2013クリスマス企画

遅すぎたクリスマス

 2

2013年12月22日(日曜)

〜朱音〜

「あっ……ん、だめよ、子どもたちが……」
「まだ起きてこないよ。それよりココ、昨夜のがまだ残ってるようだね。凄く熱くて濡れてるよ、朱音」
 ベッドの中、耳元で甘く囁くのは夫の俊貴さん。先程から身体をまさぐる手が下着の中にまで差し入れられて、わたしはだるくて眠い目を開けるしかなかった。
「だめってば」
 動きを強めるその腕を抑えてストップをかけるけれども、彼の指先は動きを止めない。昨夜彼に愛された痕跡を残したわたしの中を弄り続ける。
「今日は社長さん宅でクリスマスパーティでしょう? 準備が……」
 昨夜は土曜日で、いつもの様に遅くに帰ってきた俊貴さんに激しく求められた。色々と準備したいことがまだあったのに……土曜日や休みの前の日にはおもいっきり抱くと宣言されてからは、平日のぶんまでとたっぷり可愛がられてしまう。その翌日の朝は起きしなくてもいいと言うのは以前からのお約束だけど、今日はそういう訳にはいかない。
「朱音が昨日までお菓子を焼いたりして準備してたのは知ってるよ。もうあれだけあれば充分だろ?」
「でも……今年も瞳さんのところの大地くんと源太くんが来るって言ってたのよ。あのふたりは本当に美味しそうに食べてくれるんだけど、去年は少し量が足りないくらいだったから」
 さすがに中・高生の食べる量はすごかった。うちの聖貴も大きくなればあのぐらい食べるようになるのだろうか? 俊貴さんも意外と食べる方だけど、最近はお腹の出具合を気にして、帰りが遅くなった夜はあまり食べない。だからついお昼のお弁当に気合が入るのだけれど。トレーニングも続けているから、武井が崩れる心配なんか微塵も見て取れないというのに……だけどトレーニングは体型だけのためではなく、わたしのためだと言う。『長く朱音を可愛がってやりたいからな』って、これ以上体力を付けられても困ってしまうのに。
「さすがに相手が子供でも、朱音とこうしてる時にその口から他の男の名前が出るのは許せないな」
「え?」
 他の男って大地君達のこと? いやだ、まだ子供じゃない。
「お仕置きするよ」
 耳元で囁かれたその言葉にゾクリと身体が揺れる。どんなお仕置きなの? 何をされるのか、考えると怖くてそして……刺激的だった。
 わたしの恥ずかしがることをさせようとする時の彼は容赦がない。だけど決してわたしを傷つけるようなことはしないとわかっているから、恥ずかしくてもつい受け入れてしまう。
「そのままの格好で窓際に立つんだ」
「そんな……」
 昨日から薄いベビードールを着たまま抱かれていた。また今年新たに俊貴さんから贈られたものだった。昨夜もいやらしい下着を着た自分が鏡に映った姿を見せつけられて、恥ずかしくてだけど感じて……すごく乱れてしまった。
「さあ、こっちに来なさい」
 寝室は2階の端、吐き出し窓とベランダがある。ベランダの向こう、隣の家にはこちらに面した窓はないけれど、お隣が庭に出て見上げれば見えてしまう。
 腕を引かれ、ベッドから窓際に連れて来られてしまった。
「いやっ」
 誰かに見られたら、そう思うだけで怖い。なのにその恐怖感に甘く身体が痺れてしまう。
「大丈夫だよ、わたしが朱音の身体を他の男に見せると思うかい?」
 そう、恥ずかしくても彼が大丈夫だと言えば大丈夫だってことはわかっている。いつだって独占欲丸出しの彼が他の人にわたしのこんな姿を見せるはずはない。そう思った瞬間後ろに立った彼が熱くいきり勃ったものを押し当ててくる。
「あっ……ん」
 薄い布地の上から胸の先を刺激され、そして熱く濡れたわたしのソコへ何度も擦り付けられる固いモノ。昨夜は散々鳴かされてしまった。与えられたベビードールを着せられたままの格好で上に乗せられて何度も突き上げられた。喘ぎすぎて明け方前にはもうへろへろで動けないほど。
「欲しい?」
 なのにそう聞かれてコクリと頷いてしまった。いつもはすぐに返事をしたりしない。反対にどんなに欲しがっても焦らされてしまうのがわかっているから。だけど、今日はあまりにも恥ずかしい場所での問いかけに思わず即答してしまった。
「珍しいね。だけど、あげないよ……その方がお仕置きになりそうだ」
「そんなっ!」
 やっぱり……でもそう言いながらも固いモノを何度も擦りつけてくるのに、どうして??
