風花〜かざはな〜

38
〜恭祐・回想7〜

「ただいまゆき乃。何も変わったことは無かったかい?」
ようやく戻った僕を迎えてくれたのはゆき乃の俯きがちな笑顔だった。
いつなら満面の笑顔で僕を迎えてくれるというのに。
「ゆき乃?どうしたの、さっきからすこしぼうっとしてるよ?」
「いえ、なんでもないです」
食事の最中も給仕をしながらもすこしぼうっとしているように見えた。ゆき乃には珍しいことだった。
何かあったのか、それとも少し体調が良くない?
笑って否定するけど元気がない。その理由は直ぐにわかった。
       父が来たのだ。
「ずっと彼女たちが居てくださったのよ」
あの友人達が護ってくれたから良かったものの、再びゆき乃の部屋や僕の部屋の前で待ち伏せるなんて……
ということは、僕が日本を離れていたことを父は知っていたと言うことか?
それに、父の目は相変わらずゆき乃に向けられてると言うことだ。いつまでたってもふるいにかけた名家のぼっちゃんをゆき乃に紹介しないのが気に入らないのか、それとも……気付かれたのか?今回別々だけれども力也と同じ国に向かったのは、調べればわかっただろうから……
「そう……よかった、いい友達が出来て安心だよ。父の方もまた探ってみるから、だから心配しないで」
そう言って微笑むとようやく安堵した顔を見せてくれた。
「あの……恭祐様が、彼女たちにお願いしてくださったんでしょう?」
「聞いたの?本当に信用できる人たちだと、僕はおもえたからね」
「ありがとうございます……彼女たち、わたし達のこと聞いても応援してくれるって。わたしすごく嬉しくて……」
「ああ、だから、ゆき乃はもう何も心配しなくていいから」
そう言って引き寄せようとした途端、ゆき乃は急に真っ赤になって腕をすり抜けて台所へ夕食の支度に向かってしまった。
何かおかしい?怖がってる風でも、嫌がってる風でもない。こっちまで妙に意識してしまうような、変な緊張感。
今までの僕らの間にはなかった空気。
一緒に育った僕らは互いがいることが当たり前で、手を伸ばせば触れられて、それが普通だったのに……今までゆき乃がそんな風になるようなことがあったのだろうか?それとも、あの友人達に何か言い含められた?
ありえる……
「何もないならいいけど……少し気分が落ち込んでるように見えるから心配だよ?それなら、ゆき乃も少し飲むかい?力也が持たせてくれた外国産のワインだ。もっとも僕が選んだのだけどね。これをこんど輸入するんだよ。これは、当たりの方だと思うんだけど、少しは気分が晴れるかも知れないよ。ワインってね、外国では食事の時の水代わりなんだよ」
そんな風にいいながらゆき乃にも勧めてみた。
ワインを口にして、頬をほんのり紅くしたゆき乃はやけに色っぽくて……そうだ、帰ってきたときからの違和感は、これだったのか?
ゆき乃から醸し出される女の色気のようなもの。恥じらいや、触れて欲しげな仕草は彼女の望むモノなのか?それが一杯のワインで色濃くなっていく。
片づけなどいいというのに、ゆき乃はふらつく身体でそれをやめようとしない。
傾くたびに手を差し伸べそうになる。だけどさっきのように逃げられるのが怖くてその手を引っ込めてしまう。
目の前に無防備なごちそうがぶら下がっているのに、見ていることしかできない自分が情けなかった。

「ゆき乃、今夜は……どうするの?」
浴室から出て、リビングに戻り残ったワインを飲みながら聞いてみた。
先ほどのように逃げるのなら同じベッドには入ってくれないだろう。ゆき乃の気持ちが変わったのなら仕方ないし、こっちの気持ちだけ高ぶっていてもしょうがない。男と女は違うのだから。だから、ゆき乃が一緒に居たくないなら、自分の部屋に戻ってもいいようにと、そう思ったのだ。
そりゃ、ゆき乃を抱きしめて眠りたかったけれども……
「このまま、居てもいいですか?」
「いいの、ほんとうにそれで……僕の側に居るのが嫌になったんじゃないの?」
少し意地悪く言ってみる。だって、まだ帰ってきてから一度もゆき乃を抱きしめていないのだから。
「そんなことありません!」
「じゃあなんで僕が近づくのを避けるの?いつもみたいに、ただいまのキスをしようとしても逃げたじゃないか?」
「それは……」
唇には重ねられないから、額にいつものようにしようとした挨拶すらかわされたのだ。
なのに……
その目は何?艶っぽい潤んだ瞳で僕を見ないで。理性の糸が引きちぎれそうになる。
「そんな目で……見ないでくれないか?」
「え?」
少し開いた唇が僕を誘ってるように見えるのはなぜ?
