2012クリスマス企画
5
12月25日
〜大地〜
やっべ、めっちゃやっべぇ……
相手にされるはずないのに、マジで惚れちまった!!
はあ……昨日のこと思い出すだけで、なんかのぼせてくる。帰って来てどんな顔していいかわかんなかった。母親にあんなニヤけた顔見せらんねえし……親父は、なんか最近おふくろに甘いというかべったりなんだよな。もともと仲のいいほうだけど、あのクリスマスパーティの面々とつるみだしてから尚更じゃないか? まあ、あの社長さんとこは新婚だし、聖貴の親たちも甘々っぽかったしな。だから、ちらっと親父を見ただけで、視線が完全におふくろ向きだったのでそのまま部屋に戻った。先に帰っていた源太がなんか言ってきたけど無視した。もうそれどころじゃなかったから。
「大地、昨日どうだったんだ?」
「あのあと遊園地に行ったんだろ? お子様コースだけど相手は女子大生だもんな。その後美味しい思いしたんだろ」
「そりゃあイブにデートしてなんもなしってことはないだろ?」
仲間たちと行くところもないのでゲーセンでたむろっていた。周りもあぶれた高校生らしき男どもで溢れている。
「するわけないだろ! 相手はそこらの女子高生……中学生よりスレてないんだよ」
麻衣さんをそんな扱いにするなと怒鳴りたかった。
せっかくのクリスマスでも出かけるのはやっぱりいつものメンバーで……昨日の結果を聞きたがった。
「で、どうだったんだよ?」
「どうもしない……けどまあ、これからも一緒にあそびには行くことになった」
「なんだ、脈ありじゃんかよ! 珍しいよな、大地がその気になるなんて……もしかしてマジ?」
「うるさい! ほっとけ……」
「ヒューヒュー、本気かよ」
「わるいかよ……」
はやし立てられても乗る気もしねぇ。ゲーセンの騒音の中ではオレの小さなつぶやきなんてすぐにかき消される。
「うまくいったら女子大生と合コン、約束だからな」
そっちか! お前等が心配なのは……悪友たちの目的はひたすらそれだ。
「今日はナンパ行かないのか?」
「今日街に出てうろついてるのはカップルか、そうでない組だろうけど……まあ成功率は低いだろうな」
世間一般には平日だ。親父も朝から会社に出かけていた。冬休みを迎えたオレたち学生や主婦、有給を取った社会人だろう。その場合は目的ははっきりしてるってもんだ。
「オレはもうナンパには行かないからな」
「なんだよ、おまえがいないと成功率下がるじゃんか!」
「合コンも行かないから、誘うなよ?」
「それって……じゃあやっぱりあの女子大生と付き合うのか?」
「違う……違うけど、これはけじめだ」
「なんだそれ。付き合ってないんだったらいいじゃんか、そんなの」
ダメだと思うんだ。彼女と本気で付き合いたかったら……
昨日は麻衣さんと遊園地に行った。結局閉園近くまで一緒にいて、めちゃくちゃ楽しかった。付き合うとか付き合ってるとかって関係じゃないし、だからといってトモダチでもない。だけどきっと向こうは恋愛感情は持ってくれないだろうという切ない想いの中、やけくそ気味で楽しんだのが功を奏した。気取ることも、意識しすぎることもなく、弟になりきって麻衣さんと一緒に乗り物に乗りまくった。お化け屋敷では怖いといって後ろからオレの肩にしがみついて来て、可愛いのなんのって……マジで熱出そうになった。途中からはぐれないように手をつないで、お互いの注文した食べ物をシェアしたり味見したり……いいよな、このぐらい。姉と弟だったらするよな? 姉なんていないし、向こうも一人っ子だっていうからわからなかったけど、本当はわかってた。こうやっていたら姉弟には見えないって……どう見たってカップルだってことを。
彼女が住んでる伯父さんの家まで送った帰り道、玄関先までのつもりだったけど、これがまたでかい屋敷だった。だからその手前の公園で少しだけ名残を惜しんでいた。
『すっごく楽しかった! また……一緒に、いろんなところに行きたいな』
麻衣さんが可愛いことを言うもんだから、出来ればお友達からゆっくりと、なんて考えてたのに……オレは自分の気持ちを抑えきれなくなっていた。
その一緒って、今度はうちの弟や美奈ちゃんや聖貴くんも入るわけ? それもいいけど……出来れば彼女とふたりだけがいい。もっともっと、彼女を知りたいし、オレのことも知ってほしい! だから……
『それって、ふたりだけじゃダメっすか?』
『えっ?』
『オレ……もっと麻衣さんと一緒にいたい。他の遊園地や、映画にも行きたい。一緒にご飯食べたり、歩きまわったり……景色のいいとことか、いろんなものを一緒に見たいんだ』
『大地くん?』
『麻衣さんが嫌じゃなかったら……弟としてじゃなく、男として見て欲しい』
『えっ?』
