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先生とあたし
5.欲情
先生の部屋には、また今度ってことで、ようやく二人で出掛けることになったんだ。
「依里子、どこ行くの?」
「えっと、デ、デート」
「へえ、珍しいわね。依里子にカレシが出来たなんて。」
「おねえちゃんは?珍しいね、休みに一人で家にいるなんて。今日は袴田さんとは出かけないの?」
「出張中。ちょっと長くなるからこのままだと式も延期かなぁ。」
おねえちゃんは、コロコロカレシが変わっていたけど、袴田さんとは結婚するって言い出して、二人で式場巡りなんかしてたのに。
「そうなんだ。大変なんだね...あ、じゃあ、いってきます。」
いってらっしゃいと声が返ってくる。コレはいままでいつものあたしの台詞だった。
おねえちゃんも先生と出かけたりしたんだよね?
気にしないって、決めたのに。気になってしまう...
やだな、そんな自分。
「依里子、本当に行きたいところとかないのか?」
「うん、だってそんなに誰かと出かけたりしたことないし...何をどうしていいのかもわからないから。」
「そうか、じゃあ、お任せでいいな?」
先生の地味なセダンに乗り込んで、車は高速に乗った。1時間も走ればそこは全然知らない街で、きっと、あたしと先生のことを誰も知らない土地。
「私もそんなに出掛ける方じゃないから...たまに一人でドライブに出掛けたりする程度なんだ。楽しいところとか全然知ってなくてすまない。けれども、依里子なら、そう言うの大丈夫な気がしたんだ。」
「あ、あたしも人混みとか、遊園地とかそう言うの苦手で...乗り物も電車とかバスが苦手なんで、助かります。」
「そうか、よかった。」
おねえちゃんは...有名デートスポットとか華やかなとこ好きだったな。どっちかって言うと行き先も自分で決めるタイプで、思いっきり遊べる場所が好きなはず。先生もいっぱい付き合わされたのかな??
比べてるのはきっとあたし。先生は...思い出しても欲しくない。
ダメだよね、こんなこと考えてちゃ。でも、願わくばこれから行くところは、おねえちゃんを連れて行ったことのないところが、いいな。
「うわぁ...すごい!」
随分山の上までのぼるんだなぁって思っていたら、展望台まで車で行ける所だったんだ。
「ああ、すごいだろう?下に見えるのも全部山。今日は天気がいいから見えるけど、これが曇りの日だったら、眼下に雲の海が見えるんだよ。」
「そうなんだ...あ、向こうに見えるのは、海?」
「そうだ。今は人が多いから...また、秋になったら行こうか?」
また連れていって貰えるんだ?
「はい、連れていってください。」
先生の方をちらりとみると、すごく優しい笑顔を貰った。
「ああ。」
そういって先生はやっぱり暑いなといって薄い麻の上着を脱いだ。
意外だったのはその下がタンクトップだったこと。その腕も胸も、特別運動してるわけでもないだろうに引き締まっていて、同級生の男の子達とは全然違うような気がした。
「どうした?じっと見て...」
「先生、私服だとイメージ変わりますね。何かスポーツされてたんですか?」
「ああ、バレーをね、学生時代やっていたよ。後、子供の頃から剣道をね、今でも道場に通ってるよ。」
どうりで、肩幅がすごくって、こう、逆三角って感じ。
「その肩幅だと、アタッカーですか?」
「そうだ。身長もあったからね。」
180はあるだろうその身長で打ち込まれたらすごかっただろうなぁと思う。
「職員対抗や球技大会ではバレーの時だけ引っ張られるよ。バレーは足が遅くっても瞬間的に動ければ何とかなるからね。」
運動神経はさほどいいほどではないと言いつつも、なんだか、すごくドキドキした。
見たいなぁ、先生がアタックしてるとこ。
「じゃあ剣道は?段とかあるんですか?」
「ああ、一応有段者だよ。けれどもあまり上は目指してないんだ。面倒だからね。」
「そうなんですか。先生、私服だと違って見えるのは、身体鍛えてらっしゃるからなんですね。」
「そういう依里子も私服だと全然違うな...髪も降ろしてるし。」
初めてだったと思う。髪を下ろして、キャミソールとカーディガン、膝丈のスカートは柔らかい生地でタイトなライン。少しだけ大人に見えるように...
