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(ん、あったかくってきもちいいなぁ...え?)
がばっと起きる。さっきまであたしが顔を埋めていた隣の暖かい物体を見る。
わ、若いオトコ!?
「うそ...」
そっと布団のなか、自分の身体をみてみるけど、しっかりとえっちの余韻が残ってる...。紅いキスマークに、濡れた下肢...よっぽどよかったんだろうか?なんか身体がすごく満足してるような...。
(あたし、知らない男の子とやっちゃったの??)
男の子の顔をじっと見てみる。柔らかそうな茶色い髪、やたら綺麗な寝顔...
(あれ?この子...うげっ!!)
「隣のまーくん!!」
「ん、おはよぉ、槇乃おねえさん。きのうはすっげぇよかったよぉ、さすがにまだ眠いんだけど...」
そういってまた寝付こうとしてるのは、うちの団地のとなりの部屋に住んでるまーくんこと広野将志くんじゃない?布団からはみ出てる上半身はけっこう筋肉質で...って違うでしょ!!なんでこの子と寝てるのよ〜〜!たしかまだ高校3年だったよね?
隣とはもちろんわたしが生まれた頃からのお付き合い。もちろんまーくんのこともよく知ってる。お兄ちゃんといっしょに子守したこともあるし、小学校にもあたしが連れて行った。まーくんとこは春からお父さんの単身赴任にお母さんがついて行っちゃって一人暮らし。あたしはお兄ちゃんの結婚を期に晴れて二世帯住宅を建てて郊外へ引っ越した親元を離れ、秋からは元々すんでたこの団地(市営だから家賃が安いの!)にそのまま一人住み着いてる片瀬槇乃23才OL。
って、自己紹介してる場合じゃない!この事態をどう対処すべきか...だって記憶が...昨夜の記憶がないのよ!!
昨日はたしか飲みに行ったんだっけ。12月も半ば過ぎて会社の忘年会で、そこで盛り上がったのはいつもの事なんだけど、同期で仲の良かった木野悟が、今年入った平野さんといい雰囲気になっちゃって1次会のあと消えちゃったんだ。正直いって惚れてた木野に裏切られたような気分だったわよ。よくつるんでて、みんなは付き合ってるって思ってるぐらいだったけど、しょせんはただの気の合う女友達だったんだよね。まぁ、こんな性格じゃ女扱いしてもらうのも難しいんだけど。
いやだから、昨日の記憶だってば!2次会で入った店にまーくんがいたんだっけ?向こうも飲んでたから『おかあさんにいいつけてやろ♪』って言ったらもう大人ですよなんていってて、あまりにもかっこいい系が多いそのグループを、おねえさんとこいらっしゃいって引き込んだんだけど、その子たちは高校生はまーくんだけであとは大学生とかだったので、皆で盛り上がってしこたま飲んだんだ。なんてったって隣だから、酔っ払ったって送ってもらえるとか思って安心して...そのあと...どうした?記憶、ないんですけど〜〜〜〜〜!!
「槇乃さん、まさか昨日の事おぼえてないの?」
頭ぐるぐる、二日酔いの上に混乱しちゃって目が焦点あいません...まーくんの声だってすごく優しく耳元で聞こえて...え、耳元?
「俺、あんないいの知らなかったよ。もう槇乃さんから離れらんない♪」
ちゅって首筋にキスしてません?腰のあたりさわさわ撫ぜたりしてません??
「だぁ、だめ!!な、なにする気、ま、まーくん!」
「なにって、朝えっち♪俺って若いでしょ?アレだけやってもほらまた元気になっちゃったから。」
押し倒すな〜〜〜!っていうかまだ二人とも裸のまんまだし〜〜〜!!
「やめてよ、ね、まーくん!あたしほんとに覚えてないんだから!!」
「へ?ほんとに、マジで記憶なし?」
そんな寂しそうな顔しないでよ...だから記憶ないんだから朝えっちどころじゃないでしょ?
