6.ダイエットの基本 2
「まあまあ、そんなに根詰めなくてもいいじゃん? 俺も協力するからさ。で、こんなの作ってみたんですけど」
目の前には美味しそうな定食セット。具だくさんおみそ汁に白身魚の焼き物、納豆のオクラちりめん和え、それと冷や奴にゆで卵と茹で野菜のサラダ、ほうれん草のおひたし、きのこの和え物。
「お、おいしそう!」
ありがたい、ありがたいよ、コータ! 店に来てすでに1時間は経過するのに、あったかいお茶以外注文していなかったから。コータも気をきかせてくれたんだね。お腹は確実に減ってるし、周りからは美味しそうな匂いがしまくってるのに……こんなところでダイエットの話なんて無謀だったかな?
「コータ、注文してないよ? もう、チャーコも食べるのちょっと待って!」
そ、そうだよね、今食べちゃだめだよね? ダイエットの話してるんだから、相談してる意味がなくなる。
「いいじゃんか。晩飯まだだろ? ほら、イッコのもあるから。それにこれ、カロリーそんなに高くないんだぜ? うちの親父が血糖値ヤバくってさ、食生活から治せって言われて、食事メニューの改善したんだ。おまえんトコの店にも相談に行っただろ?」
「それは……そうだけど」
そっか、ちゃんとイッコのトコに相談行ったんだ。
「このメニューだったら安心だろ? チャーコもさ、よかったら毎晩ここに食べに来いよ。言っといてくれたらちゃんおまえの分用意して待っててやるからさ」
にっこり微笑むその笑顔は悪ガキだったころとちっとも変わってない。なんかコータの顔見てると昔のままみたいで安心する。
「コータ、チャーコには甘すぎだよ」
だけどイッコはまだ不満気だ。ダイエットの相談してる最中だもんね。彼女は真面目で融通聞かないところがあって、怒らせるとちょっと怖い。
「そっか? うちのメニューはカロリー高いのが多いって、おまえも食べなくなったろ? だから、こういうの用意しようと思ってさ。イッコがダイエットはじめた時にはまだこういうのに興味持ってなかったからなぁ……それにちゃんと代金はもらうからいいだろ? 今日のはサービスだけどよ。それに、オレは細っこいのよりぽちゃっとしてる方が好きだぞ。美味しいって言ってオレの作った料理食べてくれるのがサイコーだからさ」
一瞬イッコの表情がビクッと揺らぐ。あちゃ……コータその言い方はだめだよ、誤解招くって! だって、イッコは……コータが付き合ってきた歴代の女の子たちを見てダイエットする決意をしたんだよ。どっちかっていうと、細くて可愛い子が多かったじゃない? イッコはもともとポチャっとしてる程度で、太ってなんかいなかったんだから。
そう……彼は気がついてないかもだけどイッコの長年の想い人はコータだった。昔、小学生の頃にちらっと告白したらしいけど、鈍感なコータはまったく気づかなかったそうだ。その後もずっと幼馴染みとして変わりなく付き合ってるけれど、イッコがまだコータのことを好きなのは見ててもわかるんだよね。なのにすぐああいう言い方するから、事あるごとにイッコはコータがわたしのことを気にしてると思い込んでる。でもね、ほんとにそれはないから! 付き合いもわたしのほうがちょっと長いし、どっちかっていうと同じ体育会系のノリだから、そのぶん話しやすいだけだと思う。
「何言ってるの! イッコもコータの作る料理、美味しくて大好きだよね?」
「う、うん」
「美味しすぎるから食べ過ぎに気をつけなくっちゃって思うだけだって。ほら、わたしを太らせちゃうぐらいだから、ね?」
たしかに、兄貴の結婚と同時に家を出て一人暮らしするようになってから足繁く通ってるから、そのあたりも太った原因なのかもしれない。注文した料理以外にも、時々コータの新メニューを試食したりしてたから。イッコがダイエットしてからは余計にわたしひとりがガツガツと食べてたし。食べないんじゃなくて、食べたいけど量を控えてるんだとフォローしたつもりだったのに……
「ええ? じゃあチャーコが太ったのってオレのせい? ……それじゃ責任とらなきゃだめじゃん」
「コ、コータ?」
ちょっと、何言い出すのよ!! コータにとってはいつものジョークだろうけど、真面目なイッコは本気にしちゃうでしょ? 後で気まずい思いするのはわたしなのに……太ったのがいいなんて今まで言ったことなかったくせに、もう! それじゃがんばって痩せたイッコはどうなるのよ、鈍感野郎め!
