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先生とあたし
7.懐疑
おねえちゃんにバレてしまった。
そりゃ、いつまでもナイショには出来ないと思っていた。
お互いに本気だってわかってるから。
でも一番知られたくないのはおねえちゃんだった。
先生はおねえちゃんが振った方だし、嫌われてるって思ってるらしいけど、たぶん違うと思う。
おねえちゃんは先生の写真をずっと持っていた。
袴田さんと逢うまでは彼氏もコロコロ変わっていた。
なにより、あれからあたしを見る目が、キツイ...
女の目であたしを見るんだ。
振り向くといつものおねえちゃんなのに、時々視線が痛くなる。
でも何も言ってこない。
先生の話は絶対したくなかった。
比べることも、昔のことも聞きたくない。
あたしには今の先生でいいから、他はイラナイから...
おねえちゃんにでも譲れない。
最近、袴田さんとうまくいってないからだろうか?余計にそう感じる。
でも、自信があるかって聞かれたらない。
出来るならあたしだけって自信と確証が欲しい。だけど、そんな事先生には言えない。唯一救いなのは、普段無口な先生だけど、ちゃんと気持ちだけは口に出していってくれる事。
これはきっと学んだとおもうんだ。今までのことで...
態度だって、欲情してる自分の身体を隠そうとはしない。キスだってはじまると止まらないし、危ないときだってある。
そう...
先生もあたしも、かれこれ1年以上、耐えている。
時々我慢が限界にきた先生が辛そうだけど、本気で我慢してくれてるのがわかって、それがまた嬉しかったりする。
あたしは経験がない分、想像ばっかりで、知らない分耐えられるんだと思うけど、先生はそんな比じゃないと思う。
「本当に我慢出来てるのかな?」
一番仲のいい亜美ちゃんがそういった。
亜美ちゃんは可愛くて、カレシともらぶらぶで、勿論お泊まりだってしたことのある関係で、あたしは付き合ってる社会人のカレシと1年以上そういうことがないとききだされてしまったその時、そういわれた。
「他で発散して、バージンの依里ちゃんだけ大事にしてるんじゃないの?」
「そんなこと無い、はず...」
「じゃあ、自分で頑張ってるのかな?すごいね、そのカレシも。うちなんか、アレで出来ないって言ったら口でシテって言ってくるぐらいだよ?まあ、若すぎて盛りがついてるのかも知れないけどね。」
若いって、同級生じゃない。別に27だって枯れてる訳じゃないもの。
その、元気になるときはすごく元気だもの。
我慢してくれてるだけ...
「亜美ちゃんは、その...シテあげるの?」
「うん。だって、聞かないもん、あいつってば〜最初はイヤだったけど、慣れちゃえばね、可愛いもんよ。」
「へ、へえ...そうなんだ?」
可愛いってよくわからないけど、こうやって耳年増になってくあたし。
先生はこんな女の子嫌いかなぁ?
一応、どうやったらいいか、やり方は教わったけど、出来ないよ...
そんな、触ったり、手とか口とかって。まだ見たこともないのに!
「先生、あの、変なこと聞いてもいいですか?」
夏休みにはいってすぐに先生の部屋にお邪魔した。
勿論勉強道具持参だし、本気で勉強してる。
先生なんかもう一回センター受けれるぐらい一緒に勉強してくれてる。
いつもは数学準備室で、毎日は行けなくて、先生の授業のあった日だけにしてる。受験科目も、センターを受けるから数学も入ってるんだけど、他の教科もあってなかなかたいへんなんだよね。
「なんだ?」
付き合って1年を過ぎて、先生とはかなり色々話せるようになってきたのは確か。
黙ってたり、思ってることまで我慢してたらきっとこんなに続かない。
お互い大切に思ってる分、ちゃんとお互いの話をする。それが二人の間のルールになった。
身体を繋がないって決めた分、心はしっかり繋いでおかないとだし。
「あの、我慢してます?」
「な、なにを急に言い出すんだ??」
久々に焦った先生の顔を見た。持ってたアイスコーヒーのグラスが揺れてテーブルの上にこぼれた。
「えっと、男の人って我慢出来ないって。定期的にだしたくなるって、亜美ちゃんが言ってたんです。」
「加瀬か?あいつは今、遠田と付き合ってるんだったな。くそ、余計なことを...」
苦々しい顔をして先生が視線を外した。だけど、わずかに耳が赤いような気がする。
「先生は平気なの??」
「それは、我慢してるよ。私も、男だし...けれども、依里子が私の生徒である間は、我慢するよ。そう宣言してしまったしね。」
そうだった。おねえちゃんにはっきり言ったんだよね。
「ホントに我慢しちゃうんだ...」
「依里子?」
あたしは、泣いていた。何だか悔しくてやりきれなくて。
「先生の想いって我慢出来るほどのものなんですか?それとも、あたしじゃ、その気になんかなりませんか?あたしのからだになんか興味ないですか?」
「それも加瀬が何か言ったのか?」
「だって、男のひとがスル時はえっちなの見たり、前にしたえっちを想像してするんだって。」
だから、おねえちゃん思い出したりしないで欲しい。厭だから、それだけは厭だから!
