2014クリスマス企画

去年のクリスマス〜2014

2  パーティ当日

2014年12月20日〜


〜楓〜

「Merry Christmas! 皆様、どうぞ楽しんでください」
 今年も我が家のゲストルームでクリスマスパーティが開かれていた。
「楓、挨拶に回るぞ」
「はい、あなた」
 麻莉亜は秘書の富野が見てくれているので、夫婦ふたり揃って関係者の間を挨拶に回る。
 このパーティをはじめてしまったせいで本宮家でのクリスマス・ホームパーティはなくなってしまった。だけど普段から皆で集まっているからそう不自由もないし、このパーティにはお世話になってる分のお返しの意味も込められていた。取引先や我が社の重役、その年活躍してくれた社員を呼んで行われるパーティの準備は、わたしと秘書組で行われる。イベント会社を使えば簡単なのだけれど、それは最低限に抑えることにしていた。どこのパーティとも同じモノにしたくはなかったし、そのほうが皆に楽しんでもらえる。これがお仕着せの営業用のパーティでないことは、招待された人にしかわからない。今年一年の労をねぎらい、また来年への期待を込めて、出来る限りのもてなしをする。その心意気は本宮や奥さんの朱音さんに教わったようなものだ。あのパーティに招待されたのがきっかけでわたしたち夫婦は結ばれて今のふたりがあるのだから。
 感謝の意味もアニバーサリー的な意味も込められていた。なにせ、羽山夫妻を除けば他の3組はみなクリスマスが結婚記念日なのだから。
「今日も綺麗だな、楓。今すぐどこかに引きずり込んでやりたいよ」
 わたしの腰を抱いた夫に耳元で艶っぽく囁かれ、思わず期待で身体が熱くなってしまう。
 それはこちらも同じ。この一週間ずっとお預け状態。特に昨晩と今朝は、今夜のためと言って焦らすだけ焦らされた。
 明日からの連休にあわせて、仕事を前倒ししていた社長である夫亮輔は、週の前半から出張に次ぐ出張で、残っていた仕事を全部片付けるのに相当時間がかかったらしく、毎夜遅くに帰宅していた。おそらく羽山や本宮も同じだと思う。
 半分眠っていたわたしは、お風呂あがりにバスローブを着たままの彼に体中を弄られ、甘い刺激を受けたまま鳴かされ続けいたのだ。
『いやぁ……どうして、なんで最後までシテくれないの』
 出張に行く1週間前は生理で、繋がったのは2週間前だろうか? こんなに間があくことなんて、これまでなかったのに……いつもなら出張帰りには朝でも構わずおもいっきりされていたはずだった。そのうえ焦らされてしまえばおかしくもなる。
 もっともわたしも通常の仕事とこのパーティの準備と並行で行うため、いつも以上の疲れを溜め込んでいた。夜は帰宅して麻莉亜を寝かせる頃には一緒に眠ってしまうほどだった。だからこそ、朝の営みでも全然構わなかったのに……目覚めるまどろみの中でも愛撫されて、彼の硬く逞しく勃起したソレを擦り付けられて、欲しくて泣きそうになると離れていってしまった。
『亮輔さん、お願い』
『そりゃオレだって最後までやりたい。楓のナカをオレのでおもいっきりかき回して突き上げて、むちゃくちゃにしてしまいたいさ』
『だったら……』
『だめだ、今やっても入れて出すだけで終わってしまう。時間もない。今日の夜には時間が出来るんだ。たっぷりかわいがってやるからおまえも我慢しろ。こっちの方が相当我慢してるんだからな』
『嘘……あなたが1週間以上我慢できるなんて、ありえないわ!』
『おいおい、おまえの生理中はそのぐらい我慢してるだろ?』
『わたしにさせるくせに……』
『それはだな、おまえが触ってくるからだろう?』
 まるでわたしのせいみたいに言うけれど、朝からさわさわとわたしの身体に触れて下半身を固くしてるのはあなたじゃない。
 でも、そんな彼がようやくセックスできるのにしてこないなんて……頼むから入れさせてくれと言って寝ぼけたままのわたしを犯すようにして抱くくせに、今朝はそれもなかった。
――――まさか、浮気? 他の誰かで解消してるとか……
 疑い出すときりがない。忙しいからそんな暇はないとは思うし、同じ会社にいるのだから、こそこそやっててもわかるはずだ。それに富野がいるから、なにかおかしな行動を取っていればすぐに忠言しに来るのだから。
『いやぁ、社長ってモテますね。接待で銀座のクラブに行ったら、ナンバーワンの子がもうベッタリでしたよ』
 悪気はないのよ、富野はね。わたしがむっとした顔をするとすかさずその後の話をちゃんとしてくれる。
