250万キリリク〜GARAさん〜

親友・郁太郎の事情&ぼくのおひさま キリリクスペシャル
家族の事情
〜南国リゾート編〜

act.2

あたしは三浦菜月、前は木梨菜月だったんだけれども、小学一年生になる前にお母さんがおとうさんと仲直りして三浦になった。生まれてから全然知らなかったおとうさんは、おもしろいけど、ちょっと子どもっぽいっていうか、ガキ?もう少ししっかりして、落ち着いてくれたらいいのに...圭太のところの宗佑おじさまみたいにさ。憧れちゃうんだよね、こんなおとうさん欲しいって思ってた理想の人だったもん。
でも、郁太郎がおとうさんだっていうのは、会ってすぐに判ったから、できるだけ可愛い子の振りしてた。読んで欲しくもないけど絵本持って行ったりね。だって普通の本読めるもん、自分で。だけど、郁太郎ったら急に大きな子どもの父親になって一生懸命だったから悪いと思って。
あたしが小学校に通い出してしばらくすると、お母さんのお腹が大きくなってきた。赤ちゃんができたって郁太郎も大はしゃぎ。おまけにじいちゃんも...職人気質のじいちゃんはあたしには甘いけれども、戸惑いは郁太郎以上だったみたい。だって昔に出て行った息子の嫁にいきなり孫だって連れてこられてもね。
それにあたしって意外とかわいげがない性格だから、じいちゃんに可愛がられても困るんだ。上手く甘えられない...
だから食堂の圭太にはすごく助けられてる。
本当に純真って言うか、真っ直ぐって言うか、そのまんま子どもなんだよね。可愛い顔してて男の子だし、優しいし...あたしのことも郁太郎の娘ってだけで、無条件に守ろうとしてくれてる。男の子は女の子を守るんだって、誰が圭太に教えたんだろう?
でもおかげで引っ越ししてきてからも、生意気だからっていじめられることも少なくて助かったけど...

「菜月、よく眠れた?」
「うん、お母さんは...寝かせて貰えなかったみたいね?」
「えっ、ちょ、ちょっと、何言ってるのよぉ!?」
焦ってるお母さん。だって、疲れ切ったその表情に、その首に見えてる赤いのってキスマークって奴でしょう?そんなんで今日泳げるのかな?
「おう、菜月、今日も泳ぎに行くぞ〜準備しろ!」
「元気だね、おとうさん。」
「おう、オレは元気だぞ?」
普通に返事が返ってくる。タフだなぁ、郁太郎は...お母さん腰さすってるのに。
いちおう本人にはおとうさんって言ってる。でもね、他ではつい郁太郎っていっちゃうんだよね。
まあ、この年で何をって思うかも知れないけど、何度もそんなシーンを目撃してたら、慣れます。だってね、おかあさんが前につとめてるお店では、男の人と女の人がいちゃいちゃするのは当たり前だったけど、裏に回ったら、文句ばっかり言ってたもの。だけどね、おかあさんは郁太郎にして貰うのは好きみたい。朝とかもすっごく幸せそうな顔してるしね。よかった、お母さんがおとうさんともう一回やり直すことが出来て...
だって、あたしは見てきたもの。そうなるまでのお母さんの涙を隠した寂しそうな笑い顔を、ずーっとね...


『ちょっと、だめだって...』
『何言ってんだ?みんな海に行ってるよ...』
忘れ物取りに部屋に戻ったんだけど...カードキーあたしも貰ってたから。そしたら昼間っから、やめなさいよ、二人とも...
『サチ、ここはその気じゃねえか?朝まで可愛がってやったからなぁ、まだ治まりつかねええか?葉月も和伊もまたねたんだろ?こっち来いよ...』
『やっ、もう...だめぇ、あんたどれだけやれば気が済むのよ?』
『その水着姿が悪い...まだ乳出るんだろ?でっけえ胸して、誘ってる風にしか見えねえ...』
『ちょっと、吸わないでよっ!もう...』

はあ、好きにやってくれればいいわ...
せっかくこんな南国に来てるのに、遊んでこようっと。浜辺には宗佑おじさまも圭司さんもいるしね。愛華もこれで何度目かだけど、人懐っこくて可愛いから一緒にいてたのしいし。
まあ、葉月もあたしが面倒見れるぐらいになったらできるだけあたしと居るようにしていこう。おかあさんと郁太郎は離れてた6年分を今取り戻してるんだもん。
お母さんが幸せなら、それでいい...


「なつきちゃぁ〜ん」
浜辺に戻ると弾丸のように飛び込んでくる柔らかい塊。
「あのね、けーたがね、きれいなかいがらひろってくれたんだよぉ。でね、はい、なつきちゃんと、あいかで、はんぶんこw」
手のひらには綺麗な色した貝殻が2枚。
「え?い、いいの?」
「うん!」
あたしに貝殻を渡すとにこって笑って背を向けて走り出すふわふわの塊。
「ぱ〜ぱ〜」
圭司さんの胸に飛び込んでいく、素直で無邪気で、愛らしくって...
聞いたんだ、椎奈さんに。
愛華ちゃんも、もしかしたらあたしみたいに何年もおとうさんに会えなかったかも知れないって...
愛華ちゃんは圭太の食堂の子として生まれて育つはずだったんだって。家は関西にあるのに、椎奈さんは、一人で子どもを産むために、あたしが今住んでる街にやって来て、食堂のおばちゃんや、宗佑おじさまの協力で無事に産むことが出来たって。愛華ちゃんが生まれて何ヶ月かして、圭司さんが必死で探して迎えに来てくれたから関西に帰ったけど、愛華ちゃんも圭司さんが離れてたってコト覚えてないらしい。だけど、迎えに来て貰えなかったら、あたしみたいに、おとうさん知らないまま育ってたかもしれないって。
よかった、早くに迎えに来て貰えて...羨ましいなっておもうけど。
うちもさ、結局はちゃんと迎えに来てくれたことになるんだけどさ、こんなに物心付いてからじゃねぇ、埋められない物があるわ...

