100000Hitキリリク〜ちぇりーさんへ〜
番外編〜秀ちゃんの彼女〜
その夜僕は自棄になって飲みにでた。
本気で好きになった女の子が、今僕の従兄弟と一緒にいる。もうすでにその腕に抱かれてるのかもしれない。
竜姫ちゃん...
あの時抱きしめたぬくもりを思い出してしまう。
僕はこんなに未練たらたらな男だったっけ?だいぶ前に振られてるのに、今時分実感してりゃ世話ない。それほど、広と並んで歩く彼女は綺麗だった。
今隣に座ってるのは濱名美咲、竜姫ちゃんの親友だ。夏の撮影合宿の後、何度か二人で飲んだ。最初に彼女から声を掛けてきた。理由はシンプル、竜姫ちゃんの変身の原因が聞きたいということだった。
夏があけて180度女らしく変身した彼女に回りは驚いたらしい。僕からすると無理に色っぽい格好しなくっても竜姫ちゃんは十分に綺麗だったし、着飾ればそれはそこそこいい線行くのは読めてたんだ。これでも女性を見る目には自信あるから。
その変身に付き合った彼女も目をむくほどだったらしく、僕もさっき見るまではそこまですごいとは思ってなかった。一緒に美咲さんも変身すればいいのにと思うほどだった。だって彼女は長めの髪の毛を後ろで一つまとめにくくって、一重の涼しげな目元に縁なし眼鏡をすこし下にずらしてかけてる。はっきり言っておしゃれはしないみたいだ。なぜここまでというぐらい。
今日は急に飲みたくなって、近くに住んでることを思い出してつい彼女を呼び出してしまったけど、男と飲んでる感覚になるね。まったくといって化粧っけはないもの。ま、その方が気を使わなくっていいかもしれないけど...今まで周りにいたのが化粧しっかりってのが多かったから、竜姫ちゃんといい美咲さんといいすごく新鮮だ。
「珍しいね、秀ちゃんが呼び出してくるなんて。」
この間呼び出されたときに思わずすこし愚痴ってしまってからは、僕は秀ちゃん扱いだ。聞き上手の彼女は僕の鬱屈した気持ちを黙って聞いてくれていた。無駄な励ましの言葉なんか欲しくもなかったから、『馬鹿だね、無理しちゃって。』と言われたときに初めて涙が出た。
「さっきさ、あいつのおふくろさんに預かった物渡そうと思って奴のマンションに行ったらさ、二人で手繋いで帰って来るんだ。あいつ、『女と手繋いでなんか歩けるか』って言ってたのに、変るもんだね。」
「それをいうなら竜姫だって...以前は三日と空けずに遊びに来てたのに、男が出来るとぱったり来なくなったし。」
「寂しいの?」
その問いに、いつもなら表情を変えない美咲さんの顔が少し緩むと、彼女も手にしてたライムのチューハイをぐっとあおった。
「まあね、やっぱり寂しいかな?だから秀ちゃんの電話にのこのこと出てくるんでしょ。」
「僕も一気に寂しくなった。」
二人ふーっと同時にため息をついたあとお互いに顔を見合わせて笑った。
今回は僕だけでなく美咲さんもかなり鬱憤溜まってたらしく彼女もいっぱい話した。こんなに話したのは久しぶりだろう。もちろん肴はあの二人だ。下手すりゃ広なんかこてんこてんにこき下ろされている。僕達から竜姫ちゃんを奪ったんだ、そのぐらいかまわないだろう?
「美咲さん?大丈夫?今日はかなり酔ったんじゃない?」
「まだ大丈夫だよ。そうだ!秀ちゃん、うちにおいでよ、今日はとことん飲もう!」
美咲さん、酔ってますね?ハイテンションになってますよ。
どうせ送るついでと店を出て二人で歩いた。足取りだけはやたら軽いみたいだ。
「気持ちいいね、あたしこんなに話しして笑ったの久し振りだよ。」
ニコニコと少女のように微笑む彼女はいつもの彼女とは完全に別人格だ。
明るい、よく笑う、そして可愛い...
そうなんだ、可愛いんだ、今日の彼女は。いつもの彼女はクールに構えていて、時々言う一言がずしりと重かったりする。頭のいい女性だっていうのは判ってたけど、男性には決して気を許さないのかと思えば猥談にも乗ってくる。まあ、つかみ所がないと言えばそうだけど、男同士って感じが強かった。なのに今日はやたら可愛い...
