が入ったようだった。
まるで、今までに見たこともないくらいに可愛い女の子の顔になった槇乃に、思わず苦笑しながら少しだけ体を乗り出して見てみれば、可愛いメールのやり取りをしているのが見えた。
 
 
『 TO.槇乃
  槇乃さん、お仕事お疲れ様w今日は俺バイトね。
  金曜の割には暇だよ〜明日休みだよね?
  よかったら起きて待っててね♪
 FROM.将志v』
 
『 TO.将志
  ゴメン、あたし今お友だちと飲んでるの〜
  あたしのほうが遅くなるかもしんないわぁ 
  だから気にしないでね?
 FROM.槇乃v』
 
『 TO.槇乃
  え?飲んでるって…
  まさか周りに男の人なんていないよね?
 FROM.将志』
 
『 TO.将志
  いるけどぉ?大丈夫だよw 
  あ、マスターがねすっごく素敵な人なのぉ!
  カクテルもめちゃくちゃ美味しくて、サイコーっ!
 FROM.槇乃』
 
『 TO.槇乃
  すぐに迎えに行きたいけど、まだ抜けられないんだ。
  でも、終わったらすぐに行くから!
  絶対、それ以上飲んだらダメだからね?
 FROM.将志』
 
『 TO.将志
  なんでぇ?めちゃくちゃ美味しいんだよぉ?
  あ、あっちのバーテンダーさんもカッコイイw
 FROM.槇乃』
 
 
思わず、そんな可愛いやり取りをしているメールを見ながら笑ってしまうと、彼女と視線があって小さく睨まれてしまった。
そんな怖い顔しなくてもいいのにね?
 
「なによ?」
「だって、可愛いんだもん」
「誰が?」
「槇乃が♪・・・って、ほら、電話だよ?」
「あ・・・」
 
そう言って携帯を握り締める槇乃は、本当に可愛らしい恋をしている女の子の顔。
あたしも、そんな顔付きになれたらいいんだけどね・・・・・。
 
「だからぁ、大丈夫ぅ〜。本当だってばぁ〜。判ってる。うん、うん、わかったわよ…もう、飲まないわよぉ」
 
携帯に向って話をしながら槇乃が困った顔をしているのが可愛くて、つい苦笑をしてみていると、その隣にいた響子もまた同じように苦笑していた。
そりゃ、こんな可愛い女の子を見たら、誰だって守ってやりたくなるし苦笑もしてしまうだろう。
それに、さっきまではお友達モードだった槇乃が、少しだけ甘ったるい声を出して話しているのだもんね。
本当に可愛いと思う。
まったく、こんな甘えた声、あたしは初めて聞いたんですけれどね・・・槇乃さん?
思わずそう聞きたくなるような彼女の可愛い声に、あたしは苦笑しつつ声をかけた。
 
「彼氏?」
「え?あ、うんと・・・・」
「どうしたの?」
「何でもないよ?」
「彼氏じゃなかったんだ?」
「う〜ん、何て言うか」
「ま、何でもいいか。何か他に飲む?」
「うん、じゃ、お任せ」
「はい、畏まりました」
「あは。何か本当に深里っぽくないわね」
「・・・・・聞かなかったことにする」
 
そう言った後、あたしが彼女に見合ったカクテルを差し出す。
元々、この槇乃はお酒に強いらしく、かなりの量をココに来て飲んでいるのだけど、全然平気な様子。
既に2回ほど化粧室にも行っているけれど、その足取りは僅かにも揺れることがなく、ココに来て随分の時間が過ぎ、かなりの量を飲んでいるにも関わらずまるで酔っているような感じがしない。
まぁ、それなりに度数の抑えたものしか出していない所為もあるのだけど・・・・・コレが響子なら、確実に足へ来て少し覚束ない歩きをするものを、この槇乃は本当に酒豪なのかも知れない。
そんなコトを思いながらも、彼女達の相手をしながら、その他のお客さまへの相手をし、そしてバーテンダーとしての時間を過ごしていた。
ある程度の時間になれば、いつものコトだけれどそれなりの常連客が集まってくるこのカウンターに、いつもの顔が見え始めてくると、担当のスペースだけでなく、あちこちに移動しながらお客の相手をすることも出てきた今日この頃。
そして今日もまた、いつもの通り、毎週金曜日にしか顔を見せないお客さまもいらして、伊吹と担当を交互にしながら相手をしていた。
 
