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秘密のバレンタイン
その1

バレンタインの夜、世間では恋人同士たちが記念日らしいいつもと違う豪華な食事に出かけたり、それぞれの部屋で甘い時間を過ごしている。ホテルの多くの部屋も平日にも関わらず予約で一杯だったりする。

そんな中、たった一人、ホテルの部屋で待つ青年が居た。
「無理…だったかな」
急な呼び出しだった。
事情で当分の間姿を隠すしかなくなった彼は、友人のところやホテルを転々としてきた。さすがの今日ぐらいはと恋人に連絡を取ったが、ホテルが決まるまでに時間がかかってしまった。普通の短大生の彼女が関西から関東まで出て来るのには新幹線か飛行機を使っても3、4時間はかかってしまう。
ピンポーン
部屋のチャイムが鳴り、青年は急いでドアに向かった。
黒い皮のパンツと黒のシャツ姿のすらりと細長いその立ち姿が灯りの絞られた部屋のドアに影を映す。
外にたたずむのは清楚な顔立ちの女の子だった。その姿を確認した青年は急いでドアを開けた。
「ごめんなさい、遅くなって…」
「オレこそ、ごめん…こんなことになって…」
ううんと首を振った女の子はドアの中に滑り込むと青年の首にしがみついた。青年はいとおしそうに柔らかな女の子の髪をその綺麗な指先で撫でるとすぐさまドアを閉めた。

「大丈夫?ちゃんと、たべてる?」
ベッドで寄り添って座った青年の顔を覗き込んで女の子は心配そうにその瞳を揺らす。
「ああ、それより…いい?」
青年は柔らかな体の女の子を、宝物のようにそっとベッドに倒し、その唇を近づける。
「ん…あたしも、」
その先、二人に言葉は要らなかった。

「あっ、ああっ…」
慣れた愛撫にすぐさま狂わされ甘い声を上げる女の姿に変わっていく。彼女を女にするのはいつも彼だ。
幼い頃から互いを知り、そして心と体を通じ合わせてからは誰にも変えがたい存在となってしまった。
「オレが、安易にあんなこと引き受けなければ…」
自責の念は強い。だがそれ以上に今は愛する女の子と繋がり、その存在を実感するまでは心の不安は治まりそうにない。
「もう、離れたくないのに…」
切なげな表情で自分を見下ろす彼のその艶のある表情。誰もが見たくて、夢中にさせるそれは今は彼女だけのものだ。
寄せられた眉も、深いまつげも、色の浅い茶色がかった瞳も、全身から放つ色っぽさも、自分を欲しがる彼から発せられるものだと。実感させてくれる激しい行為は一度で終わらず、食事の総てをルームサービスで取りながら続いた。

「こんないいホテル、大丈夫なの?」
「ああ、あいつがお詫びにといって取ってくれたんだ」
あいつというのは、彼がこんな目にあう元凶になるものを作った男だった。
「そうだ、これ…」
彼女がかばんの中から取り出したのは小さな紅い箱。
「チョコ?」
「そう、あんまり好きじゃないだろうけど、気持ちだけね?」
「そうだな、オレは本体があれば十分」
そう言いつつ何も着ていない彼女の体を引き寄せる。
「どうするの?これから…」
「ああ…考えてはいる」
「逃げ続けられないよ?」
「わかってる…」
「あたしは、いいよ?」
「え?」
「いいの…したいように、してくれれば。だって、前みたいには逃げられないでしょ?」
以前彼女から逃げ出したことがあった。けれどもどうせ捕まるのなら早々に結論を出した方がいいに決まっている。青年はスッキリとした笑顔を彼女に向けた。彼女や周りの人間だけにしか見せない子供の頃と同じ笑い方。
(自分の中にある気持ちにはうそは付けない。いつか…)
「答えは、だすよ。ちゃんと…けど、今はおまえだけでいい。」
再びシーツの波の中にうずもれていく若い二人。飽き足らないと言わんばかりに再び睦みあう。
甘いすすり泣くような声はしばらくは消えることはなかった。
さてさてどのカップルでしょう?
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