400万アクセス記念キリリク〜ようこさん
不安と後悔と懺悔の日々 圭司編
 
 
「ん...」
腕の中で小さく身じろぎした温もりに目をやる。
(ちゃんと、いる...オレの腕の中に)
思わずひきよせてその存在を再確認する。少し苦しかったのか、オレの胸に押しつけられていた顔を上げると酸素を求めて息をした瞬間を狙って口づける。
「んんっ...ふっ...ん」
眠ったままの彼女の舌を吸い絡め取ると、寝ぼけたまんま甘く喘いで身体を柔らかくオレに預けてくる。
 
オレの女、妻、奥さん、女房...そして親友。
 
椎奈、おまえが居なくなったあの時、どれほど強くおまえの存在を求めたか...
いつでも側にいて、笑ってくれていた。叱咤したり励ましたり、オレにとって一番心を許していた存在。親や家族が居なかった分、唯一親身になってくれるオレの親友だった。
失いたくない存在だったからこそ、他の女と同じ扱いをしたくなかった。女なんて、好きだと甘い声でいくら甘えてきても、自分の思う通りにならなかったら鬼のような顔をして文句垂れて離れていくんだ。それでもヤレればよかったし、ほっといてもいくらでも寄ってきた。捨てても平気だった。
だけど、椎奈は違うんだ。そんなに軽く扱えない。男だったら良かったのにと何度も思った。そうすれば、一生付き合っていけるのに...
だからずっと、手を出すこともなく、別れることのない友人同士で居たんだ。
 
けれど、あの夜、泣いてるおまえをこの手に抱いてしまった。
 
慣れないおまえの身体を愛撫している間中、自分でも信じられないくらい緊張していた。傷つけないよう、優しく。
気持ちよくさせてやりたかった。
土屋にも、藤枝にも許さなかったその身体を、オレにだけ許してくれたおまえの気持ちが嬉しかった。腕に抱けばすぐにわかったさ、オレなら大丈夫なんだって。他の誰でもない、オレが唯一の存在だと言うことが嬉しくて...
それは裏を返せば、オレにとってのおまえも唯一、大事に抱きたい女だということだった。抱けば抱くほど愛しくて、これほどまでに愛していたのかと、今更ながらに気付かされた。
本音を言ってしまいたくなったけれども、不器用な恋を終えたばかりの椎奈の気持ちを考えて、言わずにいたら...いつの間にか、消えた。
 
探して探して...
腕の中に求めるのは、あの夜のおまえだった。何度も夢に見て、夜の闇の中虚しくおまえを求めた。他の女じゃダメだったんだ、おまえしか...
 
 
 
「椎奈...いい?」
聞くまでもなく手を出しているけれども、昨夜の名残で素肌で触れあって眠りについたのが悪かった。朝から彼女が欲しくて溜まらなくなる。
今日は日曜だし、愛華は隣のベビーベッドでまだ寝ている。
激しく求める事が出来ない分、朝のまどろみにあわせてゆっくりと愛撫を加え、優しく後ろから繋がる。スプーンのかたちで繋がって、空いた手で胸と敏感な蕾を刺激し続ける。
「はぁ...んっ」
飽くことの無い椎奈への渇望。
「椎奈のナカ、すげぇ、いい...」
いつもと違ってゆっくりと緩慢な動きに、椎奈も甘い吐息をはき続ける。
離せない、離したくない...
繋がりたい、自分のモノにしてしがみつかせたい。
いつも、『離さないで』と泣きながら縋ってくるのを見てようやく落ち着くのだ。
もう二度と無くしたくない唯一の存在だった...
 