「今夜からあの子たちはおばあちゃん家に遊びに行くんだから、その間楽しみにしているといいよ」
 そう、今日のパーティが終わったあと、俊貴さんの両親が迎えに来てそのまま彼の実家に泊まることになっていた。孫とクリスマスを楽しみたいというのだが、わたしたちが一緒に泊まるとなると、子どもたちと一緒に寝れないからとそれは拒否された。最も車で1時間もかからないところだから何か有ればすぐに駆けつけられる。
「それじゃそろそろ準備をしなくてはね。子供たちを起こしてくるから、朱音はシャワーを浴びて準備をしておいで。朝ごはんも軽く食べさせておくから」
 そう言って、窓際にへたり込むわたしを置いて彼は部屋を出て行ってしまう。
「もう……」
 たしかにそう時間は残されていない。だからといってそのままにされると辛い。
「でも、いそがないと」
 疼く身体を無理やり抑えこんで、シャワーを浴びて切り替えなければ。髪をセットしてお化粧して、女の準備は時間がかかるのだ。今日のような大掛かりなパーティだと尚更だ。社長をはじめ役員も参加している。もちろん、夫の俊貴さんも役員のひとりなのだけど。
 わたしはのろのろと身体を動かし、シャワーを浴びる準備をはじめた。


〜勝〜

「麻莉亜ちゃん、かわいいっ! 愛音の妹にしたいなぁ」
「ぼくもぼくも! だっこさせてよぉ」
「ダメダメ、亜貴も愛音ちゃんもまだ小さいから抱っこは無理だよ」
 さすがに1歳過ぎた子を4歳児が抱っこするのは難しい、というか危険だ。特にこのふたりはまだ下がいないのでどうしてくれることやら。お人形さんと同じように扱いかねない。
「えーつまんない! 美奈おねえちゃんはいいのに?」
「美奈は小学生だからね」
 言い聞かせはするが、この次男次女組は一度言い出すとなかなか頑固だ。上の子たちの様に素直に 聞いてはくれそうにない。
「あいね、わがままいったらママにしかられるよ。おばあちゃんちにいけなくなっちゃうよ」
 聖貴は物わかりがいい上に面倒見もいい。というか妹をかなり大事にしているようだった。
「悪いわね、富野。ひとりで大丈夫?」
「はい、このくらい大丈夫です!」
 元上司で社長夫人の楓さんに声をかけられた。今日はすごく胸の空いたイブニングドレスで普段の数倍もゴージャスだ。胸元の宝石って本物だろうか? またそれが似合うってなんの。
 社長と本宮さんは似ているところがあるけど、こういったところは違うな。本宮さんは朱音には露出した服は絶対に着せないけど、社長はこれでもかと見せつけてくる。それを着こなしている楓さんもさすがというかなんというか……ドレスだけでなく仕事面でも役員の中でも評価が高く、今日は久々の公の場で先程からあいさつ回りにかなり忙しいようで、パーティがはじまってからずっと愛娘の麻莉亜ちゃんを預かっていた。
「可愛いですよね、このぐらいって目が離せないけど、守ってやらなきゃって強く思いますよ。美奈が小さいころ、もっと見てやればよかったと今更ながらに思うんですよ」
 美奈が幼いころ、妻の麻里ともうまく行かず苛立っていたあの頃。そのまま数年を過ごしたことを今でも悔やんでしまう。だけど本宮課長と、おっと今は本部長と親友の朱音のお陰で元に戻ることができた。いや、前以上にうまくいっている。結構ラブラブな方だと思うんだ、昨夜だって麻里が激しく求めてきて……いやぁ、すごかった。上に乗って俺のを絞りとってくるんだもんな。
「富野、聞いてる?」
「あ、はい。えーっと、なんでしょう??」
「あんたの悪いところは、そうやってすぐボーっとして気を抜くことよ。気は回るのに……」
「す、すみません」
「いいわよ、謝らなくても。今回は準備を手伝ってくれてありがとう。本当に助かったわ。できればこれからも富野がわたしの下に付いてくれればいいのにって、言ったのよ」
「僕が、ですか?」
「そうよ、わたし来年から仕事に復帰するつもりなんだけど、しばらくは麻莉亜も連れて行こうと思うの。あなた、仕事として麻莉亜の面倒みれそう?」
「あ、はい……それは全然平気というか、子供は好きなので」
「そう、じゃあ決まりね」
 そう言ってまた社長の元へ戻っていく。あの、麻莉亜ちゃんはこのまま見ていればいいのかな?
