2006クリスマス企画

クリスマスを過ぎても

 

〜3度目のクリスマス〜
12月23日〜24日

〜富野〜
 
―――23日深夜
 
やばいよやばいよ、どうする?オレ…
ってCMのまねしてる時じゃない!!
 
「あたし23日の夜、パート先の忘年会なの。子供頼むわね。」
「おい、頼むって…親に頼めよ!」
妻の麻里は我が儘だ。結婚した当初は可愛くて従順だったのに…
「あなた休みでしょう?あたしは23日は夜まで仕事なの!その間親には頼んでるけど、その後うちの親温泉に行くんだって。だから頼めないのよ!25日まで帰って来ないらしいわ。あ、あたしが忘年会に行ってるなんてうちの親にもあなたの親にも言わないでよね。戻ってきてあげたんだから、その時の約束、忘れてないわよね?」
約束。
昨年、オレの学生時代からの友人で同僚の杉原朱音の結婚式の前日、子供が泣いてるのにしらんふりしてる麻里にぶち切れたオレに『別れてやる!』って飛び出した彼女を迎えに行って約束させられたこと。
 
仕事に(といってもパートしかない)行かせること
家事に文句は言わない(ほとんど手抜きだが)
育児は手伝う(オレが休みの日は見ろと?)
仕事(パートだ)の関係で飲みに行くのに文句は言わない
パート代は全て自分の小遣い(オレより多い…)
 
こんなにたくさんの、彼女に都合のいい約束をどうしようかと迷ったが、その時は背に腹はかえれず「わかったから、帰ってきてくれ」と言ってしまったのが運の尽き。
今じゃオレより小遣いも多く、オレより飲みに行ってやがる。
 
こんな女だったのか?
 
可愛いと思った。オレを頼ってくれて、なんでもします〜って感じだったのに、蓋を開けてひっくり返してみれば遊びの好きな、浪費癖のある女だった。おまけに家事もまともに出来なかった。今はかなり出来るようになったが…
最初の美味しい手料理とか綺麗に片づけられた部屋は全部彼女の母親の仕業だったんだ。
おい、娘に何もさせなかったのか?と義母を問いつめたくなった。
しかし甘えは度を過ぎて、子供は平気で長時間預ける、夕飯は実家からもらってくる。まあ、近いからいいんだけど。義母さんが来るまで部屋は荒れてるし、掃除も…出来ないんだったらパートに行くなと言いたいけれども、オレの収入が少ないと文句を言う始末。
去年から企画営業から資材部に回されたオレは、はっきり言って残業も少ない閑職だ。だけど仕方ない…今までやってこれたのは朱音のおかげなんだからな。
いつだってオレを立ててくれた。オレのいいようにしてくれた。オレがやりやすいように仕事の準備してくれたのも全部アイツだった。たまにアイツの手料理も食べたっけ?女は他のメンバーも勿論いたけど、アイツは片づけも手際よかったし、アイツの煮物は最高だった。
学生時代も、仕事始めてからも…しょっちゅう一緒にいて、友達だと思っていたから、敢えて意識をしたことがなかった。オレの好みは可愛い子で、朱音の様にしっかりしてて地味なタイプの女はあんまりタイプでなかったから、最初っから範疇外だった。
もしかしなくても、オレは目の前にあった当たりくじを逃したらしかった。
 
本宮課長、美味しいコトしたよなぁ…
 
オレの場合は、調子のいい自分に寄ってくる可愛い子に目移りして、同じグループにいた朱音にはそんな気も起こさななかった。なんとなく『オレに気があるのか?』みたいに思ったこともあったけど、向こうからは何も言ってこなかったし、手を出す気もなかった。出してもし、彼女が離れて行ったらオレの仕事はどうなる?って、先にそっちを心配してしてたオレ。
 
だけどあの変貌はオレも驚いた。
眼鏡外して、綺麗に化粧した朱音を見てドキッとしたのは事実だった。あれ以来、嫌その前からオレは朱音と妻を見比べてばかりいたんじゃないだろうか?
麻里は、薄々それに気が付いて、あんな訳のわからないことを言い出したり、子育てを放棄したりするのか?
 
