2012クリスマス企画

Wonderful Christmas

 1

2012.12以前……

〜俊貴〜
2012年12月以前
〜俊貴〜
「部長、今年こそは行きませんか!」
「行くって何処にだ? 富野」
 部下であり家族ぐるみで付き合いのある友人の富野が話しかけてくる。妻の朱音と同い年なので今年42歳になるわたしとは違いまだ若く35歳だ。見た目にはそう差はないと思いたいが……
「何処ってネズミーランドですよ! 去年は社長の結婚式が入って行けなかったじゃないですか。だから今年こそクリスマスにどうです? 22日にクリスマスパーティをやるとして……23、24と泊りがけで出かけませんか!」
 富野の大学時代の友人に旅行会社の者がいるらしく、秋口のこの時期でも無理が効くらしい。空いてるホテルを押さえてチケットを手配してくれるそうだ。
 富野は相変わらず仕事以外でその才能を発揮している。こと遊びやレジャーの企画はコイツに任せておけば楽だ。夏にはバーベキューに海、そのうちキャンプに行こうと言い出すんじゃないだろうか? 子どもたちも大きくなってきたらきっと楽しいだろう。
 そんな奴も今は仕事面で年下の上司相手に課長補佐役を無難にこなしている。どんな相手にでもうまく合わせることが出来るのはこいつのいいところだ。
「23、24か……」
 23日は富野の、24日はわたしと朱音の結婚記念日だった。ついでを言うなら同じく家族ぐるみの付き合いのある社長夫婦、亮輔のところもそうだ。奥さんの楓は7月の終わりに無事女の子を出産している。今は休職中だが元は同じ会社で働く仲間で、富野の前の上司にあたる。そして同じく同期の羽山夫妻と4家族でのクリスマスパーティが恒例になりそうだった。亮輔のところは生まれて半年だし、羽山のとこはもう中学・高校生で男の子だから、親と一緒にランドに出かけるなんてないだろう。だからランドに行くとしたら二家族で、下の子も3歳で同い年同士の富野家と一緒ということになる。それはそれでなかなか楽しそうだが……
「今年はまだわからないが……もしかしたら実家に連れて行くかもしれない」
「部長のご実家に、ですか?」
「ああ、最近下の子の愛音もお兄ちゃんの聖貴と一緒にお泊りができるようになってな。夏休みの間も、何度か実家に泊まりに行ってるんだ」
 富野のところは同居だからそうでもないだろうが、うちは内孫と離れて暮らしているので連れて来いと結構うるさい。去年のクリスマスは楓と亮輔の結婚式があったので預けたが、朝早くに帰ってきてしまった。それでもあれ以来聖貴も泊まりたがるしうちの両親もしょっちゅう誘ってくる。夏休みも聖貴と愛音のふたりで何日か泊まっても大丈夫だった。聖貴は今年5歳になり保育園に通い始めてますますしっかりしてきたように見える。そういえば、富野のところの美奈ちゃんは今年小学校2年生になるんだったか? 早いものだ……最初に見たときはまだ2歳ぐらいで、娘の愛音ぐらいだったというのに。
「へえ、いいですね! それじゃお盆休みの間ふたりっきりで過ごせたんですか?」
「ああ、まあな」
 お盆休みの一日を朱音と二人っきりで過ごせたのはなかなかよかった。子供がいたら浴衣なんて滅多に着れないから、ふたりで浴衣姿で夏祭りに出かけて、その帰りにこっそりと外で楽しんだ。不安がる朱音をなだめて……それはそれはそそってくれたさ。さすがに最後までできなかったが、帰ってきてからまた玄関先と2階のベランダで花火を見ながら盛り上がった。それも預かってくれた両親のおかげだ。できれば、今年も結婚記念日だけでも頼もうかと考えていた。俺はカレンダーを12月までめくって日程をチェックした。
「12月は……ちょうど保育園もそのあたりで終わるらしい。22日にクリスマスパーティをやって、23日からおじいちゃんおばあちゃんのところへ泊まりに行くつもりだろうな」
「それじゃ仕方ないっすね。美奈も最近聖貴くんとあまり遊べないって怒るんですよ。亜貴は昼間しょっちゅう愛音ちゃんと遊んでるからずるいって。時々美奈に当たられてますよ。ランドの話をしたら、一緒に遊べる! って楽しみにしてたんですけどねぇ。まあクリスマスパーティがあるからいっか」
 相変わらず朱音と富野の嫁は仲がいい。以前のしがらみなどどこ吹く風だ。最近はそこに楓や羽山のとこの瞳さんが加わってるらしいが、今のところ乳児を抱えている楓は出歩けないので、瞳さんがちょこちょこ遊びに行っては手助けしているらしい。楓は俺と歳が変わらないので、意地でも何も出来ない嫁にはなりたくないと、向こうの実家には頼らないよう頑張っているらしい。まあ、体裁をやたら気にするタイプの社長夫人を見てると、あまり頼りたくないタイプだとは思うが……あそこも結婚が決まった後も色々あったんだろうなと思う。亮輔が強引に進めたとは思うが、楓にだって年上としてのプライドもあったはずだ。
「じゃあ、22日がクリスマスパーティてことで。そのあとうちはネズミーランドにGO! ですよ。おみやげ買ってきますからね! それと、来年こそ一緒にいきましょう!!」