「ああっ、亜貴! それは触るなよ。愛音ちゃんも、ね。ほら、源太くんがゲーム出したみたいだぞ」
「げんたおにいちゃん、みせてみせて!!」
 ふたりが大急ぎでゲームを持った彼のところに駆け寄っていく。源太くんは本当にゲームが好きで、小さい子たちにも見せながら説明してくれるので大人気だ。まだうまく遊べない子どもたちにとって、見てるだけでもゲームは楽しいらしい。
「麻莉亜ちゃんはおじちゃんと遊んでいようね」
「あーうー」
 可愛いなぁ、ホントに。社長も麻莉亜ちゃんを前にするとメロメロだ。だけどやっぱり一番可愛い女の子はうちの美奈だったな。麻莉亜ちゃんにも負けてねえや。今は……かなりおしゃまというか、憎たらしいぐらい麻里に似てきたけど。昔はほんとに天使のようだったんだからな!

「おい、富野。こっちへ来てくれないか」
「あ、はい」
社長に呼ばれて駆け寄る。
「麻莉亜、こっちへいらっしゃい」
 麻莉亜ちゃんを楓さんに渡し社長を振り返る。なにか言いたげでちょっとビビる。
 あれ? 俺、何かしたか?? 準備とか手抜かりはなかったはずだ。ちゃんと楓さんのチェックも受けてたんだけどなぁ。
「わるいな、子供の面倒ばかり見させて。そこで相談なんだ……年明けから秘書課に異動してくれないか?」
「僕が、秘書課にですか?」
 これでも今まで営業、資材部と外回りの仕事が多かったんだけどな。人と係る仕事とか好きだし。でも、お偉いさんはちょっと苦手なんだけどな……こう、逆らえないオーラとかヒエラルキーを感じるというか、俺って隷属してしまうタイプなのかもしれない。だけど秘書って柄でもないと思うんだけどなぁ。
「名目は社長秘書、実質は楓のサポート役だ。すまんが麻莉亜の世話も入っているぞ」
「えっ? 本気だったんですか??」
 さっきの楓さんの言葉。
「特殊な仕事が多くなると思うが、頼まれてくれるか? 給料も少しは色をつけてやれると思う。辞令は週明けに回しておくよ」
「はっ、はい! ありがとうございます!」
 まさか秘書室に部所替えさせられて、そのままその奥様(楓さん)付きに任命されるなんて……その上給料もアップしてもらえるらしい。
「すまんが休日にうまく休みが取れなくなるかもしれんが……こちらの予定優先になるからな。その代わりに代休をうまく使ってくれ」
 なるほど。秘書課は社長や重役の予定に合わせるから、出張や休日出勤も増える。終業後の食事会などの付き添いもあるしな。
 だけどきっと麻里のやつ喜ぶぞ! こうしてパーティに紛れ込んでも、俺の立場的に肩身の狭い思いをさせているのはわかっていた。まあ、羽山さんとこの奥さんも朱音も虐めるような奥様方じゃないし、むしろ可愛がられているというか麻里がリーダーシップを取ってる時もあるぐらいだ。その心配はないにしても、あいつのことだ、こっそり気を使っていたに違いない。
「麻里、ちょっといいか? あのさ、さっき社長に言われたんだけど……」
 奥様同士で歓談している妻の麻里に小声で報告した。朱音や瞳さんの耳にはすぐに入るだろうけど。
「ほんとに? すごいわ!! 勝さん!」
 人前で抱きついてくるという、すごい喜びようだった。
『今晩サービスしちゃうね』
 ってそれは嬉しいけど、俺の身体もつかな?? 嫁が若いから張り切りすぎられると困る時がある。
「お、おう。俺も頑張る」
 夜のサービスに期待しながらも、パーティ中はひたすら子守に精をだすのであった。


〜楓〜

