2010クリスマス企画

Another Christmas

 5

12月24日〜25日

〜朱音〜

「え?帰って来れないの?」
「ああ、急に……楓が休んでな。富野は前から有給取ってるし、社長まで……早々に帰ると言ってるんだ」
受話器から『くそっ』と聞こえたのは気のせいよね?仕事のことで文句言ったりしない人だもの。
「そっか……じゃあ昨日、あの後うまくいったのかしら」
クリスマスパーティの最中、若社長がいきなり楓さんを抱えて連れ帰ったのにはみんな驚いた。確かに楓さんは酔ってるみたいだったけど、猛烈に反発してたよね?あれには羽山さんがオオウケしていた。若社長の気持ちを前もって聞いていた俊貴さんと彼は、うちに連れてきた時点でどうでるか楽しみにしていたらしい。だけど、まさか担いで出て行くなんてね……
『まあ、あのぐらいしないと楓は堕ちないかもしれないなぁ』
羽山さんの言葉に俊貴さんもため息を付きながら同意していた……楓さんって、そんなに難しいの?って聞いたら、『おまえよりも』って俊貴さん笑って言ってた。
わたしよりもか……
もし、俊貴さんがいなかったら……わたしも今頃、バリバリ仕事して一人でクリスマスを過ごしてたかもしれない。自分が傷つくことが怖くて、告白するつもりのないぬるい片想いをずっと続けていただろう。わたしにとって、恋愛も結婚も自分とは関係ないもので、仕事さえ頑張れば生きていける、そう思いこんでいた。その方が告白して傷つくより楽だったから。
だけどわたしは29歳のクリスマスに俊貴さんと結ばれることができた……仕事は辞めてしまったけれど、結婚して家族が増えて、こうやってクリスマスにはみんなが集まって来てくれるような温かな家庭が築けた。
夫婦なんて子供産んじゃうとパパママになって、夫婦関係もおざなりになっちゃうって誰かが言ってたけど、うちの場合はそんなこと無かった。俊貴さんは……見かけと違ってその、夜とかはすごく情熱的で、子供がいてもえっちとかしない日は少ない。仕事が忙しくて帰りが遅くなった時、わたしが子供と早々に寝てしまった次の日の朝は、早くから彼の愛撫で起こされる。そして昨夜の分だと言って朝から激しく攻められたり……まだ聖貴も保育園に入れてないから、とりあえず家の中にいる分には支障はないけれども。昨夜だって、後かたづけが済んだわたしをバスルームに連れ込んで、洗ってあげると優しく言って逆上せるほど激しく愛されてしまった。
「朱音?どうした、黙り込んで」
「ううん、なんでも……それにしても若社長って大胆な人だったのね」
「ああ、昨日も羽山が言ってただろ?」
昨日、若社長がいなくなった後、羽山さんがおもしろおかしく解説してくれた。
『あいつはあの歳でTOPが取れる位の実力とカリスマ性を持った奴だから、当然色んな事に対して自信があるんだよ。しかも抜け目がないから用意周到と来てる。女にもモテるから今まで遊びまくってたけど、唯一女が信じられないっていう弱点があったんだよな。それは最初の彼女がだな……』
大学時代からよく知っているだけあってかなり詳しいらしく、最初に付き合った女性が浮気して、それ以来玉の輿狙いの女に辟易としてること、剛胆な振る舞いが災いして登山中、危険な目に遭い羽山さんのおかげで事なきを得て以来頭が上がらないとか、ネタは山ほどあるらしい。
『で、あいつの女性に対する認識を根本から覆したのが楓だ。最初に亮輔と会った時から媚びなかったし、いきなり酔って醜態見せて開き直ってたからな』
『ああ、そのくせ途中から意識してるのが見え見えだったけど』
俊貴さんも同意していた。
『さて、明日二人は出社するか……賭けるか?』
にやりと羽山さんが言い出すと、真っ先に勝が飛びついた。
『いいッスね!オレ、二人とも出社するに賭けますよ!だってあの柳原課長が出社しないなんて絶対無いですもん!ちなみにオレは有給取っちゃいましたけど』
相変わらず賭け事好きなんだな。麻里さんがムッとした顔で見てるよ?気が付いてないから後でこってりやられそう。でも、勝が即座にそう言うほど直属の上司の楓さんは仕事に厳しいんだろうね。
『オレは二人とも出てこないに賭けるな。あいつ結構女にはしつこいからな』
羽山さんも言い切った。でも、二人とも出てこなかったら……
『それは困るな。せめて社長だけでも出てきて貰わないと』
俊貴さんは賭けと言うよりも意見のようだった。確かに一番困るのは彼だろう。
でも、その予想が見事に当たったってわけだ。
「で、親父達はなんだって?」
「俊貴さんが帰って来れないなら、自分たちも泊まるの止すって……そしたら聖貴がごねちゃって……おじいちゃんとこに行きたいって」
「あいつはじいちゃん大好きだからな」
俊貴さんのお父様は、彼に雰囲気も顔立ちもよく似ていて、歳がいった分好々爺として優しげな所が増強されている。
「プレゼントも、誕生日とクリスマスの分二つも頂いて……すごく喜んでたわ」
「そっか、喜んでるとこ見たかったな……」
「大丈夫、ちゃんとビデオに撮ったから。でもどうしましょう?聖貴。それで電話したんだけど……」
「いいじゃないか、連れて行って貰えよ。帰りたいと言ったら迎えに行くって言っておいてくれ。どうせ帰りは夜中過ぎそうだから、朱音も無理せず先に愛音と休んでなさい」
「わかりました……あなたも無理しないでね」
「ああ、クリスマスイブにおまえを抱けないのは寂しいけどね……その分、明日は覚悟しておいで?」
「えっ?」
耳元で囁かれるようなその声が受話器から漏れ聞こえてないか、思わず焦ってしまった。
「それじゃ、仕事に戻るよ」
電話はそう言って切れた。

