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17
「こんなに感じやすいのに……」
首筋への刺激だけで身体が落ちかけていた。甲斐くんは自分の感じるトコロなんてわたしより知ってるんだと思う。だから逆らっても無駄だってわかってるんだけど、でも……
「いや、やめて!」
首筋や耳を丹念に舐めあげられては身体を震わせていては言葉の説得力なんて無いにも等しい。ぐいぐいと甲斐くんの下半身を押しつけられて、その熱さと硬さに求められていることを知らされて、身体が喜んでしまうなんて本当に馬鹿だ。
ちっとも忘れられてないことに気づいてしまう。
「志奈子の身体が我慢出来るはず無いだろ?なあ、あれから他の誰かに抱かれたか?」
「んっ……そんなの、わたしの勝手でしょ……」
「へえ、そんなこと言うんだ。でも、女子大だもんな。コンパとかしないと出会い無いだろうし、おまえそういうの嫌いだろう?」

一度だけ、誘われて合コンっていうのに参加した。もしかしたら遊びで抱かれるぐらい平気かもしれないなんて考えて。
それほど甲斐くんのこと忘れられなかった。もしも、甲斐くん以外の人に抱かれても平気だったら、彼のことを完全に忘れられると思ったから……
愛想のないわたしには誰も寄って来ないと思ってたけど、誰でもいいって人もいるもので、あんまり話さないもの同士隣に座らされて当たり障りのない話をした。その彼に誘われて、その後何度か会ってお茶とか映画をした。あれって付き合ってることになるのだろうか?別に申し込まれた覚えもなかったんだけれども。
だけど、甲斐くんといた時みたいな気持ちにはなれなかった。別にトキメキもしないし共通の話題もなければ話も弾まない。きっと向こうも面白くなかったと思う。いっそのこと即エッチに持ち込まれた方が早くにわかってよかったかもしれない。
だって、身体だけの関係で良かったから。甲斐くんを忘れさせてくれるならそれでよかったのに……
だけど、やっぱりいやだった。抱きしめられてキスされそうになって、その手が身体を這い回っても悪寒しかしなかった。触れられるのも避けてしまう状態ではセックスするなんて無理だって気づかされた。
拒んだらそれっきり。おもいっきりあとで罵られたけど……
淫乱なのを隠して、真面目ぶって見せてもただ無愛想なだけの女。お高く取り澄ましたままのわたしなんか抱くことも出来なければ何の価値もないらしい。
だって、全部違ってた。その指先が言ってるんだもの、『抱いてやってるんだ』って。比べる指先を知ってたから、大事にされてないのが判ってしまった。
最初が良すぎたから?
甲斐くんはこんなわたしでも、抱くときだけは大事に扱ってくれたと思う。自分がもしかしたら最上級の女なんじゃないかって思えるほど、上手に抱いてくれたから。
そう、こんな風に……

「もったいない……こんな抱き心地のいいカラダ放っておくなんて……馬鹿だよ、おまえも他の男も……」
「や、めて、はなして……」
身体を這い回る甲斐くんの指は半年ぶりでも、わたしの感じる場所を的確に攻め立ててくる。
身体だけの関係でもそんなこと覚えてるんだ。たとえその他大勢の女の中の一人でも……
「思い出させてやるよ……志奈子の身体が、オレに抱かれるのが好きだったことを」
「あっ……んっ」
キスで唇をふさがれたまま舌先でなぞられ、彼の咥内に喘ぎ声を漏らし続けていた。這い回る指先はブラウスの上から胸の先を見つけ出して摘まみあげ、身体を震わせるスカートの下から侵入してきた方の指先は下着の中に潜り込み、快感を掘り起こし、街の住宅街の塀に押し付けられたまま否応なしにわたしは感じて濡らして、喘いでいた。
「やっぱ、志奈子、ヤラしい女……こんな淫乱な身体放って置いたらもったいない。オレが可愛がってやるから」
「あっ、はぁあ」
唇を離されても喘ぎ声しか出てこない。
「クソ、我慢出来ねえ……」
ジーンズのファスナーを降ろして、下着の中からとりだしたその猛った竿を、わたしの太股に擦りつけて濡らす。
「なあ、ココでされるのと、オレの部屋でされるのと、どっちがいい?」
他に選択肢もあるはずなのに、わたしは小さな声で『甲斐くんの部屋』と答えていた。


