2014サイト開設記念作品

番外編 4 同窓会〜志奈子〜
〜同窓会のあと・志奈子〜

 その日は皆で呑んで、笑って、夜半すぎまでそこで過ごした。
 貸しきった風間くんの店では時間制限はないらしく、そのまま二次会に行かずに飲み明かした。帰らなきゃいけない人がパラパラと名残惜しそうに帰って行く。
 途中、愛梨のことが心配になって電話したけど、朱里さんが『もう寝てるから、安心してゆっくりしてらっしゃい。明日は皆家にいるから、お昼すぎでも夕方でも、好きな時間に迎えに来てもらっても構わないからね』と言ってくれた。
 甲斐くんはかなり飲んでるらしく、今日は泊まり確実みたい。どこに泊まるつもりなのかは知らないけど……朝までここでもいいけどね。皆楽しそうだし。でも、わたしの場合はそう長くもちそうになかった。もともと夜更かしがあまり得意じゃないし、慣れないお酒のせいもあって、夜中を過ぎるとうつらうつら。
「志奈子、眠そうだな」
「ん……少し眠いかな」
「酔っちゃったかなぁ? そんなに飲ませたつもりはないんだけど……」
 同じテーブルで面倒見てくれていた女の子たちが気を使ってくれるんだけど……彼女たちも残ってるだけあって結構お酒に強い。
「コイツ弱いからな」
 隣に座って甲斐くんが肩を貸してくれる。少しだけ安心して、楽になる。
「うわぁ、委員長が誰かに甘えてるトコなんて初めて見た!」
「ほんとだ! 酔ってほんのり赤い顔してさ……目も潤んで可愛いのな。甲斐、おまえ女見る目だけはあるな」
「なんだよそれ。褒めても女の紹介とかもうしないから」
「えーそこをなんとか!!」
 酔ってだんだん無礼講になってくるとまるで昔に戻ったような騒ぎだった。
「あーでもマジで眠そうだな。委員長、奥で休むか? 一応仮眠用の布団とかあるけど。その代わり、他に潰れた奴らと一緒になっちゃうけどな」
 風間くんが気を使ってそう言ってくれたけど、その言葉に甲斐くんがむっとしたのがわかる。
「いいよ。うちの大事な奥様を、他の男と一緒に雑魚寝させられないからな」
「はいはい、んじゃどうすんだ。車で来てるんだろ?」
「まあ、外に出てから決めるよ。車は取りに来られるまで置いといていいか?」
「いいよ。そんじゃ、気をつけてな」
 シラフな風間くんたちに見送られて、わたしたちはお店をあとにした。このあと最後まで残ったメンバーは明け方近く、潰れるまで飲み明かしたらしい。

「おまえも久しぶりに飲んだんだろ?」
「ここのところ、あまり飲む機会なかったからね」
 店でお酒を飲む機会も多く、めっぽうお酒に強い彼はかなり飲んだみたいだけどまだまだ余裕っぽい。そういえば、潰れるほど飲んでるところなんてあんまり見たことがないな。付き合いで仕事の帰りに呑んでくるときもあるけど、家ではそんなに呑まない。一緒に飲むときは、わたしにも飲めってやたらすすめて、酔っ払ってわけがわからないまま色々されてしまうこともあるから、ちょっとこわいし。
「さて、どうするかな」
 どうするって……夜中の繁華街、周りもそろそろ静まりかけている。
「ここ、にでも入る? この時間じゃ普通のホテルより気楽に入れると思うけど」
 いつの間にかラブホテルの前だった。あれ? いつのまに??