「どうだ?俊貴はいいって言ったか?」
「あ、はい。構わないそうです。もし泣いたら夜中でも迎えに行くからって……」
「そうか、聖貴はいい子だから泣かないよな?」
「うん、なかなぁーい!」
聖貴はおじいちゃんに抱っこされて上機嫌だ。普段どうしても愛音を抱っこするので、上の子がせがんでも抱っこしてやれない時が多い。だからパパがいる時や、こうしておじいちゃんおばあちゃんがいる時はべったり張り付いて離れない。周りも構うから、一人目はどうしても甘えん坊になってしまうのよね。
「じゃあ、おじいちゃんおばあちゃんの所へ行っても、我が儘言ったりしない?」
「しないー」
「寝る前におやつ食べたりしない?約束出来る?」
「やくそーするー!」
聖貴は連れて行って貰おうと必死だ。
「それじゃ、聖貴をお願いします」
「あーっ」
わたしがお辞儀すると愛音も一緒に声を上げた。
「じいじ、ぷれぜんと、もってって、いい?」
貰ったプレゼントを全部持って行くと大変なことになるので、2個だけにさせた。
「ママ、サンタさん、じいじっとこにもくる?」
「そうだね、おじいちゃんとこにいますって連絡しておくわね」
「ほんと?やったー」
そして、こっそりとサンタさんからのクリスマスプレゼントを、お義父様の車に積み込ませて貰った。まだまだサンタさんを信じて待っているんだものね。
「いってきまーす!」
元気に手を振っておじいちゃんの車に急ぎ取り付けた予備のチャイルドシートから満足げな顔で手を振っている。
「泣き出さなきゃいいんだけど……」
勝の所で見て貰う時は美奈ちゃんがいるから聖貴はお泊まりも平気だ。だけど、俊貴さんの実家はどうだろう?たぶん、向こうにたどり着く頃には寝ちゃってると思うんだけど……
「さて、愛音もおばあちゃんにお風呂入れて貰ったし、ねんねしようか?」
腕の中でうとうと仕掛ける娘の背中を優しく叩いてベッドルームに向かった。


12月25日

俊貴〜

ようやく……おわった。
これで後は週明けに社長へ決済回しておけば何とかなるだろう。
課長の楓の分と、その部下の勝の分と……社長の亮輔の分は半分羽山に渡してやった。あいつもギリギリまで仕事していたはずだが、さっき『お先に』とメールが来ていた。
「さて、帰るか」
夜中の12時前、会社にはほとんど誰もいない。車で急いで戻っても12時は回ってしまうな……
こだわるわけじゃないけれども、24日は二人の結婚記念日だから、出来るだけ繋がって夜を過ごすのが最良だと思っている。
なにせ妻の身体は飽きない……いや、愛おしくて堪らないからね。何年経とうとそれは変わらないだろう。帰ったらもう寝ているかもしれない……悪いが、起こして相手をして貰わないと納まりそうにない。昨夜もやりすぎそうになるところを、今日うちの両親が来るのに可哀想だと手加減したんだからな。明日明後日は休みだし、久しぶりにわたしが家事をしても構わないだろう。料理は作りすぎて冷蔵庫の中に一杯だったし、愛音もほとんど離乳食だが、大抵作り置きがあるのも判っている。
お盆の休み以来だしな、子供が一人でも少ないこのチャンスを逃したりはしない。
そうだ、帰る前にメールを入れておこう。