驚いた表情だった。きっと意識してなかったから安心しきってたんだと思う。
どうする? ここで冗談だと言って、これまでどおり弟のままでいるか、それとも……男だってわかってもらって意識させるか。
『会ってすぐだけど、一日一緒にいて、すごく好きになっちゃったんだ。付き合うとか、付き合わないとかはまだいいよ。だってオレまだ高校生だし、麻衣さんは大学生で……きっとこの差はオレが一人前になるまで続くんだ。だから、それまで……誰のものにもならないで待っていて欲しい。オレ、いつかちゃんと麻衣さんのカレシとしてふさわしくなるから、だから……それまで出かけたりどこかに行ったりする男はオレだけにして?』
自分からコクったのってはじめてかもしれない。今すぐ付き合って欲しいって告白じゃないところが悲しいけど……しかたないよな。スタート地点が弟だもんな。
『えっと……あの、どうすれば……いいの? 今日はすごく楽しかったの。またこうやって出かけたいなって思うのは今のところ大地くんだけだよ? 』
『じゃあ、オレより一緒にいたいって思う奴が出てくるまで、オレに黙って会ったり出かけたりしないで!』
思わず力が入っていた。麻衣さんはしばらく黙っていたけれど、ゆっくりと頷いて答えてくれた。
『……わかった、そうする』
これって、付き合うっていうのとは違うかもしれないけど、あんまり男慣れしていない彼女を予約することは出来たはずだ。彼女が嫌がることは無理にしたくない、だけど……
『じゃあ、約束』
そう言って彼女の頬にキスをした。
ホントは唇に、せめておでこにしたかったけれど、帽子かぶってるんだもんな。
『だ、大地くん??』
頬にキスしただけで真っ赤になってる彼女。うわぁ、可愛い……抱きしめてぎゅっとしてぇ!
『きゃっ!』
そう思った瞬間、我慢できなかった。ぎゅうって抱きしめていたんだ。
『オレ、麻衣さんのことすごく好き……たぶん、これからもっと好きになると思う』
『あ、あの……』
『急いで答え出さなくていいから、しばらくはオレだけ見てて』
やわらかくてあったけぇ……もっとずっとこうしていたいけど、そんなわけにもいかず。
『メールする。電話も……かけていい?』
『う、うん』
真っ赤になって頷く彼女をもう一度抱きしめそうになるのを抑えるのが精一杯だった。
「オレ、先に帰るな」
「ええ? どうしたんだよ、大地」
昨日の彼女を思い出すだけでなんだか熱くなってくる。こうしちゃいられない!!
「冬休みの宿題、片づけちまおうと思ってな」
まだ確定されていない未来だけど、彼女に選んでもらうためにはゲーセンで時間潰してる暇なんてないよな? せめて今からできるだけやって、少しでも上の大学を目指す。それから就職して……その頃には麻衣さんも社会人だ。比べられたらアウトに決まってる。だから……今から頑張るしかない!!
オレは急いで家に戻る。源太は部活で、おふくろは……買い物かな?
家には誰もいなかった。
<Merry Christmas! 昨日は楽しかったです Mai>
日付が変わってすぐに届いたメール。
<メリー・クリスマス! オレもめっちゃ楽しかった。よかったら初詣行きませんか? 二年参りとか、行ったことある? 大地>
<二年参りしたことないの。なかなか夜とか出させてもらえなくて。じゃあ、今年は実家に帰るの遅らせようかな?>
<マジで? じゃあ計画立てておきますね>
これには源太とか入れてもいいかな? 人数多ければあまり心配されないかもだし……
とにかく計画的にいかないと……微妙なラインでOK貰ったわけだから。
けど、あの約束って付き合うのと同じようなもんだよな? 他に好きな男ができない限り、彼女がオレのことちゃんと男として認めてくれる日まで、独占していいんだよな?
いつか……ふたりっきりでクリスマスを過ごせたらいいよな。
脳裏に白いシーツの上の彼女が浮かび上がってくる。
ダメダメ、まだ早い……その時が来たらだ。彼女がオレのこと本当の意味で好きになってくれたら……その時は、彼女の全部が欲しい!
「やべえ……反応しちまった」
彼女で抜くのは申し訳ないけれど、ついついその時のことを妄想してしまう若い性に逆らえない17歳男子のクリスマスだった。
〜聖貴〜
きょうはクリスマスだけど、ぼくのたんじょうびです。
あさおきたらちゃんとプレゼントがあったよ! ほしかったんだ、みんながもってるのとおなじゲームするやつ。きのうおじいちゃんとおばあちゃんがクリスマスプレゼントにゲームのなかみをくれたんだけど、ちゃんとサンタさんがくれるってわかってたのかな?
ぼくのたんじょうびのプレゼントはこんちゅうずかんだったんだ。これもほしかったの!
どうしてママにはぼくのほしいものがわかるのかな?
