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19
「鍵、早く開けろよ」
無言でわたしのアパートまで歩いて、ドアの前で躊躇していたらそうせかされた。
開けたら……また同じなのに?
また部屋に篭ってセックスするの?今度はわたしの部屋で?
その方がいいかもしれない。甲斐くんの彼女が来ることもないだろうし、鉢合わせするとか、部屋のものを勝手に使ってばれないだろうかなんて心配、しなくていいはず……
わたしだって、軋む身体を引きずってここまで帰ってこなくてもいい。
あとは、彼が帰るのを待つだけ。彼女からの電話で去っていく甲斐くんに気づかない振りして布団をかぶって寝た振りしていればいい。

「志奈子?」
思わず鍵を持ったまま止まってしまっていたのをいぶかしんだ甲斐くんに鍵を取り上げられて勝手に開けられてしまった。
「予想通り、飾り気のない部屋だな」
綺麗に片付いているとは言っても、物が少ないだけ。一つ一つの物を大事に使うし、余分なものは本以外あまりない。
甲斐くんは、さっさと靴を脱いで部屋に上がりこんでいた。
彼の目的はひとつ。わたしを抱きに来ただけなのに、部屋中見回って居心地が悪い。
「男の影は、ないな」
あるわけないじゃない!と大声で言いたかった。だけどわたしは平静を装って台所に行き、やかんを火にかけた。一応、このアパートに移って以来はじめての来客だ。自分のテリトリーでいきなり押し倒されても困る。まずは自分のペースに持っていくためにお茶でも入れようとしていた。
「志奈子、コーヒーより俺、腹減った」
呆れた……まだ夕方前で、時間的にも夕食にはまだ早い。
「なんで?」
そんなことわたしに要求しないで欲しい。さっさとセックスして帰るだけなんでしょう?
「どうせ泊まるし、その前に腹ごしらえでもさせろよ」
「なっ、何言ってるの??」
泊まる?ここに?布団なんてひとつしかないわよ?おまけに、誰かが泊まるための余分なモノなんて何ひとつない部屋なんだから!
「なんか買ってくればよかったか?お、これ煮物?志奈子が作ったんだろ。これ食べていいか?」
勝手に冷蔵庫開けてるし……自炊してるから、冷蔵庫の中だけはある程度豊富だ。特売日に野菜の買いだめもしてるし。
「いいけど、泊まるなんていわれても困るわ!」
「じゃあ、夜中に勝手に帰るから」
そう言いながらもご飯は?とか言って……居座る気満々のようだった。

ちょっと……待って欲しい。
わたしは、もう甲斐くんとは寝るつもりなかったから、だからわざわざバイト先も変えて、携帯もメールも拒否してたって言うのに、なにも伝わってなかったっていうの?
「美味いな、志奈子料理得意なのか?」
わたしの問いかけに知らん顔して、彼は台所のテーブルでおかずだけを口にしていた。
「子供の時から必要に迫られてやってただけよ」
そうじゃない、言いたいことはそんなことじゃなくて……
知らん顔して箸を口に運ぶ彼。わたしはため息をつきながら、仕方なくご飯をよそってありあわせのもので二人早めの晩御飯にすることにした。もし、甲斐くんが完全にその気だったら、このあといつ食事にありつけるかなんてわからない。食事が終わるとコーヒーは入れてやると言って、彼が自ら入れてくれた。もちろんインスタントだったけれども……