「今日のゆき乃はおかしいよ。だけど、そんなゆき乃を見て、僕までおかしくなりかけてる……だからこんなに飲んでしまったのかもしれない」
ソファに腰掛けたまま手を差し伸べる。ゆっくりと近づいてくるゆき乃を捕らえて、そのまま膝の上に抱え込んで閉じこめてしまう。
ああ、やっとこの腕の中に納めることが出来た。
途端に溢れる充足感と安堵感。けだるい酔いが余計に自分を大胆にしていく。
「きょ、恭祐様っ!?あの、っ?」
ゆき乃の胸に顔を埋めると彼女が焦ってわたわたする様がおかしくて、可愛くて……僕は思わずゆき乃の胸の中で笑っていた。
「もう……かなり酔われてるんでしょう?」
頭の上からゆき乃の呆れた声が聞こえる。だけど今はそんな咎める言葉さえも甘く聞こえる。
「このぐらいで酔ったりしないさ……理性がなくなるほど酔ってみたいけれども、そんなことしたらゆき乃に何するか判らないよ。それでもかまわない?」
「え……?」
当惑する声すら甘いのだから、もう始末が悪いな。
「冗談だよ。しばらくこのままで……ゆき乃の香りを嗅いでいたいんだ。久しぶりだから……だって、帰ってすぐにゆき乃は抱きしめさせてもくれなかったじゃないか?」
僕が誰かに甘えたりするなんて今迄なかったことだ。だけどこうやって、ゆき乃にだけは甘えることが出来る。僕は大きく息を吸い込んで、ゆき乃の腰に回した腕をさらに強く抱きしめた。
ずっと、こうしたかったんだ。
抱きしめて離したくなかった。異国の空の下でも、思い出すのはゆき乃だけだったから……
しばらくすると、ゆき乃が僕にゆっくりと身体を預けてくるのがわかった。
「ごめんなさい……」
何を謝るのだろう?不思議に思うけど、ゆき乃の吐息が首筋に触れてくすぐったかった。
「だって、あの……恭祐様がいない夜が寂しくって……」
本当に?と聞き返す。
「ずっと、か、身体が、あ、熱くって……その、そんな自分が恥ずかしくって……」
「ゆき乃、本当なの?そんなこと言ったら……」
もう止まらなくなるのに!!
