〜月がほほえむから番外編〜
郁太郎のジレンマ11

目が覚めると枕元で不思議そうな顔をした菜月がのぞき込んでいた。
「うわぁ…」
「おじちゃん、おはよう。お泊まりしたの?」
「あ…ああ、菜月、ちゃん、おはよ…」
オレは一瞬焦ってしまった。
「コーヒーいれてあげるね。ママが起きにくそうにしてるときに、よく入れてあげるの。ねえ、ママは帰ってこなかったのかなぁ?」
菜月からはサチが見えなかったらしい。
「いや、ここにいるよ。寒かったから一緒に寝て貰ったんだ。」
オレは布団の中に潜り込んでるサチを見せてやった。
我ながらうまいこと言ったと思ったけど、抱き合ってるのバレバレだよな?けど、菜月は「ふうん」といって台所にいってしまった。オレはその間に急いでサチを起こす。
「おい、サチ、起きろ。」
「ん…あん、もうだめぇ…」
くそ、朝からいろっぺー声出しやがって。
「ばかっ、違うよ、菜月がコーヒー入れてくれるって言ってるんだけど…オレどうしたらいい?」
なんか身内に現場見つかったような気まずささ。どう説明すべきか悩む。
「ん、じゃあ、ちゃんというよ。あの子、判る子だから。」
サチは布団から出ると、ジーンズとコットンセーターをざっくりと着てサチは台所へ向かう。
ヤバイ、サチの身体のあちこちに付けちまった、キスマーク…もう、無意識に…
あれは菜月には見せられねえ。

サチがぼそぼそと菜月に何事か囁くと、くるりと振り返った菜月が駆け寄ってきた。
「おじちゃん、パパだって、ホント??」
目の前まで来た菜月は、オレが頷くと胸に飛び込んできた。
「ああ、ごめんな?黙ってて。ママと仲直りしたから、菜月もパ、そのパパ、のこと、許してくれるか?」
「うん!!やったぁ、やっぱりだったんだ。だってママの写真と同じだったんだもん。」
サチは、たぶん父親の悪口を一切言ってなかったのだろう。だからこんなに菜月が素直にオレの存在を受け入れてくれるんだ。
オレはサチに心の底から感謝した。


オレはその日から突貫工事で母屋の内装を変え、サチの希望通りの部屋をこさえ、菜月の入学の準備も整え、二人を三浦家に迎えた。
結婚式は準備で1ヶ月後だけれども、それでも菜月の入学式には間に合うだろう。
菜月を近くの幼稚園に編入させて、サチも仕事を辞めた。
オレの再婚(同じ相手だけれども)に一番驚いてたのは宗佑と日向子だった。
まあ、詳細は伝えられないけど、あっちもいい雰囲気だからいいよな?
サチがうちに来てからはオレもうろうろしなくなったし、オヤジも食事を一緒に取るようになった。孫が可愛くてしょうがないらしい。ことある毎にオレに文句を言う。何かあっても完全にサチの味方だしな。

でもよ、つい我慢できなくて…昼間こっそりうちに戻ってしまうんだ。
家事をしてるサチを襲うのが楽しくて…いやいやと言いながら乱れていく様がたまんねえんだ。
おかげでオレの仕事は今のところ能率が悪い。
けど、そのおかげで今は夫婦円満が続いてる。



オヤジ、待ってろ。
これだけヤッてれば、次の子供はすぐだ。
今度はちゃんと赤ん坊の時から抱かせてやるからな?
そのためだと言いながら、今日もまた朝から…

「だめっ、もう…こんなにしちゃ、朝ご飯が作れない…」
「オレは今おいしく戴いてるからいいんだよ。」
「だって…んっ、あっ…」
「今日は土曜だから幼稚園もおやすみだろう?なあ、菜月が起きてこないうちに、させろよ?」
朝から元気に勃ってる息子をサチにこすりつける。
「じゃあ、今日、菜月とあたしを遊園地に連れて行ってくれる?」
「え?ああ、いいけど…」
「菜月がパパと行きたがってるの。」
「わかった、じゃあ、お弁当作るぐらいの力は残しといてやるよ。だから、な?いいだろ?」
「あんっ、もう…」



幸せって、すぐそばの自分の足下にあったのに、気がつかなかっただけなんだよな?
−END−

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