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社会人編

39
〜甲斐・4〜

『なあ、同窓会のハガキいったか?』
「ああ、来てるよ」
高校の同級生、香川寛也からの電話だった。オレは引っ越し先を連絡してなかったので、ハガキは実家から……なぜか水嶋さん経由でオレの手元に届いていた。
うちの学校は卒業生の就職先や住所の取りまとめの確認も込めて、卒業5年後に学年全体で同窓会が実施されるのが恒例になっていて、もちろん会場には学校の講堂が提供される。
『史仁ももちろん参加だよな?オレも春菜と出るつもりだぜ』
「おいおい、いいのか?パパとママが夜遊びしてて」
『たまにはいいんだよ!っていうか、息抜きさせてやんねえと春菜のやつ荒れるからさ。子育てはストレス溜まるらしくってさ……実はオレも同窓会実行委員ってやつなんだぜ?地元に居る奴とかに声がかかるらしいんだ。うちはほら、同級生同士結婚しちゃってるし、自営業だから』
「ご苦労な事だな……」
そこから延々寛也の惚気話が続いた。以前なら聞く気もなく曖昧に聞き流していたが、いまは奴が羨ましくて、妬ましかった。
寛也は卒業後2年ほど外に修行に出た後、実家のクリーニング店を継いだ。高校卒業後、しつこく迫ったからか、情にほだされたからなのかは知らないが念願叶い、寛也はずっと片想いしていた若尾と付き合い始めた。1年前に子供が出来てることが判って、急ぎ入籍出産……今じゃ二人は一児のパパとママのはずだ。相変わらず若尾にメロメロの寛也が子煩悩ぶりを発揮してるのは他の仲間からも聞いていた。
そうだよな……寛也みたいになりふり構わず縋り付く様な真似が出来たら、今時分もしかしたら志奈子はオレの傍に居てくれたのだろうか?
「なあ……出席者とか、判るのか?」
『え?ああ、返事が返ってきてる分なら判るけど。返事が無くても連絡がつく奴にはこうやって連絡取ってるんだよ、オレらが』
「オレのクラスの委員長だった……船橋、あいつは出席するのか?」
『はあ?船橋って……ああ、あの三つ編み眼鏡の委員長さんかよ?』
「そうだ……」
『おまえ付き合いあったっけ?』
「まあ、な……受験勉強とか手伝ってもらったりしたから。同じクラスで他にはたいして仲のいい奴居なかったしな」
言い訳がましいが当たり障りのない返事をしておいた。まさか、オレとあのお堅い委員長が一緒に住んでたなんて言っても信じないだろうし、今聞きほじくられるのは避けたかった。まだ笑い話に出来ないほど、オレは……志奈子のことが忘れられていなかったから。
『なるほどね。えっと、ちょっとまてよ……春菜、船橋って、ほら、史仁のクラスの委員長。ハガキどうなってたっけ?』
『ああ、船橋さんなら宛先不明でハガキ返ってきてるわよ。二年の時仲良かった内橋って子にも聞いてみたんだけど、連絡無いって』
携帯の後ろで若尾の甲高い声が聞こえてくる……やっぱり、そうか。
『だってさ、学校側に言って実家とか調べられるけど?』
「いや、いいんだ……」
あれほど志奈子が嫌っていた彼女の母親に自分から連絡するのも気が引けた。どうせ、あいつのことだから引っ越し先は教えても、母親の元に帰ってきたりしていないことは判っていた。
『あとな、溝端も川崎も来るって言ってるから、おまえも来いよな?女共がお前来なかったらブーイング起こしそうだからさ。まあ、うちの春菜にはもう言わせねえけど……』
再び惚気が始まる。幸せそうでいいことだ……今はその幸せを自力で手に入れた彼を祝福してやりたいと思う。若尾もオレなんかじゃなく寛也を選んで正解だったんだよ。こいつは、いい親父になるさ……
オレは、一旦手に入れたはずの幸せを、指の隙間からこぼれ落としてひとかけらも手元に残すことができなかった惨めな男だ。二人で暮らした部屋の中で何度も抱き合って、互いを求めあったのに……オレは、肝心の一言が言えなくて、あいつを見送ってしまった。
オレは、誰と幸せになるつもりだったんだ?志奈子以外の……誰と?