「あっ……」
抱きしめていた腕を緩めようと動かせたとたん、ゆき乃の身体がびくりと反応して、官能的な喘ぎ声を漏らせた。
         だめだ、抱いてしまう。
ゆき乃が求めれば間違いなく……
僕は大きなため息を吐いてゆっくりと腕を解き、ゆき乃を膝から降ろした。
「すまないが、今夜は客間を……使ってくれないか?」
僕は顔を伏せたまま寝室へと引きこもった。抱きしめるだけで満足していたのに、あの声で一気にこみ上げてきた性欲に支配される前に離れるしかなかった。
今夜はゆき乃も僕も熱を帯びてしまっているようだったから。
一線を越えることはたやすいかも知れないけれども、それだけですまない現状もよくわかっていた。
だから、今夜のように危険な夜は離れていた方がいいんだ。

なのに……

「あの、恭祐様?」
部屋のドアのがカチャリと開いた。鍵をかけなかったのは自分。
ベッドに入っても眠れないことがわかっていた。覚醒した意識と、すぐさま妄想に走りそうになる思考を反らすために専門書に目を通していた僕は、そのことに気付き後で後悔したがもう遅かった。
本当に拒絶したい訳じゃなかった。そんなこと、わかっていたんだ。
「や、やっぱり、ご一緒しては、いけませんか……?」
ドアの隙間からのぞき込むゆき乃は、寂しいと言って肉親に温もりを求める子供のようだった。
イヤ、もう子供ではなくて、自分は血の繋がりがあっても、一度たりともそんな風に接していないというのに……愛しいその存在に、これ以上拒否するのを諦めて、ため息をつきながら読んでいた本をベッドサイドに置いた。
「いいの?今夜は……自分を押さえる自信が、ないんだけど?」
ドアのところで寝間着のまま所在なさげにたっているゆき乃に声をかける。
きっと恥ずかしいのだろう。そういった感情を表現するのが苦手な彼女が精一杯の勇気でこの部屋に来たんだ。
逃げられらない……もう、逃げたくもない。
ゆき乃は僕の隣にその身体を滑り込ませてくる。
「抱きしめてください……ずっと、寂しかったんです」
僕の腕に身体を預けて懇願する愛しい人の頼みが聞けない男なんて居るのだろうか?
「飲まなきゃよかった……ゆき乃にも飲ませるんじゃなかった。ずっと、そんな潤んだ目で僕を見つめるおまえといて、ただで済むはずはなかったのに……」
ため息をつきながらそっとゆき乃の手を取り腕から離すとそのまま彼女をシーツに縫いつける。ゆき乃を真下に見下ろして自分の中の牡の部分がどんどん目覚めていくのがわかる。今までは必死で自制してきたけれども……もう
「久しぶりに顔を見て、ゆき乃を抱きしめて、ゆき乃の匂いを間近で嗅いで……あんな声聞かされて……ゆき乃が僕を求めてくれていることを知ったら……欲しくて、欲しくて、どうしようもなくなってしまう。お酒のせいで、抑制が効きにくいというのに……だから、客間にやったのに。そのまま鍵をかけて僕が入れないようにして朝まで一歩も出てこないでくれたらよかったのに……」
ゆき乃の髪を梳き、その頬に触れ、側に来たゆき乃を責めながらも、僕の手はゆき乃を取り込んでいく。
「でも……」
「そうだよ、泊まってもいいと言ったのは僕だ。自分の部屋の鍵は掛けなかったくせに、それは卑怯だよね?」
身体を寄せて、離れたくないと顔を寄せて行く。
決めていたのに……もうゆき乃の身体には触れないでおこうと。日本を発つ前の様に止まらなくなってしまった時のことを恐れて……
でも、もう、無理だよね?
辛いんだ、触れられないことが、離れていたことが……たぶん、ゆき乃よりももっと切実に僕は彼女を欲しがっている。
触れたい、今目の前で僕を待ち受けるその濡れた唇が、震えるほど欲しくてたまらないのだ。
「同じベッドで眠る異母兄妹はいても、こんなキスをする兄妹なんかいない……」
重ねた瞬間から、もう後戻りは出来なくなることはわかっていた。触れただけで甘く感じるゆき乃の唇、何度も啄ばみ、そして触れては離れ、それがゆき乃だと、ゆき乃にキスしてることを確認しながら、何度も角度を変えて唇で触れて、舌でなぞるる。徐々に息が上がってきたゆき乃の少し開いた唇の隙間に自分のそれを差し入れて求める。
興奮した身体をゆき乃に擦りつけて、離れられないように身体を重ねて、ゆき乃の舌を追いかけ絡め取り吸い付き、抵抗するどころかそれに素直に答えてくれるゆき乃が愛しくて、深く、深く解け合うようにと願うキスは止まらない。
「んっ……んっあ……」
漏れ聞こえるゆき乃の喘ぎ声がさらに欲望を加速させる。ゆき乃のパジャマの上から脇腹をそっと撫で、今すぐにでもその中に潜り込ませて、あの滑らかな肌に触れたいと願いながらもその気もちを押さえとどめる。
まだ、僕には理性があるんだ……
悲しいほど自分の意志が強いことを悔やむ。いっそ何もかも捨て去れる獣ほどの理性しか持ち合わせていない方がよほど幸せだっただろう。身体はこれほどまでに興奮して、目の前の雌に襲いかかろうとしているのに、それを心が最後の一線で押さえつけていた。
だがその時、ゆき乃の手が僕の背に回り、彼女が僕を求めた。思いは同じなんだと、ゆき乃の腕が、瞳がそう言っている!!