「深里ちゃん、今日も美味しいの、作って?」
「はい。畏まりました」
「今日は、深里ちゃんの気の向くまま作ってぇ?」
「はい」
 
にこやかに返事をしながらも、あたしはお客さまたちの相手をしていく。
それはホントに楽しい時間と言えて、伊吹もそんなあたしのコトをそっと見守る程度に助けてくれている。
こんな素敵な時間を、この久しぶりに会った友達が見てくれていると思うと、それだけでも嬉しい気持ちになり、ついつい彼女のコトは忘れて仕事に没頭してしまっていた。
それでも時々聞こえて来る彼らの声。
槇乃はどうやら酒豪だっていうのは判ったのだけど、伊吹も相当遊んでいるようで、槇乃に強いお酒を差し出しているようにも思える。
 
「槇乃さん?カクテルは結構、今は判らなくても後から足にきたりするものなんですよ?」
「大丈夫ですよ、伊吹さんっ!コレでも結構飲めるんですよ?あたし」
「でも、ですね?」
「心配しないで下さい。それに後で迎えも来てくれるっていうし、全然大丈夫」
 
何て言う会話が聞こえてきた時には、伊吹にそれ以上、カクテルを作らないように忠告したくなった程だ・・・・。
槇乃・・・本当に判っているんだろうか?
つぅか、伊吹・・・・既にもう、調子にノって遊び始めてませんか!?
 
 
 
 
 
「深里」
「はい?」
「槇乃さんからリクエストが入ったから、作ってもらえますか?」
「え?槇乃から?」
「そう。深里が槇乃さんのイメージでカクテルを作ってあげて。俺がまだお相手をしているから、そちらのお客さまの相手をしながら作ってあげて」
「あ、はい」
 
伊吹がそっと横に来て、あたしへのリクエストを口にしてくる。
しかも・・・・・相手は自分がするとのこと・・・・少し不安になりつつ漸く彼女たちに視線を向けてみれば、槇乃はどうやら気分良く酔っている様子・・・・・。
と言うか、まさかとは思うけれど、伊吹・・・その目の前にあるカクテル・・・・アース・クエイクじゃぁ、ないよね?
つぅか、槇乃が強いコトを知って・・・・強いカクテルばっかり・・・・・出してない・・・・でしょうね?
不安になりつつ、彼らに視線を持っていきながらも、あたしは槇乃のリクエストに応えるべく、シェーカーを取り出した。
今の槇乃のイメージ。
それを考えながらレシピを頭の中で浚っていく。
彼女らしいカクテルと言えば、何となくピンク・レディーやホワイト・レディーを連想するのだけど、少しだけ変わったものがいいかな?と思い直し、基本の入れるものはピンク・レディー同じであるクローバー・クラブを作ることにする。
ピンク・レディーは、レモンジュースを香りつけ程度にしか入れないのに対し、こちらのクローバー・クロスは量が多めに入っていてジューシーな感じ。
また、少しだけシロップも少なくなるので、あまり見苦しい甘さではないのがウリでもあるかも知れない。
要領良く、シェーカーにレシピ通りの材料を入れていき、しっかりとストーナーで蓋をすると材料たちを混ざり合わせるために振っていく。
コレには卵白が入っているため、しっかりと振らないといけないのだけど、それ以上に彼女には美味しいカクテルを口にしてもらいたくて丁寧且つ、気持ちを込めてシェーカーを振り回す。
と言っても、本気で振り回したら大変なコトになるんだけどね・・・当たり前か・・・。
よく冷えているカクテルグラスに中身を入れていけば出来上がり。
少し淡くなったピンク色の可愛いカクテル。
それが今の槇乃のイメージ。
そして、出来上がったカクテルを持ってそちらへ移動しようとした時、伊吹がそれに気付いてニッコリを悪魔的な微笑みを送ってきた。
まさか、ココでそんな笑みを受けるとは思わず、あたしは少しだけ狼狽えてしまう。
 