「それはだな、その時は、おまえ思い出してしてるから...」
「嘘っ!し、したこと無いじゃないですか!」
「最初に、見ただろう?それに触った...それを思い出して、私は...してるんだ。いつだって、依里子が欲しいよ。初めての依里子に酷いコトした、なのにその時を思い出してしてしまう。そんな俗物なんだよ、私は...」
「じゃあ、ちゃんとしたやつ、次に思い出せるように、ちゃんと覚えてて。」
あたしは立ち上がると半袖のカーディガンを脱いだ。次にワンピースの背中のファスナーに手をかけたとき、先生の手が重なって止まった。
「や、やめなさい、」
「だって、ちゃんと、見て欲しいから、他の人見たら厭だから!」
「わかった、わかったから...じっとしておいで、私が脱がすから。」
ぎゅうって抱きしめられた。
すごくどきどきして、それでもって安心出来る先生の腕の中。
「先生が脱がすの?」
「そうだ、脱がしたいんだよ。男はね、それも楽しみの一つなんだから奪わないでくれ。いつだってこうやって、おまえの服を脱がすのを想像したりてたんだから。」
ゆっくり降ろされるファスナー。肩を落とすとすとんと床にわっかが出来る。
下着姿のあたしを、先生の視線がじっと舐めるほど全部を見てる気がした。
「や、先生、そんな、じっと見たら恥ずかしい...」
「見て欲しいと言った癖に?」
くすっと笑う今の先生、少し意地悪っぽかった。
「だって、そんな、目、怖い...」
そう、笑ってても目が笑ってないんだもの。
「自分を押さえて見ないと、今にも飛びかかりそうなんでね。」
すーっと、先生の手が肩から腕を流れて手のひらまで落ちる。その手をぎゅっと握られたかと思うとすとんと先生の腕の中に落ちた。
「全部脱がしてしまいそうだ...」
耳元でため息。
「いいよ、先生なら。」
「馬鹿、止まらなくなる。」
「止めなくてもいいのに...」
押し問答の最中も、先生の大きな手のひらが、素肌の背中を彷徨う。
「先生の手、気持ちイイ。」
「依里子、煽るのはやめてくれないか?私も、限界があるのだが...」
煽る?少しは大胆になってる気がするけど、それは先生が手を出さないって言ったから、だから本当は安心してるのかも知れない。でもあたしは、わかっててやってるのかな?それとも、限界超えて欲しいのかな?
「こういうとこ、似てる?イヤ?」
思わず聞いてしまった。前に、先生は流されたっていってたけど、あたしには流されてくれないのか、それがすごく悔しかったのは確か。
「それは結衣子の事を言ってるのか?気に、してたのか?」
あたしは応えずに先生にしがみついた。
「似てないよ。1年一緒にいてそう思った。全然違うよ。邪気がない分依里子の方が質が悪いよ。ただ、彼女の事がなければ、きっと今時分理性に蓋をして、思う存分依里子の肌を味わってると思う。だけど、彼女と同じ扱いにしたくないんだ。いや、もっともっと大事に、大切にしたいから...もう失敗したくないから、どんな苦しみにも、依里子の誘惑にも耐えてみせるよ?」
「その間に、あたしが他に行っちゃわないか心配じゃないの?」
「そうなったら、諦めるよ。他に行きたいならそうした方がいい。その方が依里子も苦労せず幸せになれるよ。だけど、1年間そうしなかっただろう?だったらあと半年、お互いに我慢するのはだめなのか?」
ずるいなぁ、先生。あたしがそうしないってわかってるみたいに。
「夏の間誘惑しに来てもいいですか?」
「ダメだ。そんなに忍耐強くないから。」
ニッコリと笑うその笑顔が憎らしい。あたしはがっくりと項垂れてしまう。学校で会えないなら、じゃあどこで逢えるのかと。
「けれど、週末ならいいよ。逢えなくなるのは私も辛いからね。」
「ほんとうですか?」
「ああ、どこかに出掛けてもいい。」
「うれしい。」
「自分で思ってる以上に、依里子と居たいらしい。」
「その言葉だけでも、じゅうぶん!」
あたしは先生の首に抱きついた。
「いや、その恰好で抱きつかれても...キスも出来ない。」
「どうして?」
「キスだけですまなくなる。だから、服を着てくれ。」
先生はあたしの手を降ろさせると、額に唇を落として、それから耳元で囁いた。
「そのあと、たっぷりキスをしよう。今日は依里子が離してくれと言っても離さないから。」
あたしはもう一度飛びついてあたしからキスをした。
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