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「うわぁ……綺麗」
海に面した外の夜景はまるでおとぎ話にでも出てきそうなほどだった。眼下で回る観覧車。
乗ってみたかったな……おもわずそう思うほど。でもそれよりも高いところから見下ろしている今のわたし。なんだか別世界のようだった。
案内された席は窓際で、外を向いて夜景を楽しみながら飲める趣向のようだった。必然的に席は隣り合わせのように並び、二人で夜景を見ながらカクテルを口にした。
何を頼んだらいいかわからなかったので、甲斐くんが大きなグラスにクラッシュアイスいっぱいの青いカクテルを注文してくれた。甘くて爽やかで凄く飲みやすかった。甲斐くんはマティーニだそうだ。
「こんな素敵な所に連れてきてくれてありがとう。それから……今までありがとう」
思わず素直にお礼が言えた。生活も、金銭面でも随分と楽させてもらった。結局甲斐くんは家賃や光熱費をわたしには払わせてくれなかったから。
「志奈子……」
横に座ってるから、ちゃんと正面から甲斐くんの顔が見えなかったけど、だからこそ言えたんだと思う。
「ほんとは、もっと普通のレストランでもよかったんだよ?電車で移動して、駅前の洋食屋さんでもどこでもよかった……今日のわたしは、甲斐くんと並んでも……変じゃなかった?甲斐くんは恥ずかしくなかった?」
「そんなはずないだろ?何言ってんだよ……」
「そっか、よかった」
「志奈子、おまえさ」
「甲斐くん、わたしね、甲斐くんとこうやって出かけるの一度やってみたかったの。今まで、誰かと出かけた事なんて無かったし……これでね、もう思い残すことない。一生経験すること無いだろうなって思ってた、こんな……恋人同士みたいなこと。きっとこれからも無いだろうと思うけど」
「なあ、やっぱり前に言ってた事は今も同じなのか?」
「前?」
「恋愛とか、結婚とか、一生するつもりないってやつ」
「そうだね……あんな母親見てきたから、それは変わらないよ」
だって迷惑でしょ?わたしみたいなのにつきまとわれたら……
「そっか……オレも、感謝してる。志奈子の作る飯、旨かった。どこのレストランの料理よりも」
甲斐くんは、母親の手料理を知らずに育った。だからわたしの料理なんかでもいつも残さず食べてくれた。お互いに無い物を少しずつ分け与えて来たんだね。この何年間……
「わたしも、感謝してる……わたしみたいなの、今まで抱いてくれてありがとう」
「志奈子……」
「誰かに抱きしめられるなんて、甲斐くんが初めてだった……母親にさえもロクに抱きしめて貰えなかったから。毎晩暖かかった。何も考えずに眠ることが出来たの……本当にありがとう」
泣くまいと、必死で堪えるのに、涙が溢れてきて……喉が詰まってそれ以上言葉が出てこない。
「泣くな」
そう言って引き寄せられた甲斐くんの胸。
明日からは、もうこの腕も、胸も側にないんだ……一人で生きていかなくちゃならない。
「甲斐くん……最後に……抱いて」
彼の胸の中でそう囁く。聞こえなくてもいい。このまま帰ろうと言われても……そう言いたくて、言わずにはいられなかった。
「部屋、取ってる」
甲斐くんはそう言うと、さっさと会計を済ませわたしの肩を抱いてそのままスカイラウンジを出た。
「んっ……んっ」
エレベーターの中、引き寄せられて官能的なキスが始まる。どこかの階で降りたあともキスは止まらず、そのままドアが開けられ、二人重なったままベッドに倒れ込んだ。
「志奈子……志奈子」
何度も甲斐くんがわたしの名前を呼んでいた。背中に回された彼の手がワンピースのファスナーを降ろしていく。
「あっ」
むき出しにされた肩に痛いほど吸い付かれた。そのまま身体から滑り落ちていく彼から贈られたワンピース。その下はキャミソールにお揃いの下着はレース。今までのわたしじゃあり得なかったデザイン。全部、甲斐くんに見せたくて揃えた。隣にいても恥ずかしくないようにと見えない部分まで気を遣った。どんなのを選んでいいかわからなくて、朱理さんに力を借りたけれども……
何時の頃からか、肌の手入れやむだ毛の手入れも欠かさないようになっていた。あれだけ抱かれていれば、自分の身体が少しでも綺麗に見えるようにと気を遣うようになった。身体の線だって……ただのぽっちゃりだったのに、意識することで少しはくびれたというか、女らしい身体つきになったと思う。この2年半、扱いはどうあれこの身体は甲斐くんに抱かれることによって、自分にとって少しは価値のあるものになったのかもしれない。
すぐ側にある鏡にわたしが映る。まとめていた髪がほどけ、わたしが喘ぐたびに乱れ踊る。薄暗い照明の中、白く浮かび上がるわたしの腕が、脚がベッドの上で甲斐くんに絡め取られている。甲斐くんもスーツを脱いでベッドの下に放り捨てた。むしるようにネクタイを外してシャツのボタンをもどかしげに外すのを手伝った。ベルトをゆるめた彼は下着が足首に引っかかったままの状態のわたしの脚を押し開くとそのままいきなり繋がった。