お化粧までは出来なくて、相手が先生じゃなかったらおねえちゃんに頼んでお化粧してもらったかも知れない。
だけど出来なかった。言い出せなくて...色々聞かれるのも嫌だったから。
相手が誰か知られるのもいやだったし、聞かれるのもいやだったから...
「子供っぽくないですか?一緒にいて、は、恥ずかしくはないですか?」
もしそうだと言われたらどうしよう?あたしは心の中でビクビクしながら地面を見つめていた。
「子供には見えないな。私も、どうしていいかわからないほど、今日の依里子は可愛いよ。すごく似合ってる、その服も髪型も。変に化粧してないところも依里子らしくていいな。ただ...」
すっと手が伸びてあたしの眼鏡を外す。
「この方がよく似合う。」
「だ、だめです、見えなくなってしまうの!だったら、先生も外して?」
あたしは背伸びして先生の眼鏡に手をかける。ゆっくり外すその間も先生はじっとして動かない。
「外して、どうするつもりなんだ?」
「え?」
どうと言われても、あたしも先生も外してしまうと景色すら見えないから、眺める為なら眼鏡をかけないと。
「あ、そうですよね。」
あたしは焦って手にした眼鏡を先生の顔に戻そうとした。だけどその手はゆっくりと降ろされて...
「周りには誰もいないんだ。」
「あ、はい?」
「ここは学校じゃない。」
「そ、そうですね。」
「依里子、目を閉じてくれないとキスしにくいんだが...」
「あ、す、すみません!先生、」
「違う、彰俊、だ。」
先生の下の名前。彰俊、深山彰俊...
「えっと...あ、彰俊さん、」
名前を呼んだあと、目を瞑る暇もなく抱きしめられてキスがはじまる。
当分離してもらえないだろう、キス。
たぶん、それ以上のことをするつもりが無いからだろうか?
大人の先生もあたしに欲情してくれてるのだろうか?
熱い、その身体に手を回す。腰の辺りにしか届かないけれども。
手にした先生の眼鏡が手に反対の手に当たった。しがみついていないと足下から崩れそうなほど、激しくなるキス。先生の舌が生き物のようにあたしの中をまさぐる。その度にくすぐったくって、痺れて、だんだん意識が薄くなっていく。
がくりと倒れそうなあたしの腰を先生が強く引き寄せた。
お腹に当たる、硬くて熱いモノ。
「んっ、っうん...」
漏れる声は誰のモノ?あたしがこんな声だしてるの?
ようやく離れた先生の唇と、舌。
そっと目を開けるとソコに居たのは、苦しそうに顔を歪めて、だけどそれでも艶を含んでいる男の人が欲情した、顔。
「欲しい?」
「...ああ」
下半身が切ないほど押しつけられて、あたしまで疼くような熱さを感じていた。
あたしも女だって、証拠。
あたしも先生に欲情してるんだ。
「だけど、しない。もう失敗はしたくないから。そう、自分で決めたんだ。」
手は出さないと言った。
でもこうやってデーとしてキスしてるし、あたしに欲情してるのに?
「じゃあ、我慢出来るとこまではして?でも、出来なくなったら、シテね?」
そういってあたしは下半身を強く押しつけて膝を先生の脚の間に差し込んだ。
「おい...依里子?」
「誘惑しても我慢出来るんだったら、ね?男だけじゃないんだから。」
たとえセックスを知らなくても、身体は覚えていく。男と女の身体のことを。
そして、女だってその気になるんだって事を知った、初めてのお出かけだった。
あたしがクスクスと笑うと、すごく困った顔した先生が小さく『くそっ』って舌打ちした後再びあたしを抱きしめてキスしてきた。
また、当分離してもらえない。
今度はきっとあたしが生意気なこと言えなくなるまで、するのかな?
車だからいいけど、先生帰りの運転大丈夫かな。
2006.11.25(加筆修正)
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