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その後・3

〜挙式編〜

引っ越した次の週は、わたしの実家へ挨拶に向かった。まずは甲斐くんと一緒に。
「このたびはその……大変ご心配をおかけしてしまい、申し訳ありませんでした」
はじめましてのあいさつの後、甲斐くんは深々と頭を下げた。まさか、出された座布団を辞して、手をついてまで謝るなんて思ってもいなくて、わたしはハラハラし通しだった。
「子供を授かってからと順番は逆になりましたが、先週無事に引っ越しと入籍を済ませました。事後報告になりすみません」
娘さんを下さいっていうわけにもいかなかったから、甲斐くんは頭を下げながらそう挨拶してくれた。
もう籍も入れてるし、本当に報告だけのつもりだったんだけど、こんな風にかしこまって挨拶するなんて……だけど、その潔い態度は、義父には気にいられたようだった。義父はわたしが思うよりももっとわたしのことを心配してくれていたらしかった。ここに帰って来て子供を産んで育てると決めた時も、凄く楽しみにしてくれていたそうだ。義父の子たちは皆それぞれ独り立ちし、遠く離れて暮らしているから、孫と一緒に住めると……
そして、子供の父親の名前を何度も聞かれたけれども、わたしが言わなかったから……ひとりで育てると決心したわたしの心情を思って、直接動きはしなかったものの、母の話では相手には相当腹を立てていた事を後で聞いた。本当の父親のように怒ってくれたらしい。
「いや……わたしどもも、長い間志奈子と連絡も取らずにいた情けない親です。大学時代も随分と世話になったらしいですな。本当にありがとう」
義父も改めて甲斐くんに向かって頭を下げていた。どうやら母がうまく伝えてくれていたようで、怒りは解けているようだった。
「いえ……そんな」
だけど、大学時代の同棲にはいろいろと後ろめたい部分もあるので、甲斐くんも返答に困っていた。わたしも母には全部を話してはいない。だけど彼との関係に葛藤があったことや、母に対してあてつけじゃなく知ってほしいことはちゃんと伝えてはいたんだけど、父にはいいことだけがうまく美化されて伝わっていたようだ。
「わたしは……義理といえども、娘になった彼女に何もしてやれなかった嫌われていると思い、生活費だけ与えて会いにすら行かなかった」
わたしも嫌われていると思っていた。だから全部自分で決めて進んできたけれども、かえってそれが義父にとって拒絶と取られていただけなのだ。
「未成年である彼女を高校時代から放置して……恥ずかしい父親です。真面目でしっかりした子だから、放っておいても大丈夫だと思ってしまっていた。そのせいで、今回は変な男に引っかかったものと諦めていたのに……全部、誤解だったと聞いて安心しました。子供はやはり両親揃って育てるのが一番いい」
奥さんを早くに亡くして、自分の母親の手を借りながらも、不器用に男手ひとつで子育てしてきた人だから、その言葉には重みがある。
「はい、もちろんです!彼女には随分辛い思いをさせた分、これからは子供共々幸せにしていきたいと思っています」
甲斐くんの言葉に義父も母も、何度も嬉しそうに頷いていた。
「うむ。それで、式はどうするのかね?」
「それが、その……」
言えないよね?自分の父親が合同結婚式とか目論んでるって……
「その前に、そちらのご両親とお会いして挨拶させていただきたいのだが、都合はどうかね。もうすでに縁ができているのだから、早い方がいいと思うのだが」
甲斐くんが思わず口に含もうとしていたお茶を噴出していた。
「いえ、その……こちらから挨拶に参るのが筋なのですが……現在義母がその、臨月でして」
「臨月?義理のお母さんが、かね?」
「は、はい……父が先に自分だけでも挨拶したいと申しております。式も……志奈子の出産後合同で挙げるとか言いだしてまして」
甲斐くんはかなり言い淀んでる。義父は驚いているのだと思う……まさか孫と同い年の弟か妹が生まれる予定だなんて……ね?その相手が……
「実は……義母は志奈子の大学の同級生でして、わたしも彼女とは昔から一緒に仕事をしていた仲間でもあるので、浅からぬ縁と言いますか、その……」
「なっ……!!き、君の父上は今、いったいお幾つなのかね??」
義父もかなり戸惑っているようだった。煙草に手を出そうとしているけれども、うまく取り出せなくてあたふたしている。
「はい、たしか今年44歳だったと思います」
「わ、若いんだな……」
義父はすでに60歳近いから、それからするとずいぶん若い。たしか、前の奥さんとの間に出来た一番上のお姉さんが35歳ぐらいだったと思う。
「で、では……近々、いえ来週にでも、こちらからお伺いするとお伝えください。臨月の方にここまで来ていただくわけにはいかんでしょうから」
母はくすくすと笑いながら頷いている。彼女にはそのことはちゃんと話してあったから。