「お待たせいたしました。クローバー・クラブになります」
 
そう言ってカクテルを槇乃の前に差し出せば、彼女の顔がしっとりと酔っているコトを告げていた。
うわぁ・・・・伊吹・・・・どうして、こういうコト、するかな?
思わず伊吹を見遣れば、相変わらず妖艶な微笑みを湛えていて、涙が出そうになってきた。
その顔は、どう見ても愉しんでいるようにしか見えず、いや、間違いなく愉しんでいるのだろう。
嬉しそうにあたしへ微笑んでくる伊吹に、思わず背筋がゾォッとしたのは言うまでもないこと。
けれど、何も人の友達にそんなことをしなくてもいいじゃない!
そうは思いつつも、それを言えない自分が悲しいのだけど・・・・さすがに今の伊吹へ何か口にすることは、まず不可能とも言える。
何しろ、この人の場合、この愉しみを奪ったらその後のコトを考えるだけでも恐ろしい報復が待っているのだから・・・・・。
槇乃には悪いけれど、どう考えても彼女を救えるのはあたしではないだろう。
そして・・・・・その隣にいる響子もまた、かなり気を使ってくれているらしいことは判りきっていて、苦い顔をしてあたしを見ている響子に同じような顔をして見返せば、それは間違いなく苦笑にして返される。
あぁ、今日の餌食にされてしまった槇乃。
マジで、ごめん!
心の中でそう謝りつつ、あたしは自分を呼んでいるお客様の所に、仕方なく戻る事にした。
だって――見ているだけで、申し訳なくなってしまうんだもん・・・・・。
 
 
 
 
 
それから、どのくらいの時間が過ぎた頃だろうか?
伊吹はまだ槇乃を相手に、愉しくカクテルを作ったり話をしている。
あたしの方は、既にカウンターのお客さまも減ったこともあり、どうにか落ち着いて槇乃の相手を出来ると思っていたため、彼らの担当に戻ろうと思っていた。
でも、そんな中あたしは伊吹の手元を見ながら顔を引き攣らせ、彼らの様子を見守るしかなかったのだけど・・・・そこに一人の若い可愛らしい男の子が入り口から入ってきたのが見え、いつも通りの声をかけながら相手の行き先を見守る。
一応は『いらっしゃいませ』と声はかけたものの、どう見てもその格好は未成年者って感じなのに・・・・・なのに・・・・・どこか落ち着きのある風貌がとても目を惹く。
歩いてくるその姿が妙に、この雰囲気に馴染んでいるようにも思える。
店内の女性客はもちろんのコト、男性の店員までもが目を見張っているのが判る。
視線を動かす仕種にも、妙な色気すら感じつつ、その視線を受けた女性客が自分の連れすらも忘れる勢いで彼のコトを見つめているのに、その男の子はそんな女性たちにも目をくれず誰かを探しているようだ。
けれど、カウンターの中にいたあたしと美晴さんは、次の瞬間、違うコトで目を見開くことになってしまった。
何しろ、この男の子は槇乃の方へと進んできたのだけど、その目は完全に伊吹を威嚇しているのだ。
しかも、その目はしっかりと伊吹を見据えていて、どう考えても伊吹に負けていない・・・・・・。
思わず美晴さんに視線を持っていけば、同じように思ったのだろう彼もあたしへと視線を寄越して、苦い顔付きをしてくる。
もちろん、あたしはってぇと、顔が引き攣って固まっていただろう。
それでもあたしは慌てて彼らの方へと近付いていき、伊吹の方へと視線をやれば、彼は何だか凄く愉しそうに微笑んでいる・・・・。
そして・・・・その子が行き着いた場所は、槇乃のお隣。
それに気付いた槇乃が、何となく居心地の悪そうな、それでも少しは嬉しそうな顔で彼のことを見上げていた。
あたしは慌てるように彼らの前へと移動して、伊吹の隣に立ち、2人でしっかり店員らしく『いらっしゃいませ』と声をかけると、彼はニコリと可愛らしくも人懐こい笑顔を見せてくれた。
うわぁ・・・・可愛いんですけれど・・・・・マジで。
 
