ドアを開けたら...

〜竜姫〜

ドアを開けたらいつものあなたがそこにいる。
おいでって、両手を広げてまっててくれる。
いいのかな?このまま甘えてて...
幸せすぎて、不安になってしまう。
今までの二人じゃなくなってしまったから...



紺野竜姫は女になりました。
正確には女にされてしまった。親友の久我広海によって。
それは自分も望んでいたことだから後悔はしていない。
彼の事を女として好きだったのは事実だから。
でも...
親友なら辛くても別れることも、お互いを縛ることもなかったのに、恋人同士になったとたんに、こんなに変わっていいのだろうか?
見た目だけでも変わりたくなくって、元の格好に戻ると彼が(あ、まだ照れる...)不服そうにする。その癖みんなのいるときにミニなんて履いてると睨んでるし...
どうして?今までどおりの親友で恋人、それじゃだめなのかな?
でも怖いんだ。親友はずっと親友でいられるけど、恋人にはいつか別れが来るんだよね?だって、今までの広海を見てるから...あたしも簡単に捨てられちゃうんじゃないかなんて考えてしまう。
最近、そう考えると怖くて、何もかも彼の言うがままにしてると思う。これじゃ、今までの彼女と変わらない。
あたしってそんな存在じゃなかったよね?


「竜姫、帰り寄ってくだろ?」
「ん、でも今日は少し早めに帰らないと...」
「なんで?今日はバイトなしだろ、寄ってけよ。」
来るのが当たり前って顔で言われてしまう。ここんとこ、バイトのない日は毎日大学から広海のマンションに直行して入り浸ってる。以前は親友の美咲のアパートに入り浸っていた。彼女のところも大学から近いとこにある。自転車で20分ぐらい、電車で一駅で、あたしの家に帰ることを考えると近いもの。繁華街から歩いて10分、よく泊めてもらったりしてたのにここんとこ行ってない。広海のとこは繁華街はさんで美咲のアパートの反対方面にあるけど、大学からはこっちの方が近い。

付き合いだして判ったこと。
広海って彼女に対しても強引だってこと。映画を撮ってるときも皆をぐいぐい引っ張っていく強さ持ってるけど、自信家だからこうと決めたら引かない。親友に対してはこれほども強引じゃなかったように思う。
「帰りあんまり遅くなれないよ。毎日遅いから、ね。」
「わかった...帰り送ってやるから、車で、な?」
だから来いと?ふうっ、バイトのない日はこんな感じ。みんなのいる前では出来るだけ今までどおりに振舞うあたし達だけど...
実は最近広海んトコへ行くのが怖いんだ。