「ただいま……ちゃんと約束守ったんだね?」
遅くなった時の為にタンスの引き出しに今年のクリスマスプレゼントを入れておき、それを身につけているようにとメールで言いつけておいたのだ。
「メ、リークリスマス……お帰りなさい」
恥ずかしげに身体を震わせて出迎えてくれる愛しい妻。
「メリークリスマス。やらしい格好だね……玄関先でそんな格好して……わたしを誘ってるのか?」
「そんな……俊貴さんがこうしろって……」
ちょっとおもしろ半分にネット通販で買ったベビードールに丈の長いローブ。どちらもシフォンとかいう透けて見えそうな薄いふわふわな素材で柔らかい。その下は小さな布きれみたいなショーツ一枚で、玄関先じゃちょっと寒そうで可哀想だな。
そして今年のメインプレゼントはチョーカー。普段は付けられないから、夜に彼女からおねだりしたい時に付けなさいってメッセージを添えておいたけど、一昨年のアンクレットも一緒に付けているところが彼女らしい。
「やだ、そんなに見ないで……恥ずかしい」
「かわいいよ……朱音」
手にしていたコートと鞄を置くと、そのまま顎を持ち上げて口づけた。軽くのつもりが、体中撫で回しているとだんだんと深くなってしまう。
「このままココでは寒いだろ?ベッドルームは愛音が寝てるのかい?」
「え、ええ……」
艶っぽく惚けたその顔で見上げてくる。
「じゃあ、リビングだな……それとも先にシャワーを浴びてきた方がいいか?」
一応羽山が気をきかせて出前取ってくれたから晩飯は済んでいる。もちろん社長のツケだ。
「……ちゃんと約束、まもったの……だから……」
少し泣きそうな顔をしている。可哀想に、我慢出来なかったのかな?
<愛音が寝たら、わたしのタンスの引き出しの一番下にあるプレゼントを開けみなさい。それを身につけて、一昨年のビデオを一人で見るんだ。我慢出来なかったら触ってもいいけれども、いってはいけないよ?そして欲しくて堪らなかったら、一緒に入ってるチョーカーを着けて待っておいで>
その通りにしたようだな……可愛い朱音。欲しいの我慢してる姿が扇情的で堪らない。
「このまま、いいか?」
頷く妻を抱き上げてリビングのソファに横たわらせた。
「愛音にその格好見せたりしてないな?」
「はい……」
「昨日はここにみんな来てくれてたのに……ここで一昨年したセックスを一人でみてたんだね?」
「……やぁ」
ソファの端に座り、朱音の身体を撫で回す。生地が薄い分、身体の温もりまで伝わってくる。堅く尖らせた突起を捏ねられては身を捩る。まだ触れてはいないけれども、たぶん、足の付け根はびしょびしょだろう。
「開いて。ほら……さっきしていたコトを自分でしてみせるんだ」
朱音はわたしの声が好きだという。優しく囁くように命令されると言うことを聞いてしまうと……ならば利用しない手はない。
「やぁ……恥ずかしい……」
そう言いながらも膝を開いてやると、濡れてシミの出来た布きれで隠されたソコを自分の手で隠してしまう。
「違うだろ……ここをどうしたんだ?」
その手を押さえつけてやると、濡れた音が聞こえたような気がした。何度も擦りつけると、まるで朱音が自分で動かしているように見える。いや、微かに自分が感じるように指が動いている。わたしも彼女の胸をまさぐりながら、自分のスーツの上着をそっと床に落とした。
「もう……無理……」
「じゃあ、どうして欲しいか言いなさい」
「んっ……お願い……俊貴さんが……」
「わたしが?」
「……触って」
「触るだけでいいのか?」
一瞬泣きそうになって、その表情が歪む。普段は決して泣かせたりしない。幸せに、笑顔の絶えない家庭を目指しているからな。だが、夜は別だ……こうして妻を困らせて、泣かせて哀願させてみたくなる。良妻賢母と言われるぐらい何でもこなす彼女が苦手なのは、自分からおねだりしたり求めたりすることだから……言わせて求められると嬉しい。
