〜部屋〜 1 |
「郁」 「ん?」 「腹減った」 「わかった何か作る。」 郁がベッドからだるそうに身体を起こして台所へ向かう。 オレと郁が一緒に暮らし始めて1週間。 別段甘くもなく、マイペースなオレたち。 本当を言うと誰かと暮らすなんて考えられなかった、俺たちの性格じゃ。 どっちも人にあわさない、非協調性の塊人間だ。 なのに二人で暮らすことを、俺が望んだ。 大学もゼミ中心だから、毎日行くわけでもない。 オレも郁も仕送りは十分で、一緒に暮らしはじめた分、家賃は浮いたし食費も浮いた。 遊びに行ったり飲みに行ったりもしないから特別金もいらない。 郁は女の癖に化粧もしないし、着飾らないから荷物も少ないし、無駄使いもしない。 だからふたりとも、バイトに明け暮れないと生活出来ないこともないので、日長部屋でゴロゴロしてたりする。 元々隣同士で住んでて、いろいろあって...友人を一人失って、オレたちは一緒に住むことにした。 だけど、どちも不器用で、甘えることも出来ない馬鹿ふたりだ。 唯一正解だったなって思うのは、どちらも干渉しないタイプだから、あんまり構わない。どん底で解り合った馬鹿同士だから、これ以上取り繕うこともないし、かっこつけてもしょうがないから、素で生活出来る。 「できたよ」 「おう、みそ汁?」 「ん、なんか飲みたくなった。」 ご飯にみそ汁、漬け物、ふりかけ、納豆、目玉焼き...メインがねえ まあ、ここんとこ買い物も行ってなかったからなぁ。 けど、前からコイツは飯は作る女だった。結構上手い。俺は外食専門だったが、郁の飯食ってると、外で喰うのが厭になる。 「後で買い物でも行くか。なんか欲しい物ある?」 「んー煙草くらい?」 欲のない女だしな。何か買ってやると言ってもたぶんなにも望まないんだろう。 この女が、引っ越しの時に唯一望んだのは、新しくベットを購入することだった。 コイツと暮らす前に、その隣の部屋で何人もの女を抱いていた。幾晩も...コイツもそれを知っていたから、そのベッドだけは厭だったんだろう。 後は持ち寄った家財道具で十分だし、いつの間にかオレの服着てるし? 部屋着は俺のシャツだったりする。まあ、それは俺も厭じゃない。 いつもはかけてる眼鏡を外して、ひっつめてた髪を下ろして、男物のシャツを着てる女は十分そそってくれる。 昨晩散々やったはずなのに... 無表情な女の顔が変わる瞬間を俺は知っている。 感じてないようで、しっかりそこを濡らして俺を待っている。 俺と同様無口で、必要なことすら言わないから、余計に身体で判ろうとする俺たち。 今朝方近くまで繋がって、互いに必要だって、判っているはずなのに、何かが足りない。 「行かないの?」 すっかり準備して玄関でアイツが呼んでいる。 普通反対だろう?女の方が準備に手間取る... 「ああ、」 立ち上がってシャツを羽織って玄関に向かう。 「やだ、智也...」 指さす方を見ると、俺はジーンズのチャックをあげ忘れていたらしい。 「おう、」 ちょっと照れて、急いで閉めたとき、郁がクスリと笑った。 「郁?」 「智也でも抜けてるとこあるんだね。」 「なんだよ、それ」 思わず息を呑んだのは俺の方だ。 滅多に笑わない郁が、笑った。 先を歩こうとする彼女の肩を捕まえて、並んで歩く。 途端に真っ赤になって下向く初なヤツ。 男に慣れない、俺だけの女だとほくそ笑む。 「ねえ、恥ずかしくないの?」 「ナニが?」 「あたし...みたいなのと歩くの。」 それも肩組んでと付け加えた。 「別に」 素っ気なく応える。それが俺 「あ、俺ゴム買ってくる。」 今朝で使い果たした避妊具を買うためにドラッグストアに入る。 最初は避妊しなかったけれども、やっぱりそれは卑怯だと、それ以来つけている。 まだふたりとも学生だし、これからの事なんてまだ判らないから。 「3箱でいいか?もっと...いてっ!」 問いかけるとまた真っ赤な顔して怒った郁が俺の腕をつねりあげていた。 「馬鹿っ!」 こういう顔が見れるんなら、二人で暮らすのも悪くねえな。 |
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