「亮平に教えてもらったんだ。泊まれるとこ」
「もしかして……最初からそのつもりだった?」
「あたり。久しぶりに愛梨のいない夜だから、志奈子を独占するつもりでね。その割に、かなり飲んだけどな」
 ラブホの入り口はまるでどこかのカフェかホテルのロビーみたいで、だけど壁にはたくさんの部屋の写真がパネルになっていた。その中から広そうな部屋を選ぶと、ボタンを押して出てきた鍵を受け取って奥へと進んでいった。
 やっぱり慣れてるんだよね……こういう時実感してしまう、経験の差。彼は今まで多くの女性と、こうやって関係してきたんだよね……今はもちろん、妻であるわたしだけだと言ってくれるけど、お店を手伝っている限り、そういう誘いも多いはずだ。
 今日だって、本当はすごく悔しかった。半分脅されたらしいけど、その為に宮下さんのこと、抱いたんだよね……
 気持ちがなくてもそういうことが出来る人だってわかってたけど、悔しくて腹立しい気持ちがずっと燻っていた。
「志奈子? どうした、気に入らなかった?」
「ううん、そうじゃない……素敵な部屋ね」
 彼が選んだのはお姫様の部屋のようにベッドには天蓋が付いて、お風呂もさっき覗いたら脚付きのバスタブだった。覗くというより、ガラス越しだから丸見えなんだけど。
 幼い頃から何かを期待したり望んだり欲しがったりしたことはなかった。だけど、こういうお姫様みたいな部屋には少しだけ憧れていたかな。愛梨がもう少し大きくなったら、お部屋を可愛くしてあげようと思っていた。だけどここは、やっぱり可愛いっていうよりもちょっと豪華。だって、ラブホだものね。
「だったら……そんな顔するなよ。それとも、今日のことで怒ってるのか? 宮下のことは……ほんとに、ごめん。同窓会であんな事言い出すなんて思わなかったんだ。それに随分昔のことだったから」
「うん、それはわかってる。甲斐くんに責任はないし、それに……嬉しい事もいっぱい言ってもらったから。ただ、色々と複雑なだけ」
「昔、アイツと寝たことか?」
 わたしはコクリと頷く。わかっていてもなんとなく……嫌だったから。
「やっぱそうだよな。オレだっておまえが他の男とって話し聞いたらいい気はしない。たとえそれが無理やりだったとしてもだ」
「うん……」
 そっと抱きしめられた。その腕がいつもより少しだけ遠慮がちで、なんだか……学生時代に戻ったかのようだった。
「せっかくこうしてふたりきりになれたんだから、オレはおまえのこと目一杯愛したい。そんなことで志奈子の気持ちどうこうできるなんて思えないけど、おまえを抱いてオレが幸せな気持ちになりたい……だめか?」
「うん、いいよ。わたしもそうしてほしい、かな。忘れさせてくれる?」
「ああ、もちろんだとも。オレも忘れさせて。なんか、あいつらのおまえ見てる視線思い出したら腹が立ってきてさ」
 あいつらって、風間くんとか香川くん達のこと?
「どうして腹が立つの?」
「あいつら、志奈子のことを……オレが抱いてる女だって見てるから」
 それって、考えてみたら事実なんだけど、そんなふうにみてるものなの?
「あっ……香山くんが言ってたけど、遊べる女の子を回してたって、ホントなの?」
「なっ、そんなこといつの間に……くそ! 今度あったらぶっ殺す! いや……嫁に言ってやろうか? アイツのやってきたこと、全部」
「それ、自分の首締めることにならない?」
「うっ……」
 そう返すと、甲斐くんはすぐに黙ってしまった。今日はちょっとわたしのほうが強気かもしれない。
 だってしょうがないよね。いくら若い頃の話でわたしのためっていうのがあっても、いろんな女の人とそういうことしてきたからで自業自得だし。やったことはやっぱり返ってくる。それに、いくらわたしとそうなる前のことでも、こんなにも苦しくなるのだから……少しぐらいはわたしの気持ちもわかってほしいな、って。
 甲斐くんが気付かないところでやたら聞かれて困ったんだよ? 『甲斐くんってあっちの方凄いってやっぱり本当なの?』とか『よく回してくれた女の子がさ、アイツ凄いって褒めるんだよ。けどその分冷たいとかって言ってたけど、委員長苦労してない?』っていらぬ心配の数々。
 言われたことを甲斐くんにも話した。
「オレも、結構聞かれたよ。あれだけモテてたオレが、大学時代の一時期除いて全然遊ばなかったのはやっぱりおまえが相当イイのかって。聞いてきた奴は殴っといたけどな。あいつら、他に聞くことねえのかよ!」
 昔の高校時代に戻ったような口調で、なんだか今夜は高校時代の彼と一緒にいるみたい。