止まらないのだろう、自分の指でソコを浅く掻き混ぜながら、物足りなさで腰が蠢いている。
「い……れて……」
消え入りそうな声で懇願された。
「入れる前に、舐めなくていいのか?指を抜かないと舐めてもやれないぞ?」
「……うぅっ……意地悪……もう、やぁ……」
朱音が身体を起こしてわたしの胸に縋り付いてくる。
「自分じゃ……だめなの……俊貴さんじゃないと……」
半泣きでわたしのネクタイを緩め、シャツをはだける。そして開いたわたしの胸に何度もキスをしてくる。
「お願い……」
その手をベルトにかけて、外そうとするので手伝ってやった。そこから取り出したモノを何度もその手で擦り上げる。
「そんなに欲しいのか?まだ風呂にも入ってないのに?」
「……俊貴さん、早く……」
「しょうがない奥さんだ」
わたしはすっかり猛りきった己を、彼女の下着の横から濡れたソコに宛い一気に突きあげた。
「ひっ……んっ」
ソファの上、スーツ半脱ぎのままで、いやらしい格好をした妻と交わっている。そのことが酷く自分を昂奮させているのだ。腰を突き上げるたびに、カチャカチャとベルトの音がして、ちゃんと脱いだ方がいいのだけれども、それでも最初の快感に囚われた朱音は離してくれない。
「朱音……中、どろどろだね……そんなに我慢出来なかったのか?」
「んっ……ごめんなさい……だって……俊貴さんの声が……ビデオで……」
どうやら、ビデオの中でわたしが朱音に与えている言葉に反応したらしい。
「じゃあ、欲しいだけあげるから、自分でするんだ」
繋がったまま抱きかかえて、ソファに座る位置を入れ替える。今度はソファにもたれるように座るわたしの上に、ローブを落としてベビードールだけの朱音がまたがるように乗っかる。ショーツはさっきヒモを解いて取り除き、わたしも立ちあがった時にずり落ちたスラックスとボクサーブリーフは脱ぎ捨てた。
「さあ、頑張って」
「はぁ……ん」
下から軽く突き上げると、悩ましげな声を出して跳ね上がる。
「もっと、頑張らないと……さっきから朱音ばかりがイッてるんじゃないか?」
「だって……あぁん……」
微妙に朱音の腰が動き始める。
「そう……感じるんだろ?わたしも……気持ちいいよ……もっと、扱いて、搾り取っておくれ」
「あっん……あっん……やっ、突いちゃ……ダメぇ……やっ、あっ……もう」
イクと叫んで、わたしの身体にしがみついて痙攣する。だめだ、こんなに締められたら……
「わたしも……出すよっ、いいか?」
もちろんゴムはしていない。最近は危険日は必ずゴムをしたり、外にだしたり……避妊にルーズなのは夫婦だからで、出来ても構わないと密かに思っている。3人目はどうしようかと話していたが、避妊して出来てしまったらしょうがないなと結論は出ている。わたしも今日だけは避妊しないって決めてたからな。
まあ、安全日に近いけど……今日から正月明けぐらいまで大丈夫だと計算している。
「あんっ……欲しいの……俊貴さん……ああっ……ん」
「くっ……」
己のコントロールでなく、朱音に翻弄されたまま導かれる。ドクドクと脈打つように放たれる己の精は、ぐりぐりと腰を突き上げると、さらに搾り取られる気がする。
「ああ、こんなに……汚してしまったぞ?」
そっとソファに寝かせてから己を引き抜くと、たらりとソファに二人の出したものが溢れてこぼれてしまった。もちろんカバーをしているからその上にだが。
「もう一度、風呂に付き合って貰うかな?大丈夫、中でしっかり掻きだしてやろうか?」
甘く囁いたつもりだけど、ぎくりとした顔で拒否された。
前に風呂場でやりすぎた時に、逆上せたのが堪えたらしい。
「じゃあ、ベッドで……待っていなさい。もちろん、寝てはいけないよ?明日は休みなんだからね」
ベッドまで歩いていくよう命令してバスルームに向かった。もちろんこぼさないように、だ。