「槇乃さん」
 
そう言って近付いてきた男の子は、槇乃の横に立つと思い切りカウンターの中にいた目の前にいた伊吹を一瞥し、そしてあたしにはニコリと優しげな笑顔を向けて彼女の隣に座る。
それはとても優雅にこなしているように見えるのだけど、どう考えてもこの子・・・・年下だよね?
 
「あ、まーくん」
「かなり・・・・飲んでる?」
「って言うか・・・・槇乃って・・・・弟さん、居たっけ?」
「えっと、その…弟じゃなくて…」
「槇乃さん、ちゃんと言って?」
 
そう言って可愛らしい、まるで仔犬を連想させるような顔付きで、しかも上目遣いまでし、槇乃に言う男の子。
なんとも・・・本当に可愛い!とさえ思わずにはいられないその子に、あたしはつい見惚れてしまっていた。
 
「か、カレシなの…」
 
槇乃が真っ赤になって、そう応えると、それに満足そうな顔をする槇乃の彼氏クン。
2人の顔を見比べて思わず押し黙ってしまったのは、槇乃の相手がこんな若いとは思わなかったからではなく、何よりもその彼の印象があまりにも伊吹に類似していたから・・・・・。
どうやら槇乃は、自分で彼を紹介したことがないらしく、苦い顔をしつつもその実、凄く可愛らしい女の子の顔をしていて、あたしはそれにすらビックリしてしまっていた。
 
「どうも、はじめまして。槇乃がお世話になってます」
 
そう言いながら自己紹介してきた彼は、一見とても人懐こそうな笑顔を向けてきて、けれどその腕にはしっかりと槇乃を抱きこんでいる。
その姿は、どう見ても・・・・・伊吹と重なってしまうのは、あたしの気のせいなのだろうか?
いや・・・絶対に、気のせいなんかじゃないよね・・・・この笑顔は・・・・。
 
伊吹がそんな2人を見てニヤリと悪魔的な笑顔を見せると、彼もまたニッと口元を歪ませ、けれど目が笑ってない。
凄い・・・・伊吹に負けてないよ、この子・・・・・。
思わず、そう思いつつ、伊吹に視線を持っていけば、彼も余裕綽々とした顔付きでニンマリと笑って対応していた。
 
どうしても目線を逸らしてしまいたくなる図が、今、目の前にあったりするものだから、あたしは慌ててしまっていた。
ついでに、あまりにも酔っている槇乃に視線を持っていき、どうやら伊吹たちに散々飲まされたことが判ってしまったようだ。
それはそうだろう・・・・コレだけ乱れているのだし・・・・。
もちろん、槇乃の隣に座っていた響子は、しっかり美晴さんの担当するカウンターへと退避していく。
こらこら、待ってよ、響子!と声には出さないまま、目線で追えば、彼女は小さく手をゴメンのカタチにして、とっとと逃げ出してくれた。
嗚呼、あたし・・・・今のこの状況に対処できる自信ないんですけれど・・・・・・・。
 
