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 渚 Side 1

会社の同僚、美雪をその気にさせるのは難しい。
奥手の上に天然箱入り娘とつけておかなくてはいけないほど何も知らないし、それを疑問にも思っていない。
だけど、ある日気がついた。
わたしも憧れる営業の沢田さんが、じーっと美雪をみてるじゃないですか?
(ははーん)
その気有りと踏んだわたしはしっかりと確認をとってみた。
「美雪ですか?」
「えっ?」
その名前を口にした途端、あのやり手の彼が一瞬ワタワタしたのは見物だったわ。
「知りたいですか?美雪に彼氏が居るとか居ないとか?」
「居ないだろ?」
そう聞いた頃にはもう普通に戻っている。
う〜ん、おもしろくない。

次に考えたのが、会社の年末年始を使ったスキーコンパ。わたしも彼氏を見つけるために応募したんだけど、メンバーが少ないらしくって、幹事の室井さんからあたしに女性を集めてくれってお願いが来た。
室井修造は沢田さんの同期で、同じくやり手営業マンだけど、ちょっとお調子者。
「じゃあ冴島深雪なんてどうですか?」
「ええ??彼女来てくれるの???それは凄い!一遍に男性参加者増えるかも??」
そりゃそうでしょう。
社内コンパにも参加しない彼女は清楚でお嬢様で、お嫁さん候補NO.1だもの。
予想通り大物、沢田さんまで釣れた。
だけど呼び出されてお願いされたのは、彼女と二人っきりになる計画...
意外と強引なんだ、沢田さん。ま、しかたないか、美雪落とすのは並大抵の努力じゃ済まないし、沢田さん本気なの判ってるから。


「今時分どうしてるだろうなぁ、あのふたり。」
ホテルのバーでふたりで飲みながらあれやこれやと考えを巡らせる。
「ねえ、本気で沢田さんが手を出さないって、思います?」
「あり得るかもだよ。あの子前にしたら出せる手も出せないことあり得るだろうし...けど、まあ、あいつが空振りってあり得ねえよなぁ、狙った物件は外さない、当社NO.1の営業だからね。」
「ですよねー。」
「で、ここにも営業No.2が居るんですけど、いかがっすっか?」
「はいはい、室井さんも頑張って彼女探しましょうね〜幹事だからといって遊んじゃダメって決まりはないんですから。」
「そんなもの、周り見回してもキミしか居ないでしょ?」
「え...冗談、室井さんも美雪みたいなタイプがいいんでしょう?」
わたしは正反対のタイプだから。
「ま、ツアーの間に、じっくりほだされてくれ。」
そういってにやって笑う眼鏡の奥は、結構わたし好みの目をしていた。




結局、バーでのお酒のあと、流れ的に部屋で一緒に飲もうとか言われて、室井さんが幹事の特権で取っていた一人部屋にわたしは連れ込まれていた。

取りあえず寝てみるかと思ったんだけど、なかなかのヒット商品だったわよ。
独りよがりでなく、結構奉仕してくれるし、こっちもお返しにお口で奉仕したけど、我慢強かったわね。その後、倍返しされた気がするけど...
まあ、予想以上の遊び人だったみたい。
わたしも人のこと言えないけどね。今回だって、誰かとこういう展開になるのが目的だったわけだし。
美雪ねらいの男が言い寄ってくると、まずわたしに話を聞きたがるので飲みに誘うの。そしたら大抵わたしと一夜の過ちを犯して、美雪に顔向け出来なくなって去っていくのよね。
夢持ちすぎなのよ、自分は散々遊び回っても、彼女だけはこんな子をって望んでも、軽い気持ちでいる限りはさっさと目の前の誘惑に惑わされるのよね。
美雪を守りたかったのか、それとも嫉妬だったのかしら?どっちにしろ沢田さんには感謝されたいわ。
唯一、よろめかなかった人だしね?


「あのさ、おまえずっと沢田のこと見てただろ?」
「え?」
結構キツイ一戦を終えて、ベッドにへばってると、煙草に火をつけた室井さんが天井見ながらそう聞いてきた。
「沢田は冴島ばっかり見てるけど、俺はおまえ見てたから判ったんだけどな。」
「見てた?」
「ああ、なんかさ、冴島のことムキになって守ってみたり、煽ってみたり、おもしろいのな。けどさ、おまえ気付いてたか?冴島ってさ、気弱そうに見えて、実はしっかりしてるし強いんだ。おまえの方が結構脆いだろ?男に対してはやたら自信持ってる癖に本気にされてるだとか思ってないし、女友達も意外と少ないしな。」
「な、そんなこと...」
「判る。見てたっていっただろ?」
「室井、さん」
「冴島と沢田のことで一生懸命になってるおまえがかわいかったよ。」
いつの間か煙草をもみ消して目の前に顔??
「本気だから、さっきもかなり頑張ったんですけどねぇ?渚をいかせるのに必死になりすぎて、こっちがまだ満足してなくて。」
「はい??」
「今度は俺が満足するやり方でいい?」
「いや!無理だから、室井さん。わたし、既にバテてますし、」
「まあ、もうちょっと持つでしょ?」
「だから、む...んっ」
塞がれたキスは煙草の味がした。
「すぐで申し訳ないけど、」
「んっあっあぁぁ...」
既に身体の中を埋めてる熱い塊...
「ちょっと、鳴いてもらうね?少々じゃ壊れないでしょ、探してたんだよね、俺で壊れない丈夫な彼女。」
「はぁっん、な、に...丈夫って?」
「俺を彼氏にするんなら、すぐにへたってもらっちゃ困るんだよねぇ」
「な...んっ、じゃあ、こっちも...」
息切れしながらも、順番に締めあげて、にっこり笑うと、ほんと嬉しそうな顔をしてくれるんだから。
「さ、すが...じゃあ、遠慮無く?」
「きゃぁあ!!!」
その後は半分悲鳴あげてたかも...


朝は起きあがれなかった。


その後、お互いに好きとか付き合おうっていった訳じゃないけど、続いてる。
忙しい割にマメだし、必ずお持ち帰りされてるし...
当分、彼以外じゃ満足出来そうにないから、他に行く予定もないし、向こうだって、具合が良いとか離せないとか言ってるから、今のところは大丈夫かな?

年明けに美雪と沢田さんの4人で逢ったときも驚かれたけど、まあ付き合ってることになってるらしいわ。それ以降4人だったり、ふたりだったり。


でも、そろそろ言わせたいのよね「好き」って言葉。
隣で無防備に眠ってる彼の鼻を摘んでやる。
目が覚めたら聞いてやるの。

「ねえ、あたしのこと好きなの?」

ってね。
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素材:FINON