 富野を秘書にするっていうのはたしかにいい考えだと思う。来年度から少しずつ仕事に復帰しようと思っていた矢先の提案というか思いつきだった。秘書兼社長のサポート役としてでも、子供を連れてのしごとは制約が多すぎる。それでもわたしでなければという思いはあった。このまま母親として麻莉亜の側にいてあげたいけれど、仕事もしたいというのは我儘すぎるだろうか?
「いいんじゃないか。オレはそういう楓が好きだけど?」
 亮輔は簡単に言ってくれるけど、そう手伝ってくれるというものでもない。社長業という大きな責任を背負って仕事しているのだから、そうそう家にばかり居るわけにもいかない。遅くなって麻莉亜が眠ってしまってから帰ってくることが多いのだから。眠る娘の寝顔を前に残念そうにしょんぼりしているのを見ると、少し可哀想になってしまう。思わず抱きしめて優しくしようものななら、ニヤッて笑った奴にその場で襲われてしまうけど。
「富野は軽いけど子供に対しては責任も持てる奴だし、気も配れるからな。子育てに関してはオレよりプロだ。まあ、その間麻莉亜が取られるようでいい気はしないがな」
 まだ言う? そりゃ長い時間一緒に居るほうが懐くわよ。これからもたまに顔見るだけじゃちょっと忘れられかねないものね。今日も会場へ連れて来る時に抱っこしようとして拒否られてたし。
『その代わり、預けている間の楓はオレの、だからな』
 耳元で囁くのはやめてよ。人が見ていないところでおしり撫でたりしないで。着替えてる時もちょっかい出してくるし、胸の空いたドレスなのにきわどいところにキスマークつけたりして、困った坊やだわ。昨年みたいに途中で手を出されるのは困るからと、そのまま許して繋がってしまったけど、身体が火照ったままですごく困ってしまった。
「パーティが終わったあとも楽しみだな」
 そんな怖いこと言わないで! 麻莉亜は疲れて眠るだろうけど、わたしだって眠りたい。昨夜もまともに寝かせてくれなかったくせに……
「あはは、そんな顔するなよ。ま、今はパーティを楽しもうぜ。みんないい顔して笑ってるじゃないか」
 もう、調子いいんだから。確かに、本宮夫婦は子どもたちを優しい目で見守っている。富野たちは……子どもと一緒になってじゃれてるわね。瞳のところは落ち着いたものね、さすが。あら、でもちょっと心配そう? ああ、大地くんが麻衣ちゃんに必死でアプローチしてるのね。彼女は大学も2年目、かなり垢抜けてきたものね。元々可愛かったけれど、この1年で少し変わったというか大人っぽくなった気がする。彼氏ができたのかと、聞いても答えてくれないって亮輔さんも言ってたのよね。どうみてもいそうな感じなんだけど……大地くん大丈夫かしら? 振られてショック受けたりしない? 少しだけ心配になってしまう。幼い頃からずっと見てきたものね、瞳の子どもたちは。
 だけど恋愛だけは思ったとおりにはいかないもの。わたしも長いこと本宮に片思いしたり、奥さんがいるって知らない相手と不倫したり、散々だった。それでもこの人と出会えて麻莉亜を授かれたのは本当に幸せなことだ。こればっかりは神様にお礼が言いたくなってしまう。喧嘩も激しいし、その分仲直りのえっちも激しかったりするけど、仕事の上では一目置くというかすごいと思う時がある。わたしでは出来ない決断をスパンと決めてしまったり、知らない間にフォローしてたりと。あの人の意思以外のところで手足のように動いてくれる本宮や羽山達がいてくれるからこそ出来るのだけど。
「どうした、オレの顔になんか付いてるか?」
「麻莉亜、パパの所へ行く?」
「あいー!」