そして、この伊吹と槇乃の彼の視線は、堪らないくらいに絡み合ってはいるものの、それはマンガにしたら互いにビームを出しているような・・・火花が散っているような・・・そんな状態。
そこに槇乃は知らん顔、というか、気持ちよさそうに酔っているのだろう、彼に寄り添うように座っていて、まるでこの状況を把握していないらしい。
でもって・・・・伊吹、あなたも・・・・いい加減にしてあげてください。
相手は自分たちよりも年下なんだし、ましてやお客さまなんだから・・・・・・・・・。
 
「そうですか。槇乃さんの恋人ですか。じゃ、俺たちも自己紹介をした方がいいかな?」
「・・・・え?・・・い、伊吹?」
「ん?じゃ、俺からした方がいいのかな?」
「え?」
「あ、この子ね、私の高校生時代の友達で、深里っていうのよ。でもって、こっちのマスターさんが、深里の彼氏なんだってぇ」
 
と甘えるような口調で言う槇乃。
それを見据えている彼は、一瞬だけ瞳を揺らしてからあたしの方へと視線を持ってきた。
 
「あ、初めまして。浅見深里(あさみ みさと)です」
「俺は、この深里の恋人でもって、次期婚約者の綾瀬伊吹です(なかなか、いい目をしてるな、コイツは・・・・)」
「あ、そうだったんですか。改めて、初めまして。槇乃がお世話になりました」
「いいえ。お相手をしていたのは、この深里と、その友達の響子ちゃんだけだから安心していいですよ(コイツ・・・まぁ、俺ほどじゃないけど、かなりヤるね)」
「そうですか。ありがとうございました」
 
そう言って、あたしにお礼がてら頭を下げてくる彼は、本当に礼儀正しくていい子だと思えた。
槇乃の・・・お相手は、どうやら、この可愛らしい、男の子のようで・・・・・見た目はとても可愛らしくて天使のようなんだけど・・・どう見ても、伊吹と同等のモノを感じるのは、間違いなさそうだ。
だって・・・この伊吹に睨みをきかせただけでなく、今ではニコリと笑ってはいるものの、とぉっても凄いオーラを感じるんだもん。
それも・・・伊吹の・・・黒いような、でも少し違うような・・・・そんな感じのモノ。
うわぁ・・・・と思わず声を出してしまいたくなるような気分を押し留め、あたしは取り敢えずいつもの営業用の顔を取り繕っていた。
 
「あ、見て見て!これね、あたしのイメージって深里が作ってくれたのぉ」
「へぇ。そうなんだ?」
「槇乃さんのイメージ・・・・クローバー・クラブ、だったよね?」
「そう。クローバー・クラブ。綺麗だし、今の槇乃のイメージに合うかな?って思って」
「じゃ、俺は、こちらのお連れさんの分を作ってあげようかな?」
「あ、それいい!まーくんのイメージのカクテル作ってください」
「ま、槇乃?」
「いいの?槇乃さん」
「うん、いいよ。今日だけね」
「では、少しお待ちください」
 
そう言っていつものように一礼をした伊吹は、あたしの隣に立つと嬉しそうな笑顔を(それも、あの悪魔的な笑顔だよ・・・)湛えて、カクテルを作り出す。
材料を見ていると、あまりなモノにあたしは思わず慌てて伊吹のコトを凝視してしまっていた。
ちょ、ちょっと・・・・伊吹・・・・何を考えているんですか!? この子、どう見ても未成年だってばっ!
そんなことを思っては居ても、まさか顔に出したり声に出したりも出来ず、ただ伊吹の作っているカクテルだけを凝視し、事の成り行きを窺うしか出来なかった。
ていうか、この場で何かを出来る人が居たら、どうか連れて来て下さい・・・・お願いします、と心の中だけで一人ごちる。
 