 
だけど…
 
 
いくら何でも零時を回っても帰ってこないってどういう事だ?
携帯の電源は切られてるのか、『電波の届かないところに〜』ってアナウンスばっかりで、全くかかってもこない。
 
―――24日午前零時過ぎ
 
1時、2時…
何時になっても戻ってこない。
 
とうとう夜が明けた。
もしかしたら事件にでも巻き込まれてるんじゃないかと、心配になってしまった。
麻里の職場は10時からだ。パチンコ屋の事務、時々店内にも出てるらしい。あの短いキュロットのユニフォームで。(旦那としては嫌だ)
「すみません、富野ですが、あの、昨日そちらで忘年会があったと聞いてるんですが…」
『はぁ?事務所主催のですか?いえ、ありませんよ。だれかと内輪で行ったんなら知りませんが、なにか?今日はお休みの予定ですよね?』
「い、いえ、いいです、すみません。」
なんだ?おい、今日は休みだなんて聞いてないぞ?
『次の日も仕事なんだから、夕方まで見ててよね!』
そう言ってたはずだ。
まさか、まさか…浮気?それとも事故?襲われたとか?
頭の中を不吉な予感が走る。
「ふえーん」
奥から子供の鳴き声が聞こえる。目を覚ましたようだ。もう歩き回るから目が離せない。
そうだ、子供は可愛い。だからオレもいい父親で居ようと努力もしている。だけど、アイツだけが未だにふらふらして、母親であろうとしない。
 
「麻里のヤツっ!」
 
部署が変わってから、彼女はしょっちゅうオレに文句を言うようになった。彼女の夫は花形の<営業企画>でなければならないらしい。残業もなく帰ってくるオレを彼女はなじる。ボーナスが少ないと文句を言う。
それはかまわない。だけど、子供だけはきちんとして欲しかった。
だから、条件全て飲んで、約束を守っているのに…
オレからの条件は『子供のために帰ってきてやってくれ』それだけだったから。
オレは子供を連れて彼女を捜しに出掛けた。
 
 
―――24日11時
 
居ない、どこにも居ない。
 
子供は泣く、わめく。
寒いので、車のチャイルドシートに縛り付けて、ジュースをもたせてる間に街の中を探し回る。アテなどないが、それでもそうしないではいられなかった。
勿論交番にも行った。それらしき事件も事故も起こっていない。
 
「美奈?」
正午過ぎ、車内に戻ると娘の美奈がぐったりしていた。
なんでだ?そう言えば今日は天気がよくて車内が熱いぐらいだ。だが隙間は空けていったはずなのに…
汗で服はべたべただ。おしっこが漏れたのか、シートもべたべた。よく見ると戻したような跡がそこらに見える。泣きすぎてどうにかなってしまったのだろうか??
くそ、どうしたらいい…焦っても思いつかない。
医者か?病院??
だけど、今日は祭日だ。どこにいけばいい?それとも救急車を呼ぶのか?
だめだ…そんな…
誰か!!
麻里の両親は旅行中、妻は居ない。両親に言えばなんて言われるか判らない。
オレは誰に頼ればいい?誰に聞けばいいんだ?
友人ども…女友達??
 
朱音…
 
真っ先に彼女の顔が浮かんだ。携帯を見ても、今連絡が取れる女性は彼女ぐらいしか居ない。男友達では頼りにならないからな。まだ結婚してない奴が多いし、他の女友達は家に帰って年賀状でも見ない限り住所すら判らない。
 
「朱音、助けてくれ!美奈が…娘が」
オレは鳴きそうな声で携帯の彼女にSOSを発信した。
 
 
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なんと富野です。いつもながらお騒がせなヤツです。変速ですが23〜24日、明日は24日の朱音です。