「他には『子供可愛いか?』とか『あいつ本当にパパやってるの?』って聞かれたよ。あとは、『泣かされてないか?』ってかなり心配してくれてたよ。風間くんと香川くんが『浮気したらオレ達に言えよな、夫婦でシバキに行ってやる』って言ってくれたの」
「おまえ、ちょっとここで待ってるか? オレ、もう一回戻ってケリ入れてくるわ」
 もう一度上着を着ようとする彼を急いで止める。本気で言ってるの? こんなトコに独りでなんて……ヤだよ。
「もう、何言ってるの。全部自業自得だって言われてるからね」
「くそ……わかってるけどさ」
 ブツブツと文句を言いながら携帯を取り出してなにか打ち込んでた。
 すっごく拗ねてる顔はちょっと子供みたい。最近はパパらしくなったし、わたしを抱くときもいつだって余裕で憎らしいぐらいなのに。香川くんも風間くんも小学校や中学から一緒だから、戻っちゃったのかな? なんだか可愛いな。
「あーもう、なんか今日は余裕ねえ。昔に戻ったみたいだ……」
 同じこと感じてたのかな。でも、甲斐くんの昔ってどのくらいのことなんだろう? その中にわたしはいるのかな。それに、高校時代のことは思い出しただけでも恥ずかしくなるようなことばかりしてたし、あまりいい思い出って感じじゃなかったのに
「前にさ……あの頃のオレは、おまえに対する気持ちに気づいてなかったのに、先にカラダが気づいてたって言っただろ? 高校の時、最後だって言われてこうやってラブホに入った時も、諦めるつもりは全然なくて、ただもうおまえを抱くことしか考えられなかった。離したくなくてどうやったら関係が続けられるって、それかばっかり考えてたんだ。あのあと急にいなくなってショックだったけど、見つけた時もおまえ抱いて手に入れることしか考えられなかった。あの頃のオレはほんとに馬鹿だったよな。ちゃんと言葉にしておけばよかったのにな……そしたら、今日みたいなことにもならなかっただろうし」
「わたしも……馬鹿だったなぁって思うよ。思い出すのが恥ずかしいぐらい何も言ってなかったのはわたしも同じだったもの」
「だけど、あの頃のオレ達がいるから、今があるんだよな。そういう意味では後悔はしてないよ」
「うん……でも、見られてたなんて、恥ずかしすぎるよ! もしそれをわたしが知ったら、死にたいほど悔やむことがわかってたから、わたしには知らせずに対処してくれたんだよね。ありがとう……でも想像しただけで恥ずかしくて、死にたくなる」
 誰かに見られてった事実が、いくら若かったあの頃のことだとしても、いたたまれない。
「おいおい、そんな可愛い顔するなよ。恥ずかしがってるおまえって、たまんないんだよな、オレ」
「えっ、なに……」
 引き寄せられて顎を持ち上げられたまま見上げる彼の目は、もうすでにわたしを欲しがってる。
「馬鹿なのは今もあんまり変わってないのかもしれないな。おまえのこと、あいつらに見せるのも嫌でさ……途中から早く帰って抱きたいって、ずっと思ってた。宮下があんな事言い出してホントに気分悪くしたろ? 昔のことだけど許せなかったらオレのこと殴ってもイイぞ。だけど、過去のことはもうどうしたって元には戻らない。そのことはもう十分にわかってるから、これからを大事にしよう」
「そうだね……」
 過去は変えられない。だからこそ、きちんとその時に言葉で、ちゃんと思いを伝え合わないと後悔するだけなのだ。自分をごまかしてもあとで辛い思いをするだけなのだから。今を大切に、考えていることはちゃんと口にする。それがふたりのルール。
「おまえが楽しそうにしてるから、できるだけあの場にいさせてやりたかったけど、もう我慢の限界なんだ。一刻も早く抱きたくて出てきたんだからな」
「あっ」
 壁に押し付けられ、重なる唇に入り込んでくる甲斐くんの熱い舌。かなりお酒臭いキスで、また酔わされそうになってしまう。剥ぐようにわたしから衣服を奪っていく彼。残った下着を脱がすのも惜しんでわたしの身体に指を這わせてきた。
「なぁ、昔みたいに……やろうか?」
「えっ?」
「高校時代、校舎のあちこちでこうしたよな? トイレや、空き教室だけじゃなくていろんなとこで志奈子を抱きたかった。ああやって見られたりしたからあんまり無茶できなかったけど、いつだってどこだって、学校でも、外でも抱きたいんだ」
「甲斐くん……」
「このまま、あの頃のように抱くから。疲れて立ってられなくなるまで……そしたらベッドで、な」
胸の先を摘まれて身体をヒクつかせる。降りてきた唇が首もとを掠め鎖骨を舐め上げて、そしてブラを引きずり下ろして胸の先に吸い付かる。