食事が終わり後片付けしようと流しに行くと、後ろから甲斐くんの手が洗い物をしようとする手を遮った。
「甲斐くん、ちょっと……」
「今更嫌だなんて言うなよな?」
「でも……」
そう、ここまで来て言えない……部屋に入れた時点でわかっていたことなのに。
わたしの身体を甲斐くんの指が這っていく。それだけで呼吸が荒くなりそうなほどわたしの身体は……やだ、おかしい?
「おまえが、本当に俺から離れられるんならいいけど、そうじゃないだろう?おまえはいくら逃げても俺を本当に拒否したりしなかった……けど、もう居場所もわかったから探し回ったりしなくてもいいな」
本当に探したんだろうか?たまたま出会ったんじゃなくて?どうして……彼女がいるくせに!それとも自分の持ち物が減るのが嫌なだけ?気軽に抱ける女がいなくなるのがそんなに惜しかったの?
「始めたら、おまえだって逃げないだろう?」
ずるい……求められたら、本当に拒否することが出来ないこと、知ってて言うんだ。そういいながらも首筋に這わせる指先に翻弄されて、身体が熱を上げていく。
「やろうぜ、志奈子。連絡の取れなかった1ヶ月分、たっぷりとな」
立ち上がるとわたしをベッドの方へ引っ張っていく。逃げようがないわたしは引きずられるままベッドの側まで連れて行かれ、上掛けの上にそのまま落とされた。
「やっ、甲斐くん……」
「志奈子のうそつき。嫌じゃないだろう?」
身体は、期待している。いつもと違うほど熱があがって、首筋に息を吹きかけられただけでびくりと震える。
いくらご無沙汰だからといってこんなにすぐに身体が熱を持つなんて……変だ。
「んっ……やっ」
キスで声を塞がれ、行為が始まるとわたしにはもう成す術もない。このキスが拒否できるのなら、とっくに甲斐くんとは終わることが出来ていたはずだった。彼のキスは最初優しくて、それから情熱的になり官能的に変わっていく。いつだってそのキスで勘違いさせられてしまう。もしかしたら……って。もう、そんな期待は微塵も持ちはしないけれど、やっぱりキスが始まると身体が疼き、自然と甲斐くんを求めて熱くなってしまう。それを彼は知っているから、だから?
「志奈子、早いな。もう感じて濡らしてるんだろ?」
「ち、がう……」
強く否定したいけれども、下肢はすでに熱くなってしまっている。口でいくら抗っても、身体は与えられる快感を待ちわびている。
もう何度も教え込まれた。自分はそうなんだ、いやらしい身体をしている女なんだと。
「真面目そうな顔してても、この身体は喜んで俺を受け入れるんだよな?今度こそ……俺なしじゃいられないようにしてやるよ、志奈子」
その言葉の意味を想像すると怖かった。前は腕を縛られて自由を奪われた状態で攻め立てられたり、イク寸前で緩められたりと、まるで拷問のようなセックスだった。それでいて麻薬のようにまた味わいたくなるような……ダメだ、あんなのまたされたら、堕ちてしまう。甲斐くんなしで居られない、そんな愚かな女に。

「コレ、何かわかるか?」
「え……な、に……?」
前みたいに縛られたりしなかったので安心していた。だけどいつもよりしつこいくらい下肢を舐められて、剥き出しにされた突起を舌先で攻められて、思わず喘いでしまい、息を上げてしまっていた。
「コレ塗られると我慢できなくなるんだってさ」
「なっ、何……やっ」
一瞬ヒヤッとした感触が襞の外側に、それから中を丹念に指がなぞってくる。そして最後に剥き出た突起に塗り込められる頃にはたまらないほどソコが熱く疼きはじめていた。
「そんなに強いもんじゃないけどさ、志奈子は感じやすいから十分効き目あるんじゃないの?さっきのコーヒーにも少し入れたしね。もうちょっと飲んどく?」
「ちょっと、まっ」
自らその小瓶の液体を口に含んだ甲斐くんはそのままわたしの唇を塞ぐ。そして、無理やりわたしに含ませようと捻じ込んでくる。必死で抵抗しても、キスからもその液体からも逃げられなかった……