 ようやく機嫌を直した彼女を、屈んだパパの腕に抱かせる時、わたしもこっそり囁いてみた。
『パーティが終わったら、好きにしてね』
「お、おい」
 ほら、攻めてる時は平気なくせに、逆転されると照れるのよね。可愛いわね、歳下の旦那様は。
 今夜も朝まで愛してね。わたしも、たっぷりお返しするんだから。


〜朱音〜

 パーティがようやくお開きになったのは夕方近くだった。終わったあと連絡すると本宮の義父と義母がすでに迎えに来てくれていた。最近乗り換えたというハイブリッドカーにはしっかりとチャイルドシート。それも助手席と後部座席に。貰い物らしいけど、夏からこっち凄く活躍してくれていると思う。
「じゃあ、明日の夕方送り届けるから」
「たんだよ、親父、おふくろ」
「あの、これどうぞ」
 わたしから俊貴さんの両親へのクリスマスプレゼントと、用意していたお菓子など。それと今日貰ったクリスマスのおみやげも全て渡しトランクに積み込んだ。久しぶりに祖父母と会えて聖貴はすっごく喜んでいる。愛音はもう眠くって限界みたいで、そのまま寝かせるようにして後ろのシートに座らせた。義母がその横に乗り込み『まあ、よく寝てる。おばあちゃんちょっと寂しいわ』とつぶやいていた。愛音はいつも車に乗ると寝てしまうのでしかたないのだけれど、聖貴は助手席からおじいちゃんにさっそく今日のパーティの話をはじめたようだ。
「私達も帰ろうか、朱音」
 少しだけ寂しい気持ちで走り去る車のテールランプを見送るわたしの肩をそっと抱いた俊貴さんとふたり、駅の方に向かって歩き出した。
「本宮さん、今日は車じゃないんですよね? 家まで送りますよ!」
「朱音さん、乗って」
 勝と麻里さんが手招きしていた。今日は俊貴さんもお酒を飲むつもりだったし、荷物も多かったのでタクシーで来ていた。帰りは手ぶらなので電車で帰ろうとしていたのだけれど。
「本宮さんは助手席へどうぞ」
 勝のところは亜貴くんが出来た時にボックスカーに乗り換えていた。セカンドシートが後ろに向くので長時間走るときでも便利だって。よく買い物行くときも載せてもらうんだけど、この車でネズミーランドやいろんな所へ出かけているらしい。チャイルドシートに亜貴くん、その横に美奈ちゃん。3列目の後部座席に麻里さんが座っていて隣を指さしていた。これだと向かい合ってるぶん子供も不安にならないし、顔見て話しかけてあげられるのでいいのよね。
「へえ、こいつは便利だな」
 俊貴さんも面白そうに車内を見回している。
「でしょ? 子供つれて移動ともなるとどうしても……普段こいつは麻里が乗ってて、僕は通勤に軽のワゴンRですけどね」
 勝も昔はレビンに乗っていて、いつかシーマに乗りたいとか言ってたのに。すっかりパパさんになってるんだね。たしかにボックスカーは広くていいのよね。うちもそろそろ乗り換えてもいいかなって話してたところだった。俊貴さんはずっとシーマに乗っているけれど、ここのところ子どもたちを連れてのお出かけも多くなってきた。長時間乗るならやっぱりこういったボックスカーは広くて便利だ。だけど俊貴さんは今の車にもかなり愛着があるらしい。本部長が会社に乗って行くのにはよくないのかな? でも、わたしは免許持ってないし……いっその事取っちゃおうかな。その時はせいぜい乗り回せても軽四か小型車になりそうだけど。
「ああ、このあたりでいいよ。酔い覚ましに歩いて帰るから」
「え? こんなとこでいいんですか?」
 いきなり俊貴さんが車を止めるように指示した。駅前あたりで賑やかだけど、家まで少し歩くのに?
