マスター編・5
 
 
なんで裸なんだ?風呂洗ってた言うのは聞けば判るけれども…
 
富美香を送って帰ってくると、ずぶ濡れの靴が玄関にあった。
ここは交通の便のあまりよくない住宅街だ。どうやって帰ってきたのか知らないが、あの距離を電車で乗り継ぎ、雨の中傘も持たずに濡れながら帰ってきたんだと思うと、ちょっと悪い気がした。送っていったのは俺だし、置いてきたのも俺だ。
おまけにコイツが雨に濡れてる間、俺は女としこたまヤッてたってわけだ。
別に気を使うような相手じゃない。メイドだし、同級生だからといって、態度を変えるわけにはいかなかった。
 
俺が帰ってきても、出迎えにも来ないので取りあえず先にシャワーでも浴びようとバスルームに向かう途中、バスタオル一枚の野良と鉢合わせて、思いっきり悲鳴を上げられたので、思わず口を押さえた。
生娘みたいに脅えるな!そんな貧弱な身体に欲情すると思うのか?この俺が。
どうやら帰って来て欲しくなかったようで不機嫌そうな目で俺を見る。
バスタオル姿で凄まれても怖くも何ともない。自分に不利だって事がまるでわかってないようだった。相変わらず女としては無防備なヤツだ。貧弱でも一応凹凸があることは数年前に確認済みなのだから、今さら驚きもしないが、至近距離の野良の身体からは、風呂上がりのせいか、他の女のようにキツい香料がしてこないことが新鮮だった。大抵の女は風呂上がりでも甘ったるい香水やボディーローションつけまくってるからな。
真っ赤な顔で、無防備な姿なのを忘れて逆らってくる彼女をからかってやろうと思っていた。そんな俺に、野良は見事に噛みついてきやがった。
コイツは気がついていたんだ、俺と富美香の関係を。
「気をつけてくださいませね、あんなんじゃすぐバレますよ。」
腰に手を回したのを見て気がついたらしい。メイドらしく最後まで見送ってたって訳だ。だけど知られたところで別に痛くも痒くもない。俺の女性関係が派手なのは周知のことだし、伯父貴もいい勝負だ。妻の不貞の一つや二つ目くじら立てるほど執着してるようにも見えないしな。あちこちに若い女や愛人が居るだろう?だから出張も急な用事も多いんだ。今日の会社からの急な連絡だって怪しいもんだ。だが俺に説教してくるとは、いい根性してるじゃないか?言ってることは一応尤もらしいが、本当に分かってるのかどうか…こんな子供みたいな身体で。
まあ、野良なりに世間に揉まれて成長したって事か?もうガキじゃないんだし、結婚して子供だって出来るようなことしてるんだからな。それよりも腹が減った。何も食べてこなかったのは失敗だったが、帰ってくることを優先したのだからしょうがない。まあ、コイツはこれでもメイドなんだから飯でも作れと命じれば作るだろうと思っていたら、やっぱりコイツは野良だった。
「あら、そちらの食事はされなかったんですか?信じられない…でも、この時間からですと、たいしたものはご用意出来ませんけど、よろしいですか?ほんとに、こんなに早く帰って来られると思ってませんでしたから。」
こんな憎まれ口を叩いてくる。生意気な、そんな口の利き方どこで覚えたんだ?だからそんな恰好で何してたんだと聞き返してやったらようやく自分の恰好に気がついたらしく、慌てふためきはじめた。
いろいろ言い訳した後、お湯張って俺に入るかと聞いてきたので、一緒に入る気かとからかうとその場から逃げ出そうとしやがる。思わず手を伸ばして俺は野良を捕まえた。
「セ、セクハラですか?」
裸で目の前にいてそんな言い掛かりが通用するのか?
「裸で誘っておいて?」
「さっき済ませたとこでしょう?パスしてください。もう、旦那様に言いますよ?」
その言葉に思わずムカッとした。
親父に言うだと?
メイドの分際で告げ口か?俺は笑い顔を凍らせ、声を低くした。
「…おまえな、そのこと、親父に言ってみろ、承知しないぞ?この家から追い出してやる。」
「い、言いませんとも!その代わりに、簡単にクビにしないで下さいね?手も出さないでください!でないと、言います!」
なんだクビが怖いのか、それならと手の力を緩めてやるととんでもないことを口にした。
俺が伯父貴に似てるだって?
そりゃそうさ、親子かもしれないんだからな!だけど、コイツに指摘されたことが気にくわなかった。久しぶりに会った元同級生に、その場で居合わしただけの伯父との血縁を見透かされているようで怖くなったんだ。
俺は、壁を叩き、脅しながら無理矢理、野良の唇を塞いでいた。
その感触に昔を思い出した。
あの当時、男を知らなかったコイツは慌てふためいてパニックに落ちたんだっけ?もう男を知って変わってしまったコイツがどんな反応起こすかが楽しみだった。
柔らかい、まるで子供みたいに何もつけていない唇。
久々に新鮮だった…小さくて、飲み込んでしまえるほど儚い唇は震えている割に熱かった。舌を滑り込ませても、どこもかしこも熱くって、柔らかくって、甘かった…
煙草の香りも、人工的なミントの香りもしないキスに夢中になり溺れかけた時、くてっと、腕の中の身体が脱力して、バスタオルを落とし、その白い身体を晒した後、意識を落としやがった。
 
なんだ?元人妻だろうが?キスぐらいで堕ちるか?
大学で聞いた、コイツが結婚したという噂。当時は全然ピンと来なかった。
野良猫みたいに俺に毛を逆立てて向かってきてた、あの幼い顔立ちがやけに印象的で、まるでお子様だったコイツが結婚して子供まで産まれるという話は、はっきり言って非現実的でもあった。
今、目の前にしてるこの身体は何だ?
人妻?いや、まるで子供?
男に開かれた様には見えない幼い身体。それでも昔よりは丸みを帯びた方なんだろう。胸は前より膨らみはあるし綺麗な形をしていた。
「おい、野良?」
熱いと思ってたのは発熱していたからで、くたりと力も入らぬ様子に舌打ちする。
布団はまだ出してないし、親父達の寝室に連れて行くわけにもいかない。客間も用意してない。
しかたなく、自分の部屋に連れて行き、Tシャツとハーフパンツを履かせてベッドに寝かせた。
「ん…寒いよぉ」
布団を被せてやってもまだ震えている。
俺は暑いのに…
しかたなく俺はシャツを脱ぎ、同じ布団を被り彼女の身体を抱き寄せた。身体はとんでもなく熱いのに震えが止まらないようだ。
「まるで野良猫抱いてるみたいだな。」
散々やった後だから、変な気が起きるわけでもなく、子猫を抱いているような気分で、なんとなく気が凪いだ。
「ん…にゃ」
寝言まで猫みたいで、俺は久しぶりに笑いながら眠りについた。
 
ほんと、久しぶりだった…誰かを腕に抱いて眠ったのは
 
 
 
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<注意>こちらはハウスメイド・メイド編の試し読み版です。
8話まで読めますがそれ以降は電脳アルファポリスで有料になることをご了承下さい。
久石ケイ