4.
 
挨拶のあと、来客に記念品を手渡し、その場はお開きになった。
それぞれ帰路に着こうとした矢先に騒ぎを起こしたのは、なんと圭太だった。
「やだやだ、あいかちゃんといるんだ!」
「圭太、愛華ちゃんはもうおねむなんだよ?おばあちゃん達と一緒にお家に帰るんだから、我が儘言うんじゃない。」
宗佑も、珍しくごねる圭太に手こずっていた。
3人はこのホテルに泊まる予定にしていたはずなのだが...
「じゃあ、いっそのこと圭太くんウチに来る?」
椎奈の妹の柚の提案に、圭太は大喜び、女将さんは吃驚していた。
「そんな、ご迷惑ですよ...」
「なに言ってるんですか、椎奈が皆さんにどれほどお世話になったか!どれほど感謝してお礼を言ってもきりがないほどなんですよ?最初からそうしたかったのですが、ウチのような何もない家にはかえってご迷惑だろうと思ってたんです。どうか、親戚の家だと思って、皆さんでどうぞ。明日のご予定はおありになるのですか?」
椎奈の母もいつになく強気で薦めている。
「わたしの実家が関西なもので、明日はそちらに墓参りがてら行こうかと息子とも話してたんですよ。もう父母もおりませんし、実家といっても兄の嫁と子供夫婦が居るだけで、もう何十年も疎遠でいましたから。」
「まあそうだったんですか...」
「主人に嫁ぐとき、駆け落ち同然で出て参りましたからねぇ。親の決めた相手が気に入らなくて、板前と一緒に東京まで逃げちまいましたから。大きな顔では帰れないんですよ。」
「あら、それはロマンスですわ!」
意外にも母親と女将さんは意気投合しているようで、宗佑は苦笑いをするしかない。女将のこのノリにはもう慣れているのだろう。
「圭太くん、椎奈ちゃんの生まれたお家に行こうね?椎奈ちゃん達は明日また来るけど、今夜は柚ちゃんと愛華ちゃんと一緒におねんねしよう!」
「おー!いっしょにおねんね!!」
圭太が喜んで飛び跳ねる。望月の父も笑って優しい目でその様子を見守っていた。
 
 
親族のバスに乗って、食堂一家も望月家に向かった。何家族かはそのままホテルに宿泊の予定だし、勿論椎奈と圭司はセミスイートに部屋がとってある。
「自分の所のホテルに泊まるなんて、滅多にない機会ね。」
自分が企画したとは言え、ドレスのまま部屋に入り、食事も部屋でゆっくり食べれるように整えてある。乾杯用のシャンパンも添えて。
 
「工藤様、お荷物は全て先にお部屋の方にお運び致しております。お部屋までご案内致しましょうか?」
全ての客を見送った後、ふたりに声をかけてきたのは藤枝だった。
「ありがとう。でも部屋なら判ってるからいいわよ?ここの人間なんだし。」
「そうですが、おふたりだけでお部屋に移られると目立つかなと。」
「確かに。」
圭司もそれは認めた。
着替えなしなので、控え室を取っていない。平日や祝日でも、他のスケジュールとかみ合っても、あまりうろうろせずに済むのがこのコースだ。最後に部屋に戻るのだからそれで支障はない。
「じゃあ、案内お願いしようかな?」
藤枝の案内で上の階へと移動するが、確かに目立つ。
「な、なんか恥ずかしいね、やっぱり...」
「自分が考えた企画ですよ、工藤さん。」
「そうだけど...」
仕方なく圭司の腕に縋り付いては居るものの、顔が上げられない。『あ、でもどうなさいます?お部屋に入られるとき。』
声を小さくして、圭司にだけ聞こえるように藤枝が囁いた。
『なんだ?』
『抱き上げて入られるのなら、ドア押さえてますけど。』
しばらく考えた圭司はにっこり笑って頼む、と言葉を返した。
『それって椎奈が考えたコースの一つか?』
『いいえ、わたしの提案です。って言うか、サービス?』
藤枝がにっこり笑い返したあと、ちょっとだけ真剣な顔になった。
『工藤さん、質問があるんですけど...』
『あ?なに。』
『あのドレス、どうすんですか?そのままやっちゃうんですか?』
『なっ!おまえ...』
『く、工藤さん!違いますよ、中にいろいろその、パニエって言うヤツ着てるから、それ脱がさないと、出来ませんからね!』
『なんでおまえが...』
そんなことを言うんだと、圭司は頭にきかけてていた。昔のことを思い出すとちょっとむかっ腹も立つ。ある意味椎奈の元彼だ。それは知っているし、目の前でくっつけようとしたこともある。だが、知ってるからこそ、疑いようもないし、結果コイツのおかげで今があるとも言えるのだから、と思い直し深呼吸で気持ちを落ち着かせる。
『ちがいます、中上さんからの伝言ですよっ!』
『なるほど...』
「なぁに?二人して。」
「男同士の話だよ、椎奈。」「男同士の話ですよ、工藤さん。」
にっこり笑うふたりの笑顔がシンクロしてちょっぴり不気味に感じた椎奈だったが、その意味はすぐにわかった。
 