「お待たせしました。カールソーでございます」
「どうも」
 
にっこりと微笑んで伊吹からカクテルを受け取る彼。
まるで挑戦を受けているようにも思え、また伊吹もそれに対してにっこりと応酬している。
悪魔な伊吹と・・・微妙な小悪魔風味(見た目は仔犬なんだけど・・・・)の彼。
なんと言って説明したらいいのか・・・・樹君とも、横澤課長とも全然違うのに、どこか伊吹の感じさせる槇乃の彼氏君は、伊吹の悪魔的な微笑みすらモノともしていない。
 
「あ、将志君、だっけ?」
「あ、はい」
「どう?平気かな?」
「え?あぁ、大丈夫ですよ。そうですね、彼女よりは強いですから。でないとこの人危なくなる人なんで・・・・・フゥ。まあ、そこにつけ込んだのが俺なんですけどね・・・・フフッ」
「ふ〜ん」
「でないと、この年齢差は縮められませんでしたから・・・・」
「そう。でも、年齢差なんて関係なく、君は付き合えるでしょう?」
 
にこやかに微笑む槇乃の彼氏は、歳相応なのか良く判らないけれど、とても可愛らしくは見えるものの、態度では大人顔負けのしっかりとした物腰を感じる。
隣にいる槇乃の方が、今は完全に子供のように甘えていたりするから可愛らしい。
けれど、それを煽るように言う伊吹は、もうこの状況を愉しんでいるとしか思えない・・・。
あぁ、マジで勘弁してもらいたいんだけど・・・・。
 
「まーくぅん、あたし、少し酔ったみたぁい」
「はいはい。判ってるから、これ以上は飲まないで?」
「でもぉ、伊吹さんや深里が作ってくれたカクテル、すっごく美味しいのよぉ?いくらでも飲めちゃうんだぁ〜」
「もうこれ以上はダメ、後は俺が飲むから、ね?」
 
そう言って、彼は槇乃に作ってあげたカクテルまで口に運ぶ。
けれど、どうやら彼の趣向には合わなかったらしく、ニッと笑った顔が少しだけ歪んでいた。
槇乃は?と言えば、彼に寄りかかるように座り始め、すっかり甘えたモード全開。
そりゃ、お客だし、2人はカップルなんだし、別に悪いとは言わないけどね・・・うん、言わないけどさ・・・。
 
「槇乃、大丈夫?」
「う〜ん、全然大丈夫。深里は?」
「って・・・・あたしは仕事中だもん。飲んでないから全然平気だよ」
「え、でも、時々味見してるじゃない」
「それはお客に出せるものかどうか確認するためにしてるだけ。だから、口に入れた量なんてたかが知れてるの」
「そうなんだぁ」
 
あたしは槇乃の様子を見ながらも、そう返せば伊吹がこちらに視線を寄越す。
その目は・・・・間違いなく妖艶なそれで・・・・・はぁ・・・完全に感化されてるし・・・・この2人に・・・・。
そう、先ほどからこの2人ときたら、時々あたし達のコトすら忘れて二人の世界へと旅立っていくのだ。
それは、傍目で見ていても艶めかしくて、思わず槇乃に水をぶっ掛けてしまいたくなる程。
槇乃は槇乃で彼にベッタリと寄りかかり、彼は彼で槇乃の体を引き寄せて抱きながらカクテルを余裕で口にしている。
そんなトコは、伊吹の性格に負けてないような気がするのは・・・・きっと気のせいではないだろう、槇乃の彼氏。
はぁ〜〜〜。
と盛大に溜め息をついた瞬間、槇乃の彼氏である将志君と目があった。
可愛い感じのする顔付きは、すっかり自分の彼女を守る男のそれで、とても感心してしまう。
いい子、見つけたんだね、槇乃。
心の中でそう言いながら槇乃を見つめれば、どうやら彼女は彼しか見えていない様子。
そこまで自分の世界に入れる槇乃に感心してしまう程だ。
彼の足の方へ槇乃が腕を伸ばしているのが見え、何をしてるのだろうか?とすら思うのだけど、それをみる勇気もない。
やけに直接的な動きに見えないでもない動き・・・・隣で伊吹はニヤリと口元を上げていて、どうやら彼の目線からはしっかりと見えているようだ。
だけど・・・・あの・・・・・伊吹? そこで、どうして、その悪魔的なまでの笑顔になるのか・・・・教えてください。
 
