クリスマス企画第一弾
Last of chance
〜クリスマスを過ぎても〜
12月25日
「朱音、着いたぞ...」
うたた寝していたらしい。その間に車はあたしのマンションの来客用スペースに止められていた。
もう夜中の2時を回っている。
「あ、すみません...あたし、寝てたんですね?」
「ああ、きつかったんだろ?起きあがれるか?」
「な、なんとか...」
身体を起こして何とか立ち上がって車から降りた。意識がまだちょっとはっきりしない。
「あ...」
立ち上がった後、シーマのベージュのシートにあたしの赤いシミが見事にこぼれていた。
「ご、ごめんなさいっ!あのっ...」
「そんなのはどうでもいい!...歩けるか?」
支えられてなんとか動けるかな?今でも身体の奥にすごく違和感があって、動きづらい気がするけれども...
「な、なんとか...ありがとうございました。あの、もう大丈夫です。」
大丈夫な振りしなきゃ...もう課長を部屋に上げたりするわけにはいかないから。
「いや、大丈夫そうじゃないな。」
「きゃぁ」
いきなり抱きかかえられて、そのままエレベーターまで連れて行かれた...
「あのっ、課長、もういいです、降ろしてください!」
「そこのボタン押して...なんだもう課長に戻ったのか?」
「だって...」
エレベータに乗ったときにいったん降ろされる。あたしはどんな顔をしていいのか困ってしまう。嬉しいんだけれども、ココでちゃんと線を引いておかないと、駄目だよね?きっと、あたしの方が駄目になる...
「朱音」
甘い笑顔が迫ってくる。もう終わりにしなきゃいけないのに、この甘さについ酔ってしまう。
上昇するエレベーターの中で甘いキス...
不倫って最初は甘いのね...でも奥さんの存在を考えると、もう、部屋に入れちゃいけない気がした。
エレベーターが止まり、部屋までまた抱きかかえられて、部屋の前で降ろされる。あたしがのろのろと鍵を取り出すとさっさと奪い取って鍵を開けて、靴を脱がせたあたしを部屋の中までまた連れて行こうとした。
「あのっ、降ろしてくださいっ!」
ソファに降ろされて、あたしは課長を真っ直ぐ見つめ返した。甘い微笑みがあたしを包んでいた。
だけど...
「あのっ、ありがとうございました...あたしみたいなのを抱いて貰って...おかげでやっと、バージンを捨てられました。この年まで大事に持ってて恥ずかしかったんですけれども...あの、だから気にしないでください。あたしはもう何とも思ってませんから。」
「捨てれた...?気にしないでって...」
課長の表情が一気に曇る。怒ったようにしかめられるキツイ顔...
「あのっ、あたし、本当にもう大丈夫ですから、明日からちゃんと...いえ、月曜日からはちゃんと課長の部下に戻りますから、今まで通りこき使ってください。」
「朱音、何言ってる?」
「だから、もうこれっきり...忘れてください、今夜のこと...」
「...おまえはそれでいいのか?ただバージンを捨てたかった、それだけだっていうのか?」
「はい、だから、課長はもう...家族の、奥さんのところに戻ってあげてください...」
「奥さん?...朱音は俺とは不倫のつもりだったのか?それも一度だけの?」
「だって、ずるずるとこんな関係続けるつもりはないですし、課長だって、やはり家庭を大事にされた方がいいに決まってます。だから、今夜のことは誰にもいいません。き、期待しちゃいますから、もう、これ以上は、優しくしないで...帰ってください。もうここには二度と来ないで...」
「いやだ」
子供のような一言を吐くよう漏らした。怒ってる、すごく怒った顔で...でもこれだけは譲れないんだもの。
「あたし、一度だけでよかったんです。これで、全部吹っ切れて、あたし、新しい相手探しますから...あたしみたいな女でも優しく抱いてくれる男の人が居るってわかっただけでもう、すごい自信なんですよ?あたし、課長に感謝こそすれ、恨んだり、後引いたりなんて絶対にしませんから...」
「おまえを他の男が抱くのを黙ってみてろって言うのか?俺は嫌だね、一度この手で抱いてしまって...初めてなのにあんな無茶させてしまって。やり直しもさせてくれないのか?」
ソファに押し込められたあたしをのぞき込むように、さっきの怒りの色を押し殺して、今度は静かに囁くようにあたしの髪を優しく梳きながら言った。
「だって、課長は奥さんのモノで、あたしは...あたしに愛人になれって言うんですか?一度だけなら過ちですむじゃないですか!だけどそんな...不倫なんて...あたし、出来ないです。欲張りだから、いつかきっと本当に課長が欲しくなってしまう...」
「だから、不倫って...奥さんて、別れた妻のことか?」
「....え?」
別れた...?あたしは身体を起こしてソファに腰掛けた。
「結婚して半年で別居、その一年後に離婚してるよ。向こうはもう再婚してる。」
「でも...あの、指輪...」
確かにずっとしてたよね?指輪...あれ?今してない??
