月がほほえむから
〜番外編〜

君は僕のお日様だから


離れがたかったのは、彼女だけじゃない。
僕だって、あんなふうに彼女の身体を味わっておきながら、自分の欲望が果たせないのは辛かった。
「もう少しだけ、一緒にいたいです...」
そう言って僕のジャケットの裾を離さない彼女。だけど彼女は僕が何をしたいかなんて判っていないだろう。ただ、一緒にいたいだけなんだ。僕が望むように、セックスしたいわけじゃない。
あの時、軽く快感を与えて、昇りつめさせたものの、身体は震えていたし、何をされるのか不安で緊張しっぱなしで...だから後で立てなくなったりするんだ。
郁太郎が触れたと思っただけで、思わず手を出してしまったが、最後までせずにいたのは、理性の総動員と、郁太郎に対する意地と謝罪の気持ちもあったからだ。
もっとも眠れるわけでもなく、そのまま残っていた厨房のかたづけをして、仕込みをして、それでも時間が余りすぎて、朝刊を受け取り、居間で一人時間を潰した。
明け方に彼女の様子が心配で見に行くと、無邪気な顔をしてよく眠っていた。疲れたんだろうが、こんな表情にすら欲情してしまいそうな自分が怖かった。
(だから鍵をかけてくれと言っているのに...)
こんな子どものような女の子に、手を出していいものか、既に成人してるにしても、彼女のこれからを考えると、いくら好きでも、自分のしてしまった浅はかな行動が悔やまれてならない。
だけど、彼女を目の前にして、この気持ちを押さえ込める自信はもうない。
理性にも自信はあったのに、もう、そんなもの、人前でしか存在しないんじゃないだろうか?
なのに...
近づいただけでびくりと緊張しないで欲しい。僕を煽るようなそんな表情は見せないで。
「好きな子って...誰のことですか?」
そんな判りきったことを聞くほど不安なんだろうか?あなた以外に誰が居るのかと、はっきり告げる。
「...日向子さんを、誰にも渡したくないです。たとえ郁太郎にも...あなたには、ずっとここに、圭太と僕と、母の側にいて欲しい。」
と...なのにお手伝いや従業員としてだって?僕が欲しいのは女性としての彼女なのに?妻として、家族として、ずっと側にいて欲しいと思っているのに?
彼女もすこし混乱してるのかもしれない。僕にこうやって告白されるなんて思っても見なかったのだろうから。
だけどそれはすぐの話じゃないつもりだった。彼女は今から1年半の修習があるし、それから正式に仕事について、と、先は長いのだ。その間に僕以上の人が現れればそれで構わない...譲りたくもないが、僕は企業を辞め、今はしがない食堂のオヤジだし、前の妻との間に圭太もいる。前の妻のことは今でも愛している。もう生きていた頃とは少し違った愛ではあるが...その妻を得た頃の自信は全くない。
だけど、そんな僕でもいいと彼女は言ってくれた。
だから、ひたすら待つつもりだったのに、また郁太郎のヤツがいらぬことを言い出して、圭太はもう、すぐにでも日向子さんがママになってくれると信じて有頂天で、それを違うと諭したら、今度は日向子さんが...
「すぐに圭太くんのおかあさんになるから!」
なんて言い出して...
判ってないんだ、この子は...僕がどれほど彼女を大切に思っていて、その未来を壊したくないと、守ろうとしているかなんて...
大の大人の僕が無分別なマネをするわけにはいかないじゃないか?
なのに...
夜中、圭太に乞われて僕の部屋に来た彼女と、同じ部屋で穏やかに眠れるわけもなく居間で酒を飲んでいると、彼女がまた側に来る。
外は静かに雪が降っていて、思わず菜々子のことが口から出てしまった。だけど彼女はそんな僕に共感しながら側に腰掛けてくる。すぐにでも抱きしめられる距離で、見つめ返されると、たまらない...彼女の髪から薫ってくる、彼女専用のシャンプーの甘い香りが僕を煽る。このままでは自分の理性が危ないと、いい機会なので結婚のことを遠回しに後にしようと言ってみたのだが...
「宗佑さんは、あたしと、結婚したくないんですか?」
それを聞いてくるかな?したくないわけが無いでしょう?思わずカッとなってしまった僕は珍しく声をあげてしまった。
「だから、いずれって言ったじゃないですか!圭太のために結婚したとしても、僕は、ずっと我慢できるほど聖人君子じゃないんだ...」
「えっと、何を我慢するんですか?」
僕の本音なのに...思わずため息が出てしまう。彼女は結婚の意味をわかって言ってるんだろうか?今まで通り、こうやって暮らすだけだと思っているのだろうか?
聞いて初めて彼女は顔を赤らめた。