とにかくコータは天然入ってるから、何言ってもしょうがないし、こんなふうにいちいち言われたことを鵜呑みにするわけにはいかない。だって、そう言いながら付き合う女の子は可愛いくてスタイルのいい子が多かったんだから。
コータって子供みたいなところもあるけど、正確は明るくて優しいし、なかなか愛嬌のある顔してるんだ。だから意外とモテる……告られて付き合うことが多いみたいだけど、長続きしないのもわかる。今はこの仕事が楽しくてしょうがないみたいだから。それに、こうやって女友達も大事にしてくれるから、そこら辺が彼女になった子たちは気に食わないみたいだ。もちろんコータはイイ奴だよ? ちっちゃい頃からの付き合いで太いとか細いとか関係なく人として見てくれてるけど、お互いに兄弟みたいな感覚になっちゃってるからなぁ……
「と、とにかく来れる日はメールするから作ってよ。勿論お金払うし。じゃあ、いただきます!」
とにかく目の前の食事! お腹すいてるから早く食べたいのよね。
「ちょっとまった! チャーコ、ちょうどいいから食べ方の説明しとくから。これは早食いで多く食べる人用の食べ方なんだけど……チャーコもそうでしょ? 満腹感をしっかり味わうためには食べ方も大事なの。早食いは絶対ダメ! 食べ終わっても満腹感が感じられなかったら食べ過ぎちゃうだけだから」
「うっ……」
確かに食べるのは早い。だからバイキングに行くといくらでも食べられるけど、いきなり苦しくなるんだよねぇ……
「こういうメニューの場合はお汁物から食べるといいのよ。温まるし、汁物はお腹も膨れるし熱いうちじゃないとおいしくないからね」
「わ、わかった……」
「具はよく噛んで食べる。汁は熱いうちにゆっくり飲むの。それも別々にね? やってみて」
熱々のお味噌汁の中の具をすくう。蒟蒻、油揚げ、人参、牛蒡、白葱、小芋……あとなんだろ? すごく具だくさんでお味噌汁というより豚汁みたい。
「よく噛んで、すぐに飲み込まない。30回は噛むつもりでね」
そんなに噛めないよ! と心のなかで訴えながら噛み続ける。でもすぐに飲み込んじゃう。
「チャーコ早すぎ。飲み込んじゃダメでしょ? コータ、次からは具ももう少し歯ごたえのある物にできるかな? もやしとか筍とか、すぐに飲み込めないものがいいわ」
「了解。年寄り向けだと、どうしても消化のいいものになっちまうからな」
確かに人参とかじゃがいもとか、柔らかくなってるとすぐに飲み込んでしまう。よし、じゃあ次は……と、ついいつもの癖でご飯へと手を伸ばしていた。
「だめだよ、チャーコ。ご飯は最後」
「ええっ! ご飯、最後まで食べちゃダメなの??」
「そ、ご飯と一緒に食べると味が薄くなるでしょ? だから味の濃いものがたくさん食べられてしまうの。それにおかずだけだど飲み込めるようになるまですごく噛まないといけないのに、ご飯を口に入れるとついそんなに噛まないうちに飲み込もうとしちゃうの。まずはおかずだけで食べるようにしてみて。味もそれだけで食べられるくらい薄めがいいんだけど、これももう少し味を薄く出来る? 塩よりレモン、醤油より出汁。できるだけ素材の味で歯ごたえのあるものがいいんだけど」
「わかった、次やってみるよ」
コータも真剣にメモを取ってるみたいだ。なんとかお味噌汁を噛んで食べ終わると、次はほうれん草のおひたしを口に放り込む。
「あっ、確かに……」
薄い出汁がかかってるんだけど、噛んでもかんでも……飲み込めない?