だけどあの時、無くした。
 
初めから無い物には慣れていた。
親の愛情も、家庭の温もりも、女も深入りせず、いつ去っていこうが、どうでも良かった。椎奈の存在が唯一無くしたくなかったものだとわかっていたのに、身体だけ繋がってしまった。そのあと椎奈が消えて、無くした途端狂うほどの焦燥感に襲われた。
その反動か、こうやって椎奈を抱くときにも逃げられないように絡め取って、何かしら言わせたくなるのだ。
いっそこのまま永遠に、一歩もオレから離れられなくなってくれればイイのにとさえ願う。
 
だけど、愛華が居るから...
椎奈は母であり、妻として今は一緒に暮らしてくれている。こうなればもうオレから離れないはずなんだけれども、そんな理由がなければ、オレなんかの所へ戻ってくれなかったのではないかなんて思ってしまう。籍を入れて、一緒に暮らしていても、いつか愛想を尽かして出て行ってしまうんじゃないかと不安が襲ってくる。
そう、目が覚めたら、またいなくなるんじゃないかって...
 
 
「だぁ...」
(愛華、お、起きたのか???)
繋がったまま椎奈と顔を見合わせる。
愛華も今朝は、珍しく泣くのではなく、機嫌の良い目覚めのようだ。
6ヶ月になる愛華は目が覚めて起きたくなると、ちょこんと座って遊んだり、ベッドの柵を持って立ち上がったりする。目が離せないのだが、こっちは手が離せない。
「け、圭司...ね、離して?愛華が...」
「ん?大丈夫だよ、まだ遊んでる。」
布団に隠れてるとはいえ、わが子の前で恥ずかしいのか、椎奈は身体を捩る。そんなことをすれば、なおさら繋がったソコが、オレ自身をきつく締めてくるのがわからないんだろうか?
こんな風にされて、離せるわけがない。
何人も女を抱いてきたオレを夢中にさせる椎奈。たった一度(あの夜は3回はやったけど...)で愛華を身籠もり、再びオレの腕に戻るまで、誰にも抱かれていなかった身体が、一児の母でありながら初な反応でオレを煽るんだ、どこまでも。
「だって、声が、でちゃう...」
必死で口元を押さえて顔を下向ける。快感に耐える表情を娘には見せたくないのだろう。感じやすいのは初めてしたときからわかっている。感じる部分も、どこをどうすれば昇り詰めるのかも、オレだけが知っている。
「そうだな、声は我慢したほうがいい。けど、イクのは我慢しなくていいから、イキタイ時にイケばいい。」
「んんっ!」
胸の先を強く摘み、背中から首筋にかけて舐めあげる。閉じた脚に締め付けられる指は、ぬるぬると蕾を擦り続けている。その度にヒクヒクとオレを締め付けてくる。それがまるでオレを欲しいと強請ってくれるようで、嬉しくてタマラナイ。
オレは夢中になって腰を振り続ける。
激しい揺れにだんだんベットが軋みはじめるほどだった。
「やっ、ダメ...」
「ダメ?本当に?やめるか?愛華も見てるし」
「あっ、や...やめちゃ...やっ!んっ」
やっと聞けた言葉に満足する。
「イケよ...椎奈っ」
突き上げて、椎奈の蕾を刺激し続ける。椎奈の収縮もきつくなっていき、こちらが先に持っていかれそうになる。朝は男の方が不利だ...
「ああああぁぁぁ...っ!!」
脚の付け根のボタンをキツく擦って突き上げると、椎奈はあっという間にイッてしまった。
「はあ、はあ...」
荒い息を必死で抑えようとする椎奈が、背中を向けてぬいぐるみと遊んでいる愛華をみてほっと身体を緩める。
「まだだよ、今度はオレ...」
一度抜き出て、再び覆い被さり、両脚を抱え上げ深く突き上げた。シーツは山のようになって、愛華が不思議そうな顔を向けているが、もう構っていられない。
「くっ、キツ...」
「だ...め、イッた...ばかりで...」
「ああ、すげえ、締め付けてくる。」
こっちも限界だった。
「んっ!」
イッたばかりの椎奈のソコはひくつきが納まらない。オレの動きは、これでもかと掘り返す激しい行為に変わっていく。突き当たる毎に苦しそうな声を漏らす椎奈。
愛しい...俺の...おんな