――― 失敗したと思った。

『甲斐くんの部屋』と答えたのを聞いた彼は、わたしに彼のモノを握らせて欲望を吐き出させたのだ。
最初からそのつもりだったら、それで終わらせて欲しかった。
吐き出したんならもうイイだろうと思ったのに、わたしの肩を掴んでそのまま彼の部屋に連れ込んだ。
1DKの学生向けのアパートは、予想していたよりも大雑把に広げられていて、朝起きたときのままになってるベッドのシーツと毛布の上にわたしは押し倒された。
「いやよ、もう、しない……甲斐くんとは、もう」
「何だよ、じゃあ他の男とするのか?他の男がオレほど満足させてくれるはず無いだろ」
その自信は何処から来るんだろう?あの交わりの中でわたしがそう思わせてしまったのだろうか?それに、そう簡単に他の男と出来ないってわかってしまった。甲斐くんじゃなきゃこの身体は満足しないだろう。だけど……このままじゃまた流されてしまうだけだ。やっぱり帰ろう、そう思って足掻いたけれども男の人に上に乗られて起き上がるなんて無理だった。
「一生しないって手もあるじゃない。だから、放して!」
「いやだね」
甲斐くんはベッドの下に落ちていた何かの紐を拾い上げてわたしの両腕を頭の上でひとつに縛り、ベットのサイドボードに括り付けた。
「やぁあ、こんなの……」
「志奈子、思い出せよ」
眼鏡を外され、バレッタも取り除かれてわたしの髪がシーツに広がる。
首を振るとシーツから微かに甲斐くんの匂いがして、わたしはクラリと意識を奪われそうになった。
足掻いてる間にブラウスのボタンはあっという間に外され、ブラもずりあげられた。腕が抜けない分だけ衣服を残して、後は全部脱がされて、脚も何かに縛られて彼の前に秘所を露わにしていた。
「もう逃げられないから、志奈子……」
「甲斐くん、お願い、外して、こんなのヤダ」
今まで、嫌がったら縛ってまで無理やりなんてしてこなかった。男子トイレでも本当に嫌がったらやめてくれたのに。わたしが少しでも感じるとその後はもう合意に近かったけど……
「欲しがるまで、ここから帰さない」
それがどういう意味か、すぐに知らされた。


「や……甲斐くん、はずして……これ、お願い」
いくら泣き叫んでも行為は止まらなかった。
「ここ、すげえ濡れてる……志奈子、いくら口でイヤだって言っても身体はいいって言ってるぞ?」
「ちがう……」
確かに感じてはいた。甲斐くんの指と舌が与える快感を身体は覚えていた。その快感の先を求めて自然と腰が動き、喘ぎ声が漏れる。
「ねえ……カノジョ、いるんでしょ?」
「あぁ?」
「だったら、こんなこと……」
「まだそんなこと言う余裕があるのか?」
「ああぁっ!!」
身体の中に入り込んだ甲斐くんの指が、上の壁をぐちゅりと擦りあげた途端にわたしはイッテしまった。
「ひっ……んっ」
「ほら、志奈子のカラダはまだ覚えてるぞ、俺の指を……」
いやらしいままの身体だって、彼に教えられた快感のポイントを一人でなぞり続けていたって証明したような気がして恥ずかしくなった。
「やぁっ、擦らないで、そこ……ふっ、ううんっ」
「すげぇ……俺の指締め付けて、声に出して言わなくてもやっぱカラダが言うんだな。志奈子の場合は……」
指を動かし続けられて、イッたままの感覚が戻らないまま、息が切れそうになるほど感じて喘がされ続けている。一度イッた身体は何処に触れられても敏感で、いつの間にか拘束されていた脚が自由になっても動かすことも出来ないまま甲斐くんに持ち上げられ、開かれたソコに舌を這わされ敏感な芽を嬲られながら獣のような声を上げ続けていた。
「これされると弱かったの、そのまんまなんだな。何度でもイッテいいんだぞ?欲しいっていうまで離すつもりはないんだからな」
そんな、こんなこと続けられたら本当に身体がおかしくなってしまう。
思い出す、あの最後のホテルでの延々と続く行為。これが甲斐くんのセックスのやり方かもしれないけれども、彼なら本当に延々こうやってわたしの体を嬲り続けるだろう。彼が何度も果てて満足するまで、それこそ何度でも、何時間でも……
ここは彼の部屋で、帰らないといけない時間制限もない。
ぞくりとカラダが揺れた。
今のわたしはそれを怖がるのでなく、望んでいることに気が付いて……