       鎖がきれる、もう……
「妹なんかじゃない……ゆき乃は、僕が抱きたい女でしかない。もう、無理だ……兄の振りなんか出来ないよ。それでも側にいる?いつ過ちを犯すかも判らないような男と……このまま気が狂えば、間違いなくゆき乃を、無理矢理にでも犯してしまいそうな男と……ああ、心も身体も……狂ってしまいそうだ!」
自分だけじゃない、ゆき乃も求めてくれているとわかると、彼女を抱きしめる腕になおさら力がこもる。
「離れてる間も、誰かがゆき乃に触れてないか心配だった。毎夜ゆき乃の夢を見るほど、ゆき乃に逢いたくて、触れたくて……寂しかったのは僕もだよ?触れてもいいかい?男として……ゆき乃を愛していいか?」
「……はい、ゆき乃も、ずっと苦しくて……心も、身体も恭祐様がずっと恋しかった……」
潤んだ瞳に甘い息。ゆき乃の胸が上下させて身じろぎする、ほんの少しの仕草さえもが自分を煽っているのがわかる。欲しいと身体が悲鳴を上げきっている。
「本当に?では、あの夜のように……ゆき乃のすべてを僕にくれるかい?決して最後の線だけは越えないと誓うから……」
「ゆき乃の全部……恭祐様のモノです。恭祐様さえよければ、最後まででも、ゆき乃は構いません」
僕の最後の箍まではずすつもりなのか、そんな嬉しいことを口にしてくれた。
いっそ、そうしてしまいたい。出来るものならとうにしている。
だけど……
「ゆき乃それは……それだけはダメだ……父が、またゆき乃を調べるようなことがあったら、そんなことは勿論させないけれども、もしそうなったらゆき乃が辛い思いをするだろう?僕が我慢すればいいんだ……ゆき乃が卒業するまでに何とかしてみせる。だから……」
「でも!!」
「僕だって、禁為を犯す覚悟は出来ているよ。けれども、その罪の深さを考えれば、今は……ゆき乃を苦しめたくない」
父の影と血の濃さが僕を踏みとどまらせていた。そうでなければとっくにゆき乃を抱き、その身体の中に己の精を放っていただろう。
だが、父の仕打ちは恐ろしい。なにをゆき乃に仕掛けてくるか想像できない。自分にならいい、だがもしも怒りに任せて父がゆき乃に、取り返しのつかないようなことをしてしまえば、ゆき乃は傷つくだけではすまないだろう。あの父を押さえ込んで、それからだと思っていた。
そして血の濃さ……だけどもし、二人の間に子ができれば……
濃すぎるその血がどうなるのか、想像できなかった。ゆき乃が母となったとき、味わうであろう苦悩と苦痛を思うと子をなす行為が恐ろしかった。あれほどゆき乃を求めて毎晩異国の空の下でゆき乃への欲望を吐き出しておきながら、いざとなると留まってしまう自分は意気地なしなのかもしれない。
だが、最終的に身体に負担を受けるのは彼女なのだ。誰からも祝福されず罪の子を産むという苦しみを味あわせてしまう。それがどれほどの苦痛を伴うか……
「わたしの苦しみなんか、恭祐様を失わないで済むなら平気です!わたしには最初から何もなかったから、恭祐様がすべてだから……」
ゆき乃の表情が一瞬歪むと、彼女は身体を起し、寝巻きのボタンを自分ではずし始めた。
「ゆ、ゆき乃!!」
あっという間に総てを脱ぎ去り、目の前に一糸まとわぬゆき乃の裸体が晒される。上気して頬を真っ赤に染めて瞳を潤ませ、唇を咬んで羞恥心に耐えていた。