『名刺も貰ってたのに、帰り際に全部オレに渡してきますからね。いざというときのためにファイルしてますが。すごいですよ、これ。見ます?』
 そう言って見せてくれたのは個人用の携帯まで手書きで書かれた名刺の数々……これが飲み屋系で、あとはビジネス系もあるらしい。最近はそういうものも全部富野が管理しているらしい。
『こうやっておけば、いざというとき助かるんですよ』
 そういえばこの男、やたらと人付き合いが良くて色んな知り合いがいるのよね。ただお調子者だからそれなりにだけど。
 最近は飲み屋に行ってる話も聞かないし、それどころじゃないのはわかってるつもりだ。それにあの反応の良さを見ると、本当に我慢しているのかもしれない。平気そうな顔をしていてもここ数日はギラギラしている感じが……まるで新婚当初というか結婚前みたい。
『いくらヤッてもヤリ足りない』
そう、よく言ってたあの頃。
 元々精力有り余ってる夫だけど、さすがに結婚3年目になるとそうでも無くなったかなと思うこともある。仕事が忙しいのもあるけど、集中してるからそれなりに我慢が効いてるのかしら?
「しかし……そのドレスどうにかならないのか? 胸も空き過ぎだしスリットだって……」
 いつもなら『すげえいいね、それ。そそられる』そう言って飛びついてくるのに、見せた途端舌打ちされた。
「今襲ったら、めちゃくちゃなことしそうだ」
 そう言って目をそらすんだもの。期待した分、すこし寂しかった。だけどこうしてエスコートされるのに身体を寄せあっていると、だんだん熱くなって来る。それは彼も同じみたいで、少しだけ下半身が辛そうだった。
「まさか……下着つけてないとか、言わないよな?」
 ヒップラインを何度も撫でて確信したようだった。
「そうよ……ドレスの下には何も付けてないの。だから少しでもさわったりしたら大変なことになるわよ」
 アカデミー女優のように薄い布のドレープで作られたドレス。背中も大きく開いて素肌を晒しているため下着なんて付けられない。ニプレス代わりのヌーブラと薄いストッキングのような下着だけだった。まさか何も付けずになんてわたしが耐えられなかった。わたしのほうが彼をどこかに引きずり込んでしまいそうなんだもの。
「そんな潤んだ目でオレを見るな……ブチ切れそうだよ、何もかも」
 熱い吐息が首筋に吹きかけられる。まるで出会った頃の獰猛な野獣みたい……そしてそれを望んでいるのもわたし。最初の頃のわたしでは負荷が大きすぎたけれど、いまなら十分受け止められるはずだった。
 女が一番性欲が強くなるのは30過ぎてからとか言われている。通説だろうけど、確かにわたしも20代の頃より男がほしいと思ったのは30過ぎてからのように思う。さすがに40前になると相手してくれる若い男も少なくなって、同年代の男性も既婚者がほとんどの望みすら抱かなくなったけど、身体は多分求めていた。
 知っていたから……女の喜びっていうものを。身体だけでも愛される喜び、ぬくもり、そして快感。だけど、今まで経験してきたそれらは全部本物じゃなかった。夫亮輔に出会って抱かれて、初めて知らされた。
自分のものになる存在、そしてその人のオンリーワンになる喜び。出会って今まで心も身体も全部満足させられてきた。もちろん、夫の性格上の不満や想いのすれ違いは多々ある。お互いに忙しすぎるのもネックだ。もっと思う存分愛し合いたいなんて思ってるのだから、わたしの性欲もかなり強くなっていると恥ずかしくなるけれど、彼がそれ以上の欲望をぶつけてくるのでうまくいってるのだろう。
 これって、もしかして女としてあと何年って期限が見えるから? と思うこともあるけれど『あと20年はたっぷり抱きたい』なんて言われると嬉しくなってしまう。会いが20代でなかったことを惜しんでる彼だから、その点は安心していいのかもしれない。
 だからこそ、たった1〜2週間の我慢がふたりには拷問のようだった。夫婦だから我慢しなくてもいいのに、もう一度あの激しい快感を取り戻すための儀式のようなものだった。
「だめよ、終わるまでまって」
 わたしも期待に声が上ずり掠れそうになる。彼の触れる指先が腰のあたりを何度もさまよっておかしくなりそうだったから。
「このあと、覚悟しろよ。一週間以上溜まりに溜まってるんだからな」
 その言葉に身体の奥まで濡れてしまいそうだった。今晩、このあと……あと数時間、パーティが終わるのが待ち遠しいなんて。そのあと誰と何を話したか、はっきりとした記憶はあまりなかった。


