2013クリスマス企画
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2013年某月某日
〜俊貴〜
今年もまたクリスマスの話題が出る時期が来た。
ただし、今年はイブもクリスマスも平日で仕事だ。
「つまんないっすよね、クリスマスが平日だなんて。ネズミーランドにも行けないじゃないっすか。今年は二家族一緒に行けるかなって、楽しみにしてたんですけどね」
富野が残念がることしきりだ。今年は連休が少ないので何処にも行かないらしい。学校は冬休みにはいっても、会社は休みにはならないからな。今年は特に消費税導入前ということで仕事も忙しく、年末前に有給を取りたいなどと言える雰囲気ではなかった。平社員の富野でもそうだが、もちろん役員である私や羽山もそんな余裕はない。社長の亮輔ですら忙しさのあまり仕事を持ち帰って楓に手伝わせているらしい。
「その代わりに、今年も社長が自費でクリスマスパーティを開いてくれるって言うんだから。それでいいだろう?」
一昨年まではうちで開いていたクリスマスパーティーだが、昨年社長の亮輔が出産したばかりの楓を気遣って自分のところで開いてくれたのだが、それが功を奏したというか噂を聞きつけて招待して欲しいと言い出した亮輔や羽山の友人に役員、それから取引先など招待客を数えるとすでにホームーパーティの域を越えそうな勢いらしい。
『寂しいけど助かるかも』
さすがに専業主婦の朱音でも、子供が大きくなってくると一日があっという間なのだそうだ。聖貴の幼稚園の送り迎え、合間に時間を取ろうにも愛音もじっとしていないから目が離せない。私が早い時間に帰宅した時、子どもたちが家中をところ狭しと走り回っているのを見ればその苦労も容易に想像がつく。そんな中、毎年のクリスマスパーティは楽しくともその準備はなかなか大変だった様で、近年ひとりでは難しく富野のところの麻里さんや羽山のところの瞳さんに手伝ってもらってやっとだったようだ。それでも子供が増え、大人も増えて規模が年々大きくなってきた最中、昨年社長宅ですると言い出してくれたのはいいタイミングだったのかもしれない。奴が主催者になったがために、格段パーティのメンバーも増え、料理の量も半端じゃなくなった。亮輔が妻の為を思い業者を使った為、当日かなり楽だったようだ。打ち合わせでかなり手は取られたそうだが、当日の労力は使わずに、本人たちもパーティを楽しめる。なんといっても後片付けが楽だ。それを考えると、今年も社長宅でのパーティーは皆が大歓迎だった。本格的なパーティ形式だし、女性達もおしゃれが出来て嬉しそうだ。何よりも準備の手間が省けるぶん、自分たちに手がかけられるのだろう。それでも朱音は子供向けの料理やお菓子を作るのに遅くまで起きていたりしていたが。
「今年も、俺が行ってもいいんですかね?」
富野は招待客の中で唯一の平社員だった。気にしているようだが、最初からパーティのメンバーで今さら外すとかそういった考えはない。いっその事昇格させるかという話にもなったが、以前のこともあるし、あまり部下管理能力がないので下手に昇進させられなかった。いっそのとこ宴会部や託児所などを管理する福利厚生部を新設しようかと羽山と考えている。
「そんなに気を使ってるならパーティの準備でも手伝うか? 楓ひとりじゃ大変らしいぞ」
亮輔も楓も準備に手間を取るのは大変だろう。特に楓は仕事を手伝わされている上に、子供を抱えていては動ける範囲が知れてしまう。富野だったら仕事関係もわきまえて準備できるだろう。そういう段取りと気の配りはたいしたものだからな。
「はい、ぜひ手伝わせて下さい!」
嬉しそうに、やる気満々の顔してるな。それなら楓や亮輔の負担も減るし、楽しいクリスマスパーティになるだろう。 21日は休日出勤が免れそうにないからと、22日の日曜にパーティをすると言っていたな。結婚記念日の24日は平日だし、聖貴の幼稚園もその日まであったはずだ。25日の誕生日は一緒に祝ってやりたいが……さて、どう計画したものかな。
〜亮輔〜
先日本宮さんからクリスマスパーティの準備に富野を貸すと言ってきた。奴はそんなに現場で役に立たないのか? と思わず心配になる。悪い奴じゃないとわかってはいるが、仕事ができないわけでもないんだろ? それなのにこの忙しい時期に現場を離れられるなんて……どういう仕事をさせてるんだ?
富野は、まあなんて言うか、見た目も話していても軽い。仕事を任せるとか、部下に信用されるといった雰囲気や貫禄がないんだよな。その割にはハイハイとフットワークは軽かいから扱いやすいし、細かいことでも気軽に頼める重宝さはある。ああそうか、奴は使いっ走りタイプなんだな。それも優秀な。誰よりも早くその用をこなしてくれるし、ある程度の忠実さもある。そう考えるとようやく奴の存在意義を納得することができた。
そういえば、以前は本宮さんの奥さんの大学時代からの友人で元カレ、じゃなくて想い人だったとか……それが今でもわだかまりなく付き合えてるのは、彼のあの軽い性格のおかげなのか? 確かに友人として付き合うには問題はないんだよな。社外にも友人が多いみたいだ。ただし、仕事にはあまり繋がってなようだが。
「楓、実は本宮さんがクリスマスパーティの手伝いに、富野を回そうかって言ってくれてるんだが、どうする?」
「富野を? それは、助かるわね」
楓も奴の使い勝手の良さは把握しているらしい。さすが元上司だ。手が空けば、そのぶんプレゼント選びや子供のこと、自分のことにも手がかけられるだろう。年に数度、パーティなどで着飾った妻を美味しく戴くのが俺のモットーだ。最近はあいつも期待して待ってるようでもあるしな。ところ構わず衣服を乱して繋がるのは興奮するし、あの気丈な楓が泣きそうな顔をして求めてくるのが堪らない。
「今年も楽しみだな、クリスマスパーティ」
「そうね、今年は麻莉亜も少しは楽しめるかしら?」
俺が楽しみなのは違う意味でだけどな。
「とにかく少しは楽をしろ。子供の世話に俺の仕事まで手伝ってくれているんだ。ベビーシッターとか雇う気はないんだろ?」
「だって、やっぱり自分の子は自分で見たいし、目の止まるとこに置いておきたいじゃない? それに……なかなか任せられるような人っていないのよね。年配の人では機敏性がないし、子育てに対する概念が古い部分わたしも受け付けないものがあるのよ。若い子はもっとダメよ、無責任なところがあるわ。それに女の子はいつやめてしまうかわからないでしょ? もっと責任感があって、長く続けてくれる人がいいんだけど……あと、わたしの仕事を理解してくれないと動きようがないわ。でも……そんな人、何処にもいないでしょう?」
「まあ、な」
たしかにそんな女性はいないだろう。そうなると彼女の仕事への復帰が遅れる。楓の仕事っぷりは本支社でも評価が高く、その彼女を家に閉じ込めているというだけで俺の評価が下がりっぱなしだ。男としては、あの楓女史をよくぞ落としたと賞賛の目で見られているがな。あいつにやり込められた上司や同僚の男はかなりの数いたらしい。
しかし、今の……条件にあう奴がふと一瞬思い浮かんだような気がした。
クリスマスシーズンから2ヶ月以上遅れて、バレンタインも過ぎてしまいました……すみません(汗)
できるだけ続けて更新する予定です。まずは22日分も同時更新です!