「いかにご飯に頼って食べてたかわかるでしょ?」
「うん、かなり噛まないと……無理だ」
それでも必死になって食べきる。かなり時間かかるから……普段からほうれん草とか入れるといいみたい。さて、次は納豆かな?
「納豆は畑のタンパク質だし、女性にはすごくいい食べ物だから、しっかり噛んで食べるのよ」
これは普段からご飯にかけて食べてないから大丈夫だった。でも、意外とこれも今まで早くに飲み込んでた……臭いがあるから薄味っていうのは難しそうだけど、具が入ってると食べやすいかな。
「でも、こういうのがぱっと作れるって、さすがコータだよね」
「ほんとに……このメニューはいつから始めたの?」
「ああ、前にダイエットする時でも美味しく食べられるうメニューがあったらいいなって言ってただろ? その時はどうやって作ればいいかあんまり検討がつかなかったんだけど、うちのおやじの糖尿病の相談行った時に、おまえんトコの先生が単位とかの説明してくれて、それだったら俺でも出来るかなぁってさ」
「単位??」
何、それ??
「単位っていうのは、糖尿食の計算の仕方なのよ。バランスも取れるから、ダイエットの時にも計算に使えるわよ」
イッコがコータに教えたというのは、食べ物を1単位=80Kcalで計算する方法だった。ご飯は1杯で1.5単位、パンなら8枚切り半分で1単位だそうだ。
「だったら、パンよりご飯のほうがたくさん食べれるって感じがする」
「そうね、だってパンは怖いわよ? 菓子パンとか惣菜パンの表示カロリー見たらわかるけど、1個で5〜600kcalあるものもあるでしょ? これ見て」
イッコが鞄から取り出してきた本を開いて見せてくれたのは糖尿食メニュー表。
「これ一食で5〜700kcalなのよ。菓子パン一個と同じカロリーだったらどっちがいいと思う?」
「もちろん、こっち……」
「栄養バランスも腹持ちとか考えたら断然こっちよね? で、チャーコの今までのご飯は……」
「うう、パンの方です」
そりゃカロリーオーバーになるはずだわ。酷い時は菓子パンや惣菜パンを2〜3個ぺろりだった。とすると1800kcalを一食で?? お、恐ろしい……!!
「麺類も同じよ。それにスープつければ結構カロリー高くなるのに、とれてるのは炭水化物と塩分だけってこと。それならおかずがたくさんのほうが栄養バランスもいいでしょ?」
食べてるものを単位計算になおすとよくわかる。あと栄養バランス的にも6つにグループ分かれていて、炭水化物類が穀類と果物。なんと果物は果糖だから炭水化物類になるんだって! 炭水化物は消化されると糖質になって吸収されるらしい。だとしたらわたしは糖質ばかり取ってたことになるの?? あとタンパク質類は肉魚と乳製品。脂質は油で、マヨネーズやドレッシングもココに入るのね。マヨひとさじで1単位ってどんだけかけてた??
「でも野菜は山盛り食べても1単位よ。海藻、きのこ、こんにゃく類はいくら食べてもいいからね」
おお、それは嬉しい! お腹空いた時にそれを食べればいいんだ……ノンオイルドレッシングとか使えばいいよね?
「このメニューだと、ざっとほうれん草とおくらちりめんで1.5単位かな? 納豆1単位、お魚も白身でこの大きさだと1.5単位。ゆでたまご1単位、豆腐1単位で、おかずだけでだいたい6単位ぐらいだから、計算すると500kcal前後になるのよね。あとはご飯1杯ごとに1.5単位。だから最後に食べて少し減らしたほうが満足できるってわけ」
ゆっくりと説明を聞きながらしっかりと噛んで食べると満腹感がだんだん出てくる。味が濃く感じたり飲み込めなかったり、柔らかい物は食べた実感しなかったりする。なるほど、満腹感や満足感のあるものを食べるようにすればいいんだ。お昼とか朝の食事例が載っている。
「これ貸してあげるからしっかり読んでね」
これを参考にすれば自分でもできるかな?? えっと、食品交換表……これって売ってる本なのかな?
