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冬休み、といってもわたしには別に予定はない。
クリスマスを家族で祝ったこともなければ、正月に揃うこともなかったから。昔は形だけでもクリスマスや正月を祝った記憶はあるけれども、それは母に男が居ない時だけで、大抵は出掛けて居なかったように思う。今は、母が再婚したといっても、わたしに帰る家ができたわけでもなく、受験勉強を理由に帰らないと言っても別段心配してる様子もなかった。わたしの容姿じゃ心配することも無いのだろう。だけど、そんなわたしがクラスメイトとカラダだけの関係を続けていると知ったら、母はどんな顔をするのだろう?
『やっぱり』というだろうか?それとも『まさか』と?
毎日図書館とアパートを往復するだけの日々のはずだった。クリスマスも形だけケーキを買って食べただけ。でも、もしかしたら甲斐くんから連絡があるかもしれないと思って携帯だけは持ち歩いていたけど、さすがにクリスマスは連絡が無かった。
<1時にK市図書館で>
そんなメールが来たのはクリスマス過ぎてからで、わざわざちょっと離れたK市を指定してくるなんてやっぱり人目を気にしてるんだろうか?1時と指定してあったけれども、いつも9時から図書館で勉強はじめるのが日課になっていたので、同じ時間にアパートを出て、9時半には勉強をはじめた。早めに行くと奥のBOX席が陣取れる。そうすれば周りを気にせずに勉強に没頭出来た。
『どこ?』
約束の時間、メールでなく電話で場所を聞いてきたのでその場所を教えると、本棚の向こうから私服姿の甲斐くんがゆっくりとこちらに向かって歩いて来るのが見えた。寒いのに薄手の黒いシャツとジーンズ。フード付きのダウンも派手な色でかなり目立っていた。腰に付けた鎖が歩くたび揺れて、ブーツの音がカツカツと図書館内に響いた。
「へえ、ちゃんと来てたんだ?」
来いといったのは自分のクセに……不思議そうに問いかけながら甲斐くんはわたしの隣に取っておいた席に腰掛けた。
「めずらしいな、委員長のそれ」
もちろん今日はわたしも制服ではない。ありきたりの地味なセーターにカーディガン、それとデニムのスカートだった。ジーンズにすればいいのに、抱かれること前提でスカートを履いてくる辺りやっぱりわたしはあさましいのかもしれない。髪も、いつものような三つ編みじゃなく、軽く持ち上げてバレッタで止めていた。
「あっ……」
甲斐くんの指先が首筋を撫でて、わたしの反応に満足したのかにやっと笑って問題集を開いた。
「ここ、わかんなくてさ」
差し出されたのは数学の応用問題で、センター試験にもたまに出てくるやっかいな代物だ。意外とちゃんと勉強してるらしく、質問する問題も用意してきていたことに驚いた。
「これはね……ちょっとまって」
少し時間をかけて問題を解き、それをわかりやすく説明しながらルーズリーフに書き込んで見せた。
「へえ、さすが委員長。国公立一本だけのことあるね」
国立一本なのは、これ以上義父に負担をかけるつもりはなかったから。国公立で奨学金を申し込めば最低限の援助だけで済むと、高校入学前から計画していただけのことだ。気ままな独り暮らし、バイトでもすれば遊べたかも知れないけれども、わたしはその時間を勉強に費やしてきた。遊ぶお金も相手も居なければ、必然的に他にすることもなく、ひたすら勉強だけで3年間が過ぎてしまったから。
たぶん、甲斐くんはわたしよりも頭はいいだろう。一度説明したことはすぐに飲み込むし、頭を説明すれば他はすぐに理解できるようだった。わたしとは反対に遊ぶ時間と相手がありすぎたのだろう……勉強不足、それだけのことだけども、この時期それは大きなハンデになる。
「甲斐くんもセンター受けるんでしょ?志望校の判定はどうなの?」
「いまんところCだな。私立も併願で受けるけど、そこはB判定。一か八か勝負だけど、オレ、模擬試験のほうが結果いいから、それにかけてはいるんだけどな。クリスマスは朝まで遊んだからなぁ、ちょっと気合い入れとこうと思ってさ。委員長とだったら無駄な話せずに真面目に勉強出来そうだしな。それに……」
『あとで溜まってる分、出させてくれるんだよな?』
一気に血の気が引き、そのあと彼との行為を思い出すと反対にカラダの奥から熱くなった。
「やっ……」
図書館の閉館寸前まで人気の少ないトイレの中で攻め立てられた。いつものように愛撫されるわけでもなく、ただ彼の欲望を吐き出すためだけのような行為。なのにカラダは反応して濡れて受け入れてしまう。
「なにが、イヤだよ?気持ちいいクセに」
耳元で囁くように煽られる。
「ほんと、見かけと違って淫乱なカラダしてるよなぁ?委員長」
最初は抵抗してても、そう言われるとカラダから力が抜けていく。自分のカラダを、母の血を呪う言葉はわたしを愚かな生き物に変えてしまう。
「はぁ……っん」
「時間ないから、すぐに終わらせる」
「あぁあっ……んぐっ」
