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先生とあたし

13.聖夜

受験シーズンが始まった。
学校推薦を皮切りに自己推薦などの推薦で私大を決める者も多い。幸い進学校なので就職組はほとんどいないし、国立狙い組も多いのが事実だ。
年内に決まった者は少々浮ついた調子で自動車学校に通ったりしている。
依里子のクラスは国立組なのでセンター試験までは受験体制を崩さない。予備校通いも盛んで、1月になるとほとんどの生徒が来なくなるだろう。

「クリスマス、どうするんだ?」
ふと聞いてみたものの、結果は判っている。
「家でケーキだけ用意してあげるってお母さんが...」
「そうか、日曜日だったね、今年のイブは。」
「うん、夜は、無理だと思います。」
「そうだな、受験生だしな。」
依里子はちょっと暗い顔を見せたが、急いで笑い顔を作る。
「25日から集中ゼミが30日まであるの。さすがに31日から5日までの正月集中コースはとってないから。」
さすが受験生。大晦日や正月まで勉強漬けなのだろう。
「昼間、逢えないか...」
「え、いいんですか??」
「ああ...」
渡したいモノがある、それは口にはしなかった。驚く依里子の顔が見たかったから。



「先生、待ちました?」
24日の夕方、図書館に行くと言って出てきたのだという。そんなに時間がないから部屋にも連れて行けないし、食事もドライブも無理。仕方なくショッピングセンターの駐車場の隅っこに止めた車の中で、そっと重ねる唇。熱くなる身体を押さえて、ギア越しに依里子の細い腰を引き寄せるぐらいしかできない。
「メリークリスマス、受け取ってくれるかい?」
ポケットから出した鎖の先にリング。以前にちらりと聞いたサイズのリングが通してある。
「先生...」
「今は指にはめなくてもいい、お守り代わりにかけていなさい。」
首からかけてやるとそれをじっと見つめていた依里子がいきなり顔を上げた。
「あの、あたし、なんにも用意してなくて...」
「そんなこと気にしなくていい。それとも、嬉しくなかったのか?」
「そんな!嬉しいです、すごく...」
敢えて高い宝石は用意しなかった。誰かに見咎められたとき、彼女が言い訳しやすい様にと思ったからだ。リングの中に埋め込まれた小さなピンクトルマリン。実はそれと揃いの石の入ってないリングを自分用に購入した。むやみにつけることは出来ないが、彼女といるときぐらいはつけてもいいだろう。
「ほら、」
そう言って彼女の目の前に自分の右手を見せた。
「あ...」
「だからいいんだ。何もいらない。」
「先生、ありがとうございます!!」
「よっ...」
名前は最後まで呼べなかった。
彼女からのキス...そのお返しにこちらから舌をねじ込み深くしていく。
「ん、んっ...」
喘ぎ、身体の力の抜けていく彼女を腕に掻き抱いて自分のモノだと主張する。
こんなモノで縛り付けられるなんて思わない。同世代の男達はこんな不安は抱かないだろうが、これから彼女が出会うだろう男達の数と質を思えば不安にもなるだろう。実際結衣子はこの腕の中からすり抜けていった。
同じ失敗はしたくない。
彼女が苦しむ様な縛り方はしないつもりだった。なのに、こんな小道具に頼ってしまう自分がいるのだ。
「依里子...」
しばらくは逢えないだろう恋人の身体を抱きしめる。我慢出来なくなっていく身体は自然と彼女の上に覆い被さり、シートノブに手をかけ引いた。
「きゃっ!」
勢い着いて倒れた背もたれに身体を預けて不安げに見上げる彼女を見下ろしていた。
「せ、んせ...」
そっと伸ばされてくる腕。
「あたしを、食べてください。クリスマスプレゼント...用意出来なかったから。」
「本当に食べてしまうよ?」
セーターをずり上げ、スカートをまくり上げる。揃いの白い下着をずらし顔を埋める。胸先を口に含み味わい、指先が身体のラインをなぞれば甘い声の賛美歌を聴かせてくれる。開いた脚の付け根に湧く甘い蜜を啜り、指輪をはめた指を埋め、かき混ぜ、ヒクヒクと締め付ける感触を楽しむ。
「あ、あ...あぁぁっ!!」