「あと、チャーコの場合は脂肪燃焼させたいんなら、少し炭水化物や脂肪をタンパク質に置き換えたほうがいいかもね。あんまり御飯食べなくてすむなら……夜とか糖質減らしたほうがいいし。あ、だから果物も朝か昼なのよ。冷やす食べ物だしね」
このぐらいのバランスで朝昼晩、出来ないときはコータに頼むと……それなら満足して続けられそうだね。
「そうしたら、チャーコが普段摂取している2000kcal前後の食事よりずいぶん減らすことができるでしょ? それ以上のカロリーを身体動かして消耗すれば、確実に減るし」
「ほんとだぁ……」
いままでの、ご飯お菓子麺類などの炭水化物や糖質中心だった食事を変えていくだけで違ってくるんだね。これだけの量がきちんと食べられたら我慢できるし、ご飯減らしてもいいなら……どうしてものときはお菓子より納豆食べるのもいいし、キャベツや海藻ならいくら食べてもいいみたいだし。
さっき普段の食事を計算してもらったら、確かに食べ過ぎていた。それも恐ろしいほど……朝2個と昼3個の菓子惣菜パン5つ(600Kcal ×5個)と居酒屋メニュー(2000Kcal)で過ごした日なん5000Kcalだもの。そりゃ太るって……だから大好きなパンも麺類もしばらくはさようなら〜〜だ。
ああ、でもこんな美味しいダイエットメニューが食べられるなら……成功しそうな気がする。ああ、やっぱり持つべきは幼馴染みの料理人だね。
なんだかんだと言いながら、おかずを全品ゆっくり噛んで食べて……最後にご飯を食べようとしたけど、もうあまり入らなかった。
「もう、ごちそうさましていい?ご飯半分しか無理……
「こうやって、満足出来る食事を心がければ身体はごまかせるでしょ? 色々レシピ持ってきてるけど、コータに作ってもらうのが一番早いかもだね。あ、でも20時以降はだめだよ? その時はサラダとかキャベツとかだから」
「ええ? ダメなの??」
「いくらカロリー低くても、遅くに食べて動かずに寝るだけだったら全部身についちゃうわよ? だからできるだけ20時までに食事を済ませるように。それにね、起きてる間は交感神経が身体を司ってるからすごく胃が動くけど、寝てる間は副交感神経に切り替わるの。そうすると腸が動いて……だから夜遅くに食べてすぐ寝ると、朝に胃がもたれるのよ」
たしかに、食べてすぐ寝ると翌日が……お昼にはいつもどおりだったけどね。
「夜食べた分しっかり吸収されちゃうのはいやでしょ? そういう意味では朝が一番食べてもいいんだけど、午前中身体の調子が上がらない人は朝から無理して食べなくても、お昼にしっかり食べればいいわ。朝たくさん食べ過ぎると、お昼にもっと食べようとするかもしれないから」
じゃあいままでの寝る前にやってたドカ食いが一番肥満の元だったというわけだ。
「あとね、お通じがきちんとないとダメなのよ。便秘の人はそれ治してからじゃないとダイエットは難しいの。デトックスって大事だからね。要らないモノを身体から追い出すのが本当のダイエットだと思うの。だから、チャーこの場合は脂肪を追い出すこと、そうでしょ? あ、それときちんと睡眠が取れてないとお通じも悪くなっちゃうから、夜更かしもよくないからね。きちんと食べて運動してちゃんと寝る。それが基本よ」
はっきりとは言わないけど、イッコはお通じのほうで苦労したみたい。
「本当にシンプルなんだね。アタリマエのことができてないとダイエットも健康も手に入らないんだよね」
「そうよ、これだけ健康的な食事していてもそれだけじゃだめなの。摂取カロリー以上に動いたり、ストレスかかったりして疲労すれば、身体は勝手に『つかれた』とか『もっと食べたい』とか訴えてくるんだからね。それを助けて補うことが必要になっていくるわけ。その人によって弱いところもいろいろだから、それをカバーしていかないと弱ったところにすぐ出てくるからね。それを補うのが滋養強壮剤だったりサプリメントだったりするのよ」