「菜月ちゃん?忘れ物は?」
「ああ、圭司さん。あのね、部屋に入れなかったの...うちの二人、仲良しだから。」
「あ、ああ...そっか、菜月ちゃんも苦労するね。」
クスって笑う笑顔に一瞬どきってする。子どもまでときめかすなんて、すごいです、圭司さん。
「はい、まあ、仕方ないですよ。6年も離れてたんですから。」
「けど、菜月ちゃんだってその間おとうさんの居ない寂しい時間を過ごしたんだろ?」
「え?」
「実は俺もね、物心付いた頃には祖父母に預けられてね、実際両親の愛情なんて知らないまま育ったんだ。」
「圭司さん?」
「冷たい父親でね、養育費払うだけ。別れて出て行った母親も俺のことなんて思い出したことないのかもしれない。だから、昔から愛想と要領だけはいいけど冷めた子どもだった、俺...」
「......」
「菜月ちゃんが似て見えてね。けれども、今は幸せだろう?無条件で愛情を注いでくれる両親と、血のつながりはないけど頼りになるご近所さんとかいてさ?」
「はい...」
「郁太郎さんって、結構義理と人情の人なんだよな。宗佑さんもクールに見えるけど、中身はそう。あの街の人たちはみんな優しくってね、居心地いいから...椎奈もあそこで産もうって思ったらしい。知ってるよね?椎奈もサチさんと同じような理由で黙って子どもを産んだって。俺に愛されてないって思いこんでさ...だから椎奈とサチさんは似たもの同士って感じで気が合いまくってるし、日向子ちゃんはいい子だから、あの二人も妹みたいに思ってるし...だから、郁太郎に相談できないことがあったら、家族以外にも相談できるとこはいくらでもあるんだよ?親に言えないことがあったら、日向子ちゃんや椎奈、俺や宗佑さんでも相談するといいよ。親に言いにくいこともあるだろうし、頼りにならないとかじゃないけど、変に郁太郎さんに相談したら暴走しそうで怖いだけなんだけどね。」
あははと笑うその人は、さらさらの前髪をもう一度掻き上げてちらりとあたしを見つめた。
再び小学生にそんな顔見せていいのかなっていうほど、どきっとするような笑顔。宗佑おじさんの安心できる微笑みとは違う、アンバランスなイメージを与える男の人の笑顔。
色気?あたしにでも判るわ、この人、垂れ流し状態みたい。もしかしたらこの人、あたしみたいに、誰かから構われたくて、注意を引きたくて、そんな風に育ったんだろうか?
あたしは色気なんてないし、ただ何でも覚えがよかったからそれで褒めて貰いたくって一生懸命家のことしたり、甘えたいの我慢していい子ぶったりしてきた。日向子さんも言ってたっけ、『あたしも母子家庭だったから』って...
それでもこうしてみんな、本当の家族を手に入れて、ようやく幸せを見つけた人たちだから、すごくそれを大切に出来るんだ。
宗佑おじさんだって、無くなった奥さんのことすごく大切にしてたって...郁太郎もらしいって聞いてるけど、だけど今は...宗佑おじさんも、日向子さんを大事にしてるし、圭太の居ないトコではうちの親と変わらないコトしてるみたいだし...圭司さんも椎奈さんのことすっごく大事そうだものね。
「今はさ、最初に実感できなかった、『子どもが出来る』っていうのを体感してるから、郁太郎さんも葉月ちゃんに夢中だろうけど、菜月ちゃんが大事なのには変わりないはずだよ。俺もね、もちろん愛華が可愛いけれども、お腹が大きくなって、生まれ出てくる感動は和伊が初めてだったんだ。戸惑うし、嬉しいし、そうすると愛華が拗ねてたりする。あの子はまだそう言う所素直だからぎゅうっと抱きしめてやればすぐに元に戻るけど、キミは...なかなか素直に拗ねたり泣いたりしなさそうだから...」
ぽんぽんって頭撫でられる。
「たまには、無理しないで、素直になっていいんだよ?菜月ちゃん。」
「うっく....」
あたしはその大きな手の優しさにほぐされて、熱い塊を飲み込んだような気持ちになってしまった。堪えきれなくて、圭司さんのパーカーにしがみついた。
「大人になんていつでもなれる。今は子どもでいいんだよ。」
あたしは堪えきれずに、しばらくの間圭司さんの胸の中で泣いていた。声を上げるマネは恥ずかしくって出来なかったけど、泣きやんでそっと上を向いたら、すっごく優しい目で圭司さんがあたしを見てくれていた。
「もうしばらくは関西だけど、いずれそっちにいくから、いつでも素直になりにおいで。そんな菜月ちゃんをたまにはサチさんや郁太郎さんにも見せてあげなよ。安心するからさ。」
あたしがあんまりにもかわいげがないから相談してたのかな?あの人達...おとうさんとお母さん。
「さ、ちょっと泳ごうか?浮き輪引いてあげるよ。顔付けてれば泣いたのはバレないさ。」
そう言ってちょっと片目をつむって見せる圭司さん...

その時どきっとした気持ちがずっと続いてて、おかしいなって思ったんだけど...
三浦菜月、8歳の夏、工藤圭司30歳に初恋しました。
憧れ、だけどね?


−END−

アレ?何か足りない??
圭司と椎奈は?
おまけです。

       

なんと菜月が主人公でしたか(笑)
菜月の目線を通しでが一番状況を説明しやすかったです。
さて最後、椎奈と圭司です。