時間などかけるつもりはない。ココで愛華が泣き出したら椎奈は母親に戻ってしまう。
「椎奈、愛してる...」
思わず口に出る言葉。
ありきたりだけれども、これ以上の言葉は見つからない。
自分の想いと全てを注ぎ込む瞬間、その言葉しか頭に無かった。
「あっ、くぅ...」
腰から快感が昇っていく。オレの身体の筋肉が一瞬堅く膨れあがる感覚だ。その後の痺れるほどの快感は下半身の一カ所に集中する。身体を震わせる椎奈の中に、ドクドクと己の精を注ぎ込み、その先に新たな命があればと願う。たった一度でできた命だってあるのだ。何度もやってできないはずがないのに...
「もう...おき、れない...じゃない...」
ぐったりとする椎奈のこめかみにキスを落として隣に身体を落とす。
「ごめん...今朝はゆっくりでいいぞ。」
「でも、愛華が...」
座ったままの愛華がぶるっと震えた。いつの間にかまた背中向いて遊んでいたようだ。椎奈は愛華がこっちを見ていなかったことに、気がついていない。まったく、親思いの可愛い娘だ。
「うえっ、うえっ...」
おむつが濡れたのだろう、ぐずって泣き始める。起きあがろうとする椎奈をとめて、自分が愛華の元へ向かう。
「愛華、おはよう。おむつか?待ってろな。」
やってみれば慣れてくるもので、オムツやミルクぐらいなら休日はすすんでやることにしている。椎奈もあれだけいろいろあって、母乳は止まってしまっていたので、粉ミルクがあればオレでも面倒見れるって訳だ。それに、平日は椎奈が全部見てるのだから、週末ぐらい見てないと父親として認められないような気がするのだ。生まれる前も、生まれてからも、愛華の側には宗佑さんが父親代わりでいてくれたのだけど、あの人は病弱な奥さんの代わりに圭太くんを育て上げたって強者だから、負けていられないって気持ちもある。
父親は、オレなんだから!!そんな気持ちが一番強いのかもしれない。
「よしよし、ミルクだぞぉ、ん?うまいか?」
暖かな命の重み。生まれてくれたことを感謝する瞬間だった。普通なら、こうやって抱き上げるたびには思わないのかもしれない。だけど、オレには生まれ出てくる瞬間に立ち会えなかったという負い目もあるし、出遅れた分を取り戻そうと必死なのかもしれない。それは椎奈に対しても同じだ。
それに...
来週から、短い時間だが椎奈も仕事に復帰する。中山さんがひっぱてくれたらしく、元の職場にパートとして出向くらしい。同じ職場には藤枝のやつがいるから、気に食わないのだけれども、反対に安心もしている。式場という仕事柄、土日休日は出勤になってしまうだろう。そうしたら、オレが愛華を見るつもりだった。実はあれからも宗佑さんや圭太くんたちと連絡も取り合ってるので、その中で、いろいろと子育てについて聞いたりもしているんだ。今までの分を取り戻したい。
愛華の柔らかいほほを撫ぜながら、しばし幸せな気分を味わう。
「圭司、愛華寝たの?」
「いや、ちょっとだけ、うとうとってとこかな?」
眠ってしまいそうな愛華をそっとベビーベッドに寝かせて、泣き出さないので、そのまま、また椎奈の隣にもぐりこむ。彼女もまだ気だるく行為のあとのままの淫らな肢体をシーツの下に隠していた。オレもボクサーパンツをはいただけの格好だったので、引き寄せると素肌が触れる。
「なあ、来週からこうやってゆっくり休日過ごせなくなるのか?」
朝から晩までいちゃつき放題、いや、やりたい放題な休日がなくなるのは寂しい。愛華が小さい間だけだろうからな、朝からこんなことが出来るのは。
「毎週ってわけじゃないけど、たぶん...」
「なあ、式挙げないか、やっぱり...」
やろうと言いながら流れている二人の結婚式のことを持ち出す。実は、椎奈の方が乗り気じゃなかったりするんだ。
「え?いいわよ、愛華がいるし、十分幸せだよ?」
「オレは...」
胸を張って椎奈をオレのものだと公言したかった。ずっと親友で、子供が出来たから籍を入れたんじゃなくて、ちゃんとオレのモノにしたかった。
「椎奈はさ、オレなんかのどこが良かったんだ?」
「え?」