何度もオレの手から逃れようと姿を消した彼女。最後まで手に入れられなかった。
自分がどれほど彼女を求めていたのか、その度に気付いてたくせに……
その度に代わりはいないのだと気付かされたくせに……


受験前、やろうと思えばいつでもやれるセフレを学校内で見つけたオレは、彼女の気持ちもお構いなしに盛っていた。受験が押し迫ってきていても、勉強は勉強、セックスはセックスだった。溜めてもストレスが溜まるだけだし、出すもん出しておかないと却って調子が悪くなる。そうだろ?男子高校生の性欲を甘く見ないでもらいたい。特にセックスの気持ちよさを知ってしまえば、自慰行為だけで済ますなんて事はオレには出来ない。なにせ12,3歳からやりまくってきてるんだしな。
幾らやりたいと言ってもオレたちは受験生だ。なんとか志望校に受からないことには始まらない。出来のいい委員長と比べて、オレは第一志望がC判定のままで少々焦りも感じていた。だから委員長に図書館で勉強を教えてもらって、その後セックスに持ち込めればいいと思っていた。
冬休みに入って図書館で勉強しては帰りに委員長のカラダで性的欲求不満を解消する毎日。私服姿の委員長は意外と可愛らしかった。地味だけどいつもの制服姿に比べて隙ありまくりだし、髪型もさすがに三つ編みじゃなくて、軽くまとめてたりした。制服と三つ編みと黒縁の眼鏡、これだけで3種の神器の様にくそ真面目な彼女が演出されていたのだとわかる。そうさ、三つ編みを解いて、眼鏡を外し、制服を乱すとあっというまに信じられないほど艶っぽい委員長ができあがる。だから、いつもの三つ編みをまとめてアップにしていたのには驚いた。思わずその白いうなじに手が伸びるほど、後れ毛がやたら色っぽかったから……

「やっ……はぁ……っん」
お勉強の後は気持ちのイイ時間。時間も場所も微妙で……閉館間際の図書館のトイレや、帰りの公園のトイレ。他に無いのかと言われればそれまでだけど、嫌がる場所で抱くと、その分委員長が過敏に反応するのが楽しかった。
「時間ないから、すぐに終わらせる」
愛撫もそこそこに突き上げて避妊具の中に吐き出す行為。狭い場所ほど密着して、声を出させない様深く口づけた。オレだけが気持ちよく果てるけれども、彼女はわざとイカせてやらなかった。そのうちそうして欲しくておねだりしてくるのを待っていたのだけれども、なかなか言い出してくれなくて焦れていた。委員長のプライドが高いというか、素直じゃないというか、頑固過ぎるというか……特に快楽に対して、カラダは求めても言葉では決して求めてこない。
「メシでも食って帰るか?」
どうせ帰ってもコンビニ弁当か出前を取るかしかないのが判っていたのでそう誘ったが、いつもさっさと帰ってしまう。まあ、普通の家の娘だと、そう急に外食も出来ないだろう。家で母親が夕飯を作って待っているはずだしな。
すげなく帰っていく隙のない彼女の後ろ姿は、真面目な家庭で育った私生活を安易に想像させた。
「マジでセフレだよな……」
思わずそう呟いてしまうほど、委員長とオレとの繋がりは他に無かった。カラダと、勉強……それだけが共通項で、育った環境も何もかも違ってる二人が、こうやって毎日一緒にいるだけでもたいしたもんだと思えた。なぜなら……オレはカノジョと毎日逢いたい方でもないから、毎日同じ女と逢って、同じ女としてる事の方が珍しかったから。
けれども、年末年始はさすがの図書館も閉まる。だからといって1週間も勉強を教えて貰えないのも、セックスが出来ないのも困る。そこでオレは提案した。
「明日はオレん家来いよ。ここから近いから」
ファストフードやファミレスじゃ集中して勉強できないと思ったし、まさかあの委員長をラブホに連れ込む訳にもいかない。あんなとこに連れて行ったら一日中盛ってしまいそうな自分が想像できるしな。受験の為なら今ぐらいがちょうどいい。それに自分の家ならラブホやファミレスよりも落ち着いて勉強出来るだろうし、委員長のあのカラダをゆっくり味わうことも出来る。セックスの後風呂にも入れるからいつも出来ないような無茶なことだって出来そうだ。思う存分委員長を感じさせて狂わせてみたいと常々思っていた。ただそこまでやると、一緒に勉強することも拒否されそうで思いとどまっていただけだ。なにせメインは勉強だからな。
