風花〜かざはな〜
10
背筋に冷や汗が流れた。
彼らの目的は……
「三原ぁ……、そんなつっけんどんにするなよ」
「せっかく綺麗な顔してるんだから足開いて俺らを楽しませてくれればそれでいいんだって」
「なっ!」
いきなり両側から腕を掴まれた。引いても藻掻いても適わない……男子数人の力は強くて……
「ほんとによぉ、お嬢様でもねえのにそのお上品な嬢様面、めちゃくちゃ汚してやりたくなるよ……」
「ああ、嫌がるこの顔も、たまんねえなぁ……」
彼らの目的は、わたし?……わたしのこの身体?
「は、離してっ!!」
叫んだはずの声が掠れる……足がすくむ……
どうやったら……逃げ切れるんだろうか?
「ほんとにヤッちまってもいいんだよな」
「構わねえって、コイツはただの下働きだぜ?どっかのお嬢様じゃねえんだ。何の支障もないはずだ」
「ああ、たまんねえな、俺経験まだねえんだよ」
「俺だって処女はまだ経験無いぜ?」
「処女かどうかなんてわかんねえだろ?」
「前に力也が言ってただろ?コイツはたぶん処女だってよ」
「うひょ〜、俺一番!だめか?」
「その前にひん剥いて、後で無理矢理されたって言えないようにたっぷりと可愛がってやらねえとな。おまえら押さえつけておけよ、俺が見本見せてやるさ。どこをどうすれば、女がひいひいよがるかなんてたっぷりと経験してるんだからなぁ」
「さすが……じゃあよっと!」
「いやああ!!!」
そのまま草むらに引きずられて、押し倒された。
「まずはこうだな!」
ビリっと派手な音を立てて制服が裂ける。開かれたブラウスの下には白い下着がのぞいていた。
「ひょう、色が白いと思っていたが、こんな暗がりでも判るほどの肌の色かよ……たまんねえ!」
「いやっ!」
胸を掴まれて、下着を上にずらされる。両腕は頭の上で、両脚も押さえられている。
動けない……
怖い……これ以上、何をされるのか……考えただけでも恐ろしかった。
脳裏を掠めるのは嫌がる貴恵さんと、獣のような表情で彼女を攻め立てるお館様の姿だった。
目の前の彼らは、さらに血走った目で、わたしを舐めるように見ていた。
「こんなおいしい思いをしてご褒美がもらえるなんてよ、いい頼まれごとだよな」
「オイ、余計なこと言うんじゃねえよ」
「けどよ、クラスのどの女よりも犯り甲斐があるよなぁ、見てみろ、この胸……」
「この脚もよ……そそってくれるよなぁ……」
手が……いくつもの手がわたしに触れていく。おぞましいその感触にわたしは悲鳴を上げる。
「でけえ声出すなよ!」
バシッと頬をぶたれて口の中が切れる……広がる錆びた血の味がわたしに決意を迫る。
こんなところでヤラレテしまうならいっそ……
舌をかみ切ろうと思ったその時、
「これでも押し込どけ!」
わたしの脚から引き抜いた下着が口内に突っ込まれた。
「声が聴けないとおもしろくねえじゃねえか?」
「いくら山の中でも、あんまりでかい声だと誰かが来るだろう?それに、舌でも噛まれたら、元も子もないだろ?」
「まさか、そのぐらいで……」
「そうか?そいつの眼、今にも死んでやるって眼してたぜ?」
「まあ、すぐにひいひい言わせてやるさ、そうしたらそれ取ってたっぷり喘がしてやればいいんだ」
胸に誰かが吸い付く。脚を開かれ乾いたソコに誰かの手が差し込まれる。
「何だよ、全然濡れねえぜ?」
「舐めて濡らしてやりゃいいんだよ」
「うはっ、綺麗な色してるぜ!間違いなく処女だぜ……」
側にいる男達が唾を飲み込むのが聞こえた。触れられている部分から悪寒が這い上がるり、身体はがちがちに固まってしまっている。このまま意識でも無くなってくれた方がどんなに幸せだろうか……
声も出せない。涙もそのうち枯れるだろう……
恭祐様。
こんな奴らに汚されるなら、たとえ、血が繋がっていても、恭祐様のモノになりたかった……
汚された身体では、もう恭祐様の前にはもう出られない。お館様との約束だって……もう無理だ。わたしに価値は無くなってしまうだろう……
「へへへ、たまにはあの気の強いお嬢さんの言うことも聞くもんだなぁ」
え?