パパにきいたら『それはママもパパも聖貴のことが大好きだからだよ』っていったの。
あいねちゃんのクリスマスプレゼントはおにんぎょうさんだった。おんなのこはおにんぎょうさんすきだよね。みなちゃんももってるけど、あれであそぶのはあんまりすきじゃないんだ。だって、おままごとみたいになるんだもん。
みなちゃんのことはだいすきだけど、ぼくはおとこのこだから、やっぱりゲームかそとであそぶほうがすきなんだ。
だからなやんでるんだ……クリスマスパーティのときみなちゃんに『おとなになったらおよめさんにしてね』っていわれたんだけど、おままごとするのいやだから、うんっていわなかったんだ。そしたらきゅうになきそうになるからびっくりした。
でもね、およめさんにするって、なにをするのかな? いっしょにごはんたべたり、ねんねしたりするなら、ぼくはあいねちゃんとまいにちいっしょにしてるんだけどなぁ……それともパパとママみたいにちゅうしたりしてなかよくすることなのかな??
きょうのママはげんきだったけど、きのうおじいちゃんちからかえると、ママはまだねんねしてたみたい。
『大丈夫、ママはちょっと疲れて寝ているだけだから』って、パパはいうけど、いつもパパとふたりでおるすばんしたあと、ママはおきてこないんだ。いっぱいおはなししたいことがあるのに……
もしかして、パパがママをいじめてるの?? そんなことないよね。だってパパはいつだってママに『愛してる』っていってるし、すごくやさしいもん。
まえにあいねちゃんとあそんでるときに、はなれたところにいるママをみると、パパにだっこされてよしよしってされてた。ぼくがみてるのにきがついたパパは、しーっておくちにゆびをあてたあと、かくれてママにちゅってしてたんだ
そっか、あいしてたらちゅってするんだ! よしよししてあげたくなるんだ!
だったらやっぱりぼくは、みなちゃんよりあいねちゃんをあいしてることになっちゃう……だってかわいくておもわずちゅってしたくなるもの。
「ねえ、ママ。みなちゃんでなくって、あいねちゃんをおよめさんにしちゃだめなの?」
「そうね、妹だからお嫁さんにはできないわね。そのかわりにお婿さんにふさわしい人が現れるまでちゃんと守ってあげてほしいわ」
「うん! ぼくあいねちゃんまもるよ!」
「頼もしいお兄ちゃんね。それで、みなちゃんはどうするのかな?」
「みなちゃんは……ぼくよりおおきいしつよいよ? しょうがっこうでいっぱいおべんきょうしてるし……ぼくがまもらなくてもだいじょうぶだとおもうよ」
「でもね、いつか聖貴は美奈ちゃんよりも大きくなるわよ? いくら強がっても力じゃ男の子に勝てなくなる時が来るのよ」
「ほんとに?」
みなちゃんがぼくよりよわくなるとき?? それっていつなんだろ……
「だから女の子はだれでも大事にしてあげてね」
「わかった! それじゃママもだね」
「まあ、ありがとう。でもママはパパが守ってくれるから大丈夫よ」
「だったらあいねちゃんとみなちゃん」
「そうしてあげて。愛音はまだまだ小さいから、おにいちゃんが頼りだものね。でも今はお昼寝してるから守らなくても大丈夫よ。いつもおにーちゃんだからっていっぱいがまんさせてごめんね。今はママがいっぱい抱っこできるわよ?」
「ホント?」
「ええ」
ママがぼくをだっこしてぎゅうってしてくれた。すっごくきもちいなぁ。あったかくてやわらかくて。
そうなんだ……ほいくえんにいってるあいだはあいねちゃんがひとりじめしてるし、ぼくらがねちゃうとパパがママをひとりじめしちゃうんだ。だからあいねちゃんがおねんねしてるときだけこうやってだっこしてもらうんだ。ほんとはおにいちゃんだから、いもうとのまえではそんなことしないんだけど……きょうだけとくべつなんだ。だってクリスマスはみんなのひだけど、おたんじょうびはぼくだけだから!
『おたんじょうびおめでとう! 生まれてきてくれてありがとう』
あさ、ママがパパからのでんごんだよっておしえてくれたんだ。ぼくにありがとうって、おかしくないのかなっておもったけど、それでいいんだって。
「あらあら、ねむくなっちゃった?」
ぼくはうとうとして……パパがかえってくるまで、ママにだっこされたままねちゃったみたいだった。あさはやくにおしごとにいったパパにまだいってなかったからはやくいいたかったのに……
メリー・クリスマス! ってね。
最後はひらかなのオンパレードですみません。そして25日はらぶらぶなしになってしまいました。
大地と麻衣の関係はこれから長くなるかもしれません。1年毎に楽しみにしていただければうれしいです。
なんせ、美奈や聖貴が大きくなるのにはまだまだ掛かりそうなので(爆)
それではまた2013年(今年だ!)のクリスマスに!!