身体を反らせ、昇り詰めるまで指を、舌を止めない。
「依里子っ...」
身体を起こしてシートに座り直して、彼女の身体を抱きしめる。
「うっ...」
依里子の手が私の下腹部に触れた。
「先生、硬くなってる」
「いいんだ...おい、こらっ」
彼女はわたしのズボンのファスナーに手をかけた。
「亜美ちゃんに教わったんです。こうすると男の人が喜ぶって...」
取り出したソレをそっと扱いた後、依里子はソレにキスをした。
「くっ...」
ゆっくりと舌を這わせ、舐めあげてくる。ソレが済むと口の中に含んで顔を前後に動かしはじめた。
「こんなことまで教わったのか?」
こくんとそのまま頷かれて、その刺激が下半身に来た。
「悪い子だ...わたしに内緒で覚えてくるなんて。」
「...あの、気持ちよくないですか?」
不安げな瞳が上目遣いに見上げてくる。
「いや、キモチイイよ。あまりすると出てしまうよ、判ってるのか?」
再び頷く。
「くっ...イケナイ受験生だね。だが、わたしも悪い先生になりそうだ。」
かなりキテいた。まさかと思ったことをやってくれるのだから...
予想出来ない、そう最初から依里子は予想できない子だった。
どうすべきか悩んだ。このままでは彼女の口の中で果ててしまう。ソレはこのクリスマスにあまりにもな行為だろう。
わたしはポケットの中のハンカチをそっと取り出して準備した。ここのところの禁欲生活、車の中を汚しかねないことになりそうだったから。
「依里子、いいよ...もう、くっ、ダメだ、離しなさい、出てしまう!うっ...」
寸前のところで引き離しハンカチの中に吐き出した。吐き出す間も依里子の手を離さず、その柔らかな指で扱かせた。
「まったく...」
「あの、こんなことして、ごめんなさい...」
ハンカチで手を拭っていたら急に彼女が謝りだした。
「なにを...」
「あたし、喜んで貰えるって...」
泣きそうな声だった。
「喜んでるよ。気持ちよかったから...驚いただけなんだ。それに、こんなことすると悪い先生に、またさせられるよ?男はこういうコト、我慢出来ない生き物だからね。」
そう言って微笑むと安心しきった表情でこちらに身体を預けてきた。車のガラスは白く曇っていた。互いの服装を整えると、デフを効かせて曇りを取る。
「あの、大事にします。これ...」
そっと胸元に手を重ねる。
「ああ、私も当分夢に見そうだよ、依里子のコレを...」
指で唇をなぞる。本当はこの口の中に全部吐き出してしまいたかった。本当は身体ごと...
「あの...」
真っ赤な顔をして俯く可愛い彼女を思わず抱きしめた。もうガラスは曇っていないのに、唇を重ねる。
薄暮のグレーの空が二人の姿を隠してくれていた。誰も見るモノのいない駐車場。
「帰ろうか?送るから...」
名残惜しげに離れた唇、そっと引き離してシートベルトを身につける。

正月も逢えないだろう、開けて学校が始まってももう彼女が登校する日は少ないだろう。
帰したくない、いっそのこと、このまま部屋まで攫って行きたいほどだった。
自分の中に残っていた若くて荒々しい感情を抑えつけて車を走らせる。
ちゃんと大人の顔が出来ているだろうか?
何をして来るか判らない年若い彼女に、こうも溺れてきっている自分を笑いたくなった。

「それじゃ、また...」
そのまたが何時なのかも判らないまま、そう言って別れる。彼女が降りた車を走らせる気になれなくて、そのまま彼女を見送っていた。
いつもの公園。
夕陽が落ちていく間ずっとそこに居た。
「依里子...」
おまえは知らないだろう?私中のこんなにも幼い感情を。
欲しくて、焦がれてしまう、盛りのついた犬の様に見境のない欲望。
彼女の辿々しい舌使いを思い出しては再び下半身が震える。
「来年も一緒にいよう。」
そう、小さく呟いて車を暗闇に向かって走らせた。

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先生、暗くないですか?しかし亜美ちゃんもどこまで教える気でしょうか(笑)

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