そう、自信がないのはそこ。どうやって仕事に負担かけずにダイエットを頑張れるか、だ。
「とにかく、疲れたり身体的に無理のあるダイエットなんて続かないから。減らしたい体重に合わせてじっくり体づくりからしていかなきゃ! でもまずは何を食べたかと朝晩の体重を記録していってね。食事はさっき話した糖尿病食を基本にバランスとりながら、自分のやりやすいように。メニューとか変えていっていいんだからね。炭水化物をタンパク質に置き換えてもいいの。ほら、チャーコ昔からある材料で料理作ったりするの得意だったじゃない? カロリー低くて美味しいものを作って自分を満足させてやればきっと成功するって!」
自分でかぁ……そりゃ食べるのは好きだよ? 美味しいものを作るのも好きだよ? でも、仕事終わってからや毎日朝のお弁当とかすっごくしんどそうなんだけど? 一日中仕事して御飯作ってじゃ体力もたいないよ……夜はここにくればいいだろうけど、なんかイッコのいない時に毎日来るっていうのもねぇ……ついつい長居しちゃうし、早く帰って休みたい日もあるもの。イッコはここから近いけど、わたしのアパートからではちょっと距離あるしね。
「それと、急激に体調崩して生理が止まってもダメだから、まずは基礎体温もつけてね」
「基礎体温?」
「朝の決まった時間に動かずに毎日はかるのよ。そうすれば生理の周期もわかるし、代謝がきちんとできてるか確認もできるから一石二鳥よ」
持ってなかったらこれねといって、婦人体温計を見せてくれた。すごいなぁ、今のは測定記録も体温計が管理してくれるのがあるんだ……便利だなぁ。毎朝決まった時間っていうのが大変そうだけど、これはがんばってみるかな。
「あとね、摂取カロリーを低くしたまま同じような食事を続けていたら、身体がそれに慣れてしまうって言ったでしょ? 摂取カロリーにあわせて基礎代謝を身体が下げてくるからなんだけど。身体を温めて、基礎代謝量を上げて元気にしてくれる滋養強壮剤やサプリがあるの。いくつか持ってきたんだけど、飲んでみない? わたしもこれがあったから頑張れた気がするんだ。それに、チャーコがは運動しなくなってから代謝が悪くなったりしてない? 疲れると浮腫むって言ってたし、元々浮腫みやすい体質なんじゃない?」
「そうなんだ……前に水飲みダイエットっていうのやって一日に何リットルも飲んだけど、水分取り過ぎて、後で浮腫じゃって大変だったよ」
「汗はよくかく? おトイレのほうは?」
「汗はあまりかかなくなったかな? トイレもあんまり行かない方、日に3〜4、5回かな?」
「それって腎機能が元々強くないからかもだね。浮腫んでるってことは、水はけが悪くなって身体の細胞内に余分な水分が溜まってる状態なの。それだと細胞も内蔵も元気に動かないよね? それに水と油じゃ水の方が冷えるでしょ? だから冷えやすいんだけど、人の体って食べると温まるんだよ。だから寒い時に無性に食べたくなったりするし、代謝も悪くなるから人より疲れやすくなるの。だから補腎剤が入ってるアミノ酸系の滋養強壮剤のほうがいいんだけどなぁ」
そういって出てきた箱は栄養剤らしい。なんか漢方って感じだけど。
「薬って言っても、上薬中薬下薬ってあって、病院の薬が下薬、漢方薬が中薬、上薬っていうのが滋養強壮剤とかになるの。だから、何かを治す薬じゃなくて、身体を助ける食べ物の延長だと思ってもらっていいわ。本当に食べ物になるとサプリメントだけど、これは上薬なの。子供でも飲めるし、ずーっと続けても大丈夫なんだ。どんな治療薬と一緒に飲んでもいいから。ずっと飲んでると身体が暖まって疲れにくくなってダイエットを応援してくれるから。こうやって助けていけば続けられるでしょ?」
