マスター編・3
 
 
親父入院する病院に行くと、兄貴夫婦が居た。
相変わらず俺を見ると視線をそらす兄嫁。
 
従姉妹の澄華…俺の初めての女。
 
俺に初めて女を意識させたのは、俺よりも2つ年上で、どんどん先に成長していく彼女だった。その彼女に追いつきたくて、勉強もしたし、大人ぶっても見せた。
側にいる時、さりげなく繋いだ手を握り返してくれたり、不意にキスを奪った時も逃げなかった。
はじめて夢精した時に、夢の中で淫らに揺れていたのも彼女だった。
俺にとって女だった澄華。
愛していた。
幼いながらにも、その思いは留まるところを知らず、澄華もその思いを受け入れてくれた。
 
あの夏の日。
 
みんなの目を盗んで俺たちは結ばれた。彼女が18、ちょうど俺の16の誕生日に、彼女は俺に全てをくれたんだ。
初めての体験、慣れない俺を導き、女の身体ってやつを彼女に教えられた。重ね合わせた熱い身体。潜り込んだ彼女の中は熱くぬかるんで柔らかく俺を締め付けて来て、俺はすぐさまその行為に夢中になった。
快感に腰を振りたくる、まだガキだった俺。澄華をいかせてやるとかそんな余裕もなく、ただ彼女が用意した避妊具だけを身につけて彼女を貫いたのだ。
経験があったらしい彼女は甘い声を上げ、その白い脚を俺の腰に絡みつかせ、俺が果てるまで追い込んだ。
自慰では得られない快感と、惚れた女を抱く充足感は俺をこの上なく幸せにした。
 
なのに…ある日突然、俺とは目を逢わさなくなった。そして告げられた別れの言葉…。
ただの従姉妹なら何の支障もないのに、なぜ?
その後突然、兄貴との交際、婚約。
どうして俺と澄華はだめで、兄貴とだったらいいんだ?
兄貴が長男で、澄華が長女だから?ふたりが結婚すれば跡継ぎ問題が円満に納まるから?
そんなの許せなかった。
何度も奪ってやろうと思った。だけど、それは彼女から頑なに拒否された。
 
ヤケになって何人も女を抱いた。覚めた目で抱けば、余裕で女を夢中にさせることができた。覚えたテクニックを使って可愛がってやれば自分からおねだりさせるぐらいの事は出来るようになった。
だから、セックスで彼女を言いなりにしてやろうって、姑息な手も考えていた。
抱いて、離れられなくしてやろうと…押し倒し、無理矢理犯そうとした。
だが、それは思いつきもしない言葉で拒否された。
 
『だめよっ、私たちは異母姉弟かもしれないの!』
 
最悪の言葉で…
 
 
 
信じられなかった。
だけど脳裏を掠める、伯父のふてぶてしいほど自信満々の顔。
優しい兄貴と親父は二人よく似ていた。
だけど俺はどちらかというと伯父貴に似ていた。曾祖父がそんな美丈夫だったと言い聞かされていたし、根元が同じだからとあまり気にはとめていなかったが、それだけでも真実のような気がした。
親父と兄貴の間にあって俺にないもの、それを数え出すとキリがない。そして反対に、成長する毎に伯父貴に似て来る俺の容姿、ふてぶてしい笑い方。周りの人間にもそっくりだと何度も言われた。
この捻くれた性格も、根性の座った強気なとこも、全部。
今思えば、あの母の悲しい微笑みはその真実を思測ってのことだった。
 
俺を妊娠したのを機に、この家を建てたといっていた。
澄華から聞かされた母の真実は、あまりにもむごい行為の末だった。
当時、まだ広い藤沢の敷地内に同居していた兄弟夫婦。だが元々政略結婚の上に、伯父のあまりの度重なる女遊びや横暴さに耐えかねた名家の妻は、家を出ていってしまったという。
そして、弟が出張で帰らない嵐の夜、酔った兄は弟の妻を無理矢理犯した。
妊娠に気付き、出産間際になっても、どちらの子とも判らぬ苦しみに耐えて、母は俺を産んだんだそうだ。
そして、澄華と俺の関係に気がついた母は、彼女にその可能性を告げたと言う。
告げられた真実に嘆き悲しんだのは澄華も同じだったはずだ。
なのになぜか…俺を避け、俺を忘れようとして受け入れたのが雄弥、俺の兄だったって訳だ。
 
俺は恋を無くし、愛する女を兄に奪われても文句も言えず、ただ反抗するしかなかった。
やがて兄貴と彼女は結婚し、子供は未だに居ないが仲むつまじい所を見せてくる。
もう忘れなければいけない恋だとわかっていながらいまだに忘れられないのはなぜだ?
そして、病院で、彼女らに野良が恋人のように見せたのはなぜだろう?
すぐにバレるのに…
俺に不特定多数の女が居ることなんて誰もが知ってることだ。
なのに、なぜ、こんなちんちくりんを彼女だと思わせたのか、俺にもよくわからなかった。
 
まだ、心が痛むんだ。
彼女を見るたびに、心が軋む。
欲しいのに、もう手に入れることが出来ない禁断の果実。
いっそ地獄に堕ちても想いを果たしてしまいたいと思うこともある。
異常なほど女の身体を求める理由はわかっている。
誰を抱いてもあの女じゃないから。
俺の身体は飢え乾いているんだ。
どんな女を抱いても満足しない。
だから…
 
 
義姉さん、澄華…
 
あなたを忘れたいのに、未だに忘れられない…
 
 
 
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<注意>こちらはハウスメイド・メイド編の試し読み版です。
8話まで読めますがそれ以降は電脳アルファポリスで有料になることをご了承下さい。
久石ケイ