「買い物もしたいしね」
「スーパーですか? 付き合いますよ」
「いや、いい。子どもたちも寝そうじゃないか」
 亜貴くんはすっかり眠っているし、美奈ちゃんも眠い目をこすっている。
「美奈ちゃん、またね」
「はい、おじさま!」
 俊貴さん大好きな美奈ちゃんが、彼に手を振られて笑顔になる。
「朱音さん、また買い物行くとき誘いますね」
「助かるわ、よろしくね」
 24日で学校も幼稚園も終わってしまう。そうするとふたりの子供を連れての買い物はかなり無理がある。前と後ろの自転車に乗せたら買い物袋を下げて漕ぐのにも不安定だ。普段は聖貴が幼稚園に行っている間に済ませてしまうのだけれど、さすがに休みの間は困ってしまう。最近休みの期間は麻里さんが声をかけてくれるのでとても助かる。
「それじゃ、送ってくれてありがとう」
 車を降りて手を降って見送る。
「すまないな、急に車を降りて」
「わたしは構わないけど」
「少し、歩きたかったんだ。朱音と」
「俊貴さん……」
 彼が腕を差し出してくれたので、ふたり腕を組んで歩きはじめた。
「このまま家に帰るのももったいない気がしてね」
「そうね。パーティも楽しかったけど、子ども達のいない家は静かすぎるし」
「もちろん、そのぶん早く帰って朱音を抱きたいがね、少し飲み過ぎたのもある。いつもの様に家でゆっくりするのもいいが、こうやって歩くのも悪く無いと思ってね」
 たしかに、外は寒くコートを着ていても首をすくめてしまう。だけど少し酔ってほてった頭には気持ちが良い。歩いている人も少なくて、暗い夜道にふたりだけの世界が広がるようだった。
「公園、寄って行こうか」
 彼が指差すのは近くにある少し大きな公園だった。ジョギングや散歩コースにもなっている。夜は少し暗くて怖いので来たことはないけれど、日中は池や木樹もあってたまに子どもや麻里さんたちと訪れる。
 ひとりだと怖くてもふたりだと怖くない。あたりはようやく日も入りすっかり真っ暗だ。月もまだ出ていなかった。見上げる星は夏よりも澄んで輝きが増しているようだった。
「今日は天気が良かったから、星が綺麗」
 上を向いて歩けるのも、俊貴さんの腕に捕まって歩いているから。
「少し座るか?」
 そっとわたしを抱き寄せながら、池の側のベンチに腰掛けた。寒いけれど寄り添った部分が暖かく感じられた。
「うわぁ、よく見える」
 彼の腕を枕に真上を見上げて長く眺めていると、見える星々が増えてくる気がする。
「こういうのもいいもんだな」
「そうね、なんだかこの寒空の下、ふたりしかいないみたい」
「まあ、この公園の中にはいないだろうな」
 ふたりでこんな時間を過ごせること。互いの体温以外持ち合わせてない今でも、幸せだと感じることができるなんて一番の贅沢ではないだろうか? 何も持っていなくてもそう思えるのは二人の間に確かな愛情があるからかもしれない。
「幸せだわ、わたし」
「おいおい、そんな可愛いことを言ってくれるな。キスしたくなるだろ?」
「……してもいいのに」
 彼の方を向いてそう言った瞬間、ぐいっと顎を掴まれ唇を塞がれた。
「っ……ん」
 重なる唇、貪るように熱く、そのまま首筋へと落ちていく。ダメ、そこは……
「ん、いい顔だ」
「やっ……あっ」
 腰を抱いていた彼の手が、手袋をしたままコートの中へ潜り込んでくる。そしてドレスの上から胸元を弄りはじめる。
「くそ、邪魔だな」
 俊貴さんはボソリとそう言うと、片方の手袋の指の先を口で噛み脱いでしまった。
「朱音、直に触りたい……」
「え、あの……ここで??」
「ああ、もう我慢できそうにない。朱音も朝から我慢してるんじゃなかったのか? こんなにもすぐに欲しいと思うのは私だけか?」
「それは……」