「どうぞこちらです。」
ドアを開けたままの姿勢で、藤枝が中の照明をつけ終わるとにやっと笑った。
「じゃあ、取りあえず花嫁さんはこうだな?」
部屋に入った途端圭司が椎奈を抱き上げた。ドレスの華やかなドレープが空中に揺れる。
「きゃっ!!」
「ではごゆっくり〜」
慇懃に礼をしてドアを閉めて藤枝が去っていく。
「な、なんなの??」
椎奈は慌てふためいたまま、圭司の首にしがみついて少しだけ脅えた表情を見せる。
「花嫁さんはこうやって部屋に迎えるんだろ?」
「で、でも...」
「このままベッドまで連れていくよ、椎奈。」
圭司の声が甘く耳元に落ちて、椎奈は一瞬にして身体の力が抜けていく。
「圭司...食事の準備も出来てるのよ?」
「後で...椎奈が先だろ?」
「でも、」
「こんなにデコレーションされた椎奈を食べずにしてどうする?」
「あっん」
イヤリングをしたままの耳たぶを甘く噛まれて、そのまま仰け反った喉を通って首筋、鎖骨に唇が落ちる。
キスをしながらベッドに座らせると、ドレスの裾を引き上げ、中に履いたパニエを抜き取り、ガーター姿の椎奈に満足する。
「すぐ出来そうだな、これ...」
すっと伸びた指先が下着を結ぶリボンを解いていく。両側に2本ずつ、合計4本を解くとそのまま引き抜き、その膝を押し開いた。
椎奈からは圭司が見えない。
ドレスの裾は綺麗に彼の姿を覆い隠してしまっているから。
「やだ、圭司ぃ」
圭司は既に椎奈の下腹部に吸い付いている。膝から脚の付け根に向かってキスを贈り、濡れた舌先で椎奈の敏感な部分の周りを攻め立てる。
見えてない分刺激的で、何をされるか判らない恐怖感が募る。だけども、もう1年近く共に暮らした夫婦だから、夫に対する信頼感は十分にあるので、その当たりの心配はないのだが...
圭司のことだから油断は出来ない。たまに度が過ぎることはあるからだ。まあ、愛ゆえだと椎奈も諦めてはいるが。
だが、これは少し辛い...焦らされ捲っている上に、姿形も見えないのでは、対処のしようがない。
「ね、圭司、圭司の顔が見えなくちゃいやだわ。」
「じゃあ、このまま入れてもいいんだったら、椎奈。」
しゅるしゅるとサッシュの外される音がする。今日の圭司はタキシードのままだけれども、そっちは貸衣装だから汚したらマズイ。
「わ、わかったから、だから、圭司...っあぁ!!」
ズンっと、一気に奥まで貫かれた。
「っはぁ...」
椎奈の喉がのけぞり、一瞬息が止まる。
まだ中には指すらも入っていなかった。周りを圭司の舌で愛撫されただけの所に、慣らしもせずに一気に圭司のたくましいモノが入り込んだのだ。
「け、いじ...ひどぉい...」
ドレスの中から圭司が顔を出していた。
「ごめん、ドレスの下の椎奈があんまりエロくて...つい。」
ついなんなのよ、と椎奈は反論したくなった。だけど身体は柔軟にそれを受け入れ、ぴくぴくと中を締め、その質量を感じて既に潤みはじめていた。
「白いドレスにガーターベルトで、その中の椎奈はちょっと触れるだけでぴくぴくしちゃってさ、我慢出来るかっ!」
再び、ずんと奥に押し込まれる。
「はっ...んっ」
「椎奈も、早いね、濡れるの...もうすっかりオレのに馴染んでる。」
「うっ...ん」
圭司はドレスからはみ出た椎奈の脚を持ち上げ抱え込んだまま腰を揺らし始めた。
 
