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 沢田 Side 3

 
食事の時も会話は弾まなかった。
そりゃそうだ、オレには彼女が居るって思ってるし、半分騙して連れてきたのも判ってる。
だけど、少しでも彼女と過ごしたくて、何度か話しかけた。ゆっくりとだけど返事を返してくれる。オレはしらふで居られなくてビールを飲んだけれども、あんまり酔えなかった。
それぞれ大浴場でお風呂を済ませて部屋に戻った後も、もう一度飲もうと思った。今から一世一代の告白をして、彼女を逃げられなくするのだから、それなりの勢いが必要だ。
「まだ飲むんですか?」
手にしたビール缶を見て聞いてくる。
「ああ、なんか寝付けそうになくてな。冴島は?」
「あんまり飲んだことがないので...」
そう言えば彼女が飲んでるところは見たこと無かったな...
「一度ぐらい飲んでみたらどうだ?」
「でも...」
「少しは飲めないと苦労するぞ。」
酔って変なヤツに何かされたらどうするんだ?多少なりとも免疫をつけておかなきゃいけないだろうと少し強めに進めてみた。
「そうですか、じゃあ...少しだけ。」
「ワインなら大丈夫だろ?」
そう言って冷蔵庫の中の赤ワインを取り出した。
 
 
「じゃあ、乾杯」
「あ、はい、乾杯です。」
何についてでもないけれども二人グラスと缶ををあわせた。
「ホントに飲んだこと無いのか?」
「ええ、あまり強くないみたいですし、両親も外では飲むなって...でもここは部屋だからいいですよね?」
ソレ、間違ってるよ、冴島。おまえの両親は、家族以外の男性のいる場所で飲むなって教えてんだ。今目の前にいるのは家族でもない男だって言うのに...やっぱり女がいるから安心とか思ってるのか?女がいたって手だす男はいくらでもいるぞ?その危険性を判ってない様だった。
「まあ、すこしぐらいは免疫つけておけよな。眠くなったらいつでも寝ていいんだから。」
そう簡単に寝かせるつもりはなかったけれど。
さりげなくそこに座れば、とベッドの足下を勧めた。ソファは二人で飲むにはよそよそしすぎると思ったから。オレはソファの足下で片膝を立てて飲み続けた。
互いにホテルに備え付けられた浴衣で、彼女の胸元や裾から覗く足首に自然と目がいく。色白なだけあって、透ける様に白い。
ドキッとした。男がときめかないはずがないだろう?
 