「俺はあの女も犯りてえよなぁ。ひいひい言わせてあの高い鼻をへし折ってやりたいぜ……」
なに……?
「馬鹿やろう、あんなのに手出したらこっちがヤバイ。けど、こいつみたいに無茶苦茶にしなきゃ、脅しやすいかもしれねえな。普通言えねえもんなぁ、イイトコのお嬢さんはお嫁に行けなくなるからよ」
まさか……
「本当だ。だけどコイツは、ボロボロになるまで犯っちまっていいらしいからな……犯されまくったのが一目で判るようにしろってさ。あの生徒会長さんの前に二度と顔見せられねえほど酷くって、どこまで犯ればいいんだ?」
「オレたち3人で3回ずつやっても9回だろ?もうちょい頑張るか?」
「そうだな……へへ、あんたも悪いんだぜ?身の程知らずにお嬢様の恋路を邪魔するからよぉ」
「そこまで言ってもいいのか?」
折原……鈴音様……彼女が頼んだというの?
「ふん、終わった後にはどんな気も無くなるほど、って注文だろ?生徒会長さんに泣きつかれても困るからよ。いいか……オレたちにやられたって絶対に言うなよ?そんなことしたら、もっとひどい目に遭わせるからな?オレたちはおまえに誘われたって言うぜ。自分で服を引き裂いて犯してくれってオレたちを誘惑して、よがりまくった挙げ句に金を強請ったってな……そう言えばいいんだったよな?」
「そうそう、後はクラスの女どもも口裏を合わせてくれるはずだ」
こんな、こと……
こんなことしなくても……
わたしは……恭祐様とは、結ばれるはずがないのに……
もういい……
このまま
どうなっても
死んでしまえば……
苦しまなくてもいいのだ。
瞼の裏に幼いころに見た崖の上から舞う雪の風花が見えた気がした。
幼いころは怖がりながらも、隣の平太と綺麗だねって、崖に腹這いになってみていた。
あの海の底に、身を沈めてしまえば……この身体のおぞましい感触も、壊れてしまいそうな心も、全部感じなくなるに違いないから……
「おまえら、何やってる!!」
遠のきかけた意識の端に、聞き慣れた低い声が響いた。
「な、なんだよ……おまえも一緒にどうだ?」
「なんだと……」
「ふん、今からおいしく戴くんだ。力也、おまえだってコイツのことやたら構ってたじゃねえか……なあ、何だったら一番最初譲ってやるぜ?どうだ?」
「押さえつけて無理矢理でないと女一人抱けねえのか、おまえらは……」
「コイツはお嬢様でも何でもないんだ。いくら犯ったって、どこからも文句は出ないんだ。だから……」
「女犯れば罪になるんだよっ!それとも、親の金で誤魔化す気か?おまえら、クズだな……そこいらのちんぴら以下じゃねえか……」
藤沢くんの声が怒りに満ちているのが判った。それに怯んだのか、わたしの腕や脚を押さえる力が消えた。
彼らの意識は目の前で野生の獣のごとく怒りを放出する藤沢力也に向いていた。
ゆっくりと呼吸をして身体を起こす。口の中の下着を自分で引き抜いてそっと後退る。
「力也、仲間にならねえのなら黙っていて貰うしかねえ」
わたしは立ち上がって駆けだした。辺りは薄暗くどこがどこなのかもう判らない。けれども……もう二度と館に戻らないにしても、この場からは早く逃げ出したかった。
「あ、待てっ!こらっ……」
すぐ側に居た男が追いかけてくる。すぐさま崖っぷちに追い込まれて、後ろは何もなくて……
「来ないでっ!!」
「へへ、もう逃げられねえぜ。いくら力也でもあいつら二人はそう簡単に倒せねえからな。その間におれが犯ってやるよ。なに、すぐにいい思いさせてやるって……」
「いやぁああ!!」
彼の手がかかるその瞬間、足下の感覚が無くなった。
「あっ!!やべえ!」
男の歪んだ顔が暗がりの中、遠ざかる。
わたしは一瞬浮いた感覚の後、崖の下へと滑り落ちていく身体の痛みを全身に感じたあと、意識を失った。
「ん……」
「気がついたか?」
目の前に居たのは藤沢くんだった……
「あ、わたし……」
気がついたら辺りは真っ暗で、月明かりでようやく彼の顔が見える程度だった。
「……大丈夫か?」
引き裂かれた制服の上から藤沢力也のブレザーがかけられていた。
「あ……」
そして思い出すおぞましい感触……
「……いやっ!見ないで……わたし……」
あのまま死んでしまえばよかったのに!
