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〜Boy's side 3〜
「んんっ!」
何んでこんなことをしているのか?
そう、キスしたかったから……ずっと。
濡れた彼女の唇が妙に色っぽくて、俺が間接キスだって言うと顔真っ赤にして泣きそうな瞳になってこっちを睨むんだ。その瞳が誘うようにすら見えてしまったから。
ずっと前から紗弓に触れたかった。
抱きしめてキスしたかった。
その気持ちに蓋をして、逃げて他の女で誤魔化して……
本当は、紗弓だけが欲しかったんだ。
その気持ちに今はじめて気が付いた。
「やぁっ、遼哉っ!」
いったん唇を離そうとすると、紗弓はなおも逃れようとする。再び俺はなおさら深く彼女に口付けた。息苦しくて緩んだ紗弓の唇を舌でこじ開け、口中に分け入り舌を絡め取る。おそらくキスすらも初めてであろう紗弓には、こんなのはいきなりでキツイかもしれない。けど、もう止めようがないほど激しく欲望を噴出す自分がいた。俺の舌に口内を好きにされて、なすすべもなくただもがくだけの紗弓を両腕でがっちりと抱きしめて放さなかった。
いくら通りから死角になっているといっても、こんなところで暴れられたら目立ってしまう。
俺は彼女に息をつかせる暇もないほど攻め立てていた。
次第に紗弓の身体の力が抜けていった。ようやく唇を離すと喘ぐように肩で息をして、さっきよりもずっと潤んだ瞳をこちらに向けていた。何か言いたげに唇を動かすが俺が激しく吸い立てたがためにうまく動かないらしい。
「紗弓……好きだよ、ずっと前から……」
彼女の耳元でそう囁いて、髪をかき上げてうなじにキスをする。
「やっ、んっ!」
びくりと身体を震わせて、紗弓の口から色っぽい声が漏れた。
「紗弓、可愛いその声」
こんな声も出せるのかと嬉しくなってしまう。もうあの頃の子供だった紗弓じゃない。子供だからと、もう遠慮しなくてもいいなら……
「……遼哉っ!」
やっと出た紗弓の悲しげな声。どうしたんだ? 今さっきまで応えてくれてたんじゃなかったのか?
「やめてよ! そんな嘘……」
嘘? なにが? なんで泣いてるんだ? 紗弓……
〜Girl's side3〜
なんでいきなり?
キスされた。
幼馴染の遼哉に、それもなんか凄いやつ! 遊んでるとか、たらしだっていう噂はやっぱり本当だったんだ。
それに、彼女がいるはずなのに! どうしてこんなことするの?
わたしの気持ちを知ってて、からかってるんだろうか? でも誰にも言ったことないよ? ずっと遼哉のことが好きだったことは。嫌われてる、避けられてるって思ってたから……
中学では話もしてもらえなかった。目が合ってもすぐにそらされたし。
なのにいきなりキス? いくらなんでもひどすぎるよ! だって、ファーストキスだったのに!
これがもっと違う形だったら、わたしは……そう考えてしまう自分が悲しい。
「からかって楽しい? 幼馴染をこんな風にからかって楽しいの?」
涙がひとりでに溢れていた。喉の奥が詰まって鼻声になってしまう。
「違う、紗弓。俺は……」
「遼哉の馬鹿! あたし帰る!」
何か言いたげな遼哉を残して自転車に飛び乗った。
「待てよ、紗弓!」
背中に聞こえる声を無視してペダルをこぎ続けた。