「竜姫、腹減ってない?」
「別に、今んとこは...コーヒー、いれよっか?」
「ん、頼む。」
勝手知ったる、で慣れた手つきでドリップコーヒーを入れる。広海はブラックであたしは砂糖とミルク。だけどここには牛乳しかないからレンジで温める。
「はい、熱いから気をつけて。」
雑誌に見入ってる広海にカップを渡すと、あたしはわざと離れてTVの前のクッションに腰を下ろす。テレビのスイッチを入れようとしてもリモコンが見当たらない。仕方なしに直接電源を入れるとすぐに切られた。
「広海...何で消すの?」
リモコン持ったまま、ニヤニヤといたずらっ子の笑顔で、自分の隣のソファをぽんぽんと叩いてる。
横に来いってこと?
そしたらまた、えっちなことするんでしょ?
最近ここに来てもすぐにそれなんだもん。今までだったら時間さえあれば、撮りたい映画の話してたじゃない?そりゃ部室とは違うだろうけど。
目が欲望でぎらぎらしてますよ、久我くん?
どうしようかなって悩んでたらちょっと怒った顔して近づいてくる。
「そこでして欲しいの?竜姫は床の上でスルのが好きなのかな?」
「なっ、んんっ!!」
反論するまもなく唇を塞いでフローリングの床の上で組み伏せられる。
「やっ、今日はやだ!広海っ!」
「なんで?俺はヤリたいんだけど?」
首筋に彼の唇を感じながら必死で抵抗してみる。あたしだって168cmはあるから力だってそこそこ強いはずなのにびくともしない。
「うーっ、あたしはやだ!広海、最近逢ってもえっちばっかしするんだもん。あたし、広海の彼女にはなったけど、こんな...逢ってもこればっかしじゃ、やだ!」
よし、今日こそは言ったぞ!でも広海の反応が怖くて、とりあえずは反応を見てみる。
「こればっかりって...」
とりあえず身体を起こしてくれた。ちょっと不機嫌そうな顔してる...。
「そんなつもりはないけどなぁ。映画の話は部室でしてるだろ?デートするったって、お互いこれ以上なにを知り合えって言うんだ?好きなものも嫌いなものも、全部判ってるだろ?お互いにそんなに飲まないし、うろうろするの嫌いだろ?家の中でごろごろしたり、映画見るのが好きだろ?それに...今までの俺達に足りなかったのはコレなんだから、いいだろ?」
「よくない...」
「え?」
「だって、あたし、まだ一度も広海とデートしたことない!その、彼女として...そりゃあたしみたいに男みたいなの連れて歩くの嫌だろうけど...」
なんか言ってて涙が出てきそうになる。
「あほ竜姫!」
広海のTシャツの胸が迫って来る。あたしは柔らかく抱きしめられていた。
「恥ずかしい訳ないだろ?それこそキメた格好してるお前、連れ歩けば自慢もんだぜ?反対なの、俺の竜姫を他の男に見られたくないの!可愛いお前も、めちゃくちゃ綺麗なお前も俺だけのもんにしときたい訳、わかった?」
「わかったって、そんなぁ。あたしは外歩くなっての?」
「あのな、男って綺麗な女見れば色々といやらしいことも想像しちゃうわけ、今までのお前はそんな心配なかったけど、今は心配でおかしくなりそうだもんなぁ。学内でもお前見てる奴全部殴り倒したいぐらい。」
「そんな馬鹿なこと...なんで考えるわけ?あたしは綺麗にしてるとこ広海に見てもらいたいって思うよ。横に並んで恥ずかしくないようにして、歩いてみたいって思う...だって、普通のデートがしたい!」
はぁ、と広海はため息ついた。
「俺の一世一代の告白聞き流しやがって...ったく、ガキか?おまえは...」
覗き込むその視線が絡まる。あたし主張するの一生懸命で、聞き流してたよね?そういえばすごいセリフいってる...
「だって...」
「今俺は紺野竜姫に夢中です。溺れてます。出来ることなら24時間側に置いて、ずっと繋げておきたいほど惚れてます。こんなになったのはお前が初めてだから...俺自身も面食らってる。一度さ、飽きるほどやらせてくれたら収まる気がするけど、だめ?」
「な、何を、今でも十分やってるじゃない!まだたりないの?」
「だって週に4日はお前バイト入れてるし、ここに来ても早く帰らないとって言うだろ?だったら早くヤラないと間に合わなくなるからこれでも、急いでるし、回数も我慢してるんですケド?」
あれで...足りないって?ここに来たら終電間際まで離してくれないじゃない?そりゃここに来るのが夕方だから、終電の10時まで3時間ぐらいしかないけど、晩御飯食べたりしてるともっと時間ないけど...何回か時間過ぎちゃって急ぎ車で送ってもらったりもしてる。それでも11時半過ぎる。それがここんとこずっと続いてるから、親からは大目玉食らってるんだよぉ!
「呆れた顔するなよ...俺自身もおかしいと思ってるよ。けどな...」
耳元に広海の顔が落ちてくる。
ううっ、腰に来るような声優並みの甘い声が、意識を奪いに来る。
『お前の身体、俺を狂わせるぐらい、めちゃめちゃいいんだぜ?1晩やそこらじゃ足りねえの。』
「あうっ...」
なんだか丸め込まれたような?でも凄いこといわれたよね。
「取り敢えず、今日は我慢するよ。身体だけが目的じゃないってトコもみせないとなぁ。今度バイトが休みの日に、1日デートしよっか、それで機嫌直してくれる?」
広海の腕の中でその甘い言葉に骨抜きになってるあたし...。こくんと頷くと髪と、額と頬に、順にキスが降りてくる。赤ちゃんみたいに膝の上で抱っこされてよしよしってされてる。
「お前ってさ、普段は男勝りでしっかりしてるし、身体もその、めちゃ感度いいからわからなくなるけど、女の子としてはまだまだ子供なんだよなぁ。」
「子供じゃないよ...」
もう20過ぎてる女に子供だなんて、失礼だ。ちょっとふくれっつらになってると思う。その顔をみて広海が少し笑って、もう一度額にキス。
「あぁ、ごめんな。大事にするから、竜姫、思ったコトどんどん言っていいよ。俺、でないと判んなくてお前に無茶なことするかもしれないから。」
あたしは素直に頷いて、彼の胸に頬をすりすりしてみる。今の広海は優しくって、心地よくって、全部預けちゃいたくなる。
「こういうのも好き...」
「たまにはな...、けどあんまりだと俺、盛り狂っちゃうから、またやらせてね?」
「馬鹿!」
とりあえず、いいかな?シテも...。結局はあたしも彼には甘いのか、身体が慣らされてるのか。ほんとは彼とスルの嫌いじゃない、ただの女になっていくのが怖かった。ただの女になって飽きられたりするのが怖かった。そうじゃないなら...
自分から広海の首に両手を回して、唇を引き寄せてみる。
そっと唇に合わさるお互いの想い。
「ちゃんと送ってくれるなら...1回だけね?」
「今日は我慢するって...」
優しく笑う広海があたしの頬を軽く撫ぜる。
「あたしが我慢できないの。」
そう小さくつぶやくと、とたんに彼の表情が変わっていく。
「た...竜姫。」
声まで掠れて上ずってる。広海のこういう声って結構色っぽいのよね。
「時間、足りるかな?」
耳元でそう囁かれて、耳朶を軽く噛まれる。
急がないで欲しい。
ゆっくり愛して欲しい。今日だけは、あたしを安心させて欲しい。
もうドアの向こう側で待ってるんじゃないから...
この部屋の中に、彼の側にあたしの居場所があるから。