確かに、今までの失敗は全てそこだ。これまでも仕事先で仕入れてきた知識でイッコは色々と健康指導してくれた。よくこういうのを飲めって言ってたけど、これって液体でニオイがあって飲みにくそうで……今まで避けちゃってたんだよね。
「だからこのアミノ酸系滋養強壮剤ね。チャーコは冷え性だから生薬の人参と牛黄が入ったほうがいいと思うんだけど……とにかく失敗しないためにはまずコレが必要だと思うの! わたしもコレがなかったら絶対途中でギブアップしてたんだから……それとこれは青汁というか大麦若葉の繊維がたくさん入ってる分ね。野菜の繊維、特に水に溶けない牛蒡やほうれん草に含まれる脂溶性繊維は脂肪をくつけて体の外に排出してくれるの。便通も良くなるから、要するにデトックスね。イライラする人はリラックスハーブと言われてるエゾウコギなんかもいいわよ。それから……ダイエット始めると食事量が減るから、どうしてもカルシウム不足になりやすいの。日本人はカルシウムの摂取量が極端に少ないからね。それも食事で取れないようならカルシウムやミネラルも飲むほうがいいわ。あとね、痩せ始めるとどうしてもホルモンバランスが狂いやすくなるから……これどう? 大豆や納豆に入っているイソフラボンは女性ホルモンとよく似た形してるから身体が勘違いしてくれるのよ」
目の前にずらっと並んだ箱入りの薬やサプリメント達。ちょっと多くない?? 全部飲む自信ないよ……
「もしよければだけど……食事とか変えてみて、それから飲むんじゃだめかなぁ?」
「元気な身体を作らずにいきなり始めても、痩せるほどの食事量や運動や仕事を続けていたらほんとに続かないわよ? しんどくなってそこでやめちゃうか、そこから飲み始めても結局スタートが遅れるの。フラフラで走りだして空っぽになってから給油するのと、元気満タンで走りだして底付く前に給油するのとじゃ違うでしょ?」
わかるけど、やっぱりなんか飲みにくそうだ。ちょっと臭そうだし。
「全部じゃなくていいのよ? ダイエットならこの滋養強壮剤とグリーンのだけでも……」
お茶がわりにもいいとグリーンの粉末で作ってくれたのを飲んだけど、これなら飲めそうかな? 前に母が飲んでた『まずい青汁』ってコマーシャルしてたやつをもらったけど、ほんとにまずくて飲めなかった……何よりも真冬だったので冷たくて飲んでたら胃が痛くなったし。
「きっちり飲むのはこの二つだけ。あとは食事の内容見て飲んだ方がいいかもよ。満足度に合わせてダイエット食品やビスケットも使うといいわ。あと、ダイエット食も短期なら効果絶大だし。とにかく身体と味覚を満足させながらだからね」
結局滋養強壮剤とグリーンの粉末を購入することに決めた。2つぐらいなら続けられそうだしね。
「それ、俺の親父が飲んでるのとおなじじゃんか? 飲んでるとすげえ調子いいっていってたぜ。あんま食べなくても体が持つってさ」
「ほんと?」
「けどそれ全部チャーコが飲むのか? そこまでしなくても、食事だけでいいと思うけどなぁ」
「食べるものだけで簡単にダイエットできるなら、糖尿病食食べてる人は全員やせ細るでしょ?低いカロリーの摂取量でも持つように身体が維持しようとするから体重の減少も途中で止まるのよ。チャーコ、お願い……これだけは信じて。失敗する失敗しないは意思の強さももちろんだけど、元気か元気でないかがすごく大事なのよ!」
「わかった……イッコの言うとおりにするよ。やれるだけのことはやる! 飲むものとかはイッコに任せるよ」
やっぱここはプロの言うことを信じなきゃ始まらない。
「ありがとう、信じてくれて! でもね、体質が変わると、体重が減るよりももっといいことがあるから。毎日がすっごく楽しくなるくらい元気になれるんだから!」
「頑張って飲んでみるよ」
きちんと食べて……寝て、あとは運動かな??