「恭祐さまっ!!」
そのまま僕の腕に飛び込んできた彼女は、僕の首にその腕を絡めて総てを投げ出してきた。
「恭祐様の、思うがままに……ゆき乃を愛して下さい」
ゆき乃を、おもうがまま……その言葉に僕の欲望が膨れ上がった。
ゆき乃の身体に指を這わせ、あらゆる場所に唇で刻印を落としていく。
思うがまま、ゆき乃を喜ばせたかった。感じさせて、求めさせてみたかった。
熱にうなされたあの夜のように、その身体に思う存分触れ、乱れさせ、自分を刻み付けたかった。
「あっ……んんっ、はぅ……」
胸の先を丹念に舐め上げ吸い付いては軽く歯を立てると身体を震わせて身を捩り、感じたまま声を放つ。そんなゆき乃が愛しくて、すぐにでも一つに解け合いたかった。
ゆき乃の脚を押し開くと、ソコは熱く潤み、ヒクヒクと自分を求めてくれている気さえした。愛しげにソコに口付けて、舌でゆっくりと舐め上げただけで泥濘を増し、ぷっくりと膨れた敏感な芽を指で押しつぶしたり甘咬みするたびにゆき乃の腰が激しく跳ねた。
感じてくれている、その喜びが尚更ゆき乃を攻めたてる行為に走らせた。
「ひっ……やぁ……んぐっ、はうっんっ!!」
先ほど甘咬みした瞬間に達したゆき乃は息も整わないまま、震えている。なのに僕は浅く指をその中に滑り込ませた。1本でもきつそうに声を上げる。まだ誰も受け入れていないはずのそこは、濡れていても、一度イッタにもかかわらずきつく僕の指を締め付けていた。
「きついね……ここは、相変わらず……」
「恭祐さまぁ……あっ、はあ……」
「もう一度イッて……」
もう一度、可愛いゆき乃のイク声を聞きたかった。
下半身の自分のモノは硬く起き上がり、触れなくても今にも爆発しそうなほど興奮している。けれどもゆき乃と実際に交わることだけは避けようと、必死だったのだ。
「ヤです……恭祐様も……どうか……」
なのにそう言ってゆき乃は僕のモノに手を伸ばしてきた。もどかしげな指の動きは緩慢で、それが余計にゆき乃らしくて、僕を興奮させた。
「ゆき乃?あ……くっ、やめなさい……」
「ゆき乃にさせて下さい……最後まで出来ないなら、せめて……」
「いいんだ、おまえにそんなコトさせたくない!」
ゆき乃がしてくれようとするのをやめさせようとした。コレをさせたら父と同じような気がしたのだ。
「でもっ、わたしに出来ることをしたいんです……恭祐様が喜ばれるなら、わたし……やり方は知っています」
知っている……それを知らされた過程を想像するだけでも恐ろしかった。ゆき乃は父にその行為を教え込まれたのだろうか?一瞬冷めた意思に反して、下着から取り出された僕のものに直接触れるゆき乃の指の快感にすぐさま余裕をなくしてしまった。
「ダメだ……ゆき乃……」
「身体を繋ぐことが出来ないなら、せめて……上手くは出来ないかも知れませんが……恭祐様のでしたら、わたし……」
唇が寄せられ、その濡れた舌先がもどかしいほどの快感を引き連れて這っていく。
「くっ……」
快感が腰から背中へと駆け上がっていく。必死で襲いくる波から逃れようと足掻いてみせる。
「ああ……ゆき乃が僕を……本当にいいのか?」
ゆき乃の頬に、髪に触れながら必死に耐えていた。
「軽蔑されますか?こんなことをしようとする女を……」