 欲しくないと言えば嘘になる。唇と首筋へキスされた時からもうわたしの身体は崩れはじめていた。
「朱音が冷たくないように、舐めるんだ」
 差し出されたその指をわたしは口に含んだ。何度も舌を這わす自分が何かを連想させていることはわかっていた。
「朱音……わたしのも」
 その言葉が意味することもわかっている。そっと彼のコートの中手を入れると、スーツの下はすでに固く勃ち上がっている。
「んあっ……俊貴、さん」
「こんなふうになるのは、おまえだからだよ」
「そんな……」
「普段規則も破らないほど真面目で、外ではこんなふうにおねだりしない朱音が、そんな目でわたしを見ているだけでたまらなくなるんだ」
 ベッドではいつだってわけが分からなくさせられているし、充分に理性を崩した姿を何度も見せているのに。
「あっ……やぁん」
「濡れてるね、欲しい?」
「ひっ、んっ」
 下着の下に忍び込んだ彼の指先は濡れた脚の付け根を何度も擦り上げる。わたしはその度に突起の刺激に耐えかねて声を上げ、身体をヒクつかせてしまう。
「くそ……こっちへ」
「え? そっちって」
 わたしを立ち上がらせ強引に手を引き奥の木樹の中に入っていく。
「どうするの?」
「いくらなんでもベンチじゃいつ誰に見られても言い訳できないからね」
 たしかにまだ視界の遮られている木樹の間の方がまだ安心するというか、見られていない気がする。どんなに暗くても彼と一緒だから怖くはないけれど、やはりこんな場所での行為は不安が先走る。
「それともベンチで犯されたかった?」
「まさか……俊貴さん? きゃっ!」
 ドンと樹の幹に押し付けられる。
「ここで欲しがる朱音が見たい」
「え?」
「いつもは真面目な朱音が、誰が見てるかわからないこんな公園の木樹の中でも欲しがるほど私に夢中だと確認したい。言っている意味がわかるか?」
 なんとなく、わかる。普段はお互い子どもたちのパパママで、恋人同士のような過ごし方は年々できなくなってきている。えっちするときでも、子供が側にいたり見られるかもしれないと思うと、どうしてもわたしは逃げてしまう。俊貴さんが見られてしまうような時にそういうことをする人じゃないとわかっていても。ちゃんと安全かどうかを確認する人だって……でも、ここで? 恥ずかしすぎる。
「ドレスと一緒に出しておいたよね? 今日来てくる下着を。履いてきてるのはさっき確認したよ」
 朝、着替えようとしたらその上に置いてあった。また新たに買い揃えたらしいガーターとストッキングとショーツ。それをきちんと身につけた時から予想というか期待していたのは確かだった。でも家に帰ってからだと思っていたのに……
「不安そうな目をしている朱音が可愛くてしかたないんだ。今朝窓際で攻め立てた時恥ずかしながらも欲しそうにしてくれたのが嬉しかった。あの時以上に可愛い朱音を見せておくれ」
「そんな……あっ」
 屈みこむと、寒くないようコートの間からスカートの下へ潜り込み、紐で結んだだけのショーツを抜き取りそのまま舌を這わせはじめた。
「やぁ……っ、俊貴さん」
 舌と指の刺激の強さに身体が反り返る。自分でも彼の頭を引き剥がそうとしているのか押し付けているのかわからなくなるほど、与えられる快感に震えていた。
「ダメ、そんな……ああん」
 寒いはずなのに、次第に身体が内側から火照ってくる。潜り込んだ舌先と指の絶妙な動きに感じ焦らされ、わたしは我慢できなくなっていく。
「朱音、どうする? ここで……欲しいか?」
 その問に思わず頷いてしまう。舌だけじゃ……指でも足りない。それは今朝から渇望していたモノだった。
「欲しいの……俊貴さんが、お願い……」
 泣きそうな声でわたしは訴える。もう立っているのも危うく、内腿が痙攣を起こしてしまいそうなほど感じていた。