「ああ、もう緊張した!」
帰りの車の中で、タイを緩めた甲斐くんが思いっきり脱力してた。
「うちの親父が父親らしくないから、ああいったタイプは苦手なんだよ。まあ、うちの会社の上司にもいるけどさ」
「お疲れさま。でもかっこよかったよ?ちゃんと幸せにするって言ってくれて……嬉しかった」
「当たり前だろ?」
わたしのこめかみに軽くキスするとハンドルを握って車を発進させる。
「だけど、話してみれば、いい親父さんだったんだな。おふくろさんだって……帰りにさ、言われたんだ」
「何を?」
そういえば、母が甲斐くんに何か言っていた。
「わたしはあの子に申し訳ないことをいっぱいしてしまったから、これからは子育てを手伝うことで罪滅ぼしをしたいと思ってるって。困った時や用事のあるときはいつでも言ってくれれば、手伝いに来るってさ」
「そんなことを……母が?」
「ああ、だからよろしくお願いしますって言っておいた。誰かの手助けなしに子育てするのは大変だって、よく子供のいる先輩が言ってたからな。こっちの義母はおまえと一緒にてんてこ舞いしてるだろうから、頼むのは無理だろう?」
「朱里さん、予定日もうすぐって言ってたけど、大丈夫かしら?」
あの後すぐに甲斐くんが父親に電話して、来週親同士が会うことを決めていた。まあ、大丈夫だろうと軽く言ってるけど、本当に大丈夫だろうか?
「大丈夫だろ?初産は予定日よりも少し遅れやすいって言ってた」
なんだか、以前よりもずっと父親と話してるというか……同じパパ仲間のようになってないだろうか?だけど、同じ話題を話すことで、今までのわだかまりが消えたかのように仲良しに見える。いいことだよね?
「さっきさ……お義母さんに、何度も頭下げられたんだよ、おまえのこと」
彼は『母親ってあんなもんなんだよな』と、感慨深い声でぼそりと口にした。甲斐くんにとっての母親は、今まで会ったことも話したこともないままの存在で、朱里さんよりもわたしの母の方が彼の中の母親像に近かったのかもしれない。甲斐くんはそのことに気が付いているのかいないのか……
「親なんだよな……そんでもって、オレ達も親になるんだ」
「そう、だね」
「帰るとこがあるからって、喧嘩しても出ていったりすんなよな?実家に帰るとか、なしだから」
この調子じゃ、産後以外実家に帰ることを許してもらえそうにない。
「もう……甲斐くんったら」
「またそう呼ぶ。おまえも、もう甲斐だろ?」
「あ……ふ、史仁さん?」
まだ慣れないけど、そう呼ばなくっちゃ、だその呼び方も、すぐに『パパ』とか『おとうさん』になっちゃうんだろうけど。
「帰り、どっかに寄らないか?デートしようぜ」
「うん!」
デートといっても、食事して公園を歩くだけでもよかった。あとしばらく、子供が生まれて来るまでの間、ふたりだけの時間を過ごせることが幸せだったから。


