〜月がほほえむから番外編〜
郁太郎のジレンマ3

その時オレの携帯が鳴った。
着信音で判る、宗佑だ…
ほっとしたさ。ヤツは気がついてる、オレのしてることに。
そのうち部屋の電話が鳴った。
ほう、早いじゃないか…
「あの…で、出ないんですか…?」
「出てやらねえ。」
日向子がここまでついてきたのは日向子なりに、食堂や宗佑の側に残りたいがためだったと判った今、オレには道化役しか残されてないんだよな。

「出て欲しいのか?アレは誰からの電話だと思う?」
そう日向子に告げてやると、驚き、そしてほっとしたような顔をした。
「なんでいつもオレじゃないんだろうな…」
ほんと、菜々子も、日向子も、全部宗佑が持って行きやがる。
オレ好みの健気で、一途で可愛い女たちは…
オレに言いよってくるのは、ケバい系の女か、商売女だよな。一見も何も遊び人にしか見えない己の風体が嘆かわしいぜ。
元妻のサチだって全くの正反対で、派手な外見、男好きのする身体、気が強くて、男を立てたりかしずいたりしない女。オレと居ても喧嘩ばっかりで、イイトコなんて何一つ無かったのに…

いや、一つだけ…
あいつとのセックスはすごかった。マジで吸い尽くされるかと思うほど…
おれも嫌いじゃないからつい、手出してたのが運の尽きだったけどな。
結果押しかけられちまった。追い返せなかったのは、やっぱいい身体してたからで…
考えてみたら、オレって最低なヤツ??
だけど、そんなオレに気を遣いすぎた宗佑も最低だぞ?日向子をここまで追い込んだのは、宗佑のせいでもあるんだからな。
オレは大きくため息をつくと日向子に笑いかけた。
「日向子、最後にもう一回だけ聞く。オレにヤラレたくなかったら、思いっきり大きな声で拒否しろ。出ないとほんとに最後までヤッちまうぞ?たとえ...宗佑の前でもな。」
オレはそう言うと日向子にのしかかる。
反射的に大声を上げる日向子。ごめんな、これも素直にならない宗佑のせいだと諦めろ。どうせ、ドアの外でうじうじ悩んでるに決まってるんだからな。
『郁太郎!ここを開けてくれ!...日向子さん、居るんですね?』
ドアを盛大に叩いて宗佑が邪魔をする。
(やっと来たか…)

ドアを開けてやると宗佑が飛び込んでくる。しかし日向子には駆け寄れない。
まあ、そうだよな?オレに乱された着衣はほとんど引っかかってる程度だ。
そうさ、ホントに最後まで抱こうと思ったら抱けたんだ。
だけどしなかったのはなぜか…宗佑は未だに動けないで居る。
馬鹿か?こいつは…
ここまで来ておいて、まだ何も言えないのか?
「なんだよ、駆け寄ってもやらないのか?」
オレは意地悪く言ってやる。
「郁太郎…しかし…」
「ここまで来てなんだよ?おまえ、この状況見て判るだろ?」
「………」
「邪魔するなよな。イイトコだったんだからよ。」
「す、すまない…」
「本気で謝まる気なのかっ?!」
オレはイラついて宗佑の襟首を掴んでひねりあげた。
ベッドの日向子は泣いている、身体を震わせて…けどオレは悪いことしたなんて思わない。着いてきたのは日向子なんだからな。
「よく見ろよっ!日向子の顔、おまえはどういうつもりでここまで来たんだよっ!さっきの日向子の声聞いたんだろ?」
宗佑が日向子にジャケットを掛けてやり、コチラを振り向く。今までにない強い意志のこもった目で…その奥には自分の惚れた女に手を出した男に対する嫉妬の炎まで灯して。
判ってるのか?今までそんな目を誰にも向けたことが無かったってことに…
「郁太郎…日向子さんが嫌がる限り、おまえには、渡せない。」
「それがおまえの本音なんだな?」
すまないと答えるが、一歩も引かぬその雰囲気は道場で立ち会ったときの殺気すら含んでいる。こいつとは長年剣道の道場仲間だったんだ。そしてオレはいつもその勝負には負けていた。
「オレはいつまでたってもおまえにはかなわないのか?それよりも惚れる女がこうも一緒なんてな…馬鹿らしくて、やってられないね。」
「郁太郎?」
「オレは帰るぞ。宗佑、ここの支払いぐらいしておけよな。」
おれは宗佑の腕の中で震えて泣いている日向子をこれ以上見ていたくなくて、そう言い捨てて外に出た。

ゆっくりするがいいさ…ってくそ、あのあと宗佑のヤツ日向子やっちまうのか?さっきまでこの手にしてた日向子のすべらかな感触が蘇る。
「くそっ…」
日向子と付き合あうようになってから、まともに女も抱いてねえ。まあ、抜きには何度も行ったけどよ…
まともに抱いたのは、前の女房が逃げて、商売女口説いて…あれ以来か。
けど、あの時だって、虚しいばっかりで、サチのあの豊満な身体と情熱的で婬らな反応が恋しくて…いや、あいつはオレに愛想尽かして出て行ったんだ。オレにはもう未練なんて無いはずだ。
あるとしたら…
オレはサチの身体の中の感触を思い出して、ごくりと唾を飲み込んだ。

しょうがねえ、どっかで抜くしかねえな…その前に煙草でも吸わなきゃ股間のモノが収まらねえ。オレはロビーに降りて喫煙所に向かった。

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