僕も酔ったんだろうか?
「美咲さん?」
「なに?」
スキップしだしそうなほど軽い足取りで前を歩く彼女はくるんとこちらを向いて、それでも後ろ向いたままで歩いてる。器用だなぁ。
「今日は上機嫌だね。」
「秀ちゃんは?あ、あたしじゃそこまでいかないかぁ。こーんないい男と飲めてあたしは楽しいよ〜だってさ、回りの女達が羨ましそうに見てたよ。なんでもないのにね〜男同士みたいなものなのに、疑っちゃって、あんな目で見ることないのにさ...」
へえ、珍しいね。美咲さんともあろう人が周りの視線気にするなんて...人になんていわれ様が平気なこの人がね。確かに後ろにいた女性のグループがかなり辛らつに言ってたのは判ったけど。
「ごめんね、秀ちゃん。あたしみたいなのが隣にいてもたのしくなかったでしょ?」
「なんでそんなこというの?美咲さんと居れて楽しかったよ?だからこうやって部屋までお邪魔しようとしてるんじゃないの?」
「うーん、でもいいよ、無理しないで...やっぱ一緒に歩いてても恥ずかしいでしょ?」
「恥ずかしくないよ!」
すっと彼女の側に行って不意に眼鏡を奪った。見てみたかったんだ、彼女の素顔が...
「めがね取ると可愛いじゃない?何でコンタクトにしないの?」
「やめてよ!可愛いなんて、ありえないこといわないでくれる!」
どうして?可愛い素顔してるのに?一重の目はすっきりと切れ長で知的だし、ちょっと酔っ払って色白の細面の顔が少し桜色に染まっている。小っちゃ目の鼻に薄い唇はほんとに冷たく見られがちかもしれないけど、化粧っけのない肌は間近で見てもすごく綺麗だった。
頭の上に眼鏡を掲げてると『返してよ!』といって飛びついてくる。だから反対の手で髪を後ろで止めてるバレッタをぱちんと外す。
「やだ!なにすんのよ!!」
そのまま髪を押さえて座り込む。
「ね、どうして?綺麗な髪なのにもったいないよ?」
「うるさい!なんでよ、急にかまわないでよ!!」
「自分のこと可愛くないなんて言うからだよ。」
うーって唸ってる。まるで手負いの野犬みたいに...何かあったのだろうか?昔に...彼女をここまで頑なにするなにかが。
「だってさ、今から君の部屋に行くんでしょ?それって何もないつもりで誘ってるの?」
ほんとは何かするつもりなんてない。僕の中で美咲さんはすごく大事な人。竜姫ちゃんの親友で、何でも話せて、信用できて、できれば友達として一生側にいて欲しい人だ。
あれ?
これってすごい表現だね。
「あ、当たり前でしょ!いわばあたしとあんたは同志でしょ?そんな、なんかがあってた、たまるもんですか!」
わかってる、ちょっとカマかけてみただけなのに、急に怖い顔して...震えてるの?
「僕が怖い?」
「怖くなんかないわよ!」
「じゃあ、そのままで。君の部屋まで行ってもいいんでしょ?」
「も、もちろんよ!」
怒らせてしまったみたいだけど、彼女の闘争心にまで火をつけたらしい。
まったくいつもと全然違いすぎてるよ、美咲さん。
「どうぞ...」
さすがにたどり着くころには怒りもかなり収まり、なんだか考え込んでる風な彼女。
「そこにでも座ってて...」
台所とバストイレのついた6畳一間にはベッドと机、硝子の小さいテーブルが真ん中にぽつんと置いてある。とりあえずベッドにもたれる形でそこに座る。
未だに僕が持ってためがねとバレッタをテーブルに置く。
彼女は冷蔵庫から冷えた缶を2つ出して、ビールを僕に手渡すと自分はチューハイの缶を開けた。
「押入れに竜姫の使ってた布団があるから、眠くなったら使って...それが嫌だったら、ベッドつかってもらってもいいから。」
彼女は向かい側に座らずにテーブルをはさんで僕から少し離れてベッドにもたれるようにして座った。向かい側は台所の入り口で段差があって座わりにくそうだった。
「ね、美咲さんは僕が襲い掛かるとか思わない?」
「は?何寝ぼけたこと言ってんの、秀ちゃんはそんなことしないでしょ?そ、それにあたしなんか、だれも相手にしないからっ」
焦りながら彼女はタバコに火をつける。居酒屋でも何本か吸ってた。僕も吸うほうだから気にはならないけど、なんだか無理してるように見えてしょうがない。
「別に経験がないわけじゃないから、別になんとも思わないわよ。ただ、あたしみたいな女じゃ秀ちゃんの相手は役不足でしょ?今でも呼び出せば綺麗な人が相手してくれるんじゃないの?」
大人の女の振りでもしてるつもりなんだろうか?煙吐き出して笑ってるけどかすかに指先が震えてるのが判る。もしかして...僕の事意識してるんだろうか?