 
「冴島は、誰かと付き合ったりした事ってないのか?」
少しとろんとしかけた目が質問に答えようと一生懸命見開いてオレの方を見てくる。可愛いなぁ、『ええありますよ』なんて言われたらその相手の男を恨み殺したくなりそうだ。
「私...中学から女子校のエスカレーターで、男の人とまともに話したのって会社に入ってからなんですよね。」
「え、そうだったの?」
確かに最終履歴は女子短大になっていた。
「はい、だから...ここに入って、ちゃんと話したのは沢田さんが初めてなんです。」
お、オレ??
「普段話しかけて来る人って、何だかいそいでるみたいで、私なかなかすぐに返事出来なくて...困ってるとすぐにいなくなっちゃうんですけど。沢田さんはゆっくり話し聞いてくださるし、すごく優しくて...とても安心して仕事を覚えることが出来たんです。だから、すごく感謝してて...」
「だけど、君は誘っても来なかった。」
少し声が冷たくなったのが判った。あの当時、ソレがどれほどショックだったかなんて彼女には判らないだろう。断られ慣れてなかったオレはその後も強く出れなくて、何気なく誘った体を崩せなかった。
「だ、だって...沢田さんカノジョさんとか居るって、課の先輩が教えてくれて...いつも、誘ってくる綺麗な人も断られてたじゃないですかぁ!だったら...わたしみたいなのが邪魔しちゃダメだってぇ...」
もう酔ったのか??わずかに舌っ足らずになってる。そっか、酔うとろれつが回らなくなってくるんだ。
「なんで?オレは君とこうやって食事したり、お酒飲んだりしたかったのに。」
「...ダメです」
小さな声だった。わずかに震えてる気がした。
「カノジョさん、居るのに...ダメです。そんなこと...今日だってこんな一緒の部屋なんてダメなんですよ?誤解されちゃいます。私には、一生の思い出になるけれども、沢田さんのカノジョにしてみれば...ふぇ...」
「冴島?」
泣いてるのか?下を向いてしまって、なかなか顔を上げてくれない。
「...っ」
確認したくて、オレは彼女の隣にそっと移動してその肩に手を回して引き寄せた。
「うう...あったかい、です...いいなぁ、沢田さんのカノジョさん、こんな時間たくさん過ごせるんだぁ...」
ぽそんと、オレの胸に顔を埋めたカノジョが小さく呟いた。
「ダメだよ、冴島、そんな無防備でいたら、危ないよ?」
溜まらず引き寄せて、背中を何度も撫でた。
「ん...でも、沢田さんは、あたしみたいな...初めての娘は、ダメなんでしょう?だって、カノジョさん、いつも綺麗な人...秘書課の堤さんみたいな...大人で、綺麗な女しか...」
「そんなことないよ、オレは、美雪がいい...可愛いよ、食べてしまいたい。」
その髪にキスをする。腕の中に抱え込んで熱を移す。
「うそ...だ...」
オレの腕にくるまれたからか、目を閉じてすりすりと寄ってくるのはきっと無意識の行動だろう。
「どうした、眠いのか?」
耳元で優しく囁く。オレの吐息が耳にかかって、微かに耳朶に唇で触れる。普通ならコレで落ちてくれるんだけど、彼女の場合はそんなにうまくいかないはずだ。
「ん...や、眠りたく、ない...沢田さんと...いられるの...ダメなの、嬉しかったら、いけない...カノジョさんに、悪いの...」
完全に寝ぼけた譫言の様な彼女の言葉に本音が見えた気がして嬉しかった。身体が震えるほど熱くなっていく。
「美雪、何で嬉しいの?」
その言葉の意味が、期待していいって事を示してる。答えが早く欲しかったけれどもなかなか返事が返ってこない。
「沢田さんが...居てくれる、から...でもね、ダメなの...うっ、ふぅ...」
何度もダメなのを繰り返し、鼻をすする。寝入りながら泣いてるのか?
器用だなと思いながらも、申し訳なくなってきた。オレが否定しなかったばっかりに、必死で自分を押さえ込もうとしてるんだ。無意識に近い状態でも、必死で...
「いいんだ、美雪。オレにはカノジョなんていない。オレは君のモノだ。だから、美雪もオレのモノになれよ...」
「...ほんと?」
うっすらと目を開けて見上げてくその可愛い顎先を、そっと掴んで引き寄せ、半開きになってオレを誘うその唇に重ねる。
わずかにワインの味と香り、ソレが消えるまで何度も吸った。その口中に舌を差し入れ、粘膜を隅々まで味わう。
「ん...」
苦しそうにしながらも全く逆らわない。それをいいことに、彼女をベッドに持ち上げて乱れた浴衣を縛る帯紐を解いた。もしかしたら夢の中で彼女はオレに抱かれてるのかも知れない。
するりとはだける胸元、ゆっくりと開くとシミ一つ無い、ピンクに染まった滑らかな肌が現れる。胸の先はもっと赤く色づいて、オレを誘ってる。
「美雪が悪いんだよ?男の居る部屋で酔ったりするから...男の、なにもしないからなんて言葉、信じちゃいけないんだ。」
胸元にそっと口付けて、その肌に指と舌を這わせる。
止まらなくなるって、判っていた。だけど...
「美雪?」
上下する胸、規則正しい寝息。
 
彼女はすっかり寝入ってしまった様だった。
 
「少しぐらい抵抗してくれよ...でないと無理矢理も出来ないだろう?」
ため息をついて抱きしめた。腕の中に閉じこめて逃がさない。明日の朝目覚めても、この腕から逃れられない様に...そして諦めてオレのモノになるようにと。
「離さない...例え美雪が嫌がっても、オレは...」
 
愛してる
 
声に出さずにそう囁いた。お姫様が目覚めたときに今度は声に出して言える様に...
 
 
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素材:FINON