それからはめまぐるしい毎日だった。
船橋の両親と甲斐くんのお父さん達と顔合わせをした時、その場で朱里さんが産気づいちゃって、みんなが慌てふためいて大変だった。そんな時、母がいろいろと指示をしてくれて、凄くしっかりして見えた。その後病室に登場した朱里さんのお母さんには驚いてしまった。だって、女優さんみたいに綺麗だったんだから。
大勢の人が見守る中、生まれたのは可愛い女の子。氷室の方でも初孫だって大騒ぎだったけど、とにかくもう甲斐くんのお父さんが大変で……仕事放り出して付きっきりになるから、また甲斐くんにお鉢が回って来た。店の方を任されて明け方近くまで帰れない日が続いたり。仕事のプロジェクトも立ち上がって、ただでさえ大変な時なのにと、ぶつくさ言ってたけど、甲斐くん自身は満更でもなさそうだった。要するに彼に妹ができたわけで……父親が子供を抱いてあやしているところを見て、ぼそりと『オレもああやって育てられたんだろうな』って、嬉しそうに笑ってた。自分が育てられてるところを見ることはできないけれども、こうやって親の愛情を再確認するのかもしれない。
「まあ、若いころは余裕がなかったからな。おっかなびっくりやってたけどさ、子供が可愛いのは同じだぞ」
「いいよ、もう」
父親にそう言われて、甲斐くんは面倒くさそうな顔をしてたけど、きっと照れ臭かったんだと思う。
「女の子ははじめてだけどな……朱里に似たら怖いよな、どっかに隠さねえとヤバくないか?」
なんて、もうすでに親馬鹿振りを発揮している。
「そうだな、オレらみたいな男がいるんだから、安心はできないよな……」
そう言ってふたりで反省する姿は殊勝だけれども、今までの素行が酷かっただけに、何とも言えず朱里さんとふたりで顔を見合わせて苦笑いしていた。甲斐くんがそこそこ遊んでたのは知ってるけど、お父さんの方がかなり酷かっただろうというのは高校時代目の当たりにしてるわけだし?朱里さんもそのあたりは知っているらしいけど、とりあえず過去の事と不問にしているらしい。言ってたらきりがないって……確かにそうだ。
「ほんとに、自分のことは棚に上げて煩いのなんのって」
「うちも女の子だったらそうなるかも……」
「んーそうだね、あのふたり、なんだかんだいって似てるものね」
「そうね」
なんて言ってたら……9月半ばに生まれたのは、本当に女の子だった。


超脱力……子供産むのって、すごく開き直らないとできないんだなって実感。
もう何にも怖いものないって思える。痛みも、苦しさも、産まれた子供の顔を見た途端どこかに飛んできそう……だるいけど。
「ありがとう、志奈子」
産まれたばかりの赤ちゃんをみて、甲斐くんが最初に言ってくれた言葉。
ふたりとも本当は親になるのが怖かった。まともじゃない環境で育って、普通に子育てできるんだろうかと考えたりもした。育児書をいくら読んでも、足りない部分は足りない。それを補うのはやはり経験で、子育てしたことのある人の存在は大きかった。
甲斐くんがお父さんから借りた名前辞典とにらめっこしてつけられた赤ちゃんの名前は『愛梨』。ちなみに朱里さんとこの娘さんの名前は莉里(りり)ちゃんだ。
出産後、わたしは実家に1ヶ月居させてもらい、上げ膳据え膳。夜中も母に助けてもらいながら、かなり楽をさせてもらった。だけどふたりの家に帰ったらそういうわけにもいかず、泣きぐずる子供を抱えて自分ひとりでどうしていいかわからず、一緒に泣きたくなるようなことも多々。そんな時は母や朱里さんにいろいろ教えてもらって助けられた。
「大丈夫よ、最初なんだから完璧にできなくても。結局は子供にいろいろ教えられるんだと思うわ。まずは忍耐、それを上回る愛しさをもらえるからね」
朱里さんの言葉は、それを実感したものだった。
本当に子供は可愛い……寝てくれなかったりぐずったりして大変だけど、甲斐くんもかなり手伝ってくれたので助かった。翌日仕事があるだろうに、あやすのを代ってくれたりもして。休みの日なんか、家事を全部自分でしようとするほどだった。時々変な音がして、それが気になってゆっくり眠れないのが事実なんだけど。それでもわたしが起きようとするとベッドに押し返されたりするけれど、結局は赤ちゃんの泣き声がやまなくて起き上がる羽目になる。
まだまだ上手くいかないことの方が多いのはしょうがない。だって、どちらも新米ママとパパなのだから。
彼も、最初は恐る恐る抱き上げて、あやしても泣かれてショック受けたり。だけど意外と積極的にミルクやりやおむつ替えにも挑戦してくれた。早く帰れた日はお風呂に入れるんだと張り切ったり。大丈夫かなと思いながらも見てると『親父に出来てオレにできないことはない』なんて言ってるあたり、どうやらお父さんに対抗しているらしかった。おかげですっかりマイホームパパになってくれて、助かるけどね。