まさかね...
「だから今は誰もいないって言ってるだろ?確かに、竜姫ちゃんに本気になるまでは遊びで寝るのも平気だったけど、なんだかそれも出来なくなってね。」
「じゃあ、あたしでがまんして寝てみるっていうのも無理なんだ。」
「え?」
今なんていいました?もしかして誘ってるの?そんなことないよね。お堅い彼女がそんなこと...。
「美咲さん?」
目線を横にやると、視線を逸らしたままこちらを見ようともしていない。やっぱりかすかに肩先が震えてる。目をぎゅって閉じて、体を硬くしてるみたいだ。
「聞いていい?なんかあったの?」
友達なら聞いちゃいけないのかもしれない。だけど、知りたい。彼女の外見ががここまで偏っちゃってる訳。中身はほんとうに素敵な女性なんだから...
「美咲...」
そっと彼女の方に近づいて顔を覗き込む。
はっと顔を上げるその目はびっくりして、いいままでで一番見開かれてたと思う。びくりと跳ねて又後ろに逃げる。
「怖い?僕が...今は何もしない。美咲が嫌がることは絶対にしない。けれどこんなに怯えて、何かあったのか心配になるよ。君は僕にとって大事な人だから...」
「え?」
一瞬彼女が息を呑んだ。だめだね、まだ怖がらせちゃ。
「友達として、でいいよ。だから教えて。」
竜姫ちゃんのことがあった時に、すごく助けられた。
『次からは欲しいものはちゃんと手に入れなきゃだめだよ。諦めるならもっと思いっきりぶつかって自爆しなきゃ。物分りのいいことばっかり言ってたら老けちゃうよ』
そういって叩かれた背中。しゃんと背筋を伸ばして前を向いてた彼女。なのに今日の彼女は小さく見える。
「昔...そうだね、あったね。大学入りたての頃、サークルの新歓コンパで酔っ払って先輩にやられちゃったんだ...。抵抗したけど、嫌いな人じゃなかったし、むしろ好きな人だったからね、だからその気持ち利用されて...でも終わった後『誰にも言うな、俺の事好きだったんだろ、お前みたいなのは誰も相手しないから、してやったんだ』って。『一生男知らずにいるよりいいだろ、感謝しろ』って...あたしそれ以来女でいるのがいやになって、竜姫とつるんで、ジーパンはいて、髪縛って、めがねかけて、タバコ吸って、男とタメ口聞いて、やってきたんだ。男なんてやってる最中は可愛いとかイロイロ言うくせに、それって全部女抱くための手段でしかないんだよね?どんな女でも抱ければいいんだよね?相手にされないからって馬鹿にされるのは嫌だったから、めいっぱい男拒否してきたの。竜姫がいてくれたから、救われた。こんなことあの子に言えなかったけど、竜姫が一生懸命久我クンを思ってるのを見てきて、あたしでも誰かを思ってもいいのかなって..だけど、竜姫みたいに変身する勇気なくて、だから秀ちゃん呼び出して、どうやったら変れるのか、竜姫にかけた魔法を知りたくて聞いてみたりした...」
一気にしゃべり終えた彼女は涙の落ちた手の甲をじっと見つめるように下を向いていた。
「だめだよ、そんな経験引きずってちゃ。美咲さんはもっといい目見てもいいはずだよ。なんてったって女見る目のある僕が言うんだから。それに男見る目なさ過ぎ!そいつは最低の男だろ?もっと男見る目養わなくっちゃいけない。」
僕は持ってたビールの缶をテーブルに置くと、彼女の持ってたチューハイの缶も取り上げる。
「きゃっ、なに?」
僕はそっと彼女の身体を引き寄せてこちらに顔を向けさせた。
そうだよ、彼女は見た目と違って中身はすごく可愛い女性だ。過去に囚われて自分に自信をなくしてるだけだ。鎧を幾重にも着込んでね。
「竜姫ちゃんにかけた魔法はね、君が好きって、誰かが自分を好きでいてくれてるって自信だと思うよ。」
そうなんだ、竜姫ちゃんは僕の告白で少しだけ自分に自信がもてたはず。だから変われたんだ、素直な自分に。彼女も変われるはずだ。ほんの少し自信を持てば...