どうせ親父は年末年始は店があるし、人に任せて上客と旅行に行ったりもする。今までも家にいた試しはなかったから。

「待ったか?」
「ううん」
駅まで迎えに行くと、にこりとも笑わないいつもの委員長が待っていた。普段はもう少し表情が緩いのに、まさか緊張してる?わけないよな……
家まで歩いていく間あまり話さない。歩いていても斜め後ろをついてくるだけで、委員長は決して横に並ぼうとしないから話しかけにくかった。そんなにオレと並んで歩くのが嫌なのか?そりゃ、お世辞にも真面目な格好じゃないけれど……それでも、最初に図書館に行って悪目立ちしてからは、ブーツを履いていくのは止めたし、派手なTシャツや光沢系のシャツも止めた。たまにやってた雑誌のバイトで服をもらったり気に入ったヤツを買いあげたりしている上に、親父の奴が着なくなった服をオレのクローゼットに放り込んでくるんだよな。スーツ系はさすがに店の若い子に与えてるみたいだけど、普段着っぽいのはオレのとこに回ってくる。あまり同じのばかり着れないし、客にもらったものは店の子達にはあげられないというのが主な理由らしい。それ以外はオレもストリート系というよりも派手系だから、親父にもらった服と上手くコーディネイト出来るのを探して買っている。そんなオレと真面目なトラッド系というよりも超地味な委員長とじゃあわないって言うのも判るけど、二人並んで歩いてたら目立つのが嫌なのか、委員長は決してオレの隣を歩こうとしなかった。
「先に応接間行っててくれる?」
玄関は相変わらず靴の山……たまに住むとこのないホストが転がり込んで来ることもあるけれども、親父の靴が山ほど並んいるのが現状。それをちょっと横に片づけて彼女が靴を脱げるスペースを作った後、ジュースかコーヒーでも入れてこようと先に委員長を居間に行く様伝えた。
よく考えたら、女を家に連れてきたのは久しぶりだった。昔、親父のカノジョ相手に盛ってた時は必然的に女がこの家に入り込んできていた。だけど、中学の時出来たカノジョをそのまま部屋に置いといたらいつの間にか親父と出来てたりして……それ以来オレは女を部屋に連れてくることは無かった。いや……一番嫌だったのは親父と比べられること、そして親父の方を選ばれるのはキツかった。
とにかく、いきなりオレの部屋じゃ委員長も緊張するだろうと思って、居間に行く様言ったわけだが、勉強が終わったらさりげにオレの部屋に誘導してもいいし、居間のソファーの上で一発決めるのもいい。委員長はベッドの上とかよりも、狭い場所や不安定な場所に追い込むほど嫌がるし、嫌がった分乱れるのが判っていたから。床に押し倒すよりも、壁に追い込んだ方がオレも興奮するし?オレはこの後の手順を色々と考えていた。そしてお盆に飲み物を載せて台所を出る時、ちょっと嫌な気がした。
―――― 予想的中。
応接間のドアの前で固まってる委員長の唖然とした姿。部屋の中では親父が若い女と盛ってる最中だった。
見られたくなかった、こんな親がいること。きっと真面目な委員長には受け入れられない世界だ。
軽蔑される!オレはその瞬間怖くなって、腹が立った。
「隆仁、何やってんだよ!」
手にしてたジュースの乗ったお盆を床にたたきつけた。そして親父でなく隆仁とわざと名前で呼んだ。尤も店でも名前で呼べと煩いからそう呼んでいるだけだ。まさかこんなデカイ息子がいるなんて思われない方がいい相手もいるからで、もちろん付き合いの長い客はオレが息子だって知っていた。
委員長は黙って俺たちのやりとりを聞いていた。
親父は、たまにこうやって枕営業の相手を家に連れ込んだりする。『おまえは特別なんだ』とかいって……昔はそうやって連れ込んだ女にオレの面倒を見させてたんだよな?今はちょっと掃除とかさせて相手の献身的心理を満足させているらしい。だけど親父の言い出した提案には呆れた……4Pだって?委員長をクソ親父に抱かせろっていうのか?