おそらく、一度抱いてしまえば、僕は毎晩彼女を求めてしまうだろ。はっきり言って菜々子の時は彼女の体調のいい時を見計らって、そう何度も出来るものでもなかったし、身体の弱い彼女とは、心で結ばれていればいいと、穏やかなセックスを心がけていた。若いのにかなり無理していた部分はある。全く性欲のないわけじゃないんだから...だけど目の前にする日向子さんの弾けるような若さ、健康的な肌、前回証明済みな、十分に感じやすい身体...男として、欲望と妄想は際限なく、夢の中で何度も飽きることなく彼女を抱き続ける自分が居た。
「あのう、我慢してたんですか?」
「してないように見えますか?」
どうやら、僕は彼女にはそう思われていたらしく、思いっきり首を縦に振られてしまった。押し問答が終わって、ようやく理解してくれたのか、部屋に戻ろうとする彼女を引き留めて、鍵を閉めるようにお願いしたのに、完全に拒否されてしまった。
その理由が圭太ですか?呆れる僕に彼女は無邪気に微笑んでくる。そのまま腕を引き、彼女を腕の中に閉じこめ唇を重ねた。
そうしてしまえば、もう止められないと判っているくせに...
「ん...んっ」
少し苦しげなのを無視して、舌を差し込み口中を味わい、ようやく慣れはじめた彼女の舌を絡め取ると身体の力が少し抜ける。そのまま味わい続けていると、日向子さんが僕のパジャマをマを掴んでいた手を、背中に回してきた。
ヤバイ...ただでさえ興奮しているのに、一気に心拍数が上がった。
「だからっ!あなたは、ただでさえ無防備なんですからっ!」
渾身の力をこめて彼女の柔らかな身体を引き離した。なんで怒るのかといった不思議そうな彼女にどう説明すればいいか...覚悟は出来てると言っても、彼女には男と女の生活がどんなものなのかなんて知識はないはずだ。
一度だけなんて、あり得ない。一度抱けばもっと欲しくなる。ずっと側に置きたくなる。離したくなくなる...今だってそうなんだ。一時の欲望に負けて手を出してしまえば、きっと僕は予想以上に我が儘になってしまうんだ。子どもみたいに彼女を離さずに、彼女の持つ未来への希望にまで水を差してしまいかねない。彼女にはいくつだって選択肢は残されているのだから...
「あたしだって...不安です。不安だから、がんばれる証が欲しいの。形で欲しいの。1年も2年も待ってられないの!ここが、あたしが居ていい場所だって、そう証明してよ!宗佑さんが、ほんとにあたしでいいって思ってるなら、証明してよ!」
日向子さんが僕に縋って訴えてくる。
証明...今すぐにでも抱いて僕のモノにして、籍も入れて、ここから出て行けないように、いつでも帰ってこられるようにするのはたやすい。だが...
「でないと、また不安で...どうなっちゃっても知らないからっ!本当に他の人のモノになってもいいの??他の人に、あたしの意志以外で抱かれても?」
「そ、それは...いいわけありません。」
それは、駄目だ。それだけは考えられない!彼女のすべてを手にしたいのは紛れもなく僕なんだ。
「あたしだって、宗佑さん以外嫌だもの、だから...」
一向に引かない彼女に根負けする。いや、、最初から勝てるはずがなかったんだ。この、僕を照らすお日様に、彼女が居て初めて自分に陽が当たってることに気がついた僕が、かなうはずもない。
「ほんとに...後戻りできませんよ?」
「はい。」
真っ直ぐな瞳で頷く彼女。
「離れてても、僕の物だって、証明してもいいんですね?覚悟は出来てるんですね?」
もう、止まらない。ここが自宅だって、同じ屋根の下に母親や、息子が居ても、10も歳の離れた初めての娘を抱くことにもう、躊躇はない。今までこれほど激しく衝動にかられたことなど無かった。これほど求めたことも無かった。
水と空気のように穏やかに求め合った昔の想いとは違う。
30過ぎた自分にこれほど激しい性欲があったのかと閉口してしまうが、もう、抑えは効かないところまで来ているのだ。
僕は日向子さんを抱き上げると彼女の部屋に入り中からしっかりと鍵を閉めた。


優しくはするつもりだけれども...下半身は10代の少年の頃のような張り詰め方をしている。
「覚悟が出来てるんなら、声を出しちゃいけませんよ?」
存外と意地悪なことを言ってしまう自分に驚きながらも、彼女を布団に降ろしてそのまま組み敷いた。

    

         

やってしまいました。エロイです〜〜〜〜(涙)
地下室に送ろうかと思いましたが、やっぱ地下室にはもうちょいハードなモノが送られるかと考え直しました。甘いのは甘いですしね(笑)
でも、思いっきり18禁なので、以下の人は見ないように!!