「ごめん、ほんとに...とりあえず、ふ、服着させて、ね。それから話し合いましょう。」
あっち向いてて、といってそこらの服をとって着替える。まーくんも着たみたいだった。ごそごそ、なんだかとっても気まずい雰囲気。さっきまでなんだか我が家の飼い猫のようにごろにゃんと甘えた雰囲気出してたまーくんがちょっと怖い顔して立てひざでこっち睨んでます。ううっ、怒った顔はちょっと大人っぽくって、とても高校生には見えないですけど...。
「えっと、昨日の話しだよね。あたし2次会に行った先でまーくんに出会ったてしこたま飲んだのまでは覚えてるんだけど...そこからの事、よかったら教えてもらえるかなぁ?」
随分と年下相手に下手に出て話すもんだわ。あたしってここいらではあねごで通ってたから、みんな引き連れて走り回って、下の子の面倒見てたんだよね。その中の一人がまーくんで、時々『槇乃おねえちゃん遊んで♪』って可愛く言い寄ってくるからよしよしって遊んでやったもんだ。まあそれもまーくんが小学4年ぐらいまでで、あたしも高校に入ると帰りも遅くなって遊んであげることもなくなった。けどこんな話し方じゃなかったし、最近はたまに顔合わしても向こうは敬語だったもんね。
「ほんとに覚えてないんだ、槇乃さん。」
ため息ついてこっちを見てから目を逸らした。
「昨日は俺の大学が推薦で決まったから、仲間とお祝いしてたんだ。仲間っていってもバイト仲間で、大学生やフリーターの奴らばっかりだけど。同級生はまだ試験も済んでないからそういう訳にも行かないでしょ?だからみんなが飲むから俺も結構飲んでたと思う。でも、俺強い方だからそんなに酔ってなかったんだ。そこに槇乃さん来て、俺嬉しくって、一緒に飲んで、俺が送るんだからって決めてた。そしたら槇乃さんむちゃくちゃ酔ってさ、話し聞いてたら『木野の馬鹿!』とか『木野、後悔させてやる』とか言い出して、連れの人に聞いたらさっき失恋したらしいって言われて...」
「そ、それって、眼鏡かけた色白の子が言ってたの?」
「ああ、そうだよ。」
恭子か...やっぱりばれてたんだ、あたしの気持ち...
「で、部屋まで送って来たら、もうちょっと飲もうなんて言うから、だめだよってなだめてたら槇乃さん泣き出しちゃって...」
「あたし泣いたの?」
「うん、でも俺が、忘れさせてやるって言ったら泣き止んだんだ。でも最初は馬鹿にして『女性経験ないんなら無理だよね〜』っていうからさ、『自信あるけど』っていったら『ほんとに、おねえさんのテクについて来れる?』なんていうから『そっちこそ俺のテクで攻めまくっても耐えられる?』って言うと『そっちこそあたしのテクニックで攻められても我慢できるかしら』ってもう売り言葉に買い言葉で、俺も我慢できなくなっちゃって押し倒したんだけど、どちらかって言うとその後はもうお互い攻め合って...すっごいえっちでさ、俺もさすがにあんなの初めてで、一晩に何回もしちゃって...。」
真っ青...きっとあたしの顔は。そして頭の中は真っ白...いったいあたしは高校生相手に何をやったんだ??
「槇乃さん、ね、ちょっと、おーい!戻って来いよ!槇乃さん?槇乃!」
ほっぺたぴたぴたやられてやっと正気にもどった。
「うそだよね...あたしがそんなこと言って、そんなことしたのなんて、お願い嘘だと言って!!」
「うそじゃねえもん。俺の上で気持ちよさそうにしてたり、俺に攻められてもう声抑えるのに必死だったよ。そのうえ俺のにあんなことやこんなことして...」
「嘘だぁ〜〜〜、絶対そんなことしてない!!」
「した。あんまりにも意識はっきりしてるから記憶ないなんて思わなかったよ。」
「そんなぁ...」
「俺の告白も覚えてないんだ...」
「告白?」
「これだけはぜったい教えてやんないからな!槇乃さんちゃんと返事してOKしたんだからな!酔って記憶がないって言ってもこの事実だけは消せないから。よって、今日から槇乃さんは俺の彼女。毎日えっちOKって約束だから。」
「なんで!!そんな約束してない!!」
「負けたらいつでも俺とえっちしてやるって言ったんだよ、槇乃さんが!」
「負けたらってなんの勝負よ!?」
そりゃあ、あたしは自他共に認める負けず嫌いですわよ。この性格が禍いして今まで何人オトコを逃がしてきたか...彼氏に張り合ったってしょうがないのにいっつも!それでオトコに呆れられて終わりなんだよね。大学時代の彼氏のセリフ『お前顔も身体も性格もめっちゃいいんだけど、ついていけないよ。もうちょい折れてくれないと俺も休めないよ。』そういって優しい女の子のとこに逃げていきましたよ。3年も付き合ったのになぁ。ってまた、勝負の内容は?
「どっちが先にイカセるか、イッタほうが負けで負けた方の言うことを聞くっていうやつ。ちなみに槇乃さんの出した条件は、毎日晩御飯作ってまってろだったんだけど?」
そんなことを言ったんですか?あたしが...
こうやってよく見るとほんとにいい男に育っちゃって...あたし好みといえば間違いはない。背だってけっこうあるだろうし、がりがりでもない。けどまだ発育中の無駄のない体で...おいおい、どこ見てるの、あたし!?
「それで、あたしが負けたの...」
「うん、悔しいって言って、その後また勝負してそれは俺の負けで、3回目にやっとまた俺が勝って、そのあと二人とも寝ちゃったから...」
それも3回戦勝負...あたしはなにやってんだ、失恋のショック?それとも...