「もう止まらないからな」
 そう言うと、立ち上がった彼はベルトを緩めスラックスのファスナーをおろす。わたしは右手をそこへと導かれ、そこから彼自身を取り出すよう即された。手袋をしていないわたしの手は火照りとともに少しは温まってもまだ冷たい。その手に扱かれて彼のモノは硬さと熱さを増していく。
「欲しいか? 朱音」
 コクコクと必死で頷くと、わたしを後ろの樹に押し付け片足を担ぎあげ、宛がったソレをゆっくりと突き上げ、彼はわたしを下から深く刺し貫いた。
「あっ……ん、ああっ……」
「たまらんな……朱音の中、入れただけなのにぎゅうぎゅうに締め付けてくるぞ」
「だって……」
 恥ずかしいと思えば思うほど感じているかのようだった。自分から欲しいと求めたことも、こんな野外で行為をしていることも、信じられないほど恥ずかしくてたまらない。
「それならこうすればどうだ?」
 いじわるな声でわたしに囁いたあと、俊貴さんはゆっくりと腰を動かしはじめた。彼のモノが上の壁を擦りあげる快感と、敏感な突起が押しつぶされるその刺激に耐えかねて、わたしはいまにも果ててしまいそうだった。
「やっ、もう……イッ……ちゃう」
 わたしはビクビクと下腹部を痙攣させたまま、彼自身を締め付けていた。だけど彼のゆっくりした動きにあわせて、大きな波が来なかったため浅い快感が続いていた。このままだと尚更辛い。
「んっ……はぁ……ん」
「こんな格好でイッてしまうなんて……可愛いよ」
「いやっ……言わないで」
 恥ずかしくて下をむくわたしのこめかみにキスをすると、持ち上げていたわたしの脚を下ろし、彼自身を引き抜いてしまう。
「あっ……」
「なんだ、惜しそうな声を出して。これで終わるはずがないだろ」
 そう言うとわたしの身体の向きを変えて後ろの樹にしがみつかせた。
「さあ、もっとイッていいから。朱音」
「ひっ……んぐっ」
 コートとドレスをたくし上げられ、さらされた臀部に彼の手が添えられたかと思うと、濡れそぼる蜜壺に彼の熱いモノがぐちゅりと押し込まれる。
「こんなに濡れて……気持ちが良いんだね」
「あっん、やっ!」
 深く、奥まで届いてしまう。快感で下がってきた中の口に彼の存在を感じる。
「少し激しくするよ……声、我慢して」
「あ……むり……」
 彼がゆっくりと腰を使いはじめる。首筋にキスされながら敏感な突起と胸の先を同時に攻められると耐え切れなくて大きな声が漏れてしまう。それなのに『誰かが見ているかもしれないね』とか『そんなに大きな声を出したら気づかれるよ』『可愛い声につられて誰か来てしまうかもしれない』そんなふうに言われ続け、その度に怖くてはずかしくて、だけど気持よくておかしくなってしまいそうだった。
 激しく責め立てられ、それは俊貴さんが満足してわたしの中に熱いものを吐き出して果てるまで続いた。そしてその行為は家に戻ったあともひたすら続いた。バスルームで、そのあとはまた窓際で、最後はベッドの上。しまいには泣きだしてしまうほど何度もイカされ続けた。
「もう、無理……おねがい、許して」
 彼が満足するまで、懇願しても許してはもらえない。途中で意識を失ったわたしには、もう指を動かすことすら出来ないほど息を乱し、疲労困憊状態のまま翌朝を迎えたのだった。
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2話同時更新できました! と言っても2ヶ月遅れですが……大人組は変化がないのでエロエロ大増量中ですが(笑)
大地&麻衣はピュアに行きます!でもあちらは暦通りクリスマスと、おまけで!!
(遅れたお詫びのつもりで頑張ってます、まだ執筆中……)