嫌だ!コイツはオレのだ……オレ以外知らない。絶対に誰にも抱かせたくない……
「うるせえ!委員長、来いよっ!」
オレは委員長の手を取って家を飛び出した。あんな場所にはいられない。あんなところに委員長を置いておけなかった。

「悪い、委員長……」
公園の入り口で温かい缶コーヒーを買って、ベンチに並んで二人で腰掛けた。さすがに年末、外は寒い。なのに唯一勉強できる家を出てきてしまった。勉強した後、委員長の時間が許す限りゆっくりとそのカラダを堪能しようと思っていたのに……
「別に、気にしないわ」
委員長はさほど興味のなさそうな声で答えた。だよな?いくら何でもオレの親なんかに興味はないよな?でも、やたらと聞いてくる女よりもいいと思った。聞いてこないからこそ、言いたくなった。
「あんなんでもオレの父親なんだ……あいつがホストやって、女たらして稼いだ金で食わしてもらってんだから文句言えねえよな」
オレは慣れてるけど、委員長には刺激が強かったと思う。あんなシーン……そしてきっとあの親にしてこの子だと軽蔑されるんだ。そう思いこんでいたオレに対して意外な言葉が彼女から返ってきた。
「べつに、そんなの関係ないわ。父親がどうであれ、甲斐くんは甲斐くんなんだから」
オレはオレだと言ってくれた。あんな親でもオレはオレなんだと……
似てると思う、顔立ちも下手すれば性分さえも。だけど、似たくなかった。親父みたいなホストにはなりたくない。真面目でお堅いサラリーマンになって、普通の人生が送りたかった。その時は委員長みたいに遊んでなくて、真面目でいいとこの娘と結婚して、普通に母親と父親のいる家庭を築いてみたい、なんて……今まで流されて遊んできたオレが真顔で言える話じゃないけど。そうなんだ、委員長がもうすこし愛想よければ理想の奥さんなわけだ?頭が良くて、オレしか知らなくて……きっと子供にもやさしくて。
無理だよな?こんな遊んでるオレが何夢見てんだろ?委員長のカラダだって半分無理矢理……今だって脅しすかして続けてるだけの関係なのに。
「どうする?ここじゃ寒くて勉強出来ないわね」
ファミレスかファストフードにでも行こうかと、何事もなかったの様に彼女が誘ってくる。今まで食事に誘っても全く付き合ってくれなかったのに……まさか、同情されてるのか?オレ。
「いや、今日はもう、いいよ」
なんだかもう勉強という気もしなかったし、ましてやあんなもん見た後に委員長は抱けない……今以上に汚してしまいそうで。

その後、しばらく委員長には連絡しなかった。年末は家の用事とかあるだろうし、正月は家族と団らんするだろうから。こっちは、年末年始もほとんど親父の店の使いっ走りで忙しく過ぎていき、ようやく時間が出来たのは正月が明けてからだった。それでも連絡するのをかなり我慢したんだけれども。
逢いたい……委員長に逢って、あの柔らかな身体を抱きしめたかった。彼女の温かな体内に入り込みたかった。受験だからと友人達の呼び出しを断って一人過ごした正月。夜は特に寒くて……寂しくて、温まりたかったんだ。

「なあ、逢わねぇ?」
ようやくの思いで連絡したら、『セックス抜きなら』と答えやがった。それでもいい……ちょうど判らない問題もあったから聞きたかったし、図書館は翌日から開いていた。だけどあんな後だったから、自分がやろうとしてることが親父と同じように思えて、手も触れずに帰って来てしまった。久しぶりに見た委員長は相変わらずだったけれども、少しだげオレに気を許してくれている様に思えた。だからこそ余計に変な手出しができなくて……帰ってきてから一人でシタ。