まーくんの顔見てた。大人になったなぁ...小さい頃から『まきのおねえちゃん』っていってついてくる可愛いまーくんの顔と元はおんなじなんだよなぁ。
思い出すなぁ。いつもあたしを見て擦り寄ってきてくれて、抱きしめると日向の匂いがして安心できたんだぁ。いつもニコニコ笑ってくれて、気持ちが落ち着いて...。いつだったかな?中2の時だっけ?クラスメートに告白して振られて、ブランコで泣いてる時だって、『誰が泣かしたの?僕が仕返ししてやるよ!』って言ってくれた。『まきのおねえちゃんを守ってあげる!』そういって持ってたバット振り回してた子供の頃のまーくん。
あの時...やだ思い出しちゃった...
まーくんが、ん?って顔をする。どうした?って近づいてくる。
「なに泣いてるの?そんなにショックだった?」
そういってあたしの涙を拭く。いつの間にか泣いていたんだ。あのときの気持ち思い出して...あの時も側にいたのはちっちゃいまーくんで...
そっと抱きしめられる。まーくんのTシャツからは日向の匂いがする。
「誰が泣かしたの?僕が守ってあげる。だから泣かないで、僕がお嫁さんにしてあげるから。」
「え...?」
「小学校2年の時に俺、槇乃さんにそういったの、覚えてない?」
「あ...」
言われた...あの時、ブランコの時。最後はそんなこといってたんだ...。あたしはなんて返事したんだっけ??
「『大きくなって、まだあたしが泣いてたら、その時ね。』槇乃さんそう言ったよね?」
「そんなこと...言った...」
「いたいけな子供との約束、やぶっちゃいけないね。」
「はい...」
「俺は、もうちっちゃいまーくんじゃないから、こうやって泣いてる槇乃さんを抱きしめてあげることもできるし、慰めて気持ちいいえっちも出来るようになったから♪」
「馬鹿!何言ってるの!」
「いろんな女の子とも付き合ったけどさ、初恋って結構忘れられなかったりするんだぜ?おまけに不完全燃焼継続型だったりするから...秋からこっち、隣に槇乃さん一人で住んでるって考えると辛いもんもあってね。家族がいなくなってからは、話すこと多くなっただろ。そしたら俺のこと忘れてなかったんだって、嬉しかった。毎日男連れ込まないかとかもう心配で心配で見張ってたの知ってた?」
「嘘!...ほんとなの?まーくん...」
確かによく鉢合わせたり、砂糖貸してだの、しょうゆ貸してとか...
「本当だよ。相手にはしてもらえないと諦めてたから。昨日のこと、覚えてないのはショックだけど、俺の気持ちは本当だから...。遊びでも何でもないから。そりゃ5つも下じゃ頼りないだろうけど、えっちの相性はばっちりだし、体力的にも満足させる自信はあるから、いてっ!」
またすぐえっちの話しする!だからグーでなぐってやった。
「痛いなぁ、なんなら今からもっかい証明してやろうか?覚えてないからこういうことするんだよな。そしたらもう二度と俺の事まーくんなんて呼べなくなるぜ。」
「へっ?」
又押し倒す〜〜〜〜やめろ、のけ!離せ!はなして...ん...
「んんっ、ふっ、うん...」
いきなりの深い官能的なキス...あたしの中をかき乱して絡みつくキス...
「あ...んっ、まーくん...」
「俺にオトコ感じた時ぐらい将志って呼べよな?普段はまーくんでもいいからさ。」
「ま、将志...んんっ!」
キスで感じちゃうあたしも弱いかな?頭は覚えてないけど、身体は覚えてるみたい...もう全身で感じて、まー、ううん将志を受け入れる準備をしてるみたい。だめだぁ、とろけてる...
「槇乃、好きだよ...槇乃も俺の事、好きだよね?」
「ん、たぶん、そうだと思う...」
「ま、いっか、たぶんでも...時間一杯あるしね。」
「ん?時間?」
「そ、今日明日は土日だし、俺は来週から冬休みだし。バイトも入れてない。昨日のうちに変わってもらったんだ♪槇乃とゆっくりしたかったから〜」
可愛い顔して...こら、手、Tシャツの下に入れるな!!名前もえっちはじめたら、さんが抜けてるよ??呼び捨てかよ!
「それと、クリスマス開けといてよね、せめて夜だけでもな。槇乃のためにちゃんと晩御飯ご馳走作って待っててやるからな。」
「ん、うん...」
もう意識がぼうっとし始めてる。空いてる手が首筋やわき腹をいったりきたりしてるのが気持ちいい...忘れたなんて、もったいなかったかも?
「ね、忘れちゃった分、今からやり直してもいい?」
「いいよ、でも昨日みたいなのはやめとこうね。俺の10年分の愛を込めるから、先にイッテね。」
くすくすと笑いながら又キスが始まる。とろけていく感覚に、思い出すのは後でいいかなって思った。あたしのことだから、嫌なら拒否してるよね?今でも。
たぶんまーくんが好きだから、受け入れたんだと思う。その好きはまだお隣さんの好きかもしれないけど、いつか変わりそうな好きだから...このまま続けてもいいよね?
彼を違う意味で好きになりそうな気がするから...