「ああん」
 返事の代わりに甘い声が漏れてしまう。わたしも期待、してたみたい。こんな風にされること。ここに入る前から身体が熱くて焦れていた。早く触れてほしかった。他の誰にも触らせたくない、それは同じだ。甲斐くんはわたしだけのもの、そう早く実感させて欲しかった。
 空いた手がヒップラインを弄り、昂ぶる彼自身を押し付けて腰が揺らぐ。あのころも、こうやって立ったまま責められたことを思い出す。
「やっ……ん」
 下着の上から秘裂をなぞっていたその指が不意に中まで潜り込んでくる。その指先は濡れた襞をゆっくりと嬲るとそのまま中へ沈み込んだ。いつの間にか濡れて溢れかけたソコは、ぴちゃぴちゃと水音を漏らした。
「はやく……志奈子の中に入りたい。オレのだと実感させてくれ」
 すっかり濡れたソコの準備はできてはいるが、いつものようにたっぷりと愛撫されて溶けきってはいない。この状態で彼を受け入れたらどうなるかわかっていた。
「やぁ……これ、ダメっ」
 壁に押し付けられたまま、片足を持ち上げられて性急に繋がった。
「はっ……ぅうん」
 一気に奥まで……こんなのダメ! すごくキツくて、おかしくなってしまう。
 それは彼も同じようで、いつもの余裕のある顔じゃない。片眉を眇めて息を吐いて耐えていた。
「キツイな……志奈子のナカ。濡れてるけど、ほぐしてないから……すげえ、たまんねぇ」
「やっ……すごいの、甲斐くんのが……」
 グイグイと押し付けるように擦り上げられて、その内側の感触のすべてを感じてしまう。
「しないで、そんなに……ヤだ」
「なんで? きつくて、気持よくて、むちゃくちゃいいのに? 奥の奥まで繋がりたいんだ」
 そう言いながら彼はズンズンと腰を打ち上げてはグラインドさせ、ゆっくり引き抜いてはまた一気に奥深くまで突き上げてくる。その感覚がはっきりと伝わってきて、わたしは快感から逃げられずに一気に昇りはじめた。
「ダメ、おかしくなる……こんなの……」
 いつものようにたっぷりとベッドで可愛がられたあとじゃない。なのに、感じすぎて……怖かった。
「おかしくなれよ、いつだってオレは志奈子を狂わせたい。オレじゃないとダメだって言わせて、欲しいと乞わせたいんだ」
「そんな、わたしには甲斐くんだけだって……わかってるくせに」
「そうだな、オレだけだ。今のオレもおまえだけだ。結婚して、子供も出来て、なのにこんなにも抱きたくって……気が狂いそうになるオレはおかしいのかもしれない。家庭が大事でも、人はだれだってどこで間違いを犯し失敗するかわからないんだ。そんな奴らを多く見てきた。だから、よけいに信じることも大切だけど、その思いを伝えることも、身体にわからせることも大事だって思うんだ。抱きたいのはおまえだけだ。狂わせて身体の奥の奥までオレのものにして離したくない」
「待って、ねえ……今日は危ない日よ? 何もつけてない……よね」
「ああ……悪いけど、今夜は避妊するつもりなんてない。もう誰にも触れられないように……するんだ。今日のオレは昔みたいに志奈子を抱くことしか考えられないんだ」
「でも、あっん、ダメ……」
「くっ……ダメって言いながら締め付けてるじゃないか。気持ちイイんだろ?」
「だって、甲斐くんがわたしだけって言ってくれるから。昔みたいに抱くことしか考えられない、なんて言うから……今日、色々言われて、今はわたしだけってわかってても、すごく辛くて……こうやって、昔みたいにされると、あの頃もわたしだけだったのかなって。言葉にはしてくれなかったけどそうだったのかなって思えて、嬉しいの」
「そうだよ、そのとおりだ。ずっとそう思いながら抱いてた。あの時も……だけど、オレ達はまだ子供で、自分の気持ちもおまえの気持ちもわからないまま、そのことに焦って、ひたすらおまえをまるで憎むように抱いていた。おまえの中に入ってないと狂いそうになる日もあったんだ。セックスなんて……慣れてたはずなのに、避妊してたのに……自分のものにするために、孕まして無茶苦茶にしてしまいたかった。あの時みたいになってるよ、今のオレ」
「あん……やだ、おっき……」
「ああ、もうヤバイよ、オレ。マジで危ない日なんだよな?」
「んっ……そう、だよ」
「もう少し大事に抱きたかったけど……壊していいか? 今夜、志奈子を全部オレのものにして食っちまっていいか?」
 十分むちゃくちゃにされてると思ったけど、それでもずっと危ない日は避妊してくれていた。お腹に赤ちゃんができたら、もう無茶なこと出来ないからって。愛梨がお腹にいる間も、かなり辛かったらしい。でも、彼がそう言ってくれるならかまわない。