自慰なんて、ここのところしたこと無かったと思う。出したくなったら、女に声をかければ良かった。なのにそんな気も起きず、ただひたすら委員長のことを思い出しながら、自らを扱きたてた。それで少し満足できた様な気がして……それから受験まで、ひたすら勉強に打ち込んで、できるだけ彼女のことを思い浮かべない様にした。それでも思い出してしまう時は自分でするしかなかったけど。


卒業式の日、もう前みたいに脅して呼び出したりもしていない。オレもまだ私立の入試が残っていたからそれどころじゃなかった。このまま卒業したら……委員長とは本当に逢えなくなるんだろうなと思ったらちょっと惜しい気がした。結局一度も思いきり抱くことがなかった。だから余計にもっと抱きたいと思うんだろうと自分に言い聞かせたけれども……やっぱり未練だろうか?卒業の打ち上げだと騒ぐ仲間に『受験残ってるから』と必殺技の印籠を出して断った後、一人になった教室で携帯を取り出して彼女のナンバーを呼び出した。
出ないか……そりゃそうだろう。委員長もまだ二次試験が残ってるはずだし?
ちょっと落胆している自分に苦笑いしながら、最後にあの資料室に足を向けた。
「委員長……」
こんなところにいたのか?もしかして、オレを待ってた?まさかな……彼女がそんなこと思うはずがない。
「探した。ケータイ、いくら鳴らしても出ないから……帰ったと思ってた」
手にしたままの携帯を見せても、表情を変えない。真面目な彼女のことだから、携帯はマナーモードのままで、卒業式の後もチェックなんてしてなかったんだろう。向こうもオレがあいつらと遊びに行ったと思ってたらしい。だからここに来たのか?オレが来ないと思って……
だけどその理由を話しても、彼女はさらっと『そう』と流して帰ろうとする。
「今までありがとう。それじゃ、元気でね」
まるで何もなかった同級生にかける挨拶の様で……いつも見る作った様な笑顔を向けられて、それが妙に悔しかった。違うだろ?そのカラダの中の中まで知ってるのはオレだけだろ?もう今日を境に逢えなくなるんだぞ?なのに、なんで……そんなに平気なんだ?やっぱりオレなんか迷惑だったか?無理矢理抱いて、何も残らなかったのか?いや、違うはずだ……彼女のカラダはそんなこと言っていなかった。だから、また無茶なことを言ってしまった。
「最後に抱かせろよ」
帰ろうとする彼女を呼び止めて、その手を引いて逃げられない様に壁に押しつけていた。脅し文句を重ねながら、その身体に指を這わせる。相変わらず感じやすいカラダ。吸い付く様な肌は、オレを誘う様だった。廊下は嫌だと言うのでトイレに引き込もうとしたけれども、また失敗した。委員長はここでされるのをなぜか嫌う。オレは何処だってイイ。もちろん受験もあるけれど、こっちだってカラダも切羽詰まっている。あれから……誰も抱いていない。それほど受験に集中していたんだ。だが、どうせ抱くならオレだってここ以外がいい……
「だったら、受験終わったら思いっきり抱かせるか?その後も、続けるか?」
きっとこのまま別れてしまえば、委員長はオレに逢おうとしないだろう。もう二度とこのカラダを抱けないなんて嫌だ。惜しすぎる……だけど意外にも彼女から返ってきたのは『それっきりにしてくれるなら、連絡する』だった。後一度だけ自由に抱けるってことか?