 そう話していたのだが……11月になって、亮輔が22日のクリスマスパーティを自宅でやりたいと言い出してきた。
「麻莉亜がまだ生まれて半年だろ? 自宅だったら見ながら楓も参加できるだろうし……あいつ、密かに楽しみにしてるらしいんだ。素直にそうは言わないんだけどな」
 楓と亮輔の仲は相変わらずだ。仲もいいがケンカも凄いらしい。それでもすぐに仲直りするのはうちと同じやり方か?
「うちは構わないが……いいのか?」
「そのかわり食事はケータリングとか頼むけど。楓は朱音さんほど料理が上手くもないし、しょっちゅう子育てでパニック起こして瞳さんにお世話になってるから」
「そうか……まあ、頼れるところがあるならいいだろう。羽山のところはもう高校生と大学生だったか? 早いよな、あそこは」
「うちなんかまだ乳児だぜ? 先の長さを考えるとちょっと憂鬱になるけどな」
「その分楽しめるぞ? お互い伊達に年食ってないから、精神的にも落ち着いてる」
「それは確かに……俺も楓もあと10年早かったらもっと衝突しまくって即別れてたかもしれないな。俺も我儘だし、あいつも頑固だからなぁ」
「よくわかってるな、亮輔」
 強引すぎるこいつの性格についていける女は少ない。そして従順な女にはこいつは食指を向けない。恋愛までバトルしてどうするんだとは思うが、そういう意味では楓はこいつを夢中にさせて平伏させるぐらいの魅力とパワーを持っていたんだろう。それも10年前では続かなかったと思われるほどお互いに激しい気性だし、あと5年出会うのが早くてもよかったけれども、その頃だと俺と朱音が始まったばかりだ。俺たちもあの時期で良かったと思う。俺は前の妻を完全に忘れていたし、朱音が頑固な片想いにようやく終止符を打ったばかりだったから。
「それにさ……楓が、産後あれほどよくなるとは思わなかったんだよ。なあ、あれってホルモンの関係なのか? ますます艶っぽくなってるというか、女度が上がってるというか……」
「それは、あるな。確かに」
 朱音の産後を思い出す。もともとバリバリ仕事してるタイプだったが、結婚してからは本当に外に出すのが怖くなる時があるほどいいオンナになったと思う。愛されている自信か、それとも俺がそうさせたのか、フェロモンのようなものが外に向かって出始めたような……それは俺にだけ効く誘引剤で、他の男に対しては全く心配ないのかもしれない。だけど、今だに俺を十分すぎるほど煽ってくれる妻。子供が見てないところで何度泣かせたか……
「だろ? だから、マジで産む前や後、しばらく出来ないのがどれほど辛かったか……浮気する男の気持ちが少しわかったよ。まあ、俺は楓一筋だからしないけどな」
 その分若い頃に散々遊んだだろ? いいオンナと付き合っていても、もしかしたらもっといい女がいるかもしれない……なんて幻想を抱いていたあの頃。
「楓は怒らせると怖いぞ? やたら行動力あるから、いい加減なことしてるとさっさとおまえなんか捨てて、出て行っちまうからな」
「わ、わかってるよ……そのぐらい」
 完全にのめり込んでしまった妻を前にもう他の幻想は必要ない。もし、彼女を失ったら……そう考えるだけで怖くなるほど大事な存在だ。それに当たり前のことだが、自分が相手に許さないことは自分も許されない。
「それじゃ、22日うちでパーティってことでよろしく! あ、うちの身内も多少混じるかもしれないけど、いいよな?」
「構わないが……もし、重役全員呼んでたら富野が泣くぞ?」
「それは無理。そんなに広くないからさ。うちはマンションだし……そういえば、あいつだけ役付きじゃなかったなぁ。いっそのこと役員にしてしまおうか?」
「やめとけ、調子に乗るだけだから」
 残念ながらその器はない。家庭第一の彼にとって、これ以上の残業や接待はまた喧嘩の原因になるだけだ。
「そうだな。だが富野がいないと困るからな。あいつは子供の遊び相手にはうってつけなんだ」
 おいおい、そういう認識か?
「ああ、そうだ。羽山も来てくれるだろう?」
 側で書類をチェックしていた羽山が顔を上げる。そう、まだ仕事中だ。
「ああ、もちろんだ」
「よかったら息子たちも連れてこいよ」
 亮輔も社交辞令だったのかもしれない。まさか親のクリスマスの集いに彼らが参加するとは、誰も思っていなかった。