「ああ、周りがね、別れたとか言うとうるさいからそのままにしていたんだ。けれども朱音の家に泊まったときからずっと外してたぞ?」
「嘘...」
「俺、言わなかったか?っていうか、企画部の連中は全員知ってると思ってたんだが...おまえがうちの課に来る前の話だからなぁ...富野とはそんな話は?」
「したことないです...」
そんな、課長の話なんてしたことない...
「ったく、あいつは役に立たんな...だから俺は独身だ。まあ、バツイチだけどもな。見合いで結婚した彼女は毎晩残業で帰ってこない夫に愛想尽かして半年で出て行った。こんな男じゃ嫌か?」
「い、嫌じゃないです!」
あたしは思わず力をこめて課長の袖を強く引っ張ってしまった。
「はっきり言って結婚は失敗だったと思ってる。そろそろ身を固めないといけないと思って、たまたま進められた見合いで安易に決めてしまった。俺はただ仕事が出来ればよかったんだ。妻は家庭を守ってくれればそれでよかった。だけどそんな身勝手な結婚生活が続くわけもない。終わってわかったことだよ。その人と一緒にいたいとか、ずっと側にいてやりたいって思うの相手に出会うことが先だったんだよな。それは朱音に出会ってからわかったよ。富野のことを思って、必死でがんばって、だけどその思いを一言も口にせずに尽くしてるおまえを見てると辛かった。俺にはやつがおまえに甘えて、ズルしてるようにしか見えなかったからな。だけどいつかおまえ達はそうなると思って諦めていたんだ...なのにヤツはおまえを利用するだけ利用して、彼女は別でつくって、ちゃっかり結婚を決めた。そのことを聞かされた時点で、俺はもう自分の気持ちを抑えるつもりはなかったんだ。ただ、朱音は男に対して壁を作るから、なんとかいい上司を務めて信用して貰おうと必死だったんだぞ、俺は。」
「あの、それって...」
「ああ、おまえが企画部に来てからずっと見ていたってことだ。そして欲しいと思った。こんなにも、そう思ったのはおまえだけだ、。だから、あんなマネをしてしまった...欲しくて、欲しくて、目の前で眠られたときは本当の地獄だった。皺にならないようにドレスを脱がせた下着姿のおまえに不埒な思いを抱いたさ。我慢できなくて抱きしめて眠った。今夜やっと思いが叶ったと思ったら、もう来ないでだからな。おまえは一度でいいと言ったが、俺は一度や二度じゃすまないんだぞ?」
「課、課長...」
「名前を呼べと言っただろ、ん?」
「んんっ」
ソファでまたキスが始まる。なんだかさっきよりも激しいくない??あたしはまた翻弄されて、唇を離された頃にはぐったりとしていた。
「ベッドに行こう、俺が納得するまで付き合って貰うぞ?生憎と、明日あさって休みで時間はたっぷりあるからな。それとも先に風呂にするか?もちろん一緒にだが...」
「あのっ、まって、そのまえに...あの、あたしのこと、その...どう思ってるのかまだ聞いてないです...」
「いってなかったか?」
「欲しいとかしか...それって、身体だけです、か?」
「馬鹿、そんなはずないだろう?」
そう言ったあと、言葉を待つあたしをにやっと笑って自分の服を脱ぎはじめた。
「後で言ってやるから、さあ、風呂に行くぞ。」
「え、ちょっとまって...」
抵抗既に遅し、ソファでいきなり全部脱がされる。
「初めてで痛い思いしたとこ悪いが付き合って貰う。大丈夫だ、朱音はなかなか感じやすいから、すぐに慣れるって。」
慣れるって...あたしさっき痛い思いしたトコなんですけど?そりゃ、痛いだけじゃなかったけれども...