〜勝〜

「それじゃあ、ちょっと席を外すけど大丈夫かな?」
「はい、大丈夫です」
 社長の姪っ子の麻衣ちゃんは大学でも保育士になるための勉強中で、よろこんで子どもたちを見てくれていた。うちの美奈と愛音ちゃん、それから社長のトコの麻莉亜ちゃんたち女の子グループだ。麻莉亜ちゃんがもらったクリスマスプレゼントの着せ替え人形やおままごとセットなんかを面白そうに広げて三人で一緒に楽しんでいる。
 男の子グループは大地くんと源太くんがゲームで対戦してて、それを見てる聖貴くんとうちの亜貴が興奮しているみたいだ。時々、麻衣ちゃんと大地くんが目を合わせたり隣りに座ったりしていい雰囲気だ。ふたり付き合ってるって聞いてるけど、なんか青春してるよな。もうヤッたのか? なんて、おじさんついつい下世話になっちゃうよ。麻衣ちゃんっていまどきの子にしてはすごく清楚で可憐でお嬢様って感じだからさ。大地くんはそれなりに女の子慣れしてる感じがするけど。なんといっても羽山さんの息子だからなぁ……本宮さんといい、あのふたりはデキる男&モテる男だからさ。
 子どもたちの心配がないぶん、本宮さんも朱音の腰を抱き寄せてべったりだな。朱音もまんざらじゃないみたいで照れながらも嬉しそうだ。羽山さんとこは相変わらず別で話し込んでたりする。
 社長のとこは……あれ? おかしいな……楓さんの様子。
 普段、ヘタしたら妻よりも一緒にいることが増えた社長夫人の様子が気にかかる。
 顔は赤いし、目がちょっと涙目というか潤んでるというか……風邪でも引いたのかな? ってそれは困る! いまんとこ麻莉亜ちゃんが一番懐いてるのはオレだから。たまに預けるシッターさんよりも、毎日いっしょにいて遊んであげてるオレのほうが安心なはずだから。
もし、楓さんが風邪とか引いたら、たとえクリスマス前でも
『富野、麻莉亜のことお願い』
とか言われるにきまってる! 普段ならいいんだよ、普段なら。だけどパーティのあと1日仕事したら、あとはネズミーに行くんだぞ? 社長のトコも行くけど、たぶんアトラクション組とショー組に別れるはずだ。もちろんオレと美奈はアトラクション組だ。たぶん聖貴くんもこっちだろう。今からどのコース回るか楽しみにしてるんだから! 今回は社長も一緒で、チケット手配するときにツアーの申し込みもしてるから、回りたいところは全部回れるはずだった。今から体調整えて楽しみにしてるのに……うちもだけど楓さんや社長が来なきゃ意味がない。なにせパトロンだからね。
 だけど、ニヤニヤした社長の顔を見てたらすぐにわかった。
「あのふたり、また何かやってるんじゃ……」
 思い当たることしばしば。社長が精力的なのは見ててわかるけど、楓さんまでもがあんなにエロかったなんて……側に仕えてなきゃわからなかったかもしれない。
まあ、夫婦の営みなんてものはあって当たり前で、ないとそれはそれで大変だ。なんていうのは以前にうちが夫婦の危機に陥った時に学習済みだ。だから仲良ければそれでよしなんだ、本宮さんトコみたいに……だけど、いくら諌めるものがいないとしても、あのふたりは時々やり過ぎなのがわかる。
『お迎えにあがりました!』
 出張の朝、迎えに行ってもなかなか出てこない社長。
『少し待ってろ』
 携帯でそう言ってしばらくは出てこない時は大抵ヤッてる。楓さんの色気が半端無いからすぐわかるんだな。
 結婚前の彼女は本当にお固い女史って感じだったのに。変わったよなぁ……やっぱ女は男で変わるんだろうな。朱音だってそうだった。本宮さんと付き合いはじめてすっごく色っぽくなって、焦った覚えがある。なんかすっごくもったいないことしたって……後悔後に立たずだったけどさ。
 まあ、そんなオレが原因で、麻里が一時荒れたんだっけ。でもまあ最近はなかなかうまくやってる方だと思うんだ。夜の方だって、刺激受けてきた彼女が積極的になってくれるのが嬉しい。オレの方も相変わらず長持ちしないけど、その分おもちゃ使ったり回数でカバーしてるんだ、これでも。
 あれ? 麻里は……どこって、ああ! あいつ、何やってだんだよ! そいつは、誰だ?