 
「椎奈、ごめんな...」
「圭司?」
脚を離して身体ごと椎奈のうえに覆い被さってきた圭司は、椎奈に口づけると真剣な目をして謝りはじめた。
「普通に付き合って、婚約して、結婚式挙げて、新婚旅行に行って、子供が出来て、一緒に出産の準備したり、子供が生まれた時にねぎらいの言葉をかけたりとか、そんなの全部させてやれなくて、ごめん。」
「どしたの?急に」
「それもこんな恰好でいきなり言い出して...我慢の効かなかった自分が情けない。」
圭司の指が少し乱れた椎奈の髪をそっとなぞる。
「あたしも、ごめんなさい。今言ったこと、全部させてあげられなくて...その気持ちだけで十分だよ?だって産んでも喜んで貰えるなんて思ってもなかったから、あの頃。きっと迷惑だって言われると思ってて...なのに、すごく喜んでくれたから、それで充分よ。」
あの頃のことは、今でも思い出すと泣きそうになってしまうほど椎奈にとって辛い決断だった。だけど、そう決めた自分を今でも後悔していない。妊娠したかもと判っても、産むこと以外考えつかなかったのだから...愛する人の子供を産めたことは幸せだった。ある意味身勝手だったかも知れないが、あの時の自分にはそれが精一杯で、妊娠は人生最大のご褒美だと思っていたのだ。
「本当に椎奈には感謝してる。いくら言葉で言っても足りないから、こうして身体で表現してるんだけど?」
「あっ...」
圭司は笑いながら突き上げ、彼女の中にある自分のモノを誇示した。
「愛してる、椎奈。ウエディングドレスを着てる椎奈に誓うよ。これからもずっと椎奈を愛し続ける、一生椎奈を離さない。あんな、思いはもうたくさんだから...おまえの居なかった時間がどれほど虚しく過ぎたか、自分の世界に椎奈が居なくなるだけで、オレはどれほど絶望に打ちひしがれたかしれない。どれだけ自分を責めても、自分がやったことを悔やんでも、どうにもならないことが判ったんだ。だからあの間ずっと考えてたんだ。椎奈を見つけたらこの腕に抱きしめて二度と離さないって。そして、もう二度と離れて行かないように、この身体に縛り付けてしまおうってね。オレ以外で満足出来ないほど抱いてやるって決めてた。」
圭司は甘い表情を浮かべたまま、ドレス姿の椎奈を揺らし続けた。
 