「と……しき、さん……」
「大丈夫か?朱音」
「わたし……」
「ああ、少し意識を失っていたみたいだな」
愛音がぐっすり眠っているのをいいことに、あれから……ベッドで休み休みだけれども明け方近くまで繋がっていた。
「もう……動けないわ」
「でも、ここは……まだ……」
腕も上がらない疲れようだが、わたしを包むそこはまだちゃんと反応している。ぐっと下腹部を押さえてやると眉を寄せて喘ぐ。
「やっ……もう」
コレで最後だ……あとはゆっくり眠らせてあげるから。
押さえ込んだまま腰を激しく使い、朱音が意識を取り戻すまで我慢していたそれを解き放つ。
「くっ……愛してるよ、朱音」
「あっ……」
彼女の隣に身体を移して、後の処理をしてやり、抱きしめ直した頃には既に眠りについていた。
「まあ、ゆっくりすればいいさ」
そう思って、自分もようやく眠りにつきかけた頃……

ピンポーン
高らかにインターホンのチャイムが鳴る。
「……んっ、なんだ……こんな時間に」
ピンポン、ピンポン、ピンポーン
続けざまに3回。時計を見るとまだ6時前だ……
「しかたない」
朱音は起き上がれないどころか、目も覚まさないほど深い眠りだ。まあ、あれだけやればな……
起き上がって気が付いたが、風呂上がりにバスタオルを腰に巻いたままで、そのまま襲いかかったんだっけ?急いで下着を取り出し身につけ、ついでに側にあったジーンズとシャツを羽織る。
「はい」
インターホンを見るとそこには……ご機嫌で手を振っている聖貴と大荷物を抱えた父の姿があった。
「親父?」
「すまんな……朝早くから。おまえのケータイに電話したんだが」
急いで開けたドアの向こうで父親がすまなそうに詫びていた。
「パパ、めりーさんなの!あのね、サンタさんにね、もらったー」
そういって聖貴が飛びついてくる。
「ああ、メリークリスマス。聖貴」
「電話……玄関にあったんじゃ気がつかんわな」
床に置いたままになっているコートのポケットから携帯が顔を見せていた。
「あ、ああ……すみません」
夕べ、玄関に置いたままだったことに今気がつく。
「サンタさんが楽しみで、5時には起きてたんだよ。その後は……家に帰ると言ってな。止めたんだが聞かなくて」
かなり激しくごねたんだろう。普段は聞き分けがいいのに、一旦言い出すと聞かないところがある。
「おまえの子供の頃にそっくりだよ」
「うっ……それは」
40歳になる男捕まえて子供の頃は止めてくれ。だが、父親からすれば昔のオレを懐かしく思い出したらしく、少しの間感慨深い表情で聖貴の顔を見ていた。
「寄ってく?珈琲でも入れるけど」
「いや、帰るよ。母さんが待ってるだろうしな。聖貴が帰ると言って泣いたのが寂しかったようだ……おまえの小さい頃を思い出していたみたいだからな」
「そっか……」
もう甘える事はなくなってしまったが、大好きな母親だ。色々面倒かけた分、自立したつもりでいたが、親にとって子供はいくつになっても子供なんだな……そんな気持ちも追々判ってくるのだろう。
「じゃあ、気を付けて」
「ああ、朱音さんに早くに起こしてすまないと謝っておいてくれ」
いつも朱音のことをいい嫁だと褒めてくれる。まあ、前の嫁が最悪だったのを知っているから余計だろうが。
「じいじ、ばいばーい」
明るく手を振る聖貴と一緒に見送ると部屋に戻ろうとして踏みとどまった。
やばいな……朱音はまだ全裸で、当分起き上がれそうにないのは目に見えている。
「聖貴、パパと一緒にケーキ食べるか?亮輔おじちゃんが買ってきたでっかいケーキがまだ残ってるぞ?」
「りょーすけ、にーたんだよ?おいちゃんいっちゃだめって」
「はぁ?あいつ、そんなこと教えたのか……」
まあいい、どうせすぐに○○ちゃんのパパって言われるようになるんだ。今ぐらいいいか?
「で、ケーキは?」
「食べるー!!」
朝からこんなの食べさせてたら怒られるけど、今日ぐらいいいよな?
「聖貴、お誕生日おめでとうな」
「めりーさんじゃないの?」
「みんながメリークリスマスで、聖貴だけお誕生日おめでとうだ」
「ママがいってった!」
「だろ?みんなから預かってる誕生日プレゼントもあるぞ?」
クリスマスのパーティを23日にするのは、毎年祝日という日程的なものもあるが、クリスマスイブは結婚記念日でもあるので、出来れば家族で過ごしたい。そして夜は夫婦二人っきりで……そして、25日はこの子の誕生日を祝う日だ。
毎年二重三重で目出度いことが重なる気がするが……これがうちのクリスマスの過ごし方だ。
「あ、ケーキ、ママは?」
「ママはね、まだ愛音とねんねだよ。男は休みの日ぐらい、女の人が寝てる時に起こさないであげるのが優しさなんだよ」
「ふーん」
わけも判らず頷いているが、いつかこの子にもそんな相手が出来るのだろう。そして、また自分も両親のように寂しさを味わうのだ。
「いただきまーしゅ」
愛音が目を覚まして泣き出すまで、美味しそうにケーキにかぶりつく息子と、しばし男同士の時間を楽しんだ。



25日メインカップル無事終了〜〜あとはおまけです。
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