 若い男と嬉しそうに話し込んでる嫁の姿を遠くから睨みつける。今日のドレスだって落ち着いたものじゃなくて可愛くてちょっとエロい感じだ。スカート丈もちょい短い。生足にサンダルみたいなパンプスって、それは冬の格好か? って疑いたくなるほど。胸元とピアスのファーがなんとかクリスマスっぽく演出してるけど、遠目で見ても若いよな、やっぱ。特に今日ここにいる中では麻衣ちゃんの次に若くみえるほどだ。
 ちょっと奥に子供達のおやつを取りに行くだけのつもりだったけど、予定変更だ。
「麻里!」
「あら勝さん。いいの? 子どもたち放っておいて」
「麻衣ちゃんたちが見てくれてるから」
「麻里さん、この人は?」
「うちの旦那よ。一応社長秘書」
「えっ? ああ、そうだったんですか。てっきり……あはは」
 頭を掻きながらフェードアウトしていくチャラい男。あんなのがいいのか? くそ、オレだって仕事してなきゃ茶髪にしてやるのに! 麻里の好きなのはアイドル系だもんな。J&Mのストームとかスニーカーズとかいつもテレビの前で美奈と一緒に騒いでる。そのうちライブに行くとか言い出しそうだ。
「えへへ、わたしもまだ捨てたもんじゃないでしょ? ナンパされちゃった」
「そんなドレス着てるからだ……」
「何よ、いつもは文句言わないじゃない」
「そんなエロいドレス着てたら、簡単にヤれそうに見えんじゃないの」
「ちょっと、何失礼なこと言ってるのよ?」
「こっち来て……」
 オレは裏方だから、使ってない部屋とか知っていたので、そこへ連れ込んだ。
「こんな短いの着て、無防備すぎんだろ?」
「やっ、ちょっと……あん」
 スカートをまくり上げると小さな下着一枚だけ。そこに指を這わせるとすぐに甘い声出しやがって。
「そんなに若い男に声掛けられて嬉しかったか? あいつにこんなことされるの想像して喜んでたんだろ?」
「そんなことしないわよ」
「おまえは……オレんだから」
 悔しくてぎゅっと抱きしめる。
「勝さん?」
「誰にも渡さない」
 オレはいつの間にか昂ったソレをズボンから引きずり出し、嫁の生足にこすり付ける。
「ちょっと、こんなとこで……」
「だめか?」
「ダメじゃ……ないけど」
「興奮する?」
「うん」
 下着の横からそっと指を差し入れると、ソコはもうぬれぬれだった。
「でもダメだよ……」
「じゃあ、つけるからさせて?」
 オレはポケットからゴムを取り出して見せた。
「なによ、こんなトコまで持ってきてるの?」
「ああ、すぐ済むから」
 オレのすぐはホントに早いけど。
「もう……そのかわり、帰ったらちゃんと満足させてよね? んっ……ああっ」
 嫁の脚を抱え上げて欲望のままに腰を進めた。
「わかってる……くっ」 
 準備なしで入り込んだそこはもうキツくて……たまんねえ!! 長年馴染んだソコがめちゃくちゃ締め付けてくる。
「ああ、麻里……麻里!!」
 激しく腰を突き上げると蕩けた女の顔で声を堪えているのが、また興奮する。元々声のでかい女なんだ。それが……ああ、もう、やべえ、イク、出る!!
「うぐっ!!」
「んんっ!!!」
 残滓を吐き出す間、物足りなさそうなソコがオレを締め付けておかわりを言ってるけど、今日はここまで。
「あっん」
 抜くときにまたたまんない声出すんだよな。
「おまえ、その色ぺぇ顔で他の男のとこ行くなよな」
「うん……あなたと一緒に亜貴たちのとこにいるわ」
「よし。今晩、たっぷり注いでやるからな」
 ティッシュで彼女の股ぐらを拭いながらついでに指でかき混ぜておく。
「ああん……馬鹿っ、もう」
 もう一回勃ちそう……だけどソコを我慢して、ゴムを外して口を結んでティッシュ包んだ。後でこっそり捨てて置かなければ。
「さあ、仕事だ。子守だけどな」
「頑張って、パパ! 子守でも仕事は仕事。目指せ高給取り!!」
「おう! おまえも手伝ってくれよな。そろそろサンタに着替えるからさ」
 その部屋の隅に隠しておいたサンタの衣装と子供達や来客への土産の入った袋を抱えて、ふたりで仲良く子どもたちのところへ向かった。もちろん、もしもの時のために用意しておいたミニスカサンタの衣装を着た麻里を連れて……