そんな気持ちで居たのだと、椎奈は再確認した。
入籍してからも、圭司の椎奈に対する執着はすさまじかった。結婚したら普通はこう、落ち着いたまったりしたセックスになるのでは?なんて思いこんでいた椎奈の考えはあっという間にひっくり返された。
愛華が眠って居るときは所構わずだし、回数だってまるでしばらく逢えない恋人同士のように、時間の許す限り挑んでくる夫に少しだけ不安を感じていたのは事実。いつまで経っても、甘い愛の告白と熱い愛の抱擁が減ることはなかったのだから。
「やっと椎奈にドレスを着せてやることが出来て、やっとスタート地点までたどり着けた気分なんだ。だから、脱がすのもったいないし、椎奈からも出たくないから...このまま続けてもいいか?」
「ん、いいよ、このまま...」
椎奈も同じ気持ちだった。一足飛ばし過ぎたふたりが、ようやく足並みを揃えることが出来たのだ。
今夜は愛華も居ないし、やらなくてはいけない家事も仕事もない。
朝まで、互いが互いのモノである時間。
「じゃあ、椎奈オレの上に、そう、こうしたらゆっくりキスが出来る。」
椎奈を自分の上に乗せて突き上げながら口中を貪りあう。椎奈のドレスのファスナーを降ろし、肩を下げてその肩口に跡形を残す。
その痛みに椎奈は喜び、圭司を締め付けて応える。
「椎奈、ああぁ...」
圭司だけがドレスシャツ一枚の姿で、椎奈は乱れたドレス姿で攻められ続けていた。
突き上げるだけでは満足出来なくなった圭司が椎奈をベッドから降ろし、ドレス姿のままソファの背に身体を預けさせ、後ろから攻め立てる。だんだんと半脱ぎの状態になっていき、とうとう頭から脱がせた後は、ガーターとビスチェ姿の椎奈を、圭司は色んな角度から攻め立ててた。
椎奈は薄れゆく意識の中で、きっと明日は筋肉痛だろうと覚悟した。それでも夫はまた平気な顔をして椎奈を攻め立てるのだろうと。
 
ベッドの上で、一糸纏わぬ姿になって、一番深くお互いが感じられる形で重なっていた。
「圭司、また...いっちゃう!」
何度目かもう覚えていない絶頂を迎え、その身体で必死になって圭司を共に誘う。
「一緒が、いいの...」
椎奈の哀願に圭司もリミッターを外して射精体勢に入る。
「ああ、一緒に、な、椎奈、椎奈の中に...くっ!」
なんの隔てもなく、椎奈の中に全てを注ぎ込む。その快感に圭司の背中が震え、椎奈を見つめる切ない瞳に涙が浮かんでるようにすら見えた。
椎奈も昇り詰めたあと、切なげなため息をついて身体を痺れさせたまま、落ちてきた圭司の身体を優しく包んでいた。
「愛してるわ...あなた。」
椎奈の手が圭司の髪をゆくりと梳き、圭司は椎奈の胸に顔を埋め至福の時を味わっていた。
 
ふたり、まだまだ繋がったまま...朝まで
 
 
 
 
「椎奈」
「ん...」
「よかった、居た...」
「え?」
明け方、まどろみの中、寝返りを打った椎奈を探して圭司の腕が伸びてきた。
「離れるな、オレから。」
再び腕の中に取り込まれて、圭司の穏やかな寝息が聞こえはじめる。
彼は、一度失う怖さを知ってしまったから、二度目がないように必死なのだ。
まるで追いかけられてるみたいだと椎奈は思った。
「うふふ」
くすぐったい時間。あんなに追い求めていた人が、今では自分をこんなに求めてくれている。
これ以上ない幸せに椎奈は笑みを漏らしていた。
「愛華、お父さんがこの調子じゃしばらくは思いやられるわね?」
愛華を可愛がっていても、時折椎奈を独占したがる圭司はまるで子供だ。
「これからも、3人で...」
いつ4人になるか判らないけれども。少し後にしないと、自分の身体がもたないと、椎奈はため息をついた。
でも...
「幸せだわ」
そう口から出てしまうほど、今の椎奈はそれを実感していた。
 
 
- FIN -
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久々のふたりでした。懐かしすぎましたね(汗)
やっと結婚したんだって実感??あればいいです。
これからも、圭太達のお話など、ゆっくり書いていきたいです。

 

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