「ま、槇乃、さんっ、あっ…」
 
べったりとくっつきあっていた二人だったが、不意に彼が身体を起こして槇乃から離れようとしているのが見えた。
今まで平然としていた彼の顔がほんのり紅く染まっているように見えるのは、たぶん見間違いなんかじゃない筈。
つぅか、お二人さん? な、何もココで、そんなことをし始めなくても良いか?と思われるのですけれど・・・・。
てかね・・・・伊吹が・・・やけに嬉しそうなんですよね、マジで・・・・勘弁してもらえませんでしょうか?
と、心の中だけで呟く。
だって、見ていることも出来ないんだもん。
 
「まさしぃ…」
 
でも、それなのに、槇乃ときたらこちらの様子になんて気付こうともしない。
しっかりと彼にしな垂れかかり、槇乃の手をすっごく嬉しそうに受け入れて伊吹とは違った妖艶さを醸し出す顔で笑っていた。
あぁ〜〜〜・・・・お願い・・・・どうにかして!?
 
「将志くん、彼女、お手洗いにでも連れて行った方がいいんじゃないかな?」
「え?」
「大丈夫、うちのトイレは広いから、キミが一緒に入って介抱出来るぐらいのスペースはたっぷりあるから。」
 
おい、こらっ!! 伊吹ぃぃぃっ!
心の中で叫びつつ、思わず顔を凝視していると、伊吹はにこりと悪魔的な顔で笑いを浮かべ、槇乃の彼氏をしっかりと煽っている様子。
あのね、お願いです・・・・その後のコトも考えようよ・・・。
そうは思っても、彼のその後の行動は早かった。
槇乃の彼氏はニヤリと口元を上げて、それこそ伊吹さながらの笑顔を作り、スッと立ち上がると槇乃の腰に手を当てて伊吹へと声をかけた。
 
「じゃあ、お言葉に甘えて、ちょっと失礼します。」
「あん、まぁーくん?」
「槇乃さん、立てる?歩けないなら抱いていくけど…飲み過ぎるあなたが悪いんだからね?」
「やぁん、まーくん…」
 
槇乃は今まで同様、甘く蕩けるような眼差しを送り続けていたが、彼の言葉に振り向いて甘い声を上げていた。
けれど、そんなことにも頓着せず、槇乃の彼は彼女を抱きかかえるようにして連れ去っていってしまった・・・・・・・。
つぅか、あのぉ・・・・いいんでしょうかね?これで・・・。
と、言うかね。
槇乃・・・あんたが、こんなにも年下の子に依存するなんて、と言うか、男の子に対してそんな態度を取ってるなんて信じられないモノを見たような気がするのだけどね、あたしは・・・。
高校時代に付き合ってきた男の子達のコトも知っていたけれど、槇乃がココまで人に甘えたり自分を見せたりするような子はいなかったはず。
だからこそ、余計に槇乃とこの彼の絆の強さみたいなのは感じたのだけど・・・・それ以上に・・・この槇乃が何もかも安心しきっているような顔をするのを目の当たりにして、そのこと事態に驚きを隠せない。
学生の時には、姉御のような性格で人を引っ張っていくタイプ、そして人の相談を受ければ、親身になって聞いてくれるような、そんな存在だったのに・・・・・。
いつの間に、こんなに自分を出せる相手に出会ったんだろう。
と、いうか・・・・良かったね、槇乃。
 
