バカップルの日常シリーズ

〜姫と直〜    離れられない・1
〜直〜

仲直り旅行、ってオレが言い出したんだけどね。
お互い疲れてて、追いつめあって、ああいうことになったわけだし、ちょうどGWで、オレも休みも取れたから、もったいないかなって。

オレの起業した会社も順調よく行き始めていた。姫とあんなことになって、思わず仕事に走ったっていうか、それがよかったのか、姫のための時間も全て仕事につぎ込んだし、それだけ必死になって働いてたら、姫に変な気起こさなくても済むだろうと、かなり頑張った。なんと言っても、時間がなければ、モンモンとしなくて済むんだと。
姫も、編入試験を受けて、希望学科のある大学に入ったわけだし、忙しいのはふたりともだから、ちょっと距離を置いたイイ感じの友人兼恋人同士ってわけだ。食事して、お酒飲んで、ちよやカナウも交えて遊んだり、楽しい時間を過ごしていた。

もちろん、プラトニックだ。

なのに、旅行って、オレ自分を苛めたいのかって感じだけど、身体の関係はなくても、こう心の絆を強めたくって提案した。
姫はもちろん『いいよ』って言って来てくれたぞ。
まあ、昼間はいい。美味しいもの食べて、時間に捕らわれずいっぱい話して、高原だったから、お日さまいっぱい浴びて、そよ風に吹かれながら、お互い素になって過ごせた。色気抜きだって、マジで。

「うそ、先生まだ、手だしてないの??」
「ああ」
ちよ、そんな目を剥いていう事じゃないだろう?旅行に出掛ける前に、カナウとふたりでうちに来た時に聞いてきた。
「直樹さん、身体大丈夫ですか?」
オレの過去をも知ってるちよが言うならまだしも、カナウ、なぜおまえまでもが言う?
「きっと壊すぐらいやってると思ったのに...どうりで姫さん、あっ」
「何?」
「何でもないですよ。じゃあ、旅行頑張ってくださいね。」
意味ありげな言葉を口に出しかけて、カナウはさっさと爽やかな笑顔を作り直してにっこり笑って手を振った。
「壊さないでよ、先生」
「やらねーよっ!」
ちよをひと睨みしておいた。

なんだよ、おまえらは...オレらがなんだかんだしてる間に、すっかり落ち着いたのか?あの、ちよが、オレの女版とも言えるモテ振りで、年下の男の子を調教?してはポイしてたくせに、ちゃっかりとその隣に居座ってるコイツはようやく今年から2年に進級したばかりの高校生だぞ?最近は地をだしてきて、子犬じゃなくなってきたけどな。その分、自分の居場所を確保してやがる。ちよもそれを許したってことか...よかったな、ちよ。カナウもな。

で、結局軽い生き地獄だったわけだ。
「直さん、寝ないのぉ?」
「ああ、もちょっと飲んでるわ。」
浴衣姿の姫は色っぽくって、飲ませたもんだから益々...いやいや、耐えろ、オレ!身体で繋がるなんて簡単だと思う。だけど今のオレたちにはもっと話して、もっと解り合うことだと思ったから、連休をすべてふたりで過ごすためにここへ来たわけで、えっちするつもりなわけじゃない。
すうすうと寝息を立てたはじめたのを横目に、オレは飲んでいた。
こんな時は酒に弱ければいいのにと思う。そこそこ強いオレは、ひたすら飲むしかなく、姫の身体に触れそうになる自分と闘っていた。
正直言って、もし性急に手を出したら嫌われるんじゃないかって恐れもあった。
女抱くのが、こんなに怖いなんて...逆ナンされた初体験の女子大生のお姉さん相手にだって怯まなかったのに、オレ。
怖いよ、姫に嫌われることが。姫を二度も手放せない。こんなにも大事なモノを無くす怖さなんて、オレは今までしらなかった。

姫がオレの元から居なくなって、しばらく一人で考えてた。
今更って思うだろうけれども、お互いをイチから知るしかないな、と思った。お互いがお互いを「知ってるつもり」になってたことが今回の一番の原因だったから。互いに忙しいなか、時間作って話した。いろんなこと。
何ていうか・・・エッチすれば形上の仲直りはもっと早くできたんだろうけど、
仲直りはできても解決にはならないと思えた。
だからエッチしたかったけどできなかったわけじゃなくて・・・いや、本当はしたくてたまらなかったけれども、エッチするより、ちゃんと言葉にして色んな事話したかったんだ。
エッチするほうがよくわかる気持ちもあるけど、エッチじゃわからないこともいっぱいあるから。
姫が大切なんだ。その全てを受け止めたい、。そして二度と離したくない。だから...
はぁ、辛ぇよ!目の前の姫に触れられないのは...