だけどまたその手を離して誰かのものになって行くのを見てるのはもう嫌だ。
「それ、カラダで判ってみる?」
「え?な、に...?」
「誰かにちゃんと好きでいてもらえる自信、美咲にあげるよ。嫌じゃなかったら...」
「え、えっ?や、ど、どうして、あたしなんか...し、秀っ!!」
そっと抱きしめる。思いっきり拒否すれば逃げられるほどの力で。そのまま彼女の体が力を抜くまでじっと我慢。急いじゃいけないんだ。本当の彼女を感じるまでは...
「僕の本気...感じる?」
「あ、あんたの本気は竜姫でしょ??」
小さく抗う彼女が僕の顔を下から見上げて必死で訴えてる。真剣な顔して...可愛い。
「今日から、美咲が僕の本気だよ。」
「今日からって、そんなに簡単に言わないでよ!!あたしは竜姫のよさを判ってくれる真田秀一をすごいと思って見直してたのよ、そう簡単に気持ち変えないでよ!ど、同情なんかいらないんだからねっ!さっきあんな話したから?だったら余計に嫌だよ、友達として聞いてくれたんじゃなかったの!?」
「友達として聞いたよ。だから、それを聞いた真田秀一は、濱名美咲がほっとけないって思えたの。大事な友達から大事な女になった。前に美咲はいったよね、僕は女の子を見る目あるんだって、だから次にそういう人見つけたら離しちゃだめよって、押して押して押し捲ればいいっていったの美咲だよ?こんなにすぐ近くにいるとはその時は気がついてなかったけどね。おまけに、竜姫ちゃんより不器用みたいだし。」
「あ、あたし??」
「ま、あとで惚れてくれてもいいから。好きな女の子の手を離して他人に差し出すようなマネはもう二度としたくないからね。」
「秀...んっ!」
まず顎に手をかけてこちらを向かせて唇を塞ぐ。出来るだけ優しく、でも逃げられないほど激しく...
「んんっ、秀...やぁ」
「今回は早い目に手つけとくから。」
「んっ、ん...」
最初は驚いて抵抗するかに見えたけれど、すぐに僕の下で大人しくなっていく。彼女の薄めの唇に舌を這わせると抱きしめてる身体がびくっと反応したのがわかった。その上唇と下唇を交互に甘噛みする。
「そんなに硬くなるなよ...こっちが緊張してしまうだろ?」
「だ、だ、だって...し、秀があたしなんか...」
「こんどあたしなんかって言ったら承知しないよ?美咲がいいんだからね。」
カチンカチンのままの身体をもう一度抱きしめ唇を重ねる。こんどはゆっくりと唇を割って舌を忍び込ませる。最初は唇も硬かったけれど次第に柔らかく溶けてくる。
もうどのぐらいキスし続けているのだろう?無理強いしたくなかった。慣れてない彼女に合わせてるだけだった。彼女の口中で僕の舌がゆっくりと口内の裏側を嘗め回し、探り当てた彼女の舌を絡めとっていく。繰り返される深いキスに次第に身体の力を抜いてくる。
やっとだ...。必死で呼吸しながら喘ぐ彼女の瞳はもう熱を持っていて僕の目をじっと見てる。薄めの唇は僕とのキスで腫れぼったくまくれ上がって紅く濡れている。
僕もこの辺が限界らしい。
「ね、返事はあとでいいから先にシテもいい?」
存分に彼女の口中を味わったあと、とろんとろんになった美咲に聞いてみた。しばらくは意味もわからずぼーっとしてた彼女。返事がないからそのままベッドに引きずり上げてゆっくりと組み敷く。嫌がれば止めるつもりだけど、そこまで来てやっと今の自分の置かれてる状況に気がついたらしい。それでも逃げるつもりはないらしく、必死で冷静の表情を作ろうとしてるのがたまらなくおかしい。
きっと素直に言葉に出来ないはずの彼女の唇を塞ぎ、再びゆっくりと味わう。さっきよりも数段柔らかくなった彼女の唇。割りいれたそこには自分から恐る恐る舌を絡めてくる彼女が居た。
この際会話は無視しようと思う。きっとこんな気持ち今は言葉に出来ないだろうから...言葉の分、語れるだろうか?