「そろそろ式の準備をするぞ」
産後二ヶ月目に入った頃に、甲斐くんのお父さんがそう宣言してからは大変!朱里さんとふたりでバタバタと式の準備に走り回った。衣装選びの日には氷室のお母さんやうちの母親もついてきてもらったりして。当日も両方の母親に子供を見てもらいながらの式なので、準備も大変だった。
「一緒に式を挙げても大丈夫なの?」
朱里さん実家は資産家だし、付き合いも色々とあると思うのに……いいのだろうかと心配になって聞いてみた。
「タカさんと史仁の招待客がかなりかぶるでしょ?甲斐の親戚はほとんどないからね……来てくれるのはごく親しい人に限ってるし。うちの親戚や店関係とモデル時代の知り合いが多くなるかもね。披露宴はしないけど、その代り後日店で立食パーティをするそうよ。来るのは飲む人ばかりじゃないかしら」
考えただけでパーティの方は派手な招待客になりそうだ。そんな中、わたしが式に呼ぶのは船橋の家族と、日高先生夫婦、それから……教え子たち代表であのふたりが来てくれることになっている。それが今から楽しみだった。もちろん、高校生はお酒の出るパーティには参加させられないけどね。

 結局、式は12月の半ばに行われた。厳かな式と賑やかなパーティになる予定だけれど、お店関係の女性は一切招待が無いというのは安心できた。なのに、式の前に噂を聞いた甲斐のお父さんのファンとかが教会の外に集まって、入口で大きな花束を渡したり、濃厚なキスをする顧客もいたりして、朱里さんはもう少しでぶち切れそうだった……
「中には史仁のファンもいるから気をつけないさいよ?あいつは顧客をあまり持たなかったけど、店では結構モテてたんだから」
怒り心頭した朱里さんがすごい眼して目の前に座ってる。式前の花嫁がこんな顔してていいのかしら?
同じ部屋の待合室で待ってたんだけど、しばらするとすまなそうな顔した甲斐のお父さんがやってきた。
「怒るなよ、朱里……ありゃ客だ。わかってんだろ?この中にも入れやしない。な?機嫌なおしてくれよ」
目で合図されて、わたしはそっと控室を出た。
そこには甲斐くんが立っていた。タキシード姿が凄く良く似合う。まるで雑誌がポスターから抜け出てきた王子様のサンプルのようだった。甲斐くんのお父さんはさながら王様の風格だったけど。
「志奈子……あれ、やっぱり親父の奴は謝りに行ったのか?」
「うん、今ね……」