〜瞳〜

 今日は社長夫婦主催のクリスマスパーティだった。
こんなことでもなければ、一般人の主婦なんてドレスアップすることはない。だけど今日だけはとドレスを身にまとい、夫にエスコートされていた。
「何か飲み物、取ってこようか?」
「お願い」
 夫はそのまま知り合いに捕まっているらしくなかなか戻ってこないけど。
「しかたないわね」
 会場内を見回すと、見知った顔や全く知らない顔ぶれがあった。その中でもつい見てしまうのが……うちの子達だ。下の子は子供達と騒いでるのを見ているとまだまだ子どもだと思ってしまうけれど、上の子は……ここのところすっかり男の顔になってきている。彼女の麻衣ちゃんと相変わらず仲良くしてるのが嬉しいやらくすぐったいやら。たまに妻たちの集まりに楓さんに誘われて一緒に来たりするから、可愛くてしょうがないのよね。うちは女の子がいなから、特に。

 あら、あれは……懐かしい顔を見つけてわたしは近寄り声をかけた。
「お久しぶりです、清海先輩」
「あら、瞳ちゃん。久しぶりねぇ」
 そのひとはこんな場でもなければ滅多に会うことのない元先輩。そして夫の元上司である相良専務取締役の奥様でもあった。
「羽山くん、今度専務になるんですって? あなたの年度じゃ一番くじ引いたわね」
「そんな、先輩こそ取締役の奥様ですから」
「そのかわり、もう六十前のおじいちゃんよ」
「はあ……」
「いいわね、羽山くんはまだ若いから」
「そんな、もう四十五ですし、若く無いですよ」
「なに言ってるの」
 ついと、先輩の唇が耳元に寄ってくる。
『四十歳なんてあっちのほうもまだまだ現役でしょ? うちが結婚したのがその年なんだから、まだまだすごいでしょ、彼』
 確かに、まだまだ現役だと言っていいだろう。少しマンネリ化していた夫婦生活も、本宮夫妻や社長夫妻との付き合いでかなり刺激された。子供の手が離れたというのもあるけれど……だけどそれを言われるのはやはり恥ずかしい。
「せ、先輩」
 最近、楓や朱音さん麻里さん達と集まっているときはそういう話になっても、気心が知れてきて平気になりつつあるけれど。特に麻里さんがぶっちゃけてるので、結構みんな影響されている。
 先輩は社内一の美女と言われ、当時出世頭で独身貴族だった相良部長に見初められたひとだった。わたしより5歳上で、未だに妖艶な微笑みを浮かべて見せる美魔女だ。
「本宮くんにしろ、あの年代は粒ぞろいだったわよね。たしか社長の奥さんも彼らと同期じゃなかったかしら?」
「ええ、そうです」
 夫と本宮さんは社長の引き立てもあり来年度から専務職につくことが決まっていた。まさか年下の元部下に並ばれるとは相良専務も思わなかっただろう。
「年下か……いいわねぇ」
 彼女は深い溜息を付いてみせるが、相良専務はあいかわらずのナイスミドルで仕事もできる。夫や本宮さんも頼りにしていると聞いている。相変わらずのおしどり夫婦で不満はないはずなのだが……
「とにかく、旦那が元気な今のうちにたのしんでらっしゃい」
「えっ」
 なんと返事していいかわからずにいると、そのままニッコリと笑って相良専務の方へ行ってしまった。
「相変わらず綺麗だなぁ、相良専務の奥さん」
「あなた」
 側に寄ってきたのは夫と本宮夫妻だった。
「憧れの高嶺の花を持って行かれたと、当時の先輩や同期の奴らが相当悔やんでたの思い出すよ」
「あら、あなたはどうだったの?」
 戻ってきた夫を軽く睨みつけて聞いてやる。
 知ってるんだからね……色んな女性と付き合ってた話は。清海先輩とだって、そういう噂が出ていたはずだ。
「オレは瞳が入社してきた時から一筋だっただろ?」
――――嘘つき。
「今も、変わってないぞ」
 夫がそっと腰に手を回してくる。もう、こういうこと、以前は人前でしない人だったのに……彼も影響されてるのかしら?
「やだ、恥ずかしいじゃない」
「大丈夫、どこの夫婦もこんなもんだ」
 確かに、楓さんのところも朱音さんのところも夫婦寄り添って……あら? 麻里さんたちはどこに行ったのかしら。
「あっ……」
 そっと会場の裏口から富野くんとふたりで出てくるのが見えた。サンタ服姿だけれど、そそくさと挙動不審。あれは……
「あいつら、裏でヤッてたな」
「えっ?」
「だろうな」
 夫も見ていたらしく、本宮さんの言葉に頷きながらもにやにやと笑いを浮かべていた。
「見てろ、そのうち亮輔たちも一度は引っ込むから」
「まさか……」
 だけど夫の予言通り、そのあとふたりは半時ばかり姿を消してしまった。
「せめて俺達は良識ある行動を取ろう」
「そうだな、せめて帰るまでは我慢すべきだよな。朱音」
「し、知りません!」
 本宮さんの言葉になぜか真っ赤になる朱音さんだった。