「うっ、んっ...んんっ!」
キスで身体までとろんとろんになった彼女の首すじに唇を移す。ゆっくりと舌を這わせながら美咲の反応を見る。
「はぁん...」
ゆっくりとだけどその愛撫に答え始めている。彼女の身体は正直だ。けれども時々開けた目がまだ不安そうに揺らいでいる。
「秀、あたし...秀なら、いい...」
「美咲...」
竜姫ちゃんがあれだけ変ったように、彼女も変えれるだろうか?
僕も広の様に変るんだろうか?
本気なら、きっと変っていくんだろう。今まで僕を変える女は居なかったけど、彼女なら...
彼女のすべてを手にするために、その身体の上に覆いかぶさっていく。ゆっくり、ゆっくり...
「あ、やぁ...っ!」
キスはすでに彼女の上半身を埋め尽くしいた。大きくはないその胸と、幼いほど小さい胸の蕾を口に含むとその快感から逃げられないらしく何度か身体を震えわせた。
反応の一つ一つが可愛くてしょうがない。経験者らしく振舞おうとしているのが判るけど、震えてちゃだめでしょ?
「ね、美咲、目開けなよ。そんなにぎゅってつぶってちゃ何にも見えなくて余計に怖いだろ?ほら、僕を見て。」
「し、秀...」
うっすらと涙を目じりに溜めたまんま僕を真っ直ぐに見つめる彼女の目じりにそっとキスする。
「涙が出るほどいやなの?」
「ち、違う...けど...」
「怖い?二回目ならそんなに痛みはひどくないかもだけど、十分にシテおかないと痛いかもだね。」
最後に残った下着の上から溝の部分をなぞる。
ん?
手をかけてそっと忍び込ませて茂みにもぐりこむ。少しだけだけど、熱く濡れ始めている。そのまま今度は直接その襞の部分をなぞる。何度も擦りながらだんだんと指1本分を埋め込んでいく。くちゅっと小さな水音が部屋に響いた。そのとたんに美咲の顔が真っ赤になって『いやぁ』と小さく呻いた。彼女はわかってるんだ。自分の身体が喜び始めたことを...
「美咲、可愛いよ、こんなに濡らして...いいこだね。だけど我慢せずに嬌声だしていいんだよ。」
「やぁ、だめ...そんなとこ...」
「どうしたの?こんなことされたことないの?」
涙を溜めて訴える彼女の色っぽさに負けそうになる。ほんとはすぐにでも彼女の中に入り込みたい。
「美咲、もう前にされたことは忘れろよ。こんなに綺麗な身体、早く自分のものにしてしまいたいけど、もったいない気もするんだ。美咲が好きだよ。美咲に溶けてしまいたい...。」
唇をその茂みの中へ運び込む。まだその奥に潜んだままの真珠を舌先で剥いて、ゆっくりと愛撫する。
「ひっ、んん、や、や、やだっ、ううっ、くう...」
「言って、感じるって、言ってごらん?」
「はぐっ、ん...い、いい...だめ、お、かしく、なっちゃう...」
「おかしくなれよ、美咲のおかしくなったとこ見たいんだ、僕に愛されて乱れていくとこが見たい。」
「あ、あぁぁ..っ、い...ちゃう...ああぁぁぁっっ!」
びくびくと頤を仰け反らせて自分を解放していく彼女は本当に綺麗だった。
「あぁ、美咲、いいこだね。」
まだびくついてるその身体をそっと抱きしめる。
「いい、美咲?僕ももう...」
覗き込んだ瞳からは涙がぽろぽろと零れ落ちていた。鼻まで真っ赤にしてぐしゅぐしゅだ。
「怖くない?」
「し、秀なら怖くない...」
そっと重ねたそこからゆっくりと侵入していく。まだびくつきながらも飲み込む前に僕の物を押し出そうとするその圧力は大きくなかなか最奥へとはたどり着かない。
「美咲、ごめんちょっと無理するよ。」
そう言うと彼女の両足を掴んで大きく広げた。そのまま前に倒してその勢いでめり込ませていく。
「うぐっ、あう、ああぁ...ん」
苦しそうな声は一番奥に達した時に甘い声に変った。ゆっくりと味わうように腰を使っていく。すぐにでもいってしまいそうになるのを大きく息をはいてそらせる。