「やっ……はぁあ……甲斐、くん……」
「志奈子の中、すげえ濡れてる……なんもしてないのに、オレのに絡みついてくる」
「んっ……はぁあ……んっ、いい……気持ちいいの、甲斐くんのが、中で、すごく……」
ゆるゆると動かされて気が狂いそうだった。
「どうして欲しい?今日は、志奈子のして欲しいこと全部してやるよ……」
最後だから、その言葉は声にはならなかった。だけどわたしにははっきり聞こえていた。わたしも、甲斐くんがして欲しいことをしてあげたかった。最後だから……
「上に、わたしが……」
「志奈子が?」
「うん」
びっくりしたような顔をしていた。自分からは好んではやらない。上に乗ってしまうと一番深い所に甲斐くんが届いてしまうから、自分で昇り詰めるのが怖くなって動けなくなる。だから今まではやってと言われても逃げてきた。動けなくなると甲斐くんは容赦なく突き上げてきて、わたしはいつも生理的な涙と涎とをまき散らしながらイキ狂ってしまうから……
「させて、したいの」
ゆっくりと腰を回し、前後させて一番奥まで飲み込む。
「うっ……くうっ……し、なこ」
甲斐くんが苦しげな声を上げる。わたしの中でこれ以上ないってぐらい大きくなってるのがわかる。
「はぁっ……ん」
腰を上下させるたびビチャビチャと濡れた音がホテルの部屋中に響き、甲斐くんに打ち付けるたびにわたしの腰を掴んだ彼の指先に力がこもる。
「志奈子、もう……」
すぐに頂点が来た。いつもより早すぎる快感の迸り。もう、これで最後だから、だから……
「んっ、わたしも……いくっ、いっちゃう!!」
我慢の限界を越えた瞬間、甲斐くんが狂ったように腰を突き上げてきた。
「やっぁああああっ!」
「うぉっっ!!」
獣のような咆哮をあげて、最奥に突き立てられた瞬間、甲斐くんが爆ぜた。
「んっ……あっ」
温かいモノが奥にかかるのがわかる。わたしは身体を震わせて絶頂を味わいながら甲斐くんのモノを締め付け、搾り取るように膣内を蠢かせ続けていた。
「くうっ……」
長い射精の間、何度もビクビクと震える甲斐くんの腰。中で跳ね上がる彼のモノ。最後にわたしの腰をギュウっと指で掴みあげたあとゆっくりと弛緩していった。
「はぁ……ん」
わたしも身体の力を抜いてそのまま甲斐くんの胸に崩れ落ちた。
「志奈子、志奈子……」
名前を呼び続ける甲斐くん。その手はわたしの腰をさすり続け、ゆっくりと蠢く腰つきは次第に官能的になり、それにつられてわたしの膣内も蠢き、彼のモノを強請り再び締め付ける。
そっと顔を上げると、甲斐くんは子供みたいな顔をしてわたしに腰を擦りつけてくる。我慢出来なくて泣きそうなその顔は、今まで見たことのない甲斐くんの素顔。わたしを翻弄して抱く時の彼ではなかった。
「もっとだ……今度はオレが、志奈子を狂わせてやる」
上下入れ替わった甲斐くんは、知り尽くしたわたしの身体の奥の奥まで入り込んでくる。折り曲げられ、突き上げられて、浅く擦られて焦らされて、今度は長くもつソレでわたしを狂わせた。
「やぁあああ、まだ、もっと……やあぁあ、だめえぇ、死んじゃう、それ以上、だめ、おかしく、なるっ!」
イッてるのにやめて貰えなくて、敏感な蕾を擦られ、胸の先を噛まれ、何度も膣内が弾けた気がした。膝まで愛液が流れ出てシーツをべたべたに濡らし涙も涎も止まらない。獣のような交わりと絶頂を何度も繰り返した。
「くっ、志奈子、全部、志奈子の中に出すから……くうっ!!」
膣内で弾ける甲斐くんを感じて一緒に弾け、わたしはそのまま気を失ってしまった。
温かい腕の中。
こんなぬくもりは甲斐くんしか知らない。
「ん……」
少し身体がべとつく。そのままにして二人して眠っていたようだった。
「起きたか?」
珍しく甲斐くんの方が先に起きてた?
アルコールのせいか、身体がだるく喉がひりつくほど乾いて声が出にくい。
「あ……」
「ほら、水」
差し出されたペットボトルのミネラルウォーターを飲み干す。半分ぐらいはすでに甲斐くんが飲んでいたから。
「大丈夫か?」
「……じゃないかも」
身体はだるく起きあがれなかった。
「ごめん、バスルームに連れて行ってやりたいんだけど、オレも起きあがれそうにない」
「うん……」
「だけど、もう一回、したい」
「え?」
「もう一回、もっと……したい」
「甲斐、くん?」
すでに硬くなったそれを押し当てて、甲斐くんとわたしのでどろどろになったそこにゆっくりと埋めていく。
「志奈子の身体が一番……いい」
「んっ」
ゆっくりと優しく蠢くようにわたしの中をソレで愛撫する。
「本当は、離したくない……」
「え?」
「だけど、志奈子の夢だもんな……先生になるのは。だから……」
泣いて、る?甲斐くんが……まさか
だけど、わたしの肩に埋めた顔の部分がやたらと濡れてる気がした。そのまま顔を上げず腰を動かし続ける甲斐くんは、それから果てることなくただひたすらわたしの中に居た。帰らなきゃ行けない時間が来るまで……ずっと。
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