結果的には何もなかったと言えるかも知れない。けれども殴られた頬は晴れ上がりひりひりと痛んだし、背中の打ち身は酷かったけれども、奴らに触られた胸の方が気持ち悪かった。
そして……スカートの下、下着を奪われて何をされようとしていたのか、思い出すだけでも消えてしまいたくなる……
「なんで、あなたがここにいるの?なんで……」
「助けてやったのにその言われようか?まあいい……あのあと屋上でふて寝してたら、折原が奴らと話してるのを聞いたんでな。おかしいと思って後を付けようとしてたところに折原が気づきやがって……それで遅れを取っちまってな、これでも必死で探したんだぞ?奴らをのして、聞き出したよ。あの女、人使ってこれかよ?上流階級のお嬢さんのすることはわかんねえよっ。けど、おまえは無事だったんだ……ここまで降りるのに時間がかかったけれどもな、あいつらコトをすませてなかったのが何よりだ。あんな奴らにヤられるくらいなら、俺とヤッちまう方がよっぽどよくねえか?」
やっぱり鈴音さんだったんだ……けれどもわたしの感情はそこまでだった。
責めてもしょうがない……きっと、わたしが撒いた種なのだから。
「………….ホントに、ありがとう、藤沢くん」
「力也でいいよ……ゆき乃」
優しい声で、立てるかと聞かれたけれども、足も挫いたらしく、歩けそうになかった。
「ほら、おぶされよ」
「いい……この崖は二人じゃ登れないわ。力也くん、ひとりで戻って……」
「馬鹿、こんなとこにおまえ一人置いて行けるか!」
「でも……」
「帰りたくないなら、俺の家に連れて帰ってもいいぞ……その恰好じゃ、何勘ぐられても仕方ないからな。俺がやったって思われるかも知れねえし?」
「まさか……」
「あの人ならそう思いかねねえよ……それに、登らなくても、すぐソコに下りの道が見えるだろう?降りるなら何とかなると思う」
さあと即されて、わたしは彼の背中に身体を預ける。
暖かかった……
こんな姿で帰りたくもないけれども、どう思われても、あまり関係の無いような気がしていた。だってどうせいずれは、お館様の望むようにこの身体を差し出す日が来るに違いないのだから……
「あの、本当に、ありがとう……」
「礼ならいつか身体でしてくれ。それまでは守ってやるよ。あんなカスどもにおまえはもったいない」
そう言いながら手を出さないのに?
不思議な人だ。藤沢力也って……口は悪いのに、ちっとも怖くない。
「まあ、身体はしっかりと拝ませて貰ったからな、手付けとして」
「え?嘘っ!」
「怪我してるかどうか調べるのにな。骨折れてないかどうか触らせて貰ったし……」
「やっ!もう、おろしてっ!!」
「あはは、そのぐらいで怒るな。っておい、暴れるな、落としちまうだろう?あ……」
坂道を下っているわたし達の前に不意に灯りが現れた。
「ゆき乃か?無事なのかっ!」
恭祐様の声だった。
こういった表現のお嫌いな方、申し訳ありませんでした。m(__)m でもまあ、必要な出来事でしたのでお許し下さい。未遂だったのは何よりです。力也ありがとう〜〜またファンが増えるでしょうか?(汗) 恭祐、遅すぎですからっ! さて出来るだけ続けて11話UPしますね!! |