「秀...好き...ほんとに...嘘でもいいの...」
彼女が手を伸ばしてくる。僕の首に手を回して甘えてくるその仕草がたまらなかった。普段の美咲からは絶対に考えられないことだ。
「嘘なもんか、好きだよ、美咲、一緒に、ね...」
身体を密着させたまま大きく揺さぶり続ける。たまらなく締め付けられる自分のものが彼女の次の絶頂を知らせていた。
「あぁ、美咲、美咲!ううっ!」
「あん、秀っ!んんんっくぅ...」
溶けるような強い快感を下腹部から感じる。いつまでも締め付けて離さない美咲の中にこれ以上ないというほどの想いを薄い壁の中に吐き出していた。
空はもう白んでいる。ようやく緩んだそこから抜け出して、身体を横たえる。もう力が出ない。すぐ側の美咲の肩を引き寄せて腕枕したまま深い眠りに落ちていった。
「ありがとう、秀...」
「ん、美咲?」
明け方近くまで繋がっていて、眠ったのはついさっきのように思うのに時間は随分と経っていたみたいだ。彼女はベッドの上に座り込んで、目を覚ました僕をじっと見ていた。
「秀のおかげで少し自信がついたわ。今日から、もう一度女としてやってみる。」
にっこりと優しく微笑むその顔は以前のように冷たくも無表情でもない。小首をかしげたその肩から長い黒髪が流れ落ちてきた。僕はその髪一房にキスを送るともう一度美咲を引き寄せようとした。
「もういいわ...これ以上、辛すぎるもの。」
泣きそうな瞳を必死で見開いて笑おうとしている。
「秀にいっぱい愛してもらって、この身体がはじめて愛しく思えたの。震えるほどのこんな快感、二度と知ることはないかもしれない。けれど、忘れないから...こんなあたしでも大事に抱いてくれた人がいるなら、やっていけると思うの、これからも...」
「何いってるの?美咲?」
冗談を言ってるんじゃないのは判ってるけど、どうして?これから始まるのに?昨日から始まったばかりなのに、もうそんなこと言うなんて...
「だから、秀は優しいから、あたしに自信をくれたんでしょ?これが秀の魔法だったんだよね。演技でも何でも、あんたがあたしを本気で抱いてくれたのは判ったから、だからもう十分だから...」
「何が十分なの?魔法でも演技でもないよ?竜姫ちゃんにはこんなことしてない!僕は本気で美咲を抱いたんだ!」
「もういいって!本気で抱いてくれたのは判ってる!でも、だって、それは今だけの事でしょ?だったら、未練残るから、もうここまでにして...」
ぽろぽろとこぼれる涙。必死で笑って済ませようとする彼女。
僕は何かを間違った?
「美咲、先に抱いたのは美咲は心より身体の方が素直そうだったからで、身体だけのつもりはないよ。返事後でいいって言ったけど、そんな返事なら聞きたくない。」
もう一度自分の下に組み敷く。
「美咲とはゆっくりと分かり合ってやっていきたい。」
「嘘...」
「好きだよ、美咲。君といると楽なんだ。すごく自由にしていられるんだ。かっこつけたりしなくても済む。もう離せないって思ってるよ。なのにここで手放したら竜姫ちゃんの時以上に馬鹿でしょ?」
「そ、そんな...」
「もうあんな失敗はしないよ。欲しいものは手に入れる。それとも返事はノーのつもりだったの?他に好きな人いるとか...」
「え、好きな人って...そ、それは...」
真っ赤になって口ごもる。可愛いよ、そんなところがね。
「そのうちきかせてもらうさ、その口から、ね。僕の事が好きだって言わせて見せるから。ま、覚悟しといて。」
そのままもう一度身体を重ねたままキスをする。もう最初から優しく溶けている。昨夜の彼女の中のように...熱く蕩けていく。
どんな返事が返ってこようと、離さない。
そう決めたんだ。
〜美咲のひとりごと〜
竜姫に惚れた男。真田秀一。
それを知った時、あたしのこの男を見る目が変った。
竜姫の良さがわかるなんて...