身体はいつもより熱くなっていく。それなのにいつもみたいに性急に触れてもくれない。ただ放置されてあちこち周辺を撫でられるだけで身体は溶けてしまいそうなほど熱く感じているのに。
「か、甲斐くん……」
「ん?」
「なんで、こんなことするの……」
「志奈子が逃げるからだろう?」
そんな……理由で?だって逃げたのは……
「それよりも、そろそろ欲しいんじゃないの?」
「やぁっ」
いきなり胸の先を口に含まれる。指先は腰の辺りを彷徨ってばかりだ。
「ほら、下半身が焦れてる……膝擦り合わせて何が欲しいんだ?」
いえない、そんなこと……
身体はすでに熱くて、我慢できないほどどこもかしこもが脈打っていた。敏感な部分がさらに敏感になり、触れてもらえない分焦らされて焦燥感に苛まれていた。
「何もしてない方までビンビンに立ってるな」
そういって胸の先を弾く。
「くぅ……」
たぶん、口に出して言えば与えられる快楽。一気に楽になるどころか今までにないほどの快感が待っているだろう。
だけど、言ってしまっていいのだろうか?
『欲しい』と……『甲斐くんが欲しい』と、正直な気持ちをそのまま……

「志奈子、いい加減に折れてくれないと俺も辛いんだけどな?」
下腹部にこすり付けられる甲斐くんのモノはすでに硬く熱く勃ちあがっている。それが欲しいと身体は訴える。でも、今求めれば彼が此処に来ることを自ら認めたことになる。彼との関係を自ら求めたことになってしまう。
けれども、どうしようもなく身体が辛い。呼吸もまともに出来ていないんじゃないかと思えるほど自然と喘いでいる。
「はぁ……んっ、やだ……こんな、の……っん」
体中掻き毟りたいほどの痺れるような疼き、理性も何もかもが負けてしまいそうになる。
「簡単だ、欲しいと言えよ」
俺を、と耳元に落とされた囁きにすら身体が震える。首筋から腰まで何かが駆けていく。
「ひゃぁ……っん」
「志奈子、もう逃げないって、言えよ……こんなにも身体は俺を欲しがってるんだから」
ゆっくりと甲斐くんの指先が首筋から腰へと降りていく。おへその辺りを経由して、ようやく触れて欲しくてしょうがないところに辿り着こうとしている。
「こんなに濡らして……いやらしい身体だよ、この身体で他の男誘ったりしないのか?」
「し、しない……」
「だったら俺がいないと疼くだろ?この身体は……俺がちゃんと相手してやるから、もう逃げるな」
「やっ……はぁ……っん」
敏感な下肢の突起を引っかかれる。思わず喘ぎ声が漏れ、返事も出来ないというのに甲斐くんはわたしの顎を引き寄せて甘く囁く。
「欲しいと、言えよ……ココに、何が欲しいか、誰のがイイのか……言えよっ!そしたら……もう二度と逃がさないから」
「はうっ、や……だめ、やめて……」
ただでさえ敏感になってるのに、そんなに刺激されたらおかしくなってしまう。突起を指の腹でこねくり回されながら中を浅く掻き回されて、わたしは昇っていく快感に意識を奪われていた。
「言えよっ!」
「ひゃぁ……あん、やっ、いちゃう、あ……」
その途端指を止められて、わたしはせつない身体と感情をもてあまし、狂ったように彼を求めていた。
「やだ、おねがい……欲しいの、甲斐くんが欲しいの!」
「やっと言ったな」
「ひっ!」
いきなり、最奥まで甲斐くんを捻じ込まれた。それからすぐに激しい律動が始まる。
「やぁあ!!やだ、そんな、だめ!!!あぁぁあああ!」
いきなりイカされる。そこからが恐怖だった。

「はぁ……いいぞ、志奈子」
「だめっ、やめてっ!イッたトコなの、やぁあああ!!ひゃぅん」
いつもなら一緒に果てるところを、一方的にぐいぐいと突き上げられるだけだった。昇った筈の身体は落ちて来ず、そのままイキっぱなしの快楽地獄が待っていた。

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