「いい、よ……おかしくなるぐらい、抱いて。壊れないから……だって、ちゃんと愛されてるってわかってる。大事にされてるってわかってるから」
「志奈子っ!!」
「ああっ……」
 抱え上げられて、激しく突き上げられる。彼の首に捕まってひたすら振り落とされないようにしがみつくだけ。
 逃げられない……後ろを向かされて、そのまま激しく責められた。
 あの頃、たとえ短い時間でもこうやって繋がろうとしていた。心まで繋がれるなんてしらないまま。
 だけど今は知っている。心も、身体も繋がれることを。そして、愛の結晶を生み出すことができることも。
「もう、だめ……立ってられ、ない」
「わかった。ベッドで……まだまだ、終わらないからな」
 そのまま歩かされ、ベッドに戻って組み敷かれると脚を高く抱え上げ攻められた。
 快感から湧き出た声は次第に枯れて、ひいひいと笛のかすれたような喘ぎ声だけが残る。
 学校で抱かれるときは、声をずっと抑えていた。最初で最後のつもりでラブホに来た時は、思いっきり声をあげた。死んでしまうんじゃないというほど、気持よくって。自分が壊れるのかと思った。
 また今日もあの頃のように、甲斐くんがわたしを壊そうとしている。奥の奥まで攻めてきて、わたしから最後の悲鳴を絞り出させようとしていた。
 激しく肌のぶつかる音は大きく部屋中に響き、まるで互いに聞かせ合うような激しい交わりだった。
「出すから、奥に……志奈子の一番奥に!」
「お願い、全部わたしに欲しいの……もうほかの人なんて、抱いちゃ嫌」
「おまえ以外抱くもんか! 全部、一滴残らず志奈子の中に注いでやるよ」
 久しぶりに見る獣みたいな甲斐くんの表情。こんな思いつめたような激しい顔でいくども抱かれた。想いが繋がっていないと思い込んでいたけど、それでも抱かれて嬉しかったのは、本気で彼がわたしを欲しがってくれているってわかっていたからだと思う。
「甲斐くん、甲斐くん! わたし、もう……」
 イキ過ぎて胸が苦しい。呼吸がまともに出来なくて、手足がしびれて頭がぼうっとなって、それでも離れたくなくて彼を求めて手を伸ばす。甲斐くんはわたしを抱き起こして自分の上に乗せたまま強く持ち上げる。
「やあぁ……これダメなの、深くて」
 だけど自分で気持ちよくなれる。それが怖いだけなのだ。
「いいよ、もっとイケよ……くっ」
 そう言いながら、何度も深く突き上げてくる。
「イクっ……ん」
 我慢できなくて、一番いいところを擦られて……わたしは息を止めて全身を引き絞るように絶頂を迎えた。
「志奈子、くっ……こんなに締め付けられたら! オレを狂わせる気か?」
 深く捉えられたまま彼の動きが一瞬止まる。それでも快感はやまず腰が跳ねて止まらない。
「あっん、イってるの、止まらないの……だめ……やっ……ああ」
「くそっ」
 背中から落とされ、脚を抱え込まれたまま激しく腰が打ち付けられる。わたしの感じるトコとか、そんなの関係なく、甲斐くんが我慢できなくなってむちゃくちゃに腰を使っていた。
「あぁ、もうだめだ……イイ、志奈子……くっ、出すぞ、もう、ああっ……出る、ぅぐっ……ぁああ……」
 快感を伝える声が震えて、泣きそうに聞こえた。彼の腰は何度も震え、わたしの身体の奥に熱い彼の迸りを放ち続ける。その瞬間、わたしの身体が緩み――――堕ちた。
 もうだめ、こらえきれない……震える下半身がコントロール不可能になって、何かがわたしから溢れだしていく。
「やっ……見ないでぇ!!」
 お漏らししたようにシーツの上に広がっていく水たまり。止めようとしても止まらない羞恥心。そして震え続けて止まない快感。
「恥ずかしいの、だめ……」
「可愛い……志奈子。全部、みせて……気持ちよくなりすぎたとき、たまにこうなるよね? ああ、その恥ずかしいところも、全部オレのだから、見せて」
「か……い……くん」
 わたしは目の前が真っ白になって、意識が消えていく。
「愛してる、オレだけの……」
 わたしの全部が彼のものになった瞬間、記憶はもうなかった。

2014.12.24
11周年Thank you!
遅い更新ですみません。志奈子は書けたのですが、甲斐視点はどうしましょうね(笑)
総まとめ的なものでも書いて番外編収めますね。その後の同窓会って感じでw
とりあえずクリスマスなので、メリークリスマスです!
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写真素材 :オリジナル(転載不可)