しょっ中ちょっかいを出してたのも別に冗談でもなくて本気だったのだ。
夏の合宿で、久我クンにルームキーを渡してイロイロと画策したのだけれど、
竜姫の部屋を訪ねたのは彼のほうで、あたしのもくろみははずれた。
それっきり久我クンは竜姫と話すこともなかった。
だけどその後に、竜姫がいい女宣言したからびっくりして
一度だけカレに聞いた。どうしてそうなったのか。
彼は『竜姫ちゃんの気持ちはもらえなかったけど、変える事は出来たのかな?』
なんて寂しく笑った。その表情がなんともいえず女心をくすぐるのが私にもわかった。
彼がもてる理由。
優しい。
誰にでも...
わたしが知りたかったのは、彼が竜姫にかけた魔法だった。
あたしも、その魔法にかかれるのかどうか...なんてね。
あたしみたいな女がなにを血迷ったか...
それから何度か秀と飲んだ。
意外と気が合ったっていうか、あたしみたいなのと一緒にいるのに
秀はすごく楽しそうにしてくれたのだ。
綺麗な顔で優しくあたしにだけ微笑んでくれるんだ...
部屋に誘ったらカレは来た。
よほど信頼してるのか、下心があるのか...
「ぼくはいくら頑張ってもだめだったんだろうね。広を一途に好きな竜姫ちゃんに惚れたんだ。」
珍しく弱音なんか吐いたりしてる。
あたしってよっぽど頼りになる相手に見えるんだろうか?
今だに本気で男に惚れたこともない恋愛に関してはペーパードライバー並み。
ただし知識に関してはF1ドライバー並みかも知れないけど。
あたしはいつの間にか目の前に居るこの男が欲しくなった。
今だけでいいから...
「じゃあ、あたしでがまんして寝てみるっていうのも無理なんだ。」
言ってる意味がわからないような言葉で彼を誘う。
秀は私を大事な人といってくれた。
それだけでもいい。友達としてでもいい。
傷ついたあたしを彼は抱きしめる。あたしがいまのあたしである理由をしったから。
美咲と名前をよんで...
秀と私も呼んでみる。
一晩だけの甘い夢。
あたしに魔法をかける為の偽りの愛でもかまわない。
それだけであたしも変われる気がした。
朝、目覚めるとあたしは必死でいい女を装う。
「ありがとう。」
それで終わるはずだったのに、なんで...
もう一度押し倒される。裸の心をむき出しにされていく。
だめだよ、あたし、仮面被りきれなかった...
そうよ、好きよ、秀が!
秀が竜姫のよさに気がついてくれたと知ってから、ずっと見てた。
だから早く広と取り持とうとした。
あたしはそういう浅ましい女なのよ!
あなたに気に掛けてもらえるほどのものでもないの!
一晩、あんなに優しく激しく愛されたのは初めてだった。
セックスがあんなに甘くてやさしいなんて...
それだけで、思い出だけで過ごしていけるはずだったのに...
本気なの?
あたしみたいな女と?そんな...
「そのうちきかせてもらうさ、その口から、ね。
僕の事が好きだって言わせて見せるさ。ま、覚悟しといて。」
耳元で秀が優しく囁く。少しかすれた声で...
あたしは、いつ言えばいいのか考えてたけど、すぐにわからなくさせられた。
「好きだよ、美咲」
って言われた時に無意識に答えてたかもしれない。
『好き、あたしも、秀』と...
それから、秀は竜姫のようにここに入り浸っている。
たまに泊まっていったりも、する。
Fin
☆☆おまけ☆☆
「美咲〜いるの?」
あれ?竜姫だ!
「ん、どしたの?美咲?」
「秀、竜姫が来た...」
昨夜秀は泊まって行った。もちろん二人ともまだなにも着ていない。
「濱名、いないのか?」
「広も一緒か...」
まだ二人の関係は言ってない。
あたしが拒否してるの。だって恥ずかしいから。
だけどばれてるかも...
最近は秀のコーディネートで服を着てるし、化粧も始めた。
最近会ってない竜姫には判らないかもだけど...
「どうしよう?」
「どうしようじゃないでしょ、このまんまでいいの」
もう一度ベッドに引き戻される。
「だめ、竜姫と会うの久しぶりなんだから!」
そういって急いで服を着る。
数分後、
驚いた顔を2つ並べたバカップルと、まだ慣れないぎこちないカップルが
狭い部屋の中でにらめっこすることになる。
ほんとに終わり〜