「仲、良さそうだね、あの2人は」
「あ、う、うん。そうだね」
「いいねぇ、若いって」
「・・・・・・・・・・・・・」
 
思わず伊吹の言葉に絶句してしまったあたしを、いったい誰が助けてくれるのか・・・・いや、今現在、響子すらもこの場を離れてしまったため、誰も居ないように思う。
それにしても・・・・あの槇乃の彼といい、この伊吹といい・・・・マジで一筋縄にも二筋縄にもいかなさそうな2人。
それに気付いても居ないだろう、あの槇乃・・・・。
イイ性格なのか、それとも天然なのか・・・・伊吹の性格に慣らされてきた自分がいうのも何だけど・・・災難だよね・・・・あたしってば。
 
 
 
 
 
結構な時間、槇乃たちは戻ってこなかった。
店の方は、既にラストオーダーも終わり、店を閉める作業に取り掛かっていた。
中でどうなっていたのか、それは判らなかったけれど、このお店にはトイレが3つあって、どれも個室になっている。
それも伊吹の拘りのヒトツらしいのだけど、そんなコトよりも・・・・槇乃たちのことだ・・・・。
出てきた槇乃は、すっかりダウンの様子で、ある意味では艶やかに見えないでもないそんな様子なのに、一方の彼はスッキリとした顔付きで槇乃を抱えるようにして出てきた。
 
「ま、槇乃?大丈夫!?」
「あ、すみません。俺たち、そろそろ帰ります」
「え?あ、そ、そうだね。大丈夫?」
「はい、大丈夫です。出来たら車を呼んで貰ってもいいですか?」
「え?あ、あのね、そろそろお店も終わりだし、それならあたし達が送ろうか?」
「いえ、それではご迷惑が・・・・」
「では、うちの店員に送らせますよ。美晴、いいかな?」
「あ、構いませんよ、こっちは。既に響子もダウンしてますし」
「では、彼らに送ってもらいます。いいですか?」
「でも、本当にいいんですか?」
「ええ、構いませんよ。彼らなら安心して任せられます」
「判りました。それじゃ、よろしくお願いします」
「槇乃・・・大丈夫?」
「う〜ん、大丈夫ぅ〜〜〜」
 
こんなやり取りのあった後、あたし達は店を締める作業を続け、彼らは響子と一緒にテーブル席へと移動させた。
 
「槇乃・・・大丈夫かな?」
「何が?」
「かなり酔ってるみたいだし」
「そうだねぇ。どうやら、余計に酔っちゃうようなコトがあったみたいだねぇ」
「え?」
「くすっ。深里は判らなくてもいいの」
「は?」
 
伊吹はそう言うと、いつも以上の妖艶でまさしく悪魔に匹敵するだろう笑みを顔一杯に貼り付け、そして2人を見てたからあたしのコトを見つめてくる。
もう、いい加減あたしも慣れればいいのだけど、どんなにこの人との付き合いが長くなっても、これだけは耐えられません!
あぁ、勘弁して下さい。
躰が勝手に硬直していく中、伊吹は嬉しそうに微笑んでいた・・・・・。
 
 
 
 
 
 
帰り際、槇乃の彼は礼儀正しく挨拶をしてきてくれて、槇乃をしっかり抱き締めた状態のまま、伊吹に威嚇も忘れずに帰って行った。
響子もいつも通り、美晴さんに抱きかかえられて―――――――。
 
 
「はぁ・・・・疲れた・・・・」
「素敵なカップルだったね、あの2人」
「え?あぁ、うん、そうだね!」
「また、来てくれるように伝えておいて」
「うん。言っておくね!」
 
そう言いながら、あたし達は店の下にある住居スペースへと戻っていった。
今日は・・・・何となく・・・・嫌な雰囲気がありつつも、伊吹は始終、笑顔を崩すことは無かった。
そう、あの悪魔的で妖艶な笑顔を――――――。
 
 
 
 
 

FIN(?)
Writer = kei&輪樹

 

 

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