〜200万アクセスキリリクbyしょ−りょーさん

バツイチ男の事情
〜卒業までのカウントダウン〜

しばらく泣き続けた瑠璃の母親がようやく顔を上げたときには、涙を止めていた。
「すみません...取り乱してしまって...」
「いえ、もう、大丈夫ですか?」
「ええ、酔いも覚めました...酔わなくちゃ言えませんでいたから、こんなこと。」
「......」
「中村さんは、本気なんですね、瑠璃のこと...」
「本気です。彼女が居ない時間なんてもう考えられない。瑠璃を、俺の力で幸せにしてやりたい。そして俺を幸せにして欲しい...そう思っています。」
俺は再び彼女を正面から見た。瑠璃に似た面立ちは儚げで、周りの男性も今まで放ってはおかなかっただろう。
瑠璃があと10年もしたらこんな風になるのかもしれない。
「俺は、一度は結婚に失敗しました。惚れてる女が居たのに、他の女の誘いにのって...子供が出来たのでそのまま結婚しました。俺は中途半端に終わってしまった昔の恋が忘れられなくて、結果妻を苦しませてしまいました。だから、妻が不倫して、離婚を申し出ても、俺は咎められなかった。けれども、俺だって子供は可愛かった。別れてからも会える日を楽しみにしていたんです。けれども、彼女がその不倫相手と再婚して、養育費も断られ、会うこともやめてくれと言われて...落ち込んでた俺を支えてくれたのが瑠璃なんです。今ではもう、誰よりも大切だと、胸を張って言えます。けれど、歳の差を考えると、やはり辛い...彼女にはもっと他にいい人がいるんじゃないか、そんなことばかり考えてしまう。だが、その反対に彼女を離せずにいるんです。たとえいくつになっても幸せになりたい、そう願うことは罪ではないですよね...?お母さん。」
「お母さん、か...少し悔しいわ。こんないい男があたしのところじゃなくて、娘のところにしかまわってこなかっただなんて。」
「え?」
そう言うことだったのか...
彼女も女性で、俺を男として見てしまったってことだったのか。
それなら、彼女が何を言いたかったのか判ってしまった今はもう何も言えない。
「あたしも幸せになりたい...でも瑠璃にも幸せになって欲しい...子供が成長して、手が離れて、あの子に頼りすぎてました。若くて、幸せそうで、いい男を連れてきた娘に女として嫉妬するなんて最低ですよね。」
「瑠璃は本当にいい子だ。そう育てたのはあなたでしょう?あなたががんばってきたから今の瑠璃がいる。どちらも幸せになれるはずです。」
「そう、ね。じゃあ、あたしは瑠璃のことはあなたに任せて、幸せになってもいいのかしら?」
「もちろんです。」
「瑠璃を...娘をよろしくお願い致します。」
深々と下げられた頭、彼女の膝の上で握られた拳に涙が落ちた。



その夜、家に母親を送り届けると、驚いた顔の瑠璃が待っていた。
「おかあさん!」
彼女が俺に会いに来てることを言ってなかったらしい。母親を布団に寝かせると俺はそれじゃと帰ろうとしたのをそこまで送ると瑠璃がついてきた。いつもなら車なので、この辺りを歩いたことなど無かった。
「お母さんがお酒飲んでるとこはじめて見たわ...」
「お母さんもまだまだ女なんだ。これから、なんだよ。」
瑠璃を見ると少し下を向いたまま歩き続けている。寒いと言って腕は組んでるけど...
「さっきは少しだけ嫉妬しちゃった。タクシーから降りてきた二人って、すっごく、似合ってたんだもの...」
少し拗ねた顔で瑠璃はぎゅっと俺の腕をきつく掴んだ。
今日あったことは言えないよなぁ...けれども、母娘でも嫉妬したりするんだ。これは知らなかった。
「あと10年もすればそうなるよ、俺と瑠璃も、ね?」
10年先、俺は43で、瑠璃は...今は考えずにいよう。だけど側にいて当たり前の存在でいたい。
「ほんと?」
瞳を輝かせて俺を見上げてくる瑠璃。自然と足も止まる。
「10年後も俺といてくれるなら...」
「もちろんだよ!あたし、真吾さんとずっと一緒にいたいもの...」
俺の胸に身体を預ける瑠璃の体温が暖かだった。
「ね、真吾さん...お母さんなんて言ったの?」
女の勘かな?なかなか鋭い...
「最初はね、反対された。最後に、よろしくお願いしますって...」
それ以上は言えない...だろ?
「ほんとに?よかったぁ...真吾さんがあたしのこと諦めちゃったらどうしようかと思ったわ。でもね、あたし、これからの時間を過ごすのも、あたしに触れるのも、真吾さんじゃなきゃやなの...」
「俺も、瑠璃とじゃなきゃ、やだなぁ。」
「ほんと?」
「ほんと。」
にっこりと微笑む。
帰り際のタクシーの中で瑠璃の母親に言われていた。
『中村さんのお気持ちは十分にわかりました。就職も決まったことですから、これからは瑠璃を大人の女性として扱います。わたしも18で瑠璃をうんだんです。あの子がどこに泊まろうが、家をでて誰と住んで何をしてもわたしはもう何も言いません。結婚も...ましてや相手があなたなら文句はありません。ですから、あなたも瑠璃を大人の女性として扱ってやって下さい。』
大人の女性、ってそう言うことだよなぁ...
「瑠璃」
「なあに?」
「卒業式はいつだ?」
「3月の1日だよ。でも2月から就職先から時間のあるときは見習いバイトで入ってくれって言われてるの。」
「そっか、3ヶ月も待てそうにないな、俺...」
「え?」
「先に卒業式、しようか?」
その言葉を聞いた瑠璃は、驚いた表情からゆっくりと微笑んで、頷いた。

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ほんとは待たせるつもりだったんですが、今話の中では12月。
待てませんよね?やっぱり(笑)