なのに、それを知ってか知らずか。旅行から帰っても、姫は相変わらずで...
「姫、髪型変えたの?」
「うん、カナちゃんがね、切ってくれたの〜似合うでしょ?カナちゃんね、とっても上手なんだよ。」
にっこり笑って、カナちゃんだって?それ誰だよ!って、カナウのことか?
「なあ、ちよ。あの、ふたりなんなんだ?」
「なんなんだって、仲良しさんでしょ?」
「そんなの見れば判るよっ!おまえは何とも思わないの?」
「別に、あのふたりは仲良しだし、カナウはあたしのだよ?」
まあ、年齢に関係なく、このちよを満足させてるとなると、たいした男なんだろうけれどもよ、そんなに姫といちゃつかなくてもいいだろ?
っていうか、姫が懐いてる?それも、わざとオレの前で?
「姫、危ういんだよね〜最近。あれ、まだカナウだからいいけど、他の男の前であんな表情させてたら、ヤバイでしょ?カナウ、いい仕事してると思うけど。」
子犬のように柔らかい笑顔で姫の相手をしてくれている。
そうだな、ヤツにはちよがいるから...だけど、もしこれが他の男だったら?
「ちょっとヤバイって、カナウ言ってたよ。姫の上目遣いの視線は、男殺しだからね〜先生だって何度もやられてるでしょ?あれをそこら中で垂れ流してる訳だし、どうするの?峯田先生。」
そんなこと、オレにきくなよっ!
「早いことやっちゃいなよ?しらないよ、ナンかあってからでは...」
そう言われても、自分からは勇気がないって言うか、オレ、こんな情けないヤツだったのか?仕事じゃこんなに怯まないよ?なのに...不甲斐ないや、オレ。



〜姫〜

せっかくの仲直りのモードなのに、直さん全然手を出してくれない...
っていうか、そういうそぶりもないってどういうことだろう?以前の、その、すごかったのを知ってるわけだから、もしかしたら他で...なんて考えなかった訳じゃない。でも、うちの母とも約束したし、本気でやり直そうとしてくれたのも判った。
じゃあ、なぜ?なにもしないの?
「今は2人のために、身体でじゃなくて、感覚でじゃなくて、話し合って理解を深めるほうが優先だから。」
最初にそんなこといってたのは判るよ?でも、一緒に旅行行っても、全くなんだもの。昼間高原を歩いたりするのに、手を繋いだっきり。
それでも、ドキドキした。えっちまでした仲なのに、また一からやり直してるような感じは新鮮だったけど...
でもあたしは、したいなぁって、思っちゃった。それも自分が気が付かないところで。
それで本当の仲直りって気がしてた。
でも、直さんはそんな気ないのかな...自分からなんて、無理だし...
どうしようって悩んでると、ちよにも言われた。

「姫、あんた危ないよ?」
「え?」
「自分で気が付いてない?フェロモンでまくってるよ...カナウでさえ当てられちゃうとか言って苦笑してた。まあ、カナウはあれでいて、抑制効く方だし、判ってるからいいけど、団体のメンバー何人かやられちゃってるよ?姫の前に来てそわそわしてない?」
「えーそんなのわかんないよ。」
でも、そう言えば最近、少し話してると、真っ赤になって立ち去る男の子がいったっけ?何だか少しぼーっとしてると、見てた子がそうなるんだけど。
「このまま道歩いてて、他の男にどっか連れ込まれる前に襲ってしまえば?」
「な、なに言うのよ!?」
「まだなんでしょ、先生...」
「う、うん。なんか大事にされてるのは判るんだけど、全然...」
「はっ、まるであの人らしくないじゃん?」
「そうなんだけど...」
自分からなんて、ねえ?前の直さん知ってるから、その、すごいのとか、何回も、とか、逢うたびとか...一緒に住みだしてからも、忙しくてどうしようもない時以外は、結構、ね?そのカレが、全く手をだしてこないっていうのは寂しすぎたから、だから、あたし...



襲っちゃった...