「あぁあああっ……もう、やめて……ひっ、んんっ」
欲しいといったのかどうかもわからない。だけど、身体が欲しくて限界だったのはわかっていた。
甲斐くんに貫かれただけでわたしはまたイッテしまった。その後も、何度も擦りあげられるたびに悲鳴のような声を上げて、彼に揺らされるまま上に乗せられて腰を揺らしていた。いつの間にか腕の拘束も解かれていたことに気づかないほど、わたしは快感に取り込まれ、生理的な涙をこぼしながら意識を何度も飛ばして力の入らない身体を彼に縋らせていた。
「あっ……また、出る……」
避妊、してくれてるのかどうかもわからない。最初はおなかの上に出されたような気もした。だけどその後は記憶も曖昧で、ただ揺らされるだけの人形のように成り果てていた。それでも彼を咥え込んだ部分だけは何度も収縮を繰り返し、その度に『いやらしくて最高』と甲斐くんがグネグネと腰を回してかき乱し、『イケよ……ほら、イクまでやめないから』そういって激しく腰を打ち付けて、無茶苦茶になりながらもわたしは夢中で甲斐くんを締め付けていたように思う。
どさりと身体の上に彼が覆いかぶさってきて、さすがに互いに動けなくてしばらくそのままだったように思う。そして、以前のように震えが止まらないわたしの身体を何度もゆっくり摩り続けていた。
そのまま気だるい疲労感と睡魔に襲われ、意識が遠のいてしまった。気が付くと甲斐くんがカラダを綺麗にしてくれていた。

「風呂、入るか?」
わたしは首を振った。本当はさっぱりしたかったけれども、身体が冷めてしまえば気になるのは彼女のこと。もし、彼の部屋に他の女がいたら……その風呂場に誰かが使った痕跡が残っていたら、やっぱりいい気はしないだろう。甲斐くんだって言い訳できなくて困るはずだ。いくらセフレだからと言っても、彼女がその存在を許すはずがない。それに、その相手がこんな魅力がないわたしだとわかったら……惨めだ。
「帰るわ」
「え?」
甲斐くんが驚いた顔をしている。『もう遅いから泊まって行けばいい』なんて言ってるけど、ここがホテルならその方が楽だろう。でも、彼女のいる男の部屋にのんびりしていられるほど根性が座ってるわけでもない。というよりも、居たくない、ここに。
行為の合間に垣間見た彼の部屋、台所の棚に揃えられた可愛いペアのマグカップ、トイレを借りたときにかけられたタオルはブランドのロゴの入った綺麗なものだった。彼女らしき人がこの部屋で彼の生活に手を加えてる。そんな存在がある限りわたしは何一つこの部屋の中のものを変えずに出て行くだけだ。
重い体を起こして下着をつける。濡れてはいたけど、何かが出てくる感覚はなかった。今回は中には出されていないのかもしれない。
すこしだけほっとする。
前に引っ越したあと、しばらく生理が来なくてすごく怖い思いをした。あの時も今回のように全部の行為にゴムをつけてなかったから……なかなか来なくて、検査薬を買って調べたときに反応しなくてほっとしたものだ。その時は生理が来たのをはじめて嬉しいと思えた。これから先、自分の将来を手に入れるまでは妊娠というリスクを受けるわけにはいかない。きっちりとたてた人生計画があるのだから……

「待てよ、何処に住んでるんだ?送るから」
そういって甲斐くんまで服を着込み始める。
言っていいのだろうか?ここからさほど距離の離れていないアパートだと。
だめだ、そんなの、またなし崩しになってしまう。
「ここから離れてるの。タクシーでも拾うから気にしないで」
タクシーなんてワンメーターもないかもしれない。でも、住んでるところまで明らかにするつもりはなかった。
鞄を持ち上げて玄関に向かう。そのすぐ後を甲斐くんが追ってくる。
「なあ、無理するなよ!脚、ふらついてるだろ?」
「だったら、そこまでしなければいいでしょ?あっ……」
靴を履こうとしてバランスを崩しそうになるのを甲斐くんに支えられた。
「あ、ありがとう」
その手を貸してる人がこんな目にあわせたというのに、わたしは思わずそう口にしてしまっていた。
「志奈子、やっぱりもう少し休んでいけば……」
「いい、帰る」
帰らせてと泣き叫びたい気分だった。もう二度と、そう決めていたのに、また……この身体が悪いのだろうか?母に似たこの淫乱な身体が甲斐くんを求めてしまうから。このままいて、またなし崩しに前の関係に戻ってしまうのが怖かった。
だけど、思い出してしまったこの身体は一体どうなってしまうのだろう?

通りに出てタクシーを捕まえるまで、彼はわたしの側から離れようとしなかった。支えるようにわたしの腰に手を回したままタクシーが通るのを無言で待っていた。そのぬくもりが嬉しかったくせに、今度はありがとうなんていわないまま停まったタクシーへ乗り込んで、わたしが行き先を言わないのを見て、ようやく彼はそこから離れてアパートへ戻り始めた。
「お客さん、どこまで?」
「すみません、その先の角を右に回って3丁目のきさらぎコーポです」
「ああ、随分近いね。彼氏に送ってもらえばいいのに?」
「彼氏じゃ、ないですから」
「そ、そうなの。すまなかったね」
じゃあといって運転手は車を出した。ぎりぎりワンメータを越したところでアパートに着き、わたしは運転手の表情を気にしながらすみませんと謝って料金を払って車を降りた。
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