番外編〜秀ちゃんのつぶやき〜
あぁ〜、俺やっぱ失恋しちゃたんだよな。
俺、真田 秀一、大学3年。
最近従兄弟の久我広海に引っ張られて映研の映画に出たりしてる。
ビジュアル系なんていわれてて、ファッションにも身だしなみにもそこそこ気を使ってる。そこらのむさい男どもとは一緒にしないで欲しい。広(ヒロ)も同じ血を引いてるからもうちょい構えば綺麗になるのにさ。ま、男っぽいタイプだからそのまんまでも女には不自由してないみたいだけどね。
はっきり言って俺も、もてます。女にはまったく不自由してなかった。ついこの間までは...。
広の大学の映研に引っ張られて行ったんだけど、以外に可愛い娘が多くって喜んで顔出してたんだ。みんな誘ったら喜んでついて来てくれるし。俺は女の子の笑ってる幸せそうな顔を見るのが好きなんだ。だから、思いっきりフェミニストして、大事にしてあげて、いい思いをしてもらうのがモットー。でもしつこいのは嫌いだなぁ。そんな俺が全部の女の子と手を切ってまで手に入れたいと思った娘。
それが紺野竜姫。
広の親友だと言って紹介されたけど、俺にはすぐにわかったよ。男っぽいスタイル、しぐさ、言動の裏に隠れてるめちゃくちゃ純真で可愛らしい女の子の部分。それが広のためのものだって気付くのにも時間はかからなかった。当の本人は気付かれてるなんて思いもせずに、俺が接近すると逃げ出してしまう。
こんなこと初めてだった。迫る前から逃げられるなんて...
おまけに広から『竜姫が嫌がってるみたいだからしつこくするなよなっ!』って言われるし...
その時に気がつけばよかった。それが広なりの牽制だったんだって。あの鈍感野郎の心の底には『竜姫に近づくな!』っていうのと『竜姫は決してそこいらの男にはなびかない』って決め付けてる想いがあったんだ。あいつのめでたい性格からでた無意識のものだろうけれど、おかげで俺は...この手の中に崩れ落ちてきた彼女の身体を抱きしめこそすれど、自分の物にはできなかった。
彼女の泣き顔は見たくないから。
広の元へ帰してやるしかなかった。いつ奴が気付くかとも思ったけど、夏休み開けてみると、すっかりらぶらぶになってやがる!
竜姫は相変わらずだったけど、広の奴の竜姫を見る目が全然違ってて、近づく男共を牽制してる。見た目きつい顔してるんだからその顔で睨むなよ、ほんとに...
そして今日、決定的な瞬間を見てしまった。
いつもシャツブラウスにデニムやブラックパンツの竜姫が、流行のスカートなんかはいてるんだ。足元はミュール、トップスはぴったりとしたカットソー。何気ないファッションなんだけど、彼女が着るとすごく引き立つ。168の長身もあるけど、モデル並みのスレンダー美人だったから。彼女がいつもTシャツを着ずにシャツブラウスだった訳もわかった。胸、意外とあるんだ...そういや抱きしめた時柔らかく当たってたよなぁ。そんでもってその横にはいつものクールで強面の広でなくて、緩みきった顔してる我従兄弟殿...
その顔、死んだ叔母さん見せてやりたいよ。昔から無愛想で癇の強かったひろちゃんが女の子相手にこんなに優しくなるなんてね。おじさん似で女ったらしだと思ってたけど...うちのおふくろも最近顔見せてくれないって嘆いてるのに。(母親同士が姉妹だったからね。)
その横で、竜姫も照れくさそうにしながら笑ってた。二人は広の部屋へ仲良く入って行くのをずっと見てた。
部屋に女は入れないなんていってたくせに...な。
今日は泊めてもらおうと思ってきたけど、当分ここは無理だな。いや、もしかしてずっと...かもしれない。広の奴、子供の頃から一旦執着しだすと凄いから。
はぁ、仕方ない、今日はうちに帰るとするか...
竜姫ちゃん、綺麗になってたな...
手に入らないものほど、欲しくなってしまう。
彼女ほど俺を夢中にさせてくれる娘が、また現れるんだろうか?
しばらくは女の子と遊びで付き合うのはやめておこう...。
あ、広の部屋の電気が消えた...くそっ、今日は自棄酒だ!
俺は飲み屋街へと夜道を歩いていった。