「その後は?」
「もう、お終いよ」
彼女はよほどオレとは最後にしたいらしい。けれども、そんなこと聞けるわけがない。ならば思いっきり抱いて、証拠写真でも撮って、それをネタに脅してもいいかもしれない。そうすれば……これからも、まだ抱く事が出来るんだ。その事を、志奈子のカラダにもっと刻んでおかなければ。
オレは、壁に押しつけたまま彼女の中を探る。誰かが来るかも知れないと脅すだけでそのカラダはピクピクと震え、過敏に反応する。
「もう、濡れてる……委員長の身体はほんとに淫乱だから」
辱める様な言葉を口にするたびに彼女は従順になっていく。そのことに気が付いてからオレは意地悪なことばかり言ってる気がする。今まで女とやる時にはそんなに話したこともないし、言葉で責めたことも無かった。ただ吐き出す為の行為をするだけ……女が乗るだけの時もあったし、腰を動かすだけの時もあった。
「ほんと、いつでも何処でも入れられそうだ。いっそここで入れてみる?」
温かく濡れた蜜壺をかき回しても必死で堕ちまいと耐えているのがよく判る。
「そんなに嫌なのか?」
そう聞くと、素直に頷きやがった。クソ、そんなにオレは嫌われてたのか?
イカせないまま指を抜くと、言葉とは裏腹に感じて震えだしたそのカラダを無意識に抱きしめてから手放した。だったら、次は絶対に……思いっきり抱いてやる。
そう決意してオレは彼女の中から引き抜いて指の付け根までしとどに濡れたそれを舌で舐め上げる。委員長は嘘をついたり約束を破ったりしない。だから、連絡してくるという言葉を信じて、送ると言ってもそのまま立ち去ろうとする彼女を見送った。上気して女の色香を顔に載せたままの委員長を一人で帰すのは違う意味で心配だったけれども、あまりしつこくすると合格が決まった時の連絡すらして貰えなくなりそうで、送りたい気持ちを抑えて、後を追いかけるのは堪えた。


案の定、国公立はダメだった。私立はW大の政経にはなんとか受かったのでそこに決めた。浪人してまで国立に行きたい訳じゃないし、あれでも親父は稼ぎがあるからW大だったら学費もきっちり出してくれるだろう。昔……大学に行きたくても行けなかったとちらっと聞いたことがあったから。顔には出さなかったけれども、オレが進学することを密かに喜んでたのを知っていた。だけど、オレが大学に行くのは誰の為でもない、オレ自身の為だ。W大は経済界での成功者も多く、就職に有利なのは確かだったから。
委員長は、どうだったんだろ?間違いなく受かってるとは思うけど……
受験が終わったら、思いっきり壊すほど抱くってオレは宣言していたけれども、もしかしたら、彼女は連絡してこないかもしれない……そうすればオレはもう二度と彼女を抱けないだろう。だけど、妙に律儀な彼女のことだ。きっと連絡してくるだろうと踏んでいた。卒業式の後も、あのカラダは間違いなくオレを欲しがっていたから……カラダだけは素直な委員長のことだから、もう一度会いに来るはずだと確信を持っていた。
それに……誰とも付き合う気がないとか言っていたけれども、快感を覚えたあのカラダでこの先どうするんだ?もし、これで男に免役ができて、卒業してから気が変わって他の奴と付き合い始めたら?嫌だな……あのカラダはオレが開いて、教え込んだんだ。あの気持ちよさを他の男に味逢わせてたまるか!だったら、オレがずっと抱いてやる。
ずっとって……オレは何言ってんだ?連絡してきたとしても、それで最後だって言うのに?もちろん続けたい、無理矢理にでも。こんな場合どうすればいいんだろう?他の女の場合だったら、嘘でも『好きだ』とか『愛してる』っていえばいい。だけどそんな言葉が通じない相手だ。『付き合おう』といっても一笑に付されてしまいそうだしな。