〜羽山〜

「え? 来るの?」
「うん」
 母親の問に嬉しそうに頷く次男の源太。
「ああ、オレも行く」
 そして長男の大地も……まさか息子たちが二つ返事で来ると言うとは思っていなかった。
「同じ世代の子なんていないぞ? ちゃんと小さい子達見てやれるのか?」
「大丈夫だよ。ばあちゃんちに行った時、香菜や慶太の面倒ちゃんと見てるだろ?」
 大地がめんどくさそうに言いながら源太と一緒に部屋に戻っていく。
 瞳の実家は弟夫婦が継いでいて、いとこたちはまだ小学生だ。慣れているといえば慣れているか……
「どうしたんだ? 今まで無関心だったのに、あいつら」
「今まであんまりお洒落しなかったわたしが、最近出かけるときにはきちんとしてるから興味持ったみたい」
「それは……おまえが浮気してると疑ってるのか?」
「疑うのはあなたの役目でしょ?」
 それはそうだが、妻が出かける先はだいたいわかっているから疑いようがない。だが……
「じゃあ、疑って責めてやろうか?」
 久しぶりに妻の手を取りベッドへ引きずり込んだ。
「もう……あのね、今まで家族ぐるみのお付き合いっていっても、学校関係だとあなたは仕事で参加してないことが多かったでしょう? 夫婦揃って出かけてる先がどんなところなのか気になるみたい。あとは持ち帰るご馳走のせいでしょうね。朱音さんほんとに料理上手だから」
 なんだ、最終的には食い気か? まだまだガキだな、大地も源太も。
「あいつらはまだまだお子様か」
「あら、わからないわよ?」
 ニッコリと笑う妻の顔が不敵に見えた。
「それじゃ、こっちはオトナの時間を楽しもうか?」
「あっ……ん」
 そっと腰のあたりを撫でながら首筋に顔をうずめるだけで、瞳の身体は軽く震える。
「あいつらも今時分、頑張ってるだろうから」
 特に亮輔と本宮のところは……最近、影響されたわけじゃないけれども、回数増えたと思う。互いに意識しているし、妻も自分磨きを始めたようだしな。
「でも……」
「大丈夫だ、明日に影響させるような真似はしないよ」
 あいつらほど頑張れるパワーはない。向こうは結婚1年目と7年目。こっちはもうすぐ18年目だ。
 その分夫婦の歴史はあるんだ。
 甘い声を上げ始める妻の身体をゆっくりと愛撫しながら楽しんでいる自分に気付き、やはり影響されてるのかと思い直した。
 
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今年もやってまいりましたクリスマス!
クルシミマスにならないように前もってやるつもりでしたが、忙しすぎて……(涙)
なんとか年内に終われるよう頑張ります!