深く突き上げられて、声が出そうになると唇で塞がれて、舌で口内を掻き回されただけで感じてカラダを震わせる。
「くっ……だっすぞっ!」
トイレの壁に押しつけられたまま、中で甲斐くんのがドクドクと脈打つのがわかる。
「あっ……」
それだけでイケそうだったのに、中からずるりと甲斐くんが出て行ってしまう。
「なんだよ、物足りなそうな顔して」
「違うわ」
「もう一回って時間無いしな」
甲斐くんはゴムを外して器用に結ぶとティッシュにくるんでポケットに入れた。ココは男子トイレだから、汚物入れなんか備え付けられていないから。
「その代わり明日も、な」
明日も……また勉強して、こうして密室で口を塞がれるようにして抱かれるのだろうか?愛情があればこんな行為はしないだろう。ただ、カラダだけ、性欲処理にはこれだけでいいのかもしれない。
結局受験まで誰とも付き合わないと公言したらしく、したくなっても誰かを呼び出すわけにも行かずこうやってわたしを使うのだろう。
甲斐くんは自分の始末が終わると、今度はわたしの濡れたソコをキレイにして、ずらしたままの下着とタイツを上げて衣服を整えてくれた。よく考えたらぞんざいな扱いされてるようでそうじゃなかったりする。こうやって行為の後、放って置かれることも少ないと思う。それが普通なのかそうじゃないのか比べる経験を持たないわたしにはわからない。もしかしたら、いつもは動けなくなるから仕方なくやってるだけかも知れないけれども、今はその行為が嬉しかった。馬鹿みたいだけれども、わたしに触れて、わたしのカラダの事気にかけてくれるのは今のところ甲斐くんだけだったから……
「メシでも食って帰るか?」
「ううん、いい……」
そんなことすれば目立つのに、なに言ってるんだろう?セックスの後はイッテてもいかなくてもカラダが熱を帯びて怠い。特に今日は疼くような物足りなさがカラダに残っていた。このまま一緒にいたら、もう一度抱いて欲しいと強請ってしまいそうで怖かった。そこまで、わたしのカラダは堕ちていたのだろうか?寒いアパートの部屋に帰るより、誰かと一緒ののほうが温かいに決まっている。でも、それになれてはダメだから。受験が終われば、彼はまた新しく彼女作るだろうから、それまでの話だ。
これ以上深入りしないように、いつでも離れられるように準備しておいた方がいいだろうから……
「オレんちこの近くなんだ。だから、チャリで来てるんだけど」
「え?そうなの……」
「ほんとに腹減ってないか?」
「別に、帰って食べるから」
かわい気のない女だこと。でも、しかたない……
支度が調うとわたしは駅に向かった。甲斐くんは黙ったまま、わたしの横を自転車をつきながら駅まで送ってくれた。薄暗い夜道もこうやって送ってもらうと怖くないんだって事を初めてしった。学校から誰かと帰ったこともないし、帰りに薄暗い通りを通る時なんかは少しだけ怖かったから。誰かとどこかに行ったり帰ったりすることもなかったし、こうやって誰かに送ってもらった事も今まで無かったからすごくドキドキした。今まで真っ暗な夜道や公園の暗闇の怖さから、自分を守れるのは自分しか居なかったから。
「さすがに明日っからは図書館、開いてないよな」
翌日また図書館で勉強して、今日は公園のトイレでのあの行為が終わった後、甲斐くんが夜空を見上げてそう言った。
年の瀬も押し迫ってくれば、図書館も年末年始は閉館日を決め込んでいる。その間は少々光熱費が上がるけれどもアパートで勉強するしかないだろう。
「じゃあ、帰るわ」
また気が向いたら連絡してくるだろうと思い、次の約束をしないままわたしは勉強道具の入ったカバンを肩にかけて帰ろうとした。
「まてよ!1週間もナシってか?冗談だろ、せっかく調子よくいってんのにさ」
確かに勉強には集中してると思う。そのあとで性欲も程よく発散できて彼はいいだろう。図書館のトイレでは声が響く上に閉館時間が早いので、今日は公園のトイレを使ったりしたわけだ。その分、時間を気にしなくてすんだけど、相変わらずわたしの方は中途半端だった。さすがに今日は繋がる前に指でイカされたけれども、前みたいに動けなくなるほどキツいのはしてない。場所的にもその方が助かるし、カラダ的にも勉強に集中できていいんだけど……少しだけ物足りなく感じてる自分が居た。だけど今は勉強が中心で、図書館じゃマジで勉強してるのだから笑えない。だからといってどこかに入ってまでやるような気分でもない。お金だっているしね。それに、お互い今やらないといけないこともわかってるのだ。
「じゃあ、明日はオレん家来いよ。ここから近いから。駅で待っててくれたら迎えにいく」
え??なに、それ?
まるで、彼氏彼女のような展開にわたしは一瞬身体を硬くした。
「ちょっと、まって」
「送るよ、駅まで」
自転車にわたしの荷物を取り上げて積み込むと、甲斐くんはゆっくりと歩き出した。
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