「まさか!ゆき乃は、僕が辛いと思って、その……しようとしてくれているんだろう?」
僕をじっと見上げてくるその顔が可愛くて、たまらなかった。
「気持ち……よくないですか?」
「はぁ……さっき済ませたはずなのに……こんなに……ゆき乃に触れられるだけで、こんなに我慢できないなんて……うぁっ……気持ちいいよ、ゆき乃、すごく、イイ……もっと触れて……ゆき乃で気持ちよくさせておくれ」
そうだ……バスルームを使ったときに、我慢できなくて、一度吐き出したはずなのに。もうこんなにも性急に欲望を吐き出したいと身体が震える。
「ああ、ゆき乃……」
ゆき乃の可愛らしい舌が蠢き、何度も舐めあげてくれる。馴れないその行為がかえって辛いほど緩慢で、焦らされてるような心地だった。
「ゆき乃、もどかしすぎて、かえってキツイよ。苦しいんだ……」
「あの、じゃあ、どうすれば……」
ゆき乃は出来ないかもしれないが、僕は彼女の耳元で、小さな声でお願いした。
「ゆき乃の口の中に……」
無理ならいいよと言い出す前に、ゆき乃がソレを含もうとしてくれた。
「んぐっ……」
必死で含んでも含みきれなかったのだろう。苦しそうに見上げてくるその目に、表情に、もう我慢が効かなくなってしまっていた。
放ちたい。総てを……もう、これ以上は堪えきれないだろう。
「ゆき乃、ごめん……」
ゆき乃の温もりをソレで感じながらゆっくりと腰を動かし始める。もう、とまらない。
「あっ……くうっ」
今にもイキそうになるのを必死で堪えて、激しく出し入れする。ゆき乃が苦しそうにいているのに、腰の動きは止まらない。
「うぐっ、ううっ……」
「ゆき乃っ!」
限界を感じて己のモノを引き抜き、ゆき乃に背を向けて思いっきり自分の手の中に放った。
「あっ、くぅ……」
我慢し続けていたせいか、快感は止まらなかった。
「あの、恭祐様……?」
「こんな所見るなよ……恥ずかしいだろう?」
こんなところは見せたくないのに、心配して覗き込んでくるゆき乃の視線を避けた。
「す、すみません……でも、よろしかったんですか?わたしは……」
「今はまだいいって言ってるだろう?ゆき乃も無理しなくていい」
顔だけ向けて軽くゆき乃にキスをして、自分の処理を済ませた。一旦放出してしまえば、なんとか落ち着く。本当は、それで済んだりはいないけど、ゆき乃が自ら奉仕してくれたことが、彼女の精一杯の気持ちのようで、僕は嬉しかったんだ。こんなイヤらしいことを考えてるのは自分だけじゃなくて、ゆき乃も、ゆき乃の身体も僕を欲しがってくれた。それだけで十分だと思えた。
「すごく気持ちよかったんだけど……焦ったよ。ゆき乃がこんなこと言い出すなんて思わなかったから」
今頃真っ赤になった彼女が下を向いて照れてしまった。またそれも可愛くて、そんなゆき乃をバスルームに誘い再び攻め立ててしまった。身体を洗っている間にその気になってしまったのだから僕も節操が無い。
すっかりぐったりになってしまったゆき乃を抱きかかえてベッドに戻る頃にはもう離れられないほどお互いの身体が溶けあっていた。
交わらなくとも、お互いの身体を愛し合う行為。恥ずかしい部分も、声も嬌態も総て晒しあったのだ。
最後には二人シーツにくるまり、抱き合いながらゆっくりと眠りについた。

      

恭祐視点の夜でした……