『あっん……ダメ』
『なあ、愛してるんだ……おまえだけだよ?ほら……な』
『っ……ん、はぁ……ん』

部屋の中から漏れ聞こえはじめたのは朱里さんの甘い声……まさか?
「あ、あいつら……始めやがった」
「……そう、みたいだね」
どうしよう?控室に戻れないよ。こんなとこにずっと立ってるわけにもいかない。
「一応神聖な教会内だっていうのに、ったく。おいで、新郎側の控室が空いてるから」
そう言われて手を引かれてそこに入ったけど、やっぱり……ほら、親子だわ。
「ダメだって、甲斐くん……んっ」
「キスは避けるからさ、化粧が取れるだろ?だから、な……少しだけ」
押しあてられるのはタキシードの下の隆起した熱い塊。お願い、ここで興奮しないで……想像しただけで怖いのに、一緒に身体が熱くなってしまう。
「こんなの、そのままじゃ式に出れないだろ?だから……ちょっとだけ」
夫婦の行為は先週からOKが出ているけれども、娘の愛梨が夜中に目を覚ましたりして中途半端で終わったりして……彼はすごく不満そうだった。最もわたしも久しぶりの行為で少し怖かったけれど、その前から身体を慣らされていたので、思ったより痛くもなくて……その、すごくよかったりした。甲斐くんも『前より良くなったんじゃない?』なんて言うんだけど。
そして今夜は……子供を母に見てもらってホテルで1泊の予定だった。旅行にはいけないので、ホテルでゆっくりハネムーン気分を楽しんでおいでって言われている。もちろん、朱里さん達も同じホテルなんだけど……
「ダメ、汚れちゃうよ」
甲斐くんがドレスの裾を捲りあげようとしたのを止める。おまけに自分のファスナーもおろそうとしてるし?
「わかった……我慢するよ。親父と同じだと思われたくないしな」
そう言って途中で納めた彼は、わたしを抱きしめたまま辛そうにそのまま深呼吸を繰り返した。式前に花嫁と花婿が顔を合わせちゃいけないとかいうけど、まさかこういうことがないためだったりして……

式は滞りなく終了。
教会の祭壇の前で誓いの言葉を述べる時は、胸がいっぱいでなかなか言葉が出なかった。彼の前まで送りとどけてくれた義父もかなり緊張していたのが移ったのだろうか?これがもし、ふたりだけの式だったら、どうしていいかわからなくなって、パニックを起こしていたかもしれない。先に朱里さんが見本を見せてくれていたので、なんとか乗り切ることができた。やっぱり朱里さんはいつでも堂々としてて、同じ女性としても憧れてしまう。ただ、ちょっと顔が紅潮してて、足元もおぼつかなかったけど……それは甲斐くんのお父さんのせいだよね?