自分が言われて萎える言葉はできるだけ言わない様にしてきた。委員長は彼女じゃなくセフレだったから。だけど、なかなかこないメールに焦れて、オレは街に出た。その日声をかけてきた女の部屋に誘われて何となくセックスして付き合うような感じになったけれども、オレはずっと委員長からのメールを待っていた。

3月の半ばを過ぎた頃、ようやく委員長から連絡があった。
味も素っ気もない『合格しました』の1行メール。オレは急いで返信して、翌日の待ち合わせ場所と時間を連絡し、その夜はひたすら興奮するカラダを抜かずに宥めた。まるで、遠足前のガキみたいに興奮して寝つけないほど……

「よ、合格おめでと」
「ありがとう、そっちは?」
何気なく交わす会話は同級生っぽく、ごく自然だった。
待ち合わせに現れた彼女は学校で見かけるのとさほど変わらない三つ編みにコート。オレと最後に逢うからって、オシャレしたりする女じゃないって判っていたけれども少しだけへこんだ。楽しみでもなんでもない、嫌々出てきてるっていうのがよく判る。そういえば、女が俺と会うのにオシャレしてなかったり、嬉しそうにしたりしないのってコイツが初めてじゃないか?
「そう……で、彼女はもう出来たの?」
さりげなく聞いてくるってことは、一応気にしてるのか?それはどんな理由で?それが知りたくてオレは正直に街で声をかけてきた年上のOLと付き合い始めたことを言った。だけど、別にそう言ったからといって帰るとも言わないし、怒るわけでもない。『あ、そう』と軽く返してきただけだ。もしかして……オレにカノジョとかいる方が本気になられなくて済むとか思ってるのか?そうだよなセフレでいいって言うぐらい、男と付き合う気も、将来結婚する気もないってはっきり言う様な奴だ。その方が安心してセフレでいられるってことか?
何度も言った彼女のカラダを抱くことが好きだと。彼女も言った、抱かれるのは好きだと。オレと同じで面倒くさい手順無しで気持ちよければそれでいいんだと思っていた。だけど避けられ、嫌がってる感じがしたからつい押してしまったけど、あれは……カノジョがいなかったからなのか?いればOKということか?
「じゃあ、これからどうする?」
さてどうしたものか……カノジョとデートだったらどっかでお茶かランチして、ちょとぶらぶらして暗くなり始めたらさりげなくホテルに入ったりしていた。明るいうちからホテルに連れ込むと『カラダだけなのね』とかいう女多いからさ。まあ、向こうも好きモノで、真っ昼間から行こうと誘うのもいたけど。
いくらなんでも、即ホテルなんてがっついててダメだろうと思って食事に誘った。
「委員長……じゃもうねえな」
いつもの様にそう呼びかけて船橋と言い直した。オレたちは卒業したから、もう彼女は委員長でもなんでもない。食事に誘ったけれども嬉しそうに乗ってこない。奢ると言ったら誰だって喜ぶはずなのに……お茶も映画もいらないという。時間がないのか?やっぱり門限とかあるのか?休みの日は6時までに帰らなくちゃいけないとか。
「わたし、一人暮らしだからそんなもの無いけど?」
門限を聞いたらさらっとそう答えた。なんだよ、一人暮らしだって?だったら、春休み中彼女の部屋に入り浸ることだって出来たじゃないか。門限とか気にせず、抱きたい時はホテルにでも連れて行って朝までヤリまくれたじゃないか。
くそっ……それが嫌でオレに言わなかったのか?
「じゃあ、今からおまえの部屋行ってもいいのか?」
やけくそでそう言ったら、部屋の壁が薄いとかなんとか……なんだ、ヤル気できてんじゃないか?思わずオレはホッとした。
だったらと、門限がないことを確認して、オレは思いっきり欲望を晴らす為にすぐ近くのラブホに向かった。
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