「女とっかえひっかえで、おまえに辛い思いばっかりさせてきたのによ。」
「ん、理由わかってたし...親友だってあたしのこと大事にしてくれたでしょ?下手すれば彼女よりも...優しいんだって、わかってた。でも、寂しがり屋で、自信家のくせに、変なとこ弱気なとこ、あたしにだけ本音見せてくれてたから。そう言う圭司は、あたしがこんなに長く親友として一緒に居なかったら、どうだった?もし、愛華ができてなかったら...親友の振り、し続けた?」
少しだけ椎奈の声が震えていた。平気な振りして聞いてくるんだ。こいつは...
ちらっと見える口元が引き締まっている。
最近、ようやく思ったこと全部聞いてくるようになったんだ。まあ、言わせてる節もあるが、本音で語り合えてこその夫婦だし、親友だ。
「親友の振りなんてできてなかっただろうな。きっと、次に二人っきりになったときに我慢の限界が来て押し倒してるだろうって思う。でもって、やっぱ子供作っちまってるかもだ。」
「な、なんで...」
「オレの心の中で、椎奈との子供なら欲しいって思ってるんだと思う。椎奈と、家族作りてえって、さ。今まで避妊せずにセックスしたことなんて無かったんだぜ、コレでも...結婚したがる女がよく『大丈夫だから』って言っても信用出来なくてな。けど、椎奈との子供なら、欲しいって思うし、おまえのこと信じてるから、大丈夫だって言ったら、それを信じた。そうだろ?」
小さな声で『ごめんなさい』といった椎奈が俯く。オレは『馬鹿だな』といって引き寄せ抱きしめる。
そう、オレは家族が欲しかったんだ。
そっぽ向いたままの実の親を前にしてはイラナイと突っ張ってみても、本当はすごく暖かな家庭を欲してた。
オレは作りたかったんだ。オレの居場所のある家庭を。
それに気がつくまで、何人もの女の中に温もりを求めて、潜り込んでは違うと気がついてたんだ。
そりゃそうだ。信じてる相手とじゃなきゃ家庭なんて作れやしない。
だから椎奈だったんだと、今思う。
「ある日、出会ったとしても、椎奈はオレの心の中に入ってくと思う。こんなオレに怒って、励まして、オレの中にちゃんと入り込んでくるはずさ。ソレが椎奈だから。あの頃よりオトナのオレなら、椎奈を泣かさずに済んだかもだな。大事だって気がついたらすぐにプロポーズして、結婚式挙げて、愛華が生まれるときも、ちゃんと付き添ったりしたかった...おまえと愛華と、過ごすはずだった日々を全部やり直したいぐらいだ...」
「圭司...」
「ごめんな、一人にしてて、その分、これからずっと寂しい思いはさせない。イラナイって言うぐらいオレをやるから、今までの分、ぜんぶやるから...」
再びシーツに縫いつけた椎奈の身体にキスを落とす。
椎奈がイラナイって言うよりも、オレが満足するまで、だな、きっと。
「あ、もう、だめっ..こ、これ以上は...」
逃げようと涙目になって身体を捩る椎奈を、オレの杭で刺し貫いて動けなくする。再びオレと椎奈の濃密な時間がはじまった。
 
だからいつも休日はオレが愛華の面倒とか全部見ることになるんだ。
簡単な料理ぐらい覚えようと思う。でないと、椎奈を心ゆくまで堪能出来ないだろう?オレが満足するまでやってたら、椎奈はきっと壊れるだろうから。
それほど、未だに椎奈に飢えているんだ、オレは...
「椎奈、椎奈っ!」
既に椎奈は意識が朦朧としてる様で声も出せなくなってきている。
悪い、また壊しそうだ。
 
まさか、ソレが嫌で仕事にでるのか?
椎奈...
返事は聞けなかった。
 
 
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〜あとがき〜
400万キリリクです〜〜〜
ようこさん、リクエストありがとうございます。
圭司の不安と懺悔というより惚気のような…取りあえずこんな感じでどうでしょうか?
ご希望に添って、椎奈編オマケです。

 

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