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 美雪 Side 2

 
 
「…あれ?」
「ああ、起きたのか。」
「先輩、あの、待ち合わせのパーキングは?」
「もう過ぎた。」
「…え?」
「よく寝てたから。みんな起こすのかわいそうだって、こっちには誰も乗ってこなかった。」
「す、すみません…」
「いや、オレも騒がしいのは好きじゃないから、助かった。」
先輩は吸ってもいいかと煙草を見せて、あたしが頷くとその先に火をつけた。
そういえばヘビースモーカーだったなと思い出す。
煙草の煙は苦手じゃない。父親もよく吸うから…
 
少ない言葉数。きっとその横顔は退屈そうにしてるんだろうなって思う。
気の利いたことが言える訳でもない不器用なあたし。
沢田さんとは、今でも部署は同じだけれども、班が違うからしょっちゅう顔を合わすわけでもない。
いつも、ただ遠目に見てるだけ…目の保養だし、好みだし。
だからかな、横向けない。
まっすぐ前見てたり、景色見たり…
「あ、雪…」
ちらちらとフロントガラスを濡らし始める。トンネルをいくつか抜けると本当に雪国だし?
「ちょっと雪に恵まれすぎるかもだな。」
スキーの場合、新雪は嬉しいけれども、吹雪いてる中滑るのは結構きつい。
「すみません…」
「なんで冴島が謝るんだ?」
「なんか、いつもあたしが行くと雪が降るって言うか、積もるって言うか、吹雪くんです。」
それがたとえ初スキーの時期でも、3月末とか4月の頭でも、あたしがすべりに行こうとしたら必ず降る。雪に困ったことは…ない。
「ああ、美雪だしな…2月?3月生まれか?」
「はい、3月生まれです。」
「まあ、あんまり雪ひどいとチェーン付けるから」
 
 
高速の間は大丈夫だったけど、高速を降りるとさすがにチェーンつけないとダメのようだった。
「乗ってていいよ。」
「いえ、手伝います。」
あたしは予備の軍手を借りてスキージャケットを羽織って車外に出た。
ジャッキで上げて、手際よくつけていく手馴れた様子。
「慣れてるな、おまえも。」
「父がよく、あたしを手伝わせるんですよ。」
「ふうん。」
巻いたチェーンをゴムで止めて行ったりと、力仕事以外は何とか。まあ、力あるほうだろうけど…
「チェーン巻くの手伝う女はじめてだよ。みんな最初は見てるけど途中から車に戻るのにな。」
「そうなんですか?」
「もしかして、男とスキーに行ったりしたことないのか?」
「……」
なんでそんなわかりきったこと聞くんだろう。
「よし、これでいいだろう。他の奴らもどっかで巻いてるだろう。先に行ってるかも知れんから、行こうか。」
「はい。」
途中自販機であったかいコーヒーを買って、必死で指先を暖める。
なかなか温まらないなぁ…
「どうした?」
「いえ、別に…」
「貸してみろ。」
「何をですか?」
「手だよ、手。」
手?
あたしはじっと自分の手を見ているとそれがさっとさらわれた。
「へ?」
「オレの手、もうぬくいから、貸してやるよ。手伝ってくれた御礼だ。」
そんな…もし誰か他の男子社員が乗ってたら手伝えてもらえただろうに。あたしが寝ちゃってたから、だれも居なかっただけなのに…
「あの、いいです…もう、温かくなりましたから!!」
指先はまだだけど、顔がほてって赤くなってると思う。
先輩は素直に手を離してくれた。
そういえば、指導員の時も、なんか子ども扱いというか、妹扱いというか…
 
「お腹すかないか?」
「あ、おにぎりありますけど、食べますか?」
「あ、ああ、あるの?」
「えっとおかかと、塩こぶと、梅、しゃけなにがいいですか?」
あたしは家から握って来たおにぎりを出す。
いつもスキーに行く時は母と一緒に握ってもって行くから同じようにしてきたんだけれども…
「じゃあ、シャケ。」
「はいどうぞ。」
お父さんにしてあげるようにラップのかわを剥いて渡した。
「ありがとう…」
おいしそうに食べてくれてるので、お茶を出す。小さなポットに少しだけ入れてきたんだ。
「はい、お茶です。」
「……」
なんかへんなことしたんだろうか?
「あの、ダメでした?」
「いや、荷物になるし、朝早いから作ってくる子今まで居なかったから…」
「そうなんですか?」
「ああ、そんなに荷物少なかっただろ?しっかり板もって来てるのに。」
「だってスキーに行くだけだし…先輩もスノボーじゃないんですね?」
「ああ、すこしはやるけど、スキーの方が好きかな?」
「他のメンバーはスノボが多かったですよね?」
たしか渚もスノボ派だったはず。
「ああ、ほとんど居なかったはず…一緒に滑るか?」
「え?いいですよ、そんな気を使ってもらわなくても、適当に滑ってますから。」
「ちゃんと滑れるのか?」
「やですね、こう見えても普通に滑れます。」
「いや、普段結構とろいからさ。」
「…大丈夫ですからっ」
 
あたしはぷいっと口を尖らせて外の景色を見ていた。
 
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素材:FINON