「しかし、あいつらはあれで大丈夫なのか?」
 夫が心配そうに長男のほうに視線を向ける。
「ああ、おまえとこの大地くんと麻衣ちゃんか?」
「クリスマスパーティだっていうのに、子供達とばっかり」
「いいんじゃないか。それなりに上手くいってるらしいから」
「……おまえ、聞いてるのか?」
 夫は真剣な顔して本宮くんに聞いてるけど、そこは聞いちゃダメなことでしょ?
「時々報告っぽいことは聞いてるよ。あと朱音と楓が麻衣ちゃんから相談されてるから」
「そ、そうか……」
 ちょっと残念そうだけど、大地が本宮くんを相談相手に選んだのはいい選択だと思う。
「こればっかりは、大地の両親である私達には話せないことだろうからね。親としては温かく見守ってあげましょうよ。だって、うまく行けばいいけど、ダメになった時のわたしたちの立場って微妙だからね」
 このままうまく行ってくれれば、なんて親が思っていても恋愛だけは本人同士の問題だ。息子の彼女と仲良くなりすぎて、もしダメになった時に気まずいだけじゃすまない。次に連れてきた子と比べてしまうだろう。って、まだ大学生になったばかりの息子の恋愛でも、先まで考えてしまうのが親だ。正直言って、結婚するつもりの子だけでいいのよね、紹介されるのは。
「まあ、本人たちに任せるのがいいよ。ふたりともいい子たちだからね」
「パパ、 こっちこっち! サンタさんにこれもらったの」
 向こうから愛音ちゃんに呼ばれて、本宮くんたちは遊戯コーナーへ行ってしまう。
「やっぱり女の子って可愛いみたいね」
「瞳」
「なあに?」
『女の子は作れないだろうけど、今夜……な?』
 耳元で甘く囁かれ、彼に触れられている腰のあたりがジンとしびれる。
「あなた……」
 結婚して20年近く経ってもこうして夫の熱を感じることができるのは嬉しい事だった。薄れかけた情熱が舞い戻ったように。特にこの時期、パーティの後は……
「ほら、あいつらもヤバそうだ」
 夫が向ける視線の先にさきほどの本宮夫妻が子供達から少し離れたベランダへ消えていくのが見えた。向こうでは社長と楓さんがそれぞれ違う人と歓談しながらも身体を寄せあっている。
 大地だって……子供達と遊ぶ麻衣ちゃんを熱い目で見ている。
 今夜は年に一度のクリスマスパーティ。それぞれのカップルにとって様々な形で夜が更けていくのだった。



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2015.12.23up

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