「ああ、疲れた……大丈夫か?志奈子」
甲斐くんは式をあげた教会のあるホテルの部屋に入った途端、スカーフタイプのネクタイを外して首元をくつろげていた。
式の後、出席者を見送ってからあらためて子供を両親に預け、わたし達はドレス姿のままそれぞれの部屋に落ち着いた。衣装選びですったもんだがあったんだけど、結局朱里さんの口利きでデザイナーズ物になった買い取りだったのには驚いたけど、わたしはとにかく言われるままデザインを選んで、仮縫いに付き合っただけだったから……メイクやヘアを担当してくれたのが有名なメイクアップアーチストだってことも、後で聞かされるまで全く知らなかった。
「うん、なんとか……甲斐くんはどうする?これ、早く脱がないとだめだよね。だったら先にお風呂でも入る?」
甲斐くんの衣装も買い取りだから、脱いだあとも返却しなくてもいいらしいけど、こんなのあと後どうすればいいのだろう?クリーニングすべきだよねとか考えていると後ろから手が伸びてきて、すぐさまその腕の中に閉じ込められた。
「志奈子がいい……食べさせて」
「でも」
「ダメだ。さっき味見すらさせてくれなかっただろう?」
抱きしめていたその手が、首筋から胸元へと降りて行く。
「だって、あれは……」
「オレもあいつと親子だって実感させられたよ。こんな姿のおまえとふたりっきりで部屋にいたら、手出したくなるにきまってるだろ?」
「んっ……あぁ」
レースの上から胸の先を探しだされて、ゆっくりと刺激された。だめ……こんなの、我慢できなくなる。
わたしだって、ずっと甲斐くんが欲しかったのだから。子供の存在を気にせず……思いっきり深く愛しあいたかった。
「ごめん、我慢できないんだ……ずっとこうしたくて」
わたしをソファの背もたれに座らせると、ドレスを捲りあげてくる。指で刺激を与えられる前に、わたしはすでにそこを熱くしてしまっていた。
「志奈子も、欲しかったんだろ?すぐに……やるから」
何度か往復する指先の刺激に身体が蕩け出し、甘い声が漏れ始める。
「あん……だめぇ……んんっ」
唇を塞がれ、片足を持ちあげられたまま、身体の中に彼の指を感じさせられた。音を立てる自分の秘所に恥ずかしさを覚えながらも、その先に与えられる快感を知っているがために、期待することを覚えた身体の欲求には逆らえなかった。ただひたすら貪るだけ……そして早く、甲斐くん自身で貫かれたかった。
「早く……ねぇ……お願い」
甘く強請ってしまう。そんな自分が信じられなくて、でも止められなくて……下着をはぎ取られた瞬間、熱いものが宛がわれ、その瞬間期待通り深く貫かれた。
「ああっ……んっ!!」
「いいよ、いくらでも大きな声出して……聞こえないから、誰にも」
「あっん、やっ……ひっん」
動きはどんどん早く、卑猥なモノになっていく。最奥を突かれるたびに声が漏れる。そして引き抜かれるたびに切なくて……
「志奈子、志奈子……あとで、ちゃんと可愛がってやるから!」
「やっ……だめ、このままじゃドレスが……」
まだ次はできたら困るからと、避妊することに決めたはずだ。なのに、このままじゃ……ドレスを汚してしまう。
「だったらしっかりと抱えておくんだ。腰……逃げるなよっ?」
「ひっ……ん」
最奥を何度かえぐられたかと思うと、また浅いところを突かれては甘い声を上げる。
もう、それ以上は耐えられなかった。それは甲斐くんも一緒だったようで……
「だめだ、もう……くっ」
「やぁ…………っ!!!」
甲斐くんの指に突起を擦られながら、その耐えられない快感に身を任せ、立っているままでびくびくと彼のモノを締めつけていた。
「くそっ!!」
引き抜いたその瞬間、太もものあたりに生暖かな物を浴びせられ、その後急速に冷めていった。

「だめだ、何度やっても納まらない」
そんな恐ろしいこと言わないでほしいのに……
あのあと汚れないようにそっとドレスを脱ぎ、急いでタキシードを脱ぎ棄てたけれと一緒に風呂場へ直行して、湯船の中とベッドの中で数回いかされ、彼が薄いゴムの膜越しに数回達するまでは離してもらえなかった。
夕食はレストランへ食べに行っても部屋に運んでもらってもよかったのに、結局翌朝の朝食まで全部部屋で取るはめになってしまった。朱里さん達とは顔を合わすことはなかったけど、向こうも部屋から一歩も出なかったというのを後で聞いて、甲斐くんが驚いていた。
「親父もやるな。だったらオレは……」
後何年頑張れるか指折り数える夫の姿に、少しだけ恐怖した妻がいたことに、彼は気付いていなかった。

甘いハネムーンのような一夜は明けた。
「愛梨、どうしてるかな……」
「もう心配?お義母さんがちゃんとみてくれてるだろ?」
「うん、わかってるんだけど……わたしが早く帰りたいの」
いくらその夜が甘くても、子供とは離れていられない。普段ずっと一緒にいるとそうでもないのに、こうやってそばにいないと余計に愛しくなってしまう。
「わかったよ。じゃあ、昼前にチェックアウトして、実家に向かおうか?愛梨が待ってるもんな」
「うん!」
少なからずも甲斐くんも同じ気持ちのようだった。彼も……もう、父親なのだ。
「早く帰ろう」
帰ろう、家に……子供と一緒に、我が家に。

甘い時間は、またいつか……
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