抱え上げられてそのままバスルームへ連行された。湯船とシャワーの中で愛撫されて、散々鳴かされ、ベッドに戻った頃には意識が朦朧としていた。すべて彼、俊貴さんのなすがまま...課長と呼んだらさらにひどく攻められてしまう...。
「郊外の家はもう売りに出してる。こっちにマンションを買うから、朱音もそこに来るんだ。いいな?」
「え...でも...」
「一緒に住まないって言うんだったらそうしなきゃならないようにすぐに孕ませてやるぞ?まだ仕事したいだろうから、その間ぐらいは待つ。だけども俺は朱音が欲しい。すぐに、ずっと、この腕の中に欲しい。」
「じゃあ、ちゃんと言って、言葉にして?あたし、言われたことないんだから...」
「じゃあ、一度俺を満足させてくれたら...な?」
なんでこんなに意地悪を言うんだろう?課長じゃない俊貴さんの顔はすごく楽しそうだ。
「そ、そんなっ!んんっ」
「さっきので準備できてるだろ?」
バスルームでされたこと言ってるんだろう...確かに、もう...
「あっぐっ...」
「ああ、朱音、朱音っ...」
彼が身体の中に入ってくる。すぐに動き始めて、身体を揺すぶられる。激しい交わりが始まる。あたしもだんだんと喘ぎ声しか出せなくなる。
感じさせられて、高ぶらされて、イカされて、明け方意識も朦朧とした中で、初めて譫言のように告げられた。
『愛してる、朱音...』
って...
「おはよう」
目を覚ますと目の前に本宮課長...俊貴さんが微笑んでいた。
もうお昼?っていうくらい明るい部屋の中、まだ二人ともベッドで、俊貴さんもなにも身につけてなくて...
「おはようございます...」
照れくさいけど、幸せで暖かな瞬間だった。
「なあ、言い忘れてたよな、メリークリスマスって」
「あ、ホントですね...メリークリスマス、俊貴さん。」
あたしは彼の腕の中に閉じこめられたまま。
「夢じゃなかったんだって、実感...」
彼が囁く。甘い声で。
「あたしも...クリスマスを過ぎても、この夢は覚めない?」
「ああ、一生覚めないさ。なんなら今からもう一度証明しようか?」
素肌が伝える彼の身体の一部の熱にまた驚く。
「お、お願いですから、あの...休ませて...」
「俺は腹が減ったぞ?」
「わかりました、じゃあ食事を...」
「ん、やっぱ先に朱音。」
「課長!やっぱり人格変わってます!」
「また言ったな?名前で呼べと言ってるだろう?ベットで課長って呼んだらお仕置きって言ったよな?」
「そ、そんな横暴です、かちょ...あっ」
「お仕置き決定」
それから引っ越すまで、課長...いえ、俊貴さんはうちから会社に通い続けた。でも通勤時間以上に時間使って、寝る時間は前より短いんじゃないのだろうか?
「か...俊貴さん、もう...お願い、眠らせて...」
「朝したら怒るくせに?起きあがれないとか言って...だから夜してるんだ。文句言うと朝からやるぞ?」
「そ、それだけは許して...」
あたしは暖かな腕を手に入れた。すごく欲しい物になってたその人の腕の中の定位置。
眠るときも、目覚めるときも幸せに包まれて居られるそのしあわせ。
クリスマスを過ぎても、消えないイブの贈り物を...
−END−
クリスマス企画終了です。 やった〜〜〜!!! やり遂げた